貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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9話 戦え、戦え、戦え

 

「GOBBBB!」

 

「ごぶぶぶ」

 

 ゴブリン共が嗤っている。

 中途半端な知恵を持つ魔物、人間の味を覚えた事で俺の事はもう獲物としか思っていないのだろう。

 

「GOBU……」

 

 ゴブリンの1匹がよだれを垂らしながらこっちに駆けてくる。

 

「ごぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!!!」

 

 獲物を追う楽しさを知っている顔で、奴らは嗤ってた

 

「逃げると、思ったのか?」

 

 がりっ、ぼたっ、ぼたっ……。

 しゅる……しゅるるるる。

 

 人差しの指先を噛み切り、血を流す。

 集中、集中、集中集中。

 弾けそうな怒りを全て指先に込める。

 

 大丈夫、俺は冷静だ。冷静に目の前の生命を壊そうとしている。

 

 ピストルのハンドサイン。その指先をゴブリンに向けて。

 

「お前達が食った人間と同じように、俺も逃げると、お前らに背中を見せて逃げると思ったか? 自分達のことを狩人だと?」

 

 ──我、血の導きに従い悪竜に至る者。今こそ、共に神を喰らわん

 

 しゅるるるるる、しゅるるるる!! 

 回転、照準──発射。

 

「全部間違いだ、害獣ども」

 

 シュバっ。

 

「ごぶっ?」

 

「血の矢」

 

 指先から放たれた血で象られた鋭い矢は、まっすぐ突っ込んでくるゴブリンの喉に深々と突き刺さった。

 

「ごぶ、ぶぶ……?」

 

 何が起きたわかっていないゴブリン。

 喉に刺さった矢を抜こうとしながら仰向けに倒れる。

 

 残り2匹は、呆気に取られている。

 毎日の、カレル行商街が俺にくれた日常で行ったコソ練習のおかげで1日に撃てる血の矢の数は10以上。

 始末するのは、簡単だった。

 

 しゅばっ、しゅばっ。

 

「「ご、ぶッ……!」」

 

 信じられないものを見たような目で藻掻くゴブリン達。

 それぞれ狙い通り首に刺さっているが、即死ではないらしい。

 

「しつこい……さっさと死ね」

 

 近くで死んでいた冒険者の死体から剣を拝借。

 

 死にかけのゴブリン、その首に剣を突き立てる。

 ごり、ごりりり。ゴブリンの皮膚、剣先が滑る。

 

 魔力で覆われた表皮には、魔力以外では簡単に貫く事は出来ない。

 

 だが、ゲームの知識で知っている。

 

「灰クソの知識……ゴブリンの弱点属性は、炎だ……」

 

「「「GOBO!!! GOBUBUBUBUBUBUBU!!!!????」」」

 

 ゴブリン共は必死で命乞いをするように怯えた様子で手を前に突き出し、身体を震わせる。

 

 助けてくれ、奴らの言葉はわからないがそう言っているようだった。

 

「なんでまだ、助かるって思えるんだ?」

「「」「GOB──」」」

 

 瓦礫に燻る炎で剣を炙り、皮膚のない眼球や口を狙って何度も何度も剣を突き刺し続けた。

 

「ごぶっぶぶ……」

 

 青い血が飛散する。

 

 刃の先端が潰れる、3匹のゴブリン全員にトドメを刺した。

 

 呆気ない、この世界に来て初めてこの手で何かを殺したが……なんの感慨も沸かない。

 ゲームで何匹も殺してきたからだろうか。

 

 2人の首のない遺体を見下ろす。

 

 布でくるまれたスケッチブックが、子供の死体の下に……これをもって逃げようとしたのか。

 

「……っ」

 

 漫画だ。

 絵を描く少年、彼の横で寝転ぶ犬、そして川で釣りをしている少年。

 母親や緑髪の少女も登場し、皆で平穏に過ごす。

 読み進めていくと、絵描きの少年の生き辛さがよく伝わる。

 

 喋る事が苦手な少年がしかし、自分の才能を認めてくれる友を得るストーリー。

 

『君が眩しい、けれど』

『いつか、君と対等になりたい』

 

 絵描きの少年が、友と話すシーン。その言葉に対する返事はない。いくらめくっても白紙のまま。

 もう、続きが描かれる事はない。永遠に。

 

「……」

 

 2人の死体を瓦礫の下へ運ぶ。

 ロボの首輪は少し迷って、俺の手首に巻く。

 そして。

 

「こんな事しかできなくて、ごめん……ライス君」

 

 スケッチブックを子供の死体に持たせる。

 

 泣いている暇はない。

 進まなければならない。

 

 冒険者ギルドに行かなければ……あそこに行けば、戦える人間がいるはず……。

 戦力を集め、街からの脱出を……大丈夫、大丈夫。

 諦めて、たまるか。

 

 ◇◇◇◇

 

 冒険者ギルドには予想通り、戦力が集められていた。

 

 いた、というのは、過去形だからだ。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 ギルドの冒険者達は全員、遺体になっていた。

 

 冒険者ギルドの酒場は倒壊し、その周囲には十字架がいくつも建てられている。

 

 磔だ。血が垂れている。

 

 その中には見知った顔がいくつもある。

 冒険者だけでなく、ギルドの同僚達も同じく。

 皆死んでいた。

 

「あ」

 

「……」

 

「「「……」」」

 

 あのお姉さん達だ、剣士、魔術師、狩人で構成されたニアのパーティーメンバー達。

 

 彼女達も死んでいる。

 

 そして、ニアも。

 

「……嘘だろ?」

 

 同じように十字架に磔にされていた。

 

「なんだ、これっ、はは、はははは、ははははははは!! ……なんだ、これ……!!」

 

 俺は、致命的な勘違いをしていた。

 

 この世界は、灰クソに似ている(……)だけの世界。なのに、都合のいい所だけゲームと同じだと思い込んでいた。

 

 

「俺は、俺は今まで、何を……してたんだ……呑気に金を稼いで、呑気に魔術を訓練して、何を、していたんだ……」

 

 俺の知ってるシナリオなんて──最初から──。

 

「……天にまします我らが不在の神よ。今宵もまた月の売女の末裔の血を……って、オイ、まだ生き残りいんのかよ」

 

 背後に人がいた事に、ようやく気づいた。

 

 2メートル近い長身、黒い神父服に黒いテンガロンハットの男。手には特徴的な大きな鉈と巨大な……猟銃のようなものが。

 

 大ナタと猟銃、神父服。

 

 記憶──灰クソ原作知識がそいつを知っている。

 

 灰クソには様々なタイプのボスがいる。

 フィールドボス、イベントボスなどといった倒さなくてもストーリーが進むボス。

 

 そして、こいつのように、”絶対に倒さないとシナリオが進行しないボス”、シナリオボス。

 

 こいつは、灰クソのシナリオボス。

 

 灰クソ全プレイヤークリア率44.3%。

 5000万本売れたゲームのプレイヤー半数以上が、倒す事が出来なかったチュートリアルボス。

 

「──オルデラン、神父……」

 

「あ? なんで俺の名前知ってんだよ」

 

 幅広の帽子から覗く歪んだ瞳孔が、俺を覗く。

 

 知ってるに決まってる。

 

『オルデラン神父』

 

 灰クソで出会う最初のボス。

 プレイヤーの半数は彼を攻略する事が出来ず、コントローラーをぶん投げてゲームを終える。

 

 ゲームのシナリオでは、10年後の帝都に出てくるはずのチュートリアルボス。

 

「なんで、ここに……お前が……お前は、“不死連盟”は10年後に動き出すはず……」

 

「あ?」

 

 オルデランの声が低くなる。

 

「ガキ。お前……不死連盟(ウチ)の事を知ってんのか? 誰から聞いた?」

 

 不死連盟。

 

 灰クソのゲームの世界における第三勢力。

 

 メインストーリーが中盤に差し掛かった所で登場する、不死者の集団。

 

 ゲームの中では唯一、プレイヤーが所属出来ない勢力だ。

 

 人間も魔族も関係なく襲撃してくるストーリーの嫌われ者。

 特徴としては全員不死。そしてその中には──男がいるという事だ。

 

 がきん。オルデランが大ナタで地面を叩いた。

 

「連れて帰って拷問だ。反抗作戦開始前に、不確定要素は潰しときてえ」

 

 オルデランの姿が掻き消える。

 

 と思えば、次の瞬間、目の前には鉈を振りかぶったオルデランの姿が。

 

 高速ステップ。

 

 ゲームではボスのみが用いる超高速移動、プレイヤーからは敵だけが楽しそうと揶揄されていたボス特有の行動だ。

 

「安心しろ、殺しゃしねえよ。ここではな」

 

 あ、終わった。

 

 オルデランが振り下ろすナタが、やけにゆっくり見えて。

 

「──アタシの幼馴染に、何してんの?」

 

「!?」

 

 ザグッ!! 

 大ナタは俺の顔面の数センチ前で止まっていた。

 オルデランの胸から、剣が生えている。

 誰かが、オルデランを背後から刺して──。

 

「て、め……死んで、なかったの、か……」

「えはは。回復魔術“祝福の歩み”帝都で習ってて大正解ってナ──。ドーデモいいから、早く死ねよ」

 

 どさっ。

 オルデランが斃れる。

 背後から彼の心臓を突き刺したのは

 

「……ニア?」

 

 ニアだ。

 傷だらけ、ほどけた緑の髪をなびかせ笑顔でVサインしている。

 生きて……る。ニアがオルデランの心臓を突き刺した。

 

「えはは……リヒト~、危ない所だったナ~。アタシのかっこいい所……いや、それより、生きてて良かっ──」

 

「ニア!! まだだ!!」

 

「え?」

 

「死んでない!! そいつは、不死(……)だ!!!!」

 

 

「──だから、なんで知ってんだよ」

 

 

 ガキいいいいいいいいいいん!! 

 

 起き上がりざまに周囲を薙ぐ大ナタの一撃。ニアはとっさに剣をナタにぶつけてそれを防ぐ。

 

 耳が痺れるような金属音、刃と刃が食い合う音が響く。

 

 ナタに弾かれた勢いを利用し、ニアがくるくると宙を舞い、俺の隣に着地する。

 

「……チッ。完全に不意打ちのつもりだったのによ~。不死同盟の事は愚か、俺の事まで知ってんのか? お前、マジで何者だ?」

 

「……アンタは、有名人だからな」

 

「あ~? こちとら、最近までずっと封印されてたんだ。つーか俺の情報が入っている施設のデータベースなんざとっくに灰に──無駄話が過ぎたな」

 

 オルデランの纏う空気が変わる。

 目を逸らした瞬間、殺されそうな気になる。

 

「リヒト……あいつの事知ってるのか?」

 

 俺を庇うように前に立つニア。

 

「……オルデラン神父。大ナタと銃器を扱う敵だ。魔術は無し、バカ強いフィジカルと高速移動で詰めてくる」

 

「アタシ達2人で……逃げれる、か?」

 

「無理だ、追いつかれる……他のメンバー、あのお姉さん達は?」

 

「全員死んだ。いきなり冒険者ギルドがアイツに襲撃されて──皆、やられた。アタシだけ、回復魔術で死んだふりが出来ただけ」

 

 ニアが傷だらけの身体で呟く。

 

 よく見れば、手先や膝が震えている。

 

 恐らく、既に交戦済み……ニア達、街の冒険者はオルデラン1人に負けたのだろう。

 

「えはは、でも、安心しろよナー? ……アタシがお前を絶対に逃がしてやるから。絶対に、アンタだけは守るから」

 

「ニア……」

 

 ……。

 

 待て。何、ほっとしてんだ、俺。

 

 ニアが時間を稼げば逃げられるかもしれない、本気でその算段を俺はつけていた。

 

 ……嫌になる。

 

 こんな時でさえ小賢しく立ち回ろうとする自分の卑小さが。

 

 俺の求めるものは平穏だ。

 

 ニアを、友人を置いて、見殺しにして、逃げれば確かにそれは手に入るかもしれない。

 ライス君や、俺の教え子達、気のいい街の住民、俺がここまで生活してきた街。

 それらを全部奪ったクソ野郎をこのままにして、逃げれば平穏が手に入るのかもしれない。

 

 それで、いいのか? 

 

「リヒト……大丈夫、大丈夫だから。アタシが絶対に守ってやるから」

 

 ニアの指先が細かく震えている。細い膝も細かく笑っている。

 この子を置いて、それで生き延びる……? 

 この世界で出来た友人を置いて?  

 

 俺を守ろうとしてくれる女の子を、犠牲にして? 

 

「──ありえない」

 

「ッ! リヒト、アタシの後ろに!!」

 

「無駄話は終わったかァ!! ガキども! とりあえず、死んどけや!」

 

 オルデランが巨大な銃を撃つ。

 

 ニアが放たれた銃弾を魔力を纏った腕で受け止めようとする──。

 いや、それじゃ駄目だ。

 

「──我、血の導きに従い悪竜に至る者。今こそ、共に神を喰らわん」

 

「「は??」」

 

 ニアとオルデラン、両方が一瞬目を見開いて固まった。

 指先から放った血の矢が吸い込まれるように、オルデランの放った銃弾とかち合い、互いに破裂した。

 

 

「……待て、てめえ……何した?」

 

「……神父オルデランの銀血弾は、魔力での防御を無視する。そして──」

 

「おい、答えろ、ガキ、お前、今──」

 

 しゅるるるるる。

 地面に落ち、砕けた銀血の銃弾に、俺の赤い血がこびりついたままうごめき続けていた。

 

「血の魔術と惹かれ合う」

 

「何しやがったァァァ!! どうやって銀血弾を防いだァァァァ!」

 

 

バゴォオン!

再び放たれる銃弾、同じように血の矢を放つ。

狙いを定める必要すらない。

磁石が引き合うように、弾と矢がぶつかり合う。

 

 

「──まさか、銀血弾の性質を利用してんのか? 生物の血液に反応して追尾する銃弾を……ミサイルフレアみてえに……。おい、この時代に情報は残ってねえはずだ! お前、何者だァ!!??」

 

 オルデランが大声で喚く。

 

「ニア、奴の銃弾は俺が止める、だから、お前は──」

「リヒト、魔術、使えたの?」

 

 しまった。ニアに説明していない。

 言葉を選べ、言葉を選べ。

 この世界の男は魔術を使えない。上手く誤魔化せ。

 

 その時だ。

 ライス君達の、死体、ロボの首輪、永遠に完結しないあの漫画。

 今、もう全部どうでもいい。ばれようが関係ない。

 

 言葉が、勝手に。口が──。

 

「──ッ、すまない、隠していた、でも、だからこそ俺も戦える……!」

 

 もう止まらない。

 逃げる事が出来ないなら戦うしかない。

 己に理不尽を強いてくる脅威は、結局、排除するしかないのだ。

 

「ニア、君は、俺が守る、だから、一緒に戦ってくれ」

 

「──」

 

 ニアの顔から一切の表情が消えた。

 この世界の男は、魔術を使えない。

 俺のような異端は、きっと受け入れられないのだ。

 

「え?」

 

 髪が解けたままのニアが、目にもとまらぬ速さで俺に抱き着く。

 今まで見た事ない、鋭い目が俺を見つめて。

 

「アタシ、絶対にアンタを婿にするから、もう決めたから」

 

「……え?」

 

「泣いてるの? 誰が、アンタを泣かしたの? アタシのアンタに悲しい顔をさせたのは──ああ、アイツ、か」

 

 ニアが、ゆらりと、オルデランを見つめる。

 ブワッ、ニアの身体から青い月光のような光が漏れ始める。

 

「……お前、その目、その魔力……あー、気持ち悪。……悪魔の末裔が」

 

「お前、今から殺すから」

 

 ニアがとんでもない速さで、オルデランに斬りかかった。

 

 ◇◇◇◇

 

 ここで死ぬんだと思っていた。

 仲間も街も殺されて、何もできずにアタシは死ぬと思っていた。

 やりたいことも夢も叶えられず死ぬ。

 

 それがアタシの運命の死だと思っていた。

 

 まだやるべき事がある。

 

 リヒトを守って死ぬ事だ。女は男を守らなきゃ、アタシ達はその為に男よりも強く生まれてきたんだから。

 

 でも。ああ。アンタは、ほんと。

 

『ニア、君は、俺が守る、だから、一緒に戦ってくれ』

 

 ──ッ、……! 

 

 波がこぼれそうになった、嗚咽がこみ上げ、鼻の奥がつんと痛んだ。

 

 逃げろって、アタシが時間を稼ぐって言ってんのに。

 

 リヒトが、アタシを守っている、アタシはリヒトに守られている。

 

 これまでどれだけ多くの女が望んで、でも手に入らなかった存在が、今、アタシの背中の後ろでアタシを守っている。

 

 ママ、見てる? 

 

 ママ、見てよ、アタシの幼馴染を。

 

 こんな男もいるんだよ? 自分の命が危ないのに、女と一緒に戦ってくれるんだよ。

 

 本能が囁く、こんな男、この世のどこを探しても2人といない。

 

 命に代えても──守り抜け。

 

 不死? 神父? 

 自分よりも強い化け物? 

 知った事かよ。

 

「アタシ達の邪魔するなら、殺す」

 

 アタシは、不死にむけて剣を振るった。

 




読んで頂きありがとうございます。
お盆期間は毎日更新です。引き続きご覧くださいませ。
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