貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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51話 VS白羊座

「え~うわ~! びっくりだよ~!!」

 

 シュガーの場にそぐわない明るい声。

 

「キミも不死なのかい!! あっはっは! これは望外の歓びって奴だね~。ルラカナの魔術師と遊びに来たつもりが、あのワンワンに加えて、君みたいな不死もいるなんて!!」

 

 何が面白いのか、先ほどまでと違って満面の笑みを浮かべるシュガー。

 手をYの字に上げたポーズ、ワイシャツを盛り上げる胸がぶるんと揺れる。

 

「アステーラとの討論戦に勝ってよかった~。あの性悪女にはもったいない展開だ! え~、楽しそう!! 優秀な幼体たる魔術師でしょ~、あの不死喰らいのワンワンでしょ~、それにキミという強そうな不死の雄!! んほ~!! おもちゃがたっくさん! 魔族冥利に尽きるね~!!」

 

 楽しそうに楽しそうに笑うシュガー。

 魔族の赤い瞳が、ぎらぎらと輝いて。

 

「ん? あれ? あれれれれれれ?」

 

 その赤い瞳が、俺の背後──レナリアさんに注がれる。

 

「ああ~!! 見つけた!! なんだ、そんな所にいたんだ~!! 不死クンの後ろにいる銀髪の子!」 

 

「……え?」

 

 シュガーの声に、レナリアさんがきょとんとする。

 何がなんだか、分からない、そんな表情だ。

 

「”星渦の子”じゃ~ん! あっはっはっは!! 今回のパーティーの主役までいたんだ! 明日くらいから本格的に探そうとしてたけど、手間が省けちゃったな~」

 

「んんん~どうしよっかな~、今の僕の気持ちを表現すると、そうだな~。人間風に言う所の、ご馳走がたくさんあってどれから食べていいか分からないって感じだね~」

 

「見込みありそうな幼体達、強そうな不死、星渦の子……ふふふ、遊び相手に事欠かないね~」

 

「でも、見た感じ、不死の男の子はメンタル強そうだしな~……よし、揶揄うならこっちかな~!」

 

「ねえ、星渦の子!!」

 

「っ」

 

 びくっ、レナリアさんが肩を震わせる。

 

「キミさ~、状況分かってる? あのね~、今からここにいる皆、皆殺しにしようと思うんだけど~、僕ってば結構優しい魔族だからさ~」

 

 赤い宝玉眼が、笑顔の形に歪む。

 

「キミがここに残って僕と戦ってくれるんなら~、他の皆は見逃してもいいよ~」

 

「ほ、本当、なの……?」

 

 レナリアさんが、震えながらも立ち上がる。

 

 ノーンさん達の制止も振り払い、俺の隣に、立つ。

 

「あ、あたしっ、あたしが、残ればっ、あたしの友達を、見逃してくれるの?」

 

「にま~。うん、約束約束、ぜ~ったい保証するよ~。でも、キミはここで殺すけどね~」

 

 ピースサインを見せながら嗤うシュガー。

 

「れ、レナリア、そ、そんなの絶対、絶対ダメだよ!!」

「そうだよ! レナリア! そんなのありえないから!」

「れれれれれレナリアさんだけ、置いてくなんて絶対にしませんけお!!」

 

 レナリアさんは、ノーンさん達に泣きそうな顔のまま笑いかける。

 

 それから、俺の隣に、俺の顔を見つめて。

 

「り、リヒト、び、び、びっくりしちゃった、アンタ、不死、なの?」

 

「……」

 

 レナリアさんが、震える手で俺の首に触れる。

 さきほど断たれた首、それが完全に繋がっている事を確かめるように。

 

「び、びっくりしたのはマジだけど、え、へへ。少し、理解は出来るよ。だって、魔術が使える男なんて珍しいもん」

 

 泣き笑いのような表情だ。

 

 不死は、この世界において迫害と恐怖の対象になっている。

 とりわけ、魔術師は不死に対し強い憎しみを抱いて──。

 

「で、でもね! あ、安心しなさい! リヒト・テトグマン!」

 

 びしっとレナリアさんが、俺を指さす。

 

「アンタは、お母様の賓客なの! 不死だろうが、なんだろうが、その事に変わりはないわ! アンタは、ルラカナの大事なお客様で、あたしに魔術を教えてくれた恩人なの!」

 

 震える指先。

 

「だからね! あんたはあたしが護るから! 不死とかそんなの関係ないからね!」

 

「──」

 

 レナリアは主人公だ。

 

 ああ、そうだ。

 ニアも、アネスタシアも、ミアもそうだった。

 

 皆、本当にかっこいい奴らばかりだ。

 

 そんな彼女達を視て、思う事が、ある。

 

 俺は──リヒト・テトグマンは主人公ではないのだろう。

 

 何故なら俺は、いつも根本的に手遅ればかりだ。

 

 灰クソのゲームプレイ体験によって、ある程度の未来を把握しているにも関わらず、いつも予測の斜め上のトラブルに翻弄され続けている。

 

 カレルではニアを喪った。

 備えていたはずなのに、俺の努力も準備も何も役に立たなかった。

 

 ミリタルナでは王姉妹を、そして彼女達の臣下である銀狼の騎士達を喪いかけた。

 8000年に及ぶ不死としての訓練でも、俺は全てを掬い取る事が出来なかった。

 

 では、ここは? ここでは、どうなる?

 

 魔術都市ルラカナ。

 俺のゲーム体験では、既に滅んでいた街。

 でも、この街には彼女達が確かにいたのだ。

 

 魔術師。

 泣きそうになりながらも、震えながらも足手まといの男を護る為に戦おうとしてくれる彼女達のような善人が。

 

 原作灰クソでは、彼女達はプレイヤー達と関わる事なく滅んでいったのだろう。

 

 街に振り落ちる月、誰1人逃げ出す事なく街の魔術師達全ての力を結集し、月に挑み、敗れ、皆死んだ。

 

 ゲームでは、そうだった。

 じゃあ、現実(この世界)では?

 

 俺が生きるこの世界でも同じ結末を受け入れるのか?

 

 ”絶望を、叫べ”。

 

 あのゲームが決めた世界のルールのままに、絶え間なく降り注ぐ鬱展開、絶望を受け入れるしかないのか。

 

 ──違うだろ、リヒト・テトグマン。

 

 そんな生き方はごめんだ。

 絶望や悲しみ、俺を追い詰めるものを放っておく、仕方ない事だと受け入れる。

 

 それは、俺の求める平穏ではない。

 

 俺の求める平穏は、誰も見た事のない結末の向こう側だけにあるのならば。

 

「やったろうじゃない……魔族かなんだか知らないけど、よくもリヒトを殺そうとしたわね……!! 絶対に、許さないからっ」

 

 息まくレナリアさんが、前に進もうとする。

 

「レナリアさん。あの魔族とは俺が戦います」

 

 レナリアさんが、ぱたっと立ち止まって。

 

「は!? 何言ってんの、リヒト!! あんたね! ちょっと不死だからって調子に乗らないの! あんたが男で、あたしが女なのは変わらないんだから!!」

 

 目を吊り上げて、俺に詰め寄ってくる。

 

「そうよ、さっきみたいな無様は絶対に嫌……。アンタに庇われて、アンタがまた死ぬ姿を見るだけなんて、そんなのありえない……男の子を犠牲にして、助かるなんて許される訳がないわ」

 

「アタシはお母様の──ノクトラ・カリア・ルラカナの娘なんだから!!」

 

 そう言って、彼女は大魔族に向き直る。

 

 恐怖で震える膝を、肩を誤魔化す事すら出来ないのに。

 

「あたしが相手よ、魔族」

 

 それでも、声を震わせて──自分を犠牲に。

 

「おお~!! 素晴らしいね~。星渦の子。な~んでそんなに善良な子に育っちゃったのかは分からないけど~」

 

 そんな彼女はこれから、大魔族に蹂躙される。

 

 シュガーシュガー。

 

 原作灰クソにおいても、奴は同じように主人公に二択を迫る。

 自分が残るか、仲間を残らせるか。

 

 その2択に対してどのような答えを出したとて、結末は変わらない。

 

 奴は、殿に残った者ではなく、殿を残して撤退した者を先に刈り取る。

 

 加速度を操る権能、初見での対応はまず不可能だ。

 

 ”加速の世界”

 あまりにも速すぎるシュガーシュガーの動きの前では他の生物は止まっているに等しい。

 

 まるで時間が止まったシュガーシュガーだけの世界を、彼女だけが自由に動ける。そんな事すら可能な権能だ。

 

 加速度の力によって、シュガーシュガーは殿を瞬殺して、逃げた者達に追いつく。

 

 殿に残った者の首を並べ、撤退した者を嘲笑いながら殺すのだ。

 

 シュガーとの初見戦闘時は必ず、仲間NPCが殿に残り──生首スチルをプレイヤーに見せつける事になる訳だ。 

 

 そんな原作シュガーシュガーの姿に多くのプレイヤーが心を折られた。

 

 アステーラには相互理解の不可能さを。

 シュガーシュガーには悪辣さを。

 

 プレイヤーは大魔族との戦いを経て、”魔族”という存在がどのような者なのかを思い知らされていく事になる。

 

「あは~、じゃあ、残るのは星渦の子って事で~! 他の子達は逃げていいよ~。あ、不死の男の子も、もちろんもちろん。お逃げなさいな~、1回死んだ程度じゃまだ全然死なないでしょ~?」

 

 へらへらと笑うシュガーシュガー。

 

 コイツもきっと、原作シュガーシュガーと同じ事をするのだろう。

 

「あはは~いいね~勇敢な人間は好きだよ~、いや、星渦の子だけど、まあその辺はノーカンノーカン」

 

 ──させる訳ねえだろ。

 

 今、俺が為すべき事は1つ。

 

「レナリアさん」

 

「ほんっとかっこいいよ、君は」

 

「え──? リヒ」

 

 レナリアさんを抱きしめる。

 同時に彼女の首筋に向けて、悪竜チョップをかます。

 痛みも傷もなく、レナリアさんの意識だけを刈り取った。

 

「「「え……」」」

 

 茫然とする3人の魔術師達に、レナリアさんを任せる。

 あんぐりと口を開ける彼女達に頭を下げた後。

 

「なあ、シュガーシュガー」

 

 ラミィから取り出すのは、歪な1本の大腿骨。

 

「え? キミ、僕の名前、なんで──」

 

 月の宮産、取得オーパーツコレクション。

 

 ”達人の大腿骨”

 

 その効果──。

 

「お前の遊び相手は」

 

「え」

 

 10メートル圏内での、瞬間移動を可能にする。

 

 ひゅんっ。

 オーパーツを使用した直後、世界の景色が流れて、目の前には無防備な間抜け面をさらす大魔族が。

 

 同時に更に武器を取り出し、身に着ける。

 灰クソプレイヤーお馴染み、信頼と安定の近接打撃武器。

 

 ”棘鉄拳”。

 棘のついたボーリング玉のような拳武器。

 

 左腕は再生出来ていないので、右腕だけで失礼します。

 

 それをシュガーの腹めがけて。

 

「え、待っ──速っ」

 

「俺だ」

 

 ド──ゴッ!!

 

「う、そ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 錐もみしながら吹き飛び、壁にめり込むシュガーシュガー。

 復帰まで少し時間が稼げただろう。

 

「ノーンさん、スッラさん、委員長」

 

「「「「っ!!」」」」

 

 背後の魔術師達に声を掛ける。

 

「時間を稼ぐ。逃げてくれ」

 

 彼女達は、俺の言葉を飲み込むのに刹那の時を要した。

 

「り、リヒト君、な、何を言って──」

 

 俺は迷う魔術師達をまっすぐ見つめて。

 

「レナリアさんを、頼む」

 

「で、でも──」

 

 ああ、分かってる。

 君達は、皆かっこいい奴らだからな。

 

 男を犠牲に逃げるなんて、本当にやりたくないよな。

 

 でも、すまん。

 

「もう時間がない」

 

 月の宮”オーパーツコレクション”

 

 ”嘆き虫ののど飴”

 

 カロッ、苦い飴をそのまま噛み潰す。

 

 その効果──

 

「”気絶したレナリアさんを運んで、今すぐ地下水路から退避せよ”」

 

「「「”はい”」」」

 

 ”──ごく短時間の間、他者に自分の心からのお願いに従わせる事が出来る”

 

 なんでも集めておくべきだな、オーパーツ。

 

 俺のお願いを聞いて、魔術師達は、気絶したレナリアさんを運んで逃走を開始してくれた。

 

 さあ、これであとは──殺すだけだ。

 

「ラミィ」

 

『ふひ、OK,マイマスタァ』

 

 どろっ。

 悪竜装備を身にまとう。

 

 瞬く間に、黒い鎧が俺の肉体を覆った。

 

 左腕は、再生しない。片腕だが──まあ、問題はない。

 

 この後、俺はシュガーに殺される。

 

 だが、俺の不死の特性なら──。

 

「あははは~。ちょ~っとびっくりしたかな~」

 

 世界が、止まった。

 

 ”加速度の世界”。

 

 瓦礫から這い出るシュガーシュガーが自分に権能効果を発揮したのだろう。

 

 世界の法則から抜けた速度で動くシュガーには、今、自分以外の全てが止まって見えているのだろうな。

 

 ラミィと繋がり、感覚を極限まで研ぎ澄ましているおかげで、辛うじて俺は加速度の世界を認知出来る。

 

 だが、流石に、動くのは出来ないか。

 

「ああ~、いや~びっくりしちゃったな~。まさか、あんな簡単に殴られるなんて……ていうか、普通に反射術式も貫通してるのは一体なんなの~?」

 

 血をぺっと吐き出しつつ、シュガーが俺の目の前に歩いてくる。

 

 糸目から覗く、赤い眼は俺の背後──撤退しようとしている魔術師達の背中を捕えている。

 

 加速の世界から見れば、魔術師たちの姿は止まっているに等しいだろう。

 

「あはは~。認識も出来ないよね~。僕の権能は”加速度”。まあ、簡単に言うと、僕は君達が認識も出来ないような速度で動く事が出来る訳~、僕から視たら全部が止まっているんだよね~」

 

 余裕たっぷりのシュガーが、俺に向けて手を振るう。

 

「お~い、見えてる~? 動いてよ~、僕と遊んでくれるんじゃなかったの~?」

 

 彼女から見れば、俺も、加速の世界においては止まって見えている事だろう。

 

「はあ、反応なし。まあいいや。さてさて、君は不死だよね~? う~ん。よし、こうしよう! まずは君をバラバラにして~! それからあの幼体達の元に君の死体をバラまこう!」

 

 予想通り、シュガーはまず俺を殺す事にしたらしい。

 

「キミの腕を、キミの足を、キミの首を逃げた幼体達にみせつけよ~! なんでこんな事をするのかって、きっと楽しいからさ~! それ以外ないよね~!」

 

「あ、でも、不死クンには殴られたし、結構いたかったし、割とむかついてるからさ~! 再生した後も、何度も何度も殺して、その余裕面を、へし折って泣かせたくなっちゃった! ごめんね、ごめんね~え!」

 

 シュガーが、俺に指先を向ける。

 

 

「”すぱん”」

「”すぱん””すぱん”」

「すぱん、すぱん、すぱん」

 

 シュガーの触れた空気は、加速され、空気の刃となって俺の体を切り裂いていく。

 

 1回死亡、1回死亡、1回死亡、1回死亡、死亡死亡死亡死亡。

 

「あはははは~な~んも出来ないの可哀想だね~不死く~ん!」

 

 死亡――。

 

 ぎぎぎぎぎぎぎ

《加速の世界での死亡を確認》

 

《死因適応開始──》

 

《”加速世界Ⅰ”を獲得》

 がちゃん

 

 

 ──勝った。

 

 




この主人公、クソ能力すぎる。

2巻では、シュガーちゃんもイラストが貰えるように頑張りたい。

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