貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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49話 再開・会敵・置いてけ

「え?」

 

「あ、あたしに、星渦の魔術の呪文、教えてくれたじゃん……! あ、あんな、学院でも知らない魔術を知ってるじゃん……別に、誰かに、魔術を教わるなんてしなくても……」

 

 レナリアさんがしゅんとした顔で、俺の裾を掴んでいた。

 何かがまずい。

 そう感じた瞬間には、もう遅かった。

 

「「「え!!」」」

 

 ギャル2名と委員長がまた大きな声を上げる。

 しまった。男が魔術を教えるなんてありえない事だ。

 

 妙な事を言ってしまったか?

 

「れ、レナリアに、あの不思議な魔術を教えたのってリヒト君だったの~!?」

「わ、わ、わ。ま、凄い。魔術を教えてくれる男の子って……もしかして」

「ま、まるで、おとぎ話の──」

 

 うきうきした魔術師3名。興奮した子供みたいなキラキラした顔で──。

 

「「「”月渡りのレドウィース”だ!!!」」」

 

「「……え」」

 

 俺とレナリアさんだけがぽかんとした。

 

 月渡りのレドウィース……確か、原作灰クソの魔術書フレーバーテキストにほんの一瞬出てくる程度の単語だった気が……。

 

 興奮した様子の魔術師3名によると──。

 

 月渡りのレドウィース。

 それは満月の綺麗な夜に、ルラカナに現れる伝説の魔術師らしい。

 彼は驚く事に──男の魔術師で、その時ルラカナで起きてる様々な困りごとを解決して去っていく、そんな子供向けのおとぎ話の主人公なのだとか。

 彼は男でありながら、困っている魔術師に不思議な魔術を教えてくれる事もあるのだとか。

 

 ルラカナの子供達は親から、このおとぎ話を子守歌代わりに聞かされる。

 そのせいで、ルラカナキッズの初恋の8割がこの”月渡りのレドウィース”になるらしい。

 

 ふむ、そんな話もあるんだなと聞いていた所。

 

「……」

 

 レナリアが押し黙っている。

 

「あたし……そんな話、聞いた事ない……」

 

「「「」」」

 

 やっべ、という顔で固まるギャルと委員長達。

 表情にはっきり出る分、良い子達なのだろう。

 

「れれれれれれレナリア~、こここここんど、うちにある本、一緒に読もうよお~」

「そそそそそそうだよ~、てか、別にこんなおとぎ話をするかどうかなんて御家庭によって変わるにきまってるじゃ~ん」

「え、そうなんですか? ルラカナではどんな魔術師の母娘でも、普通にしてるお話だと思ってました」

 

「なんで、アンタは!!」

「勉強しか出来ない、の!!」

「ぐえええええええええええ!! ぎゃ、ギャルが、ギャルが2人がかりでわたしの小さな顔を掴んでくる!! 暴力、学院は暴力で支配されてるっ!!」

 

 仲いいな、この子達。

 

「……ふんっ、別にいいもん。どうせ、あたしなんか……マ──お母様には嫌われてるんだもん」

 

「いや、それはないすよ」

 

 言ってから気付く。

 しまった、ロクに話せる事がない。

 

「なんでよ……」

 

「勘です」

 

「……ふっ、何よそれ」

 

 だが、レナリアは納得してくれたらしい。

 

「それより、レナリアさんの星渦の魔術もいつか習いたいです」

 

「なにそれ、アンタがあたしに呪文を教えたのにさ」

 

「でも、いいわ、もしアンタに居場所がなくなったら、お母様に頼んでルラカナに席を用意……」

 

「どうしたの? レナリア?」

 

「う、ううん。な、なんでもないわ」

 

「そうね、

 

「「「……」」」

 

「な、何よ、アンタ達」

 

「いや~なんかさ~」

「うん、なんていうか」

 

 ギャル2人が言いにくそうに。

 

 そして、回復したらしい委員長が元気よく手を挙げて。

 

「わたし達を放ってすぐにリヒトさんと2人きりの空気を出す辺り、権力者の娘だなって思いました!! 卑しか!!」

 

「せいっ」

 

「あああああああああああああああああああ、また顔おおおおおおおおおおおおおおお!! ギャルは、皆、顔を狙ってくる!! ああああああああああああああおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 レナリアが委員長の顔にアイアンクローをかました。

 委員長の獣のような叫び声が地下水路に響く。

 

 そんな叫び声を背景に、これからの事を考える。

 

 ルラカナが滅亡したのちも、この地下水路には大きな影響はなく当時の様子のままだった。

 

 最深部には、レナリアのキャラシナリオを完全クリアする為に必要なアイテム。

 ”銀月の髪飾り”というオーパーツが眠っていたはず。

 

 それを守護する隠しボスもいた。

 ”夜月の大罪人”。

 全身を融けた鎧でおおわれ、囚人が被る鉄仮面を被った異形な魔族。

 

 その魔族をレナリアと共に斃す事が、原作レナリアのキャラシナリオの完遂になる。

 

 まあ、この世界にいるかどうかは分からないし、今回の目的には関係ない。

 

 ホンおばと違ってステージを徘徊するタイプのボスではなかったので、最深部に行かなければ問題ないだろう。

 

 そうこう考えている間にも、委員長がレナリアさんにアイアンクローを喰らい続けている。

 

 騒がしいが、これはこれで、まるで普通の高校生みたいだ。

 少しだけ、これは平穏じゃないか?

 

 ……彼女達を、危険な事に巻き込む訳には行かない。

 

 ミリタルナの時の、二の舞は踏まない。

 ルラカナの月は、俺が──。

 

 ──わおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。

 

 地下水路に響くのは──獣の叫び声。

 体の奥底から怖気るような震えが走る。

 

「今の声って……」

「う、嘘、ま、ま、まさか……」

「も、もしかして、獣……」

 

 怯えた様子のギャルと委員長。

 

「! 皆さんは、ここに! 俺は様子見てきます!」

 

「はあ!? ちょ、リヒト!?」

 

 彼女達を制して、声のした方へ向かう。

 

 そこには──。

 

「ッ……ぐるるるるるるるるるる」

「がるるるるる」

 

 巨大な黒い狼。

 大型トラックか、それ以上の大きさだ。

 何よりの特徴は、その2つある頭。

 

 これが二つ首の獣……。

 

『マスタァ、あの犬……ケガしてない?』

 

 ラミィの言う通り、その犬の胴体からは血が流れている。

 

 黒い毛も赤い血にまみれている。

 あれは……爪痕、か?

 

 オーパーツ”兆しの眼鏡”を使えば、傷の詳細もわかりそうだ。

 

 だが……。

 

「ぐるるるるるる」

「がるるるるるる」

 

 ゆっくりと、二つ首の獣が真っ赤な目でにらみつけながら、俺に近寄ってくる。

 まずいな……片腕を喪っている状態で、無駄な戦闘はしたくないのだが……。

 

 二つ首の獣は、どんどん、どんどん俺に近寄ってくる。

 俺は、刺激しないように静かに後ずさりする。

 

 クソ、喪った血を俺を喰う事で回復しようとしているのか?

 

 というか、ふと思ったが……不死の状態で食われた場合はどうなるんだ?

 

 灰の状態になれば……胃の中から脱出できるのか?

『お尻とかからじゃないの?』

 

 なんで、そんな事言うんだ、ラミィ。

 ケツの穴から出てくる灰って限りなく、ウンコだろ。それは。

 イヤだよ、俺。ケツの穴から出てきた後に、俺は不死だとか言えないよ。

 だってウンコじゃん、それは。

 どんだけかっこよく灰だ、不死だ、言ってもウンコじゃん。

 

「「がる」」

 

「うおっと……!」

 

 しまった、アホな事考えてたらもう、二つ首の獣が目の前に。

 

 俺を容易に丸のみに出来る巨大な狼頭が2つ。

 口を開き、よだれをたらし。

 

 その大きな顎を開き、俺の頭を鼻で小突く。

 仰向けに倒れる俺に、獣が顔を寄せる。

 

 食われる、か?

 こうなったら仕方ない、反撃を──。

 

『ままままま、待って! マスタァ!』

 

 ラミィ?

 

「「……!」」

 

 その瞬間、二つ首の獣が動きをぴったり止めていた。

 すんすん、すんすん。

 俺の体に鼻をくっつけ、匂いを嗅いで。

 

「「……」」

 

 こてんと、不思議そうに首を傾げる二つ首の獣。

 攻撃、してこない──。

 

「リヒト!!」

 

 飛び出してきたのは、レナリアさん達だ。

 

「う、うひゃあああ~~ほ、本物の、二つ首の獣……!」

 

「ま、魔女が追ってる……ばけもの、で、でかすぎでしょ」

 

「りりりりりりり、リヒトさんから、はなれててててててて」

 

 彼女の後ろに、ギャルと委員長もいる。

 全員、青い顔を冷や汗まみれにしつつも、俺を助けようと既に、魔術の発動準備を進めている。

 

 ま、まずい。どう考えても、この獣は彼女達の手には負えない。

 なんとか、落ち着かせなければ……。

 

「「……」」

 

 どたっ、ばしゃばしゃっ。

 

 二つ首の獣は、そのまま地下水路の奥に去っていく。

 

「嘘、逃げてった……」

「「「や、やったァ!!」」」

 

 きゃいきゃいと喜ぶ魔術師達。

 

 獣は、俺達を見逃したのか?

 それとも、多勢に無勢と判断したのか。

 

 だが、それより気になるのは──。

 

「ラミィ……どうして、俺を止めた?」

 

 小声でラミィに問いかける。

 

『う、うん、その……へ、変だと思うけどぉ、ま、マスタァと、匂いがね、ちょっと似てたの……それに、その、殺意もなかったし……怒った?』

 

「……いや、ありがとう」

 

『え?』

 

「無駄な戦闘はしたくない。それに……妙に……大人しい奴だったしな……」

 

 ふたつ首の獣。

 魔術師を襲っているらしいが、死傷者は出ていないんだったな。

 あんな強大な魔物に襲われて、死傷者なしというのも奇妙な話だ。

 

 クソ、原作にないイベントが多い……!

 誰が敵で、誰が味方なのかが分からない以上、安易な殺しは避ける方が懸命だろう。

 

 それに──。

 

「リヒト! け、ケガっ、ケガない!?」

 

「あ、はい……すみません、ご心配をおかけして──」

 

「良かった……本当に、本当に良かった……」

 

「うお」

 

 レナリアさんに抱き締められる。

 身長も高く、膂力もこの世界の女性らしく相当強い。

 

「バカ……!! なんで、アンタ男なのに、危ない事してんのよ……!」

 

 レナリアさんの語気は強い。

 

「リヒト、アンタは不思議な男だけど、でも、男の子なの!! なんかあったらどうするの!!」

 

 どうやら、本気で怒っているようだ。

 俺の肩に手を置き、顔を真っ赤にして、目を潤ませながら説教してくるレナリアさん。

 

「さっきの魔物の時は、確かにアンタのアドバイスが役に立ったし、今だってすぐに動けなかったあたしが悪いのは分かってる! でもね、リヒト……貴方は男で、あたしは、女なの……。危ない事、しないでよ……」

 

「……ごめん、レナさん」

 

「分かってくれたら、いい……本当に、本当にケガなくて、良かったわ……」

 

 俺の身を案じてくれるからこそのセリフ。

 良い子だ……!

 つんつんして、やさぐれていると思っていたが、原作レナリアと本質は変わらない。

 

 確かに、俺は自分が不死であるという事に胡坐を搔いている面はある。

 不滅とは言え、死に過ぎれば再生が遅くなったりもするし……。

 

 不死である事を隠しながら、不死でないように振る舞うというのは、想像以上に難しいものだ。

 だが、不死である事がバレれば俺の求める平穏は遠のく。

 

 原作灰クソでは、本編開始よりも遥か前に”不死戦争”という不死達が引き起こした大きな戦いがあったはず。

 

 不死達は、その攻撃性と残忍さで世界中に大きな混乱と破壊の限りを尽くした。

 

 特にルラカナはミリタルナよりも、不死への嫌悪が強い国だったはず。

 

 俺の正体は絶対に秘密。それはミリタルナの時と変わらない。

 

「うう、でも、良かった、本当にアンタにケガなくて……」

 

 レナリアさんに、ここまで心配されると正体を隠している事が申し訳ないな……。

 

 次々にギャル達も、半泣きでこちらに寄って来る。

 

「り、リヒト、君。ほ、ほんとにケガないの~? ──よかった、本当に」

 

「ごめんね! ホンッとにごめん! 私達、女なのにビビッて動けなくて情けないよ、あは、本当に……あはは、は……っ、何、笑ってんだ、私……」

 

「おおおおおおお、おおおおお、男の子が危ない目に遭ったのにわたし、わたしわたし、すぐに動けなくてわたし……あああああ、こんなだから絶対大人になっても結婚出来ないんだだだだだだ」

 

 ちょっとギャルと委員長も様子がおかしくなっている。

 

 この世界の女性は、男性を護る事を当たり前としている。

 それは本能に刻み込まれた習性に近い。

 

 これ以上、彼女達をこの地下探索に連れて行くのは危険だ。

 自然に地下探索は切り上げる方向へ。

 

 本格的な探索は……夜中、人目につかない時間に改めて単独で向かう事にしよう。

 幸い、レナリアさんのおかげで、地下水路の入り口は解放されている。

 

 だが……気になるのは──二つ首の獣の胴体には──大きな傷があった。

 

 アレは……魔術師につけられた傷ではない。

 二つ首の獣に、あんな傷をつけれる怪物がこの地下水路にいる可能性がある。

 

 ホンホンおばさん……でも無理だろう。

 水路ワニでも少し厳しい。

 考えられるのは、竜と呼ばれる強大な魔物か──もしくは──。

 

 

「あれ、もしかして、もう帰っちゃうのかい?」

 

 

「「「「え?」」」」

 

 水路の向こうに、誰かがいる。

 

 それは、女の姿をしていた

 

 なんて事のないワイシャツにサスペンダー付きのズボンを着た少しボーイッシュな女。

 簡素な姿、しかし、その長い手足、大きく膨らんだ胸部で優れた女としての魅力は隠しきれない。

 

 灰色のくたびれたベレー帽子。ふわふわの巻かれた白い髪を一房結った糸目の女。

 

 ここまでは、普通だった。

 

 しかし──。

 

「え……角、生えてない?」

 

 レナリアさんの茫然とした呟き。

 

 そう、その女には角が生えていた。

 額に、羊のような巻角が2つ。ベレー帽を押し上げている。

 

 そして、異形はその両腕、両足だ。

 

 腕は真っ白な毛におおわれ、鋭い爪を生やした獣の手。

 ぱつぱつのスキニーに包まれた足は、蹄の足。

 

 異形を一切隠す気のない、その姿。

 

 どこかのほほんとした女は、その糸のように細い目をそっと開けて。

 

「おっほ! めえずらしいなあ。こんな所に男の子がいるんだねえ~」

 

 真っ赤な兎のような目を、こちらに向けた。

 

「あ、カワイイね、キミ」

 

 ぞっ。

 

 ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ。

 

 つま先から頭のてっぺんまで駆け上る寒気。

 

 その女の魔力に触れただけで──。

 

「あ……」

「うそ」

「あ、ああ」

「うえ」

 

 ぺたんっ。

 魔術師たちの腰が抜ける。

 

「ねえねえ、幼体ちゃん達さ~」

 

「もう帰るんなら、その男の子、置いていってくれない?」

 

「あ、あ、あ」

 

「ん~、あれ? 言葉は同じはずだよね? なんでおね~さんの言葉に返事してくれないのかな~」

 

 その魔力のおぞましさえに怯える魔術師達に、首を傾げる女。

 

 ああ、クソ、クソクソクソクソ……!

 なんで、コイツがここにいる……!?

 お前、原作では、まだまだ登場が先だろ……!!

 

 また、アステーラの時と同じなのか?

 

 灰色のベレー帽氏に、死ぬ母親がよくやる髪型、そしておっぱいの目立つワイシャツに糸目。

 

 灰クソ原作知識──こいつは、アステーラと同じ。

 

「ふう、喋れないんならつまんないね」

 

 12人いる大魔族。

 この世界の神々を悉く打ち滅ぼした最悪の存在。

 

 十二魔星──”白羊座(しろやぎざ)のシュガーシュガー”

 

「ナンパの邪魔かなあ」

 

Arch Daemon Descend(大魔族降臨)

 




更新遅くなり申し訳ございません。
商業原稿の修羅場が終わったので、更新再開致します。
引き続きお楽しみ下さい。

書籍1巻、発売中です。
2巻発売も決まっておりますのでぜひ、1巻も御覧下さい。


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