貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

51 / 54
50話 リヒトの選択

 白羊座のシュガー・シュガー。

 アステーラと同じ、神殺しの十二魔星。

 

 原作で、ルラカナに登場する事はない。

 

 想像しうる限り最も出会いたくないタイプの魔族の1人。

 その理由は、こいつの性格にある。

 

「う~ん、魔術に特化した幼体みたいだけど……」

 

「あ、あ、あ、あ……」

 

「ボクを見ただけでその反応じゃああんまり期待できないかな。これなら、あのワンコと遊ぶ方が面白そうだね」

 

 怯えるレナリアさん達を見た大魔族がつまらなそうにため息を吐く。

 

 戦闘狂。

 白羊星のシュガー・シュガーは明確に闘争をゲームとしてとらえ、愉しむ大魔族だ。

 

 原作灰クソでも、出会う=戦闘というパターンは避けられない。

 

「で、話の続きだけど、今からその男の子を食べようと思うんだ。そうだな……うん、こうしよう。君達の手足をまず斬り飛ばす。身動きの出来なくなった君達の目の前で、その男の子を犯すね。今の状況だとそれが一番楽しそうだ」

 

 魔族らしい倫理観ゼロの言葉。

 シュガーがその獣腕を振り上げる。

 

 原作灰クソのモーションと同じ動きだ。

 

 十二魔星は灰クソの大ボス、プレイヤーが攻略すべき歯応えのある敵として、それぞれ特徴的な権能が与えられている。

 

 例えば、ミリタルナで戦った”白孤星のアステーラ”の権能は”重力”。

 

 ”白羊座のシュガー・シュガー”の能力は──。

 

「”すぱん”」

 

 弧を描くように。

 

「「「「え???」」」」

 

 シュガーがレナリアさんに向けて腕を振り下ろした。

 

「っ、レナリアさん、すまん!!」

 

「えっ。リヒ──」

 

 どんっ。

 反射的にレナリアさんを突き飛ばす。その瞬間。

 

「が、はっ」

 

 気付けば、壁に叩きつけられていた。

 

 ああ、クソ、上下左右の感覚が分からない。

 ゆっくり目を開く。

 

「──ト?」

 

 尻もちをついたレナリアさん、瞳孔が開いた瞳で俺を見つめる。

 

 ギャルと委員長も口を抑え、小さな悲鳴を漏らした。

 

 ああ、クソ、この皆の反応はやっぱりか。

 壁を背もたれにしたまま、自分の体の状況を徐々に把握していく。

 

 痛みより先にまず、熱がやってくる。

 

 包丁で指を斬った時、それか剃刀を失敗した時。

 切傷というのは、いつも傷口を見た後に、その存在が確立する。

 

「く、そ」

 

 どろ。

 血が零れる。

 

 斬られていた。

 鎖骨から下腹にかけて斜めに深く斬られている。

 血の色が赤を超えて、黒い……静脈、いや、内臓まで届いたか……!

 

 ラミィ、傷の状態は……!?

 

『あ、あ……臓物がこぼれそう……お、お願い、マスタァ、早くワガハイを着て……!!』

 

 両断されていないのは、単にコイツが遊んでいたからだ。

 

 傷を抑える。

 これは、ちょっとマズいな……。

 

 一瞬遅れて、声が聞こえる。

 

「──いや、イヤ、イヤァァァァァァァァァァァァァァァ!! り、リヒトッ!! リヒト!!!!!」

 

「え、嘘、嘘嘘嘘っ」

 

「ちょ、待って、なんで、なんでっ!」

 

「リヒトさん!! リヒトさん! 駄目、血がっ、は、早く血を止めないとっ」

 

 魔術師達が、血相を変えて俺の方に歩み寄ってくる。

 

 ああ、クソ、すまん、そんな顔をさせるつもりはなかった。

 さっきまで、食事をしたりおどけていた平穏はどこへやら。

 

 この灰クソ世界はそんなちっぽけな平穏すら許してくれないのか。

 

「皆、俺の事は、いい……逃げて、くれ……」

 

「な、何言ってんの!? 何言ってんの! リヒト! い、今、私を、私を、庇って……! あ、あああ、私のせいだっ……! アンタ、私を庇って……やだ、傷、傷っ、血がっ、止まらないっ」

 

 レナリアさんはパニックになりながら、必死に俺の血を止めようと傷口を抑えてくれる。

 ギャルと委員長はあまり得意ではない回復魔術の準備を始めてくれている。

 

 ついさっき、危ない事をするなと案じられた次の瞬間にはこれだ、無理もない。

 

 目の前には既に泣き始めているレナリサさん達の顔。

 この世界の女性は、皆優しい子ばかりだ……。

 

 男が傷ついた時は、本当に心配してくれる……。

 ニアや、アネスタシア、ミアも俺が傷ついた時、似たような顔をしていたっけ。

 

 そんなボロ泣きな彼女達の顔。

 

 ──その背後、既に敵が動き始めている。

 ふざけんなよ、お前。

 

「”すぱ──」

「”我、血の導きに従い”──血の、矢」

 

 咄嗟に発動させた血の矢、幸い血は練り上げるまでもなくたっぷりあるそれが、不細工な形のまま、空中で何かとぶつかって四散した。

 

 敵が放ったのは──”斬撃”、レナリアさんの首めがけたそれの軌道を変える事は出来たらしい。

 

 その見えない斬撃は血の矢にぶつかり、軌道を変え……。

 

 スパンッ。

 

「く、そ……」

 

 俺の残った腕の手首を持って行った。

 

 レナリアさん達の、更なる悲鳴。

 まるで、自分が斬られたような苦痛の声が耳に響く。

 

 ちくしょう。カレルでの戦いや、月の宮での経験。

 

 俺の不死は、その死因に対して耐性をつけていく、はずだ。

 斬撃への耐性は、これまでの戦いでかなりつけていたはずだが……。

 

《斬撃耐性のみでは、シュガーの権能に耐えられない》

 

 だが、今の見えない斬撃で完全に判明した。

 コイツの能力は原作と同じ。

 

 ”加速度”だ。

 

 白羊座のシュガー・シュガーは”加速度”を操る権能を持つ。

 それが何を意味するか──俺もゲームでの初見時はよく理解できなかった。

 

 だが──奴と一度でも戦った事のあるプレイヤー、もしくは理系の人間ならその権能がいかにぶっ壊れかはよく分かる。 

 

「あれ? あれあれあれあれあれ~~~~~!!?? あっれ~~~~~~~~~~~!!??」

 

 絶望が、愉快そうに笑う。

 細い目を見開き、真っ赤な瞳を輝かせて──。

 

「ねえ、ねえねえ! キミ! そこの男の子!! おいおい、嘘だろう!? 1回目は、まさかと思ったけどさ~、2回目の今で、ちょっと本気で驚いているよ!!」

 

「血で軌道を逸らしてたよね!? 魔術を使えるのも驚いたけど、それ以上に攻撃を防がれたのがびっくりさ! 十二魔星以外に、初見で攻撃を防がれたのは……何百年振りだろ?」

 

「ねええええええええええええ、今のさ~もう1回見せてよ!!」

 

 ああ、思い出す。

 

 原作灰クソでのシュガーの初登場時も、似たような状況だった。

 なんのこともない薬草採取のクエストで、コイツは突然出現する。

 

 シナリオ状況にもよるが、白羊座との初遭遇時の戦闘で敗北した場合、強制的にイベントシーンへ移行。

 

 その時、同行している仲間キャラが犠牲となり、主人公は生き延びる、みたいな鬱イベントが発生するのだ。

 

 プレイヤーによっては、その時犠牲にするのがアネスタシアだったり、ミアだったり、レナリアだったりする訳だが……。

 

「いや、いや、リヒト……いやっ……いや、血、止まれ、止まって、とまってよお」

 

 レナリアさんが、俺を支えてくれる。

 綺麗な制服が俺の血で汚れる事もいとわずに。

 だが、彼女の体は震えている。

 

「だ、ダメだ……あたしらの回復魔術じゃ応急処置にしかなんないっ!」

「早く治癒師に診せなきゃッ……」

 

 ノーンさんとスッラさん、回復魔術が使える2人が必死に俺の傷に魔力を翳してくれる。

 彼女達の青白い魔力が少しだけ俺の落命を遠ざけてくれる。

 この感じだと、死ぬまであと10分ってところか……。

 

「ああ、私、さっき、護るって言ったのに……なんで、なんでぇ……」

 

 レナリアさんは、原作レナリアと同じく自らの無力を憎んでいる。

 この状況は彼女の心の弱い部分をえぐるには最適なシチュエーションだったのだろう。

 

 そして他の魔術師はというと──。

 

「ね、ね、ねえ、あの、私の、魔力感知が下手なせいだよねっ、あの人、な、な、何? 魔力量が無限に見えるんだけどっ……」

 

「ま、魔物……っ? いや、違う。ま、まさか……魔族、だったり……おとぎ話の存在じゃ、なかったの?」

 

「お、お師匠様より、つ、強い人が……魔女以外でいるなんて……」

 

 完全に戦意を喪失している。

 ノーンさんろスッラさんは腰を抜かしたまま俺の治療を続行、委員長はがくがくと膝を笑わせていた。

 

 無理もない。魔術師としての訓練を受け、相手の魔力を感知できる彼女達は見えてしまっているのだろう。

 

 その大魔族たる性能の恐ろしさが。

 

 その時、ふと俺を治療するノーンさんと目が合った。

 

「……っ……!」

 

 ノーンさんは、俺の視線に気付いた後、一瞬顔をこわばらせ──引きつった笑みを向けた。

 俺には、彼女が何故笑ったのか分からなくて。

 

 そして次の瞬間には──。

 

「……レナリア り、リヒト君をお願いっ!! スッラ!」

「の、ノーン、アンタ、まさか……」

 

 ノーンさんが立ち上がる。腰が抜けていたはずなのに。

 

「──えっ?」

 

 レナリアさんの戸惑いをよそに、スッラさんもまた立ち上がり、ノーンさんの隣に。

 

「あたしらが時間を稼ぐから!! レナリア!! アンタはきちんとリヒト君を連れて脱出して!!」

 

 委員長も膝を笑わせたまま、2人に並び立つ。

 

「りりりりりりりりりりり、リヒトさんには、触れさせませ、ん……!!」

 

 ギャル2人と委員長が、震えながら大魔族の前に立ちはだかる。

 

 のほほん系ギャル──ノーンさんは、声を詰まらせ小さな肩を震わせながら。

 

 スレンダーギャル──スッラさんは、声を震わせ奮い立たせるように自分の頬を叩く。

 

 おさげメガネ委員長──委員長は腰が引けながらも決して1歩たりとも退く事はない。

 

「な、なんで、アンタ達ッ……だ、ダメっ、私でも分かるッ! アレ、あれは、人間がどうこう出来る存在じゃない!! 魔女よりも──ううんっ、お母様よりも、強いッ!!」

 

 レナリアの悲鳴のような叫び。

 その言葉に、3人の魔術師は──。

 

 

「「「”魔術師よ、弱き者の為に立て”」」」

 

 

 3人の魔術師の言葉が重なった。

 

「レナリアのお母さん、学長がルラカナに広めた教え……にっひっひ。私達~優等生ですから~」

 

 ノーンさんは震えながら、水の精霊を背後に召喚する。

 

「授業前に耳にタコが出来るほど聞かされたっての……! まあ、こういう事になったからきちんと身についてたみたいだけど!」

 

 スッラさんも魔力を展開し。

 

「ぎゃ、ギャルのお二人、意外にも授業真面目に聞いてたんですね、う、ひひ」

 

 委員長も、影の群れを足元に集めていた。

 

「ていうか~私達、これでもルラカナの魔術師ですから~」

 

「知識を蓄え、魔術を紡ぐ、これ全て魔術を持たぬ大衆を護るが為、だっけ!」

 

「う、ひひ。お、お、男の子を護る為に命を賭ける。魔術師なら憧れの、し、シチュ」

 

 震えている。

 恐らく、ここにいる誰よりもその魔族の力に怯えているだろう魔術師達。

 

 それでも、彼女達は魔族の前に立ちはだかる、

 

 これがルラカナの魔術師。原作では既に滅んでいた彼女達。

 

 原作灰クソのある書物に、滅んだ彼女達はこう記されている。

 

 ――魔術師、無限の可能性を秘める純粋な心の持ち主――。

 

 そんな彼女達を見たシュガーは糸目をにまりと歪ませる。

 

「お! もしかしてやる気が出た感じかい?」

 

 糸目ベレー帽異形四肢の女がにっと嗤う。

 

「殺戮もいいけど、せっかくならバトルがいいよね~。さあ、勇敢なる女の子諸君、頑張ってボクを斃さなきゃ、そこの男の子、死んじゃうよ~」

 

 揶揄うような口調。

 シュガーにとっては、魔術師達の覚悟もちょっとしたスパイス程度のものなのだろう。

 

 この後、何が起きるかは決まっている。

 

 シュガーにより、この3人は惨殺される。

 理不尽な初見殺しと、絶望的なまでの性能差によって。

 尊厳の全てを蹂躙されるのだ。

 

 シュガーが象だとすれば、彼女達はアリ。いや、もっと小さなものかもしれない。

 

 灰クソらしいシンプルで残酷な現実──負ければ全てを奪われる。

 彼女達の目の前にある未来はそんな最悪のものだ。

 

(──いや、違う)

 

 何が最悪の未来、だ。

 

 お前は何をしている、リヒト・テトグマン。 

 

 今すぐ自害し、再生。

 そのまま、彼女達の代わりに俺が戦えばいいだけの話だ。

 

 だが、それは同時に俺の正体──不死たるを晒さなければならない。

 

 ミリタルナの時に発生した時間の巻き戻り。あのような奇跡に頼る事も出来ない。

 以降、俺は不死として生きる事になる。

 

 不死としての人生に平穏はない。

 

 正体がバレればよくて幽閉、悪ければ封印される。 

 一度俺の不死がバレれば俺は彼女達からも追われる。

 

 常に敵ばかりの、夜も安眠出来ない、そんな平穏ではない人生が確定して──。

 

 その時だった、ノーンさん達がこちらへ振り返る。

 

「に、にひっ」

 

 また引きつった笑みを浮かべる。

 不思議な事に涙を浮かべながら泣いている。

 

「だ、大丈夫、だよ、リヒト君、絶対、ぜ~ったい大丈夫だからっ!」

 

 ノーンさんが見せるピースサインは震えていた。

 

 ──理解した。ノーンさんのあの笑みの意味を。

 

 彼女は、俺を安心させようとしたのだ。

 

「……は、ははっ」

 

「……リヒト?」

 

 乾いた笑いを零す俺を、レナリアさんが心配そうな顔で見つめる。

 

 気付いてしまった。

 今、ここで自分の事しか考えていないのは、俺だけだ。

 

 レナリアさんも、ノーンさんも、スッラさんも、委員長も、命賭けで俺を心配し、護ろうとしてくれているのに。

 

 会ったばかりの、俺を、俺が男だからという理由だけで。

 

 この世界の女性は、いつも男を護る為に死んでいく。

 

 ……おい、待て。待て待て待て。正気か、俺は。

 

 俺、今、天秤にかけていた。

 

 俺を護る為に死のうとしている人達と、不死の隠ぺいを。

 

 ここで彼女達を死なせて、それで自分の正体を隠せてラッキーか?

 それともまたミリタルナで起きたあの、”巻き戻り”みたいな奇跡を期待してんのか?

 

「……」

 

 俺はミリタルナで多くの失敗を犯した。

 アネスタシア達とアステーラの戦いに間に合わず、彼女達の大事な騎士団を何人も死なせた。

 

 結果的に全てが巻き戻った事により、アナスタシア達の生存ルートの希望は残った。

 

 で?

 

 ルラカナでも同じ事をするのか?

 

 精一杯やりました、途中で捨ててしまったものはありますが、最終的には全部うまく丸く収まりましたってか?

 

 ──バカか、俺は。

 なんのために、月の宮に行った?

 

 違うだろ、俺が求める平穏は、そんなものの上に成り立つものか?

 

 彼女達に死を味合わせてまで、追い求めるものだったか?

 

「リヒト、ごめん、ごめんなさいっ、私が無能だから、お母様の娘なのにっ、ごめんね、ごめんね……痛いよね、ごめんね……っ」

 

 ──俺を抱きしめ泣き続けるレナリアさん。

 

「スッラ、私さ~将来パン屋さんやりたいんだよね~。毎日、パン食べれるって最高じゃな~い?」

 

「ふふ、普通にパン買えばいいじゃん、でもいいね、あたしも手伝うよ。委員長は?」

 

「う、う、うわあああん、お二人共、そ、そういうのフラグって言うんですよよよ……で、でも、いいかも、う、ひ」

 

 震えながら、それでも不敵に振る舞い、俺を護ろうとするノーンさん、スッラさん、委員長。

 

 怖いに決まってる。まだ死にたくないに決まっている。

 彼女達には明日があるはずだ、あるべきだ。

 叶える夢、たどり着くべき理想、未来こそ、彼女達にはふさわしい。

 

 彼女達こそが、生きて続くべきなのだ。

 

 でも、お前はどうだ、リヒト・テトグマン。

 

 お前は――違う。

 

 本当なら──俺はもうカレルで死んでいたはずの人間──いいや、それどころか、この世界に転生した事自体、ありうべからざる二度目の生だったはず。

 

 平穏が欲しい。

 

 だが、その前にやるべき事がある。

 俺が転生した意味、不死なる灰となった理由がもしも、あるとするのなら。

 

 それはきっと、自分の平穏の為ではないはずだ。

 

 その理由を、今決めよう。 

 

 ──理不尽だ。

 

 ただ、平穏に生きたいだけなのにそれが許されない?

 

 なんで、彼女達がこんなにも呆気なく未来を奪われなければいけない?

 

 それは、この世界がどうしようもなくクソで、理不尽だからだ。

 

 ミリタルナで、既に答えは出していた。

 

 俺の平穏は、この世界の女性を犠牲にして成り立つものではない。

 

 グランドルート、大いなる目的の為には犠牲が必要だ。

 

 そしてその犠牲はもう決まっている。

 

 犠牲にしていいのは、ただ1つにしてただ1人。

 

『違う、違うよ、マスタァ……、ダメだよ、その道は、その道は──』

 

 やるべき事が、決まった。

 

「レナリアさん」

 

「え?」

 

「ありがとう、もう大丈夫だ」

 

 レナリアさんの胸から起き上がる、ノーンさん達の制止を振り切り、俺は最前線に立つ。

 

 血が零れる、目の前がかすむ。大魔族が静かに嗤う事だけが気配で分かった。

 

「ふっ」

 

 俺も大魔族に笑いかけてやることにした。

 

 そうすると魔族は不思議そうに首を傾げ、また腕を振り上げる。

 権能が、俺の首を狙っている。

 

「皆、すまない。嘘をついていた、隠していた」

 

 背後の魔術師達へ振り向く。

 

 今度は、俺が笑顔を向ける。

 皆、呆気にとられつつ、今にも泣きそうな顔をしていた。

 

 そんな顔、するなよ。

 大丈夫、すぐに、すぐにさっきの、昼食の時のような平穏な笑顔に。

 

「俺は──」

 

 すぱんっ。

 

 魔術師たちの目の前で、俺の首は切断される。

 魔族が放った空気の刃──切れ味のいいソレが俺の皮を、肉を、骨を、命を絶つ。

 

 魔術師たちの悲鳴、そして──。

 

《YOU DIED》

 

 首を喪った胴体は仰向けに斃れ、胴体から立たれた首は情けなく転がる。

 

「あ、あああああああああ、ああああああああああああああああ」

「嘘、嘘、や、イヤ、こんなの、イヤああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「待って、待って、え。あ、あああ、あああああああああああああああ」

「うぶえっ、死なせちゃった? 死なせちゃっ、おぼえええええええええええええええええええええ」 

 

 レナリアさんが、ノーンさんが、スッラさんが、委員長が、地下水路に響き渡る悲鳴を上げる。

 

 大魔族がつまらなそうに、その有様を見つめる。

 そして、その権能を完全に戦意喪失した魔術師達に向けようとして。

 

 まあ、待てよ。

 面白くなるのは、これからだ。

 

 身体が、灰となる。

 当たり前のように死に、当たり前のように。

 

 魔術師達が、口を開けて固まる。

 大魔族が、赤い眼を見開き口を開けて俺を指さす。

 

「嘘でしょ……キミ、なんで……」

 

 殺しても死なない、死ねない──俺は、俺こそが理不尽。

 

 故に、犠牲はもう決まっている。

 

 何故なら俺は。

 

「不死だ」

 

we are immortal(俺だけが死んでいい)




やっとこの話が書けた。
ここからようやくリヒトの事が好きになれそう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。