貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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TIPS€ ”加速の世界”では権能保有者以外の全てが停止している
TIPS€ ”加速の世界”で停止しているものは、加速の世界で起きた事を認識する事すら出来ない
TIPS€ ”重力”、”運命”、”改竄”の権能は”加速の世界”でも停止する事はない


52話 VS白羊座 その2

 ~???? ~

 

 少女は全てに退屈していた。

 どうしようもなく、世界が遅すぎた。

 

 流れる時の感覚の違いは、少女を社会から切り離す。

 しかし、少女は生まれながらにして冷たい闇の子であった。

 憧れた家族という名前の群れも、友人という名前の繋がりも、喪っても何も問題はなかった。

 

 少女は孤独の中、思い出す。

 この退屈は自らが望んだ事であったと。

 自らの血は、冷たい青い血であった事を。

 

 青い星、赤い血の生き物たちの輪に興味があったのだ。

 この孤独は全て、自らの戯れの故。

 

 少女は、ふと気づく。

 青い星の赤い血の生き物達との正しいふれあい方を。

 

 もっと、もっと、面白く。

 

 ある雨の日の事だ。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 白羊座のシュガーシュガーはそれなりに人間が好きだ。

 

 あの変態アステーラや、恋愛狂いのヴァイオリンのような人間を性愛の対象にするほどではないが、それなり人間好きだと自覚している。

 

 何故なら、人間はそれなりに面白い。

 弱くて情けなく、脆弱で貧弱で蒙昧で卑怯で──時々驚くほどに輝く事がある。

 

 面白い。

 自分達、魔族にはない相反する性質。

 聖者が時に悪行をなし、悪人が時に善行を為す。

 そんな矛盾を持つ生き物が魅せる──虎口での輝き、仲間を喪った時の激情、

 

 その全てが面白い。

 

 冷たい闇に生まれたシュガーにとって、”面白い”というのはとてもとても大事な事だった。

 

 それでも、シュガーは孤独である。

 

 彼女と同じ時を歩む事が出来る存在がいない以上、彼女はどこまでも孤独で。

 

 ぴくっ。

 

「──えっ」

 

 気のせい、だろうか。

 加速した世界の中で、不死の指先が一瞬動いた、そんな気がした。

 

 動ける訳が、ないのだ。

 

 シュガーの権能、”加速度”は加速という概念そのものを支配する能力。

 単なる加速での超スピード、というレベルのものではない。

 

 大魔族の権能は、世界の法則を上書きする。

 

 世界の法則にシュガーシュガーというDAEMON(プログラム)を認識させ、仕様として誤認させる。

 

 今、世界のルールには”加速度の世界ではシュガーシュガーしか動く事が出来ない”という項目が追加された状態にある。

 

 動ける訳はない。

 世界を支配していた古い神々ですら、この”加速度の世界”を攻略する事は出来なかったのだから。

 

「気のせい、だよね~」

 

 えいえいえいや、シュガーは”加速した世界”の中、何度も何度も不死を刻み続けた。

 

 シュガーが空気に触れ、加速度を与えた空気は刃となり、肉を、骨を容易に絶っていく。

 

 黒い騎士鎧の不死を、延々と刻み続ける。

 

 彼女は気付かない。自分が普段よりも、ほんのちょっとだけ焦って殺している事に。

 

《死亡》《死亡》《死亡》《死亡》《死亡》《死亡》《死亡》《死亡》《死亡》

 

 彼女は知らない──死にゲープレイヤーを無策で殺し続ける事の危険を。

 死を重ねて勝利をつかみ取る事が当たり前になっている狂人の危険を。

 

 都合──100ほど刻んだ頃合いだ。

 加速した世界の中で、真っ赤な血がふわふわと浮いている。

 

 全て、この不死が流した血だ。

 

「不死の殺し方は、いつだってシンプルだよね~。殺して殺して、殺し続けて。大体の不死は肉体よりも先に、心が死んじゃうんだもんな~。勿体ないよな~、僕が不死だったらもっと、もっと活用できるのにさ~」

 

 既に、不死は細切れになっている。

 しかし、斬られた事すら認識していない

 加速した世界を解除した瞬間、細切れの肉片として崩れ落ちる事だろう。

 

「よし、こんなもんかな~」

 

 ドッ。

 トドメの一撃と言わんばかりに、シュガーが不死の首を落とす。

 

 黒い鎧の不死の首と胴体がはっきりと別れる。

 

 

 

 大体の不死は、首を落とせば不思議と心が折れるのだ。

 

 首を落とされた不死の反応は2つ。

 それなりに腕の立つ個体なら、首のない状態で動き出し、首を取り戻そうとする。

 対して強くない個体なら、そのまま叫び、慄き、詰む。

 

 だが、両方に共通する事がある。

 

 首を落とされた不死の胴体は、一定時間経つと自ら新しい首を生やす。

 

 落とされた首、脳みその再生は恐らく魔族ですら至難の業。

 しかし、人間の不死達は、強い弱いに限らず首を喪ったとて、また再生する。

 

 でも、面白いのはここからだ。

 

「落とした生首にさ~、新しい首が生える所見せると──両方発狂するんだよね~」

 

 アステーラや、ヴァイオリン、そのほか何人かの研究者癖のある魔族が言っていた。

 

 人間は、自我の同一性と連続性に非常にこだわりを持っている。

 

 今、ここにいる自分の意識──自分は自分であるという認識。

 

 どうやら断頭からの再生は、その認識を破壊してしまうらしい。

 

 アステーラの研究で確か、そんな結論が判明していたはずだ。

 

 自分が2人に増えれば、不思議な事に2人共死んでしまうのだ。

 

 シュガーは、何度かその方法で不死を殺した事があるが、割と面白かった。

 

 どんなに勇敢な不死でも、信念のある不死でも決まって──

『俺は俺ではなかった』『私じゃなくても、良かったんだ』『俺は確かに、俺の筈だ、ここにいる、俺の筈なんだ!!』

 

 とかなんとか言って、死んでいった。

 

 断頭した不死の頭を取り外し、己の胸に抱くシュガー。

 

 首を絶たれた事すら認識していないその首に向かって話しかける。

 

「キミもさ~、どんな顔をするのかな~。新しい自分が生えてくるのを見た君は、どんな風に壊れるのかな~?」

 

 ルンルンルン。

 楽しみが、たくさんある。

 

 この不死が壊れる瞬間が見たい。

 

 それはきっと面白いから。

 

 シュガーは、加速した世界で停止している魔術師達を見つめる。

 

「この不死の首を、バラバラにされた体を見た君達も、どんな反応するのかな~」

 

 にま~っと笑い、不死の肉体から残った片腕を取り外す。

 

 静止している魔術師──銀髪の幼体に目をつける。

 星渦の魔術を習得している個体──つまり、今回の”ゲーム”の主役だ。

 

「ふふ、随分上手に人間に溶け込んでるね~……でも、キミが良い反応しそうだよね~。加速の世界を解除すれば、キミ達の認識は動き出す。気付けば、自分達が見捨てた男の腕が目の前に~、みたいなさ~。あ~その時、キミ達はどんな顔をするのかな~」

 

 シュガーが、不死の片腕をレナリアの胸元に配置する。

 

 これで、加速した世界が解除した瞬間、レナリアの視界には突然──この不死の腕が入る事になる。

 

 ルンルンルンルン。

 楽しみ、愉しみ、愉しみだ。

 

 不死も、魔術師も、ルラカナも、全てはシュガーの玩具箱。

 

 退屈な事がない、この世界にシュガーはどこまでもにやついて。

 

「うん、結構見たいかな! 不死クンの絶望顔! 自分ではない自分の頭と目を合わせた時の顔!! 割と見たいよね、幼体ちゃん達の泣き顔!! 自分達を護る為に命を賭けた男が簡単に死んじゃったという事実! 自分達の無力さをかみしめて、噛み締めて、噛み締めて~」

 

「さあ~って、ここからが面白くなりそうなよ、か、ん♪」

 

 シュガーが、”加速の世界”を解除する──。

 

 始まるのは、阿鼻叫喚のエンタメを──。

 

 

 

 

「同感だ」

 

 

 

 響くはずない、声がした。

 

 シュガー以外の入門許さぬ──加速の世界に。

 

 どこからだ?

 

 シュガーはふと、自分の手元、胸に抱えるように持った不死の首を

 

「へ──?」

 

「面白いのは、ここからだよな」

 

《死因適応──完了》

 

 首が、喋った。

 

 

「──! う、わ !!!!」

 

 ゴインゴイン。

 

 シュガーは思わず首を投げ捨てる、加速した世界、動くことは愚か、認知する事すら不可能なはず。

 

 たのに、なのに、なのに!

 

「ひでえな、鼻血が出ちまったよ」

 

 転がった兜から、くぐもった声が響く。

 

「な、なんで」

 

 シュガーの上擦った声。

 

「さあ、なんでだと、思、う……?」

 

 その声に、不死の首が答え、そして、急に力尽きたかのように動かなくなる。

 

「し、死んだ……? は、はは、お、脅かしちゃってさ~……そ、そうだ……! 胴体、胴体から新しい首が生えるんじゃ!」

 

 シュガーが、胴体の方へ振り返る。

 加速した世界の中では、不死の再生も停止する──そんな当たり前のロジックも忘れ、シュガーは死体を──

 

「え」

 

 しゅううううううううううう。

 死体が、崩れほぐれていく。

 見た事が、ない。

 

 不死が死んだ時、こんな事になるなんて。

 

「あ」

 

 首もだ。同じく首も、兜ごと、粉のように砕けて──、いや、これは──

 

「灰……?」

 

 シュガーの目の前で、何かとてつもなく奇妙な事が起きている。

 瞬く間に不死は、灰となり──そして、灰は再び舞う。

 

 あっという間に、人間の形に──死亡する前、隻腕の状態で再生していた。

 

「あ~痛かった。加速した世界に慣れていくと、痛覚まで戻っていくのが少しきつかったな」

 

「え、え、え?」

 

 シュガーが、目を何度も何度も瞬く。

 目の前で起きた異常が現実であるかを確認するように。

 

 だが、現実。

 

 灰となった不死が、再び灰から立ち上がり。

 

「109回目の死亡か、思ったより少ないな」

 

「な。んで」

 

 なんで、動けている?

 なんで、首が生えない?

 なんで、灰から再生した?

 

 シュガーの永い戦闘経験、そのどれを照らし合わせても理解できない事態。

 

 不死は何も答えない。

 

 再生した肉体、隻腕のまま首のストレッチを行いながら。

 

「撃ってみろ、シュガーシュガー」

 

「は?」

 

「あの空気を加速させる刃だ。動作を確認したい」

 

「…………!」

 

 ビキッ。

 シュガーのこめかみに血管が浮かび上がる。

 分からない事ばかりだが、これだけは理解る。

 

 今、自分は。

 

「うん、わかったよ」

 

 舐められている。

 

 空気の刃を放つ。防御不能、視認不能。

 加速度を与えられたその刃が、不死の首を狙って。

 

 

「よっと!!」

 

 ガキン!!

 

「!?」

 

 瞬時に不死が振るったのは、刀身の赤い片刃の剣。

 

 その刃が火花を散らしながらシュガーの空気の刃を弾く。

 

「う、うっそ〜。流石にそれは、あり得ないでしょ」

 

 呆然としながらも、シュガーの手は止まらない。

 リズムを変え、軌道を変え、数を増やし、何発も何発も刃を。

 

「はい、はい、はいはいはい! たんたん、とん!

 

 ガキン、ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン!!

 

 弾く、弾く弾く、弾く弾く弾く弾く弾く、弾かれる。

 

 不死が片刃の剣を振るうたび、空気の刃は弾かれていく。

 

 寸分違わぬタイミング、ジャストにガードされている。

 

「腕の軌道腕の軌道腕の軌道腕の軌道腕の軌道腕の軌道、縦振り、横振り、斜め振り。はいはいはい、同じ同じ同じ、原作と同じ」

 

 まるで、全てを知られているような。

 手の内、行動の癖、戦闘の組み合わせ。

 

 シュガーの知らない方法で、シュガーの全てを知られている。

 

(か、加速の世界に──あ、当たり前に入門しているじゃないか!! さ~て、考えろ、考えろ、何、何が起きた~?? スキル? オーパーツ? いや、どれも理由にならない! そのどれでも、僕の加速の世界に対応できる訳がない!! そもそも、加速の世界を認識も出来ないはずだ!! 何!? 本当に、何!? 何が、起きているの!?)

 

 空気の刃による中距離戦に、完全に適応されている。

 

 シュガーは自分がパニックになりつつあるのを自覚していた。

 

「よお、顔色悪いな」

 

「!? 悪いけど、近づかないでほしいかな~」

 

 ダンっ。

 不死が一気に踏み込み距離を詰める。

 戦闘慣れしているシュガーの判断は、後退。

 

 この不死は何か、おかしい……!

 

「”オーパーツ・海深ジェットパック”」

 

「は──!?」

 

 いつのまにか──不死が何かを背負っている。

 ブロンズ製のカバン?? 

 いや、カバンは火を噴かない、ジェット噴流を噴く訳がない。

 

「発進──」

 

「は、ちょ、待っ」

 

 しゅごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 一気に加速してくる不死、背中に背負うは個人用の海底調査用ジェットパック。

 

 流石にシュガーも、不死が海底調査用ジェットパックで突進してくるなんて想像が──。

 

「逃げステップは、前に出て潰す」

 

「な、何言ってんの、キミ──」

 

 ザッ、ン。

 

 シュガーの後退よりも、不死のジェット突進の方が遥かに速い。

 

 突進と同時に振るわれた刃が、シュガーの右腕を斬り飛ばす。

 

「う、っそ!! な、なんで、っ、なんで、加速度の世界に──」

 

「お前達大魔族の壊れ権能には慣れている──初歩的なクソボス仕様だ」

 

 通りすぎた不死の背中には、もはやジェットパックはない。

 

 一度きりの使用だったのだろうか。

 

 いや、それよりもあの刀もそうだ、どこから取り出し、どこに仕舞った?

 

 分からない事が多すぎる。

 

「これで同じ片腕同士──お揃いだな、白羊座のシュガーシュガー」

 

「あ、はは。ちょっとびっくり。──想定外のゲームだね」

 

 シュガーは右腕の再生を試みる。

 しかし、あの赤い刀身のせいか、思うように再生できない。

 

 刀身から絶えず滴っている赤い血が、傷口にまとわりつき、暴れ続けているのだ。

 

 ドクン、ドクン、ドクン。

 

 シュガーは、自らの心臓の鼓動に気付いた。

 

 久しく──いや、もしかすると、生まれて初めて感じる感覚。

 

 冷たい闇から生まれた自分の冷たいこの体に、今感じる確かな熱。

 

 シュガーは、きっとこの熱をずっと探していたのだ。

 

「怖い」

 

 理解、出来ない。

 加速度の世界に平気で適応する不死。

 殺してもなお、灰から再生する不死。

 

 自分の手の内や、癖を既に知られているような、この感覚。

 

「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いなァ~~~~~~~~~~~~」

 

 でも。

 

 この熱。

 

 永い生でも、ついぞ感じた事のないこの熱。

 

 自らの命に、手が届く存在を前にした時にしか感じえない、この高揚。

 

「アハぁ~~~~~~~~~、これって、さいっこうに、愉しいなああああああああああああああああああああ。ああ、どうしようどうしようどうしよおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 遊び、ゲーム、遊戯。

 

 シュガーが固執するこれらは元を辿れば──狩りをその起源とするものだ。

 

 命の危険なく──命と命のやり取りで得られる興奮や、達成感を得る為の行為だ。

 

「キミのおかげなのかなァ~~~~~~~、この熱は!! ねえ、面白いとドキドキするのと怖いのって、両立するんだねえ~~~~~~~キミさ~~~~~、きっと、僕が殺せちゃうんだろうなああああああああ!! あはははははは!! あっはっはっはっは!!」

 

 それはつまり──知性とは、自我がある生物とは──。

 

「キミの事──好きになっちゃいそうだな~」

 

 命の奪い合いを、愉しめてしまうのだ。

 

 シュガーが、魔力を高める。

 彼女が本能で選んだ行動は──問答無用の最適解。

 

「”全て──遥か遠くに思うがいい。星の虚ろ、空の帳、月のまどろみ、それらは全て我らの中に最初から”」

 

 大魔族が対等な存在との殺し合いでのみ使用する魔術の極地。

 

「”宇宙とは深淵である──」

 

 月牢領域──大魔族に絶対優位を与える異空間の生成。

 その詠唱が終了していた。

 

月牢領い(ムーンフォー)」「オーパーツ”懐刀 舌切り雀(かいとう したきりすずめ)”」「ぴ──!!??」

 

 かちっ。

 不死がいつのまにか持っていたのは──短い片刃の剣。

 日本においては、懐刀と呼ばれる護身用の小さな刀だ。

 

 その刃を、鞘から僅かに引き抜き、かちんとまだ戻す。

 

 同時に──シュガーの舌が絶たれていた。

 

「!!!!!!!!!?????????」

 

「月領領域、キャンセル成功──アステーラの時はテンパって普通にこれを使えなかったが──まあ、2回目ともなればな」

 

 シュガーの知らない、その不死の秘密。

 

 原作灰クソ知識──灰クソ動画配信者”真顔タイム”の再生リスト232番──”喋らせたくないんですよ”

 

 ”懐刀 舌切り雀”──対象の舌を絶つ。ただ、それだけのオーパーツ。

 それを使い、3行以上のセリフをNPCに全く喋らせずにゲームを攻略していくというネタ配信。

 

 そんな悪ふざけの極地の動画で本当の本当にたまたま発見された冗談のような仕様。

 

『ボス戦──月領領域の詠唱中に”舌切り雀を使用すると領域をキャンセル出来る』

 

 この配信動画は100万再生を超え、灰クソ攻略勢、対人勢を大いに盛り上げた。

 

 この世界でも、その仕様は通用したのだ。

 

「いひゃあああああああああい!!」

 

 じゅるり。すぐさま舌を再生するシュガー。

 

 目を白黒させながら、それでも理解し、興奮する。

 月領領域すら、簡単にはさせてくれない──!

 

「あ、クソッ、舌切り雀の攻撃だと、すぐに再生しちまうか……」

 

 ここからは、ガチンコ勝負。

 

 不死は、常に舌切り雀による領域キャンセルを狙う。

 シュガーは領域の詠唱を囮に、肉弾戦での優位を狙う。

 

 赤い刃がシュガーを襲う。

 シュガーの空気の刃が不死を襲う。

 

「あ、良い事思いついちゃったァ~」

 

 互いの攻撃の応酬、そこに差し込まれた──静止している魔術師への攻撃。

 

 不死は間一髪で、魔術師達に向けられた空気の刃に対応する。

 

 刀でそれを撃ち落とし──それに気を取られた一瞬だった。

 

 シュガーが、月領領域の詠唱を、囮とする。

 それに反応し、赤い刃と舌切り雀、そのどちらを使うかの選択が一瞬、不死の行動を遅らせて。

 

「あは~、隙ありィ!」

 

「チッ」

 

 ぼとんっ。

 不死の首に触れたシュガーの手刀──それが不死の首を落とす。

 

「あっはっはっは! 素敵だね~~~~~~~。どうあっても魔術師を護るんだああああああああ、いいなあああああああ、男の子に護られるのって、どん、な、気分──げ、ぼっ……」

 

 シュガーの動きが止まる。

 首を斬った事で生まれた油断、首がなくなった胴体──死亡からの灰化が始まる前に、赤い刃がシュガーの心臓を貫いた。

 

「あ、がっ、あはは、しまった、油断、した、かも~~~~」

 

 はっきりと巨大なダメージを負ったシュガー。

 権能の維持にも影響があるほどの、ダメージ。

 

 加速度の世界が──崩壊する。

 

 シュガーと不死が通常の速度に戻る。

 

「あ、ああああ……リヒト、リヒト……!」

「レナリア、もう目をっ覚ましたの?」

「リヒ、リヒトさんがっ、時間を稼いでくれてるんです! レナリア!! 無駄にする気!?」

「お、男の子に、男の子を、犠牲にっ、う、わあああああん、私、私、役立たず……」

 

 それはすなわち──魔術師達の意識が戻る事を意味する。

 

 ぼとんっ。

 

「──え」

「あ」

「へ」

「うえ」

 

 ちょうど加速度の世界が終わるのと、不死の首が地面に転がるのは同時だった。

 

 魔術師たちが、思わず振り返る。

 

 気絶から覚醒したレナリアが、スッラが、ノーンが、委員長が目撃する。

 

 そこには──心臓を貫かれ血を吐く大魔族。

 

 そして──。

 

「…………」

 

 魔族の心臓を貫くは、首を喪った──鎧騎士。

 それが誰か。

 

 レナリアの喉から、カヒュッ、コヒュッと引き攣った音が零れる。

 

 その首なき死体は――誰だ。

 

 気付きたくない――しかし、考えるまでもなく。

 

「り、ひと?」

 

 どさっ。

 レナリアの呟きに返事をするかのように、その首無き死体が崩れ落ちた。




異世界、死にゲー、ボス戦バトル、曇らせ。

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