【全文】TCGアニメ2期ラスボス女に憑依した時の初見シーズン対面について【無料】   作:アマルティア・テーベ

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全人類メギド72をやってください。


プロローグ おはようクソ女

【全文】カードゲームアニメ2期ラスボス女に憑依した時の初見シーズン対面について【無料】

 

 

 

 労働に追われて最近はカードゲームをプレイできていなかった。

 

 仕事が落ち着いて長期休みが取れたら、家とカードショップを往復するだけの生活をしてみようか。リモート環境を整えてみるのもいいかもしれない……そんなことを考えていたのを覚えている。とにかく、カードゲームがやりたくてやりたくて仕方がなかった。

 

 そんな衝動「だけ」を、覚えている。

 

 死んだように眠り。そして目覚めた私は──これまでの自分とは明らかに違う手足を見た。

 

「……は?」

 

 漏れた声に、とんでもない違和感。私の喉はこんなお耽美な声は出せなかったはずだ。何かがおかしい。

 

 ゆっくりと身体を起こす。疲れきっていた私は昨晩ソファーで眠った筈だが、今寝転がっているのは柔らかなベッド。目の前に広がるのは簡素で物が多いリビングではなく、ホテルの一室のように小綺麗に整った殺風景な部屋。生活感がなさすぎる。買ったはいいが読む暇のない本が積まれていたり、レトルト食品や缶詰が無造作に置かれていたりはしない。

 

「えぇ……この見た目って……」

 

 視界の端にあった鏡に映る姿を見て、私は体内の臓器全てが締め付けられるような痛みを感じた。特に胃袋。

 

 鏡の中にいたのはストレス性若白髪の長髪女。163センチにキュッキュッキュッの薄っぺらスレンダーボディ。世の全てを疎んでいるような暗い光の詰まった瞳。着ているブラウスは所々に赤黒い汚れがあり、不自然に焼け焦げた跡もある。

 

 ……ものすごく、見覚えがある。というか、昨日も寝る前に見た気がする。

 

 問題はビジュアルそのものではない。この造形のキャラクターは、私の記憶が正しければとんでもない大悪党の筈なのだ。

 転生、というワードが頭に浮かぶ。いやこの場合は憑依なのだろうか?

 

「七瀬サラ……ってことはウィザウィズのアニメ……考え得る限り最悪の転生先じゃないですか!?」

 

 ……人生とは、果たしてこんなにもあっさりと前触れなく転がり落ちていくものだっただろうか?

 

 

 

 

 五分ほどあれこれ罵詈雑言を吐き出して、ようやく心が落ち着いた。

 

「……夢、ではないらしい……」

 

 同名のTCGを題材とするカードゲームアニメ「ウィザーズ・オブ・ウィズダム」。通常「ウィザウィズ」。私はどうやらその登場人物、それも2期ラスボスである女の身体に憑依してしまったらしい。そう判断するしかない状況だった。だって意識も声もこんなにリアルなのだから。

 

「……昨日寝る前に《アスモデウス》のシク版注文したからでしょうか?」

 

 思い当たる節はそれくらいしかない。こうなると分かっていれば絶対に注文しなかった。それくらい、この身体は憑依先のボディとしては最悪の物件なのだ。声も顔もよい。カードも強い。だが、最悪だ。この物件、素材は最高でも立地が最悪すぎる。

 2期ラスボスだから、というだけではない。このキャラは本編の描写で確認できる限りでも法を犯しまくっている。有志が罪状をカウントしていたが、カードの不思議オカルトパワー抜きでも余裕で終身刑になれるらしい。

 

 人の道を踏み外し、カードの力で世界を滅ぼすことを目論み、主人公たちの敵として倒されるボスキャラ。こう書けば、カードゲームアニメにはよくいる部類のキャラだろう。

 問題はこのキャラが普通のラスボスではなく……「やたら製作陣から歪な愛情を向けられている」タイプということ。

 

「……闇のカードがどうこうでは言い訳のできない前科、このあとアニメで追及されるんですかね……?」

 

 「歪な愛情」を並べていくとキリがないが、私が全く安心できない最大の要因が一つある。

 

 《七瀬サラは実父を殺害している。》

 

 カードのリアルダメージとか、カードの精霊の不思議パワーとかではなく、普通の包丁で。

 厳密には揉み合いになった末の事故とも呼べる結果であり、父親から受けていた虐待を考えれば正当防衛が成立しそうな事例ではある……というのは、フォローになっていない。死体を闇のカードの力で跡形もなく消し去っているから被害者が刺殺死体ではなく行方不明者として扱われているだけで、倫理的にはぶっちぎりでアウト。

 

 こんな十字架を背負わされている女に、安穏とした人生が待っている筈がない!

 

「はぁぁ……憂鬱……」

 

 ちなみにその時の作画と声優さんの名演がやたらねっとりとしていたせいで、悪いオタクによる変なMADが大量に作られていた。盛大に笑っていたあの頃は、まさか自分がこんなことになるとは思っていなかった。

 

 ビジュアルの良さと某大物声優が務めるCV、ネットのネタ人気、おまけに使うカードの強さも相まって人気はかなりあった。私も好きだった。

 だが、「もしウィザウィズのキャラに転生するとしたら誰がいい?」という質問で七瀬サラの名前を出す奴がいたらそれは異常者だ。ネタでもガチでも、そいつは近寄ってはいけないタイプのオタクだ。

 

 色々な体液を垂れ流しながら脚本書いて作画に力入れてそうな製作陣のオモチャになりたい奴は、まともではない。何故かラスボスなのに劇中で痛めつけられるシーンがやたら多いのだ、この女は。

 

「デッキは……ある。よかった……」

 

 ベッドの上にカードの束を広げる。アニメキャラはスリーブなんてつけていないが、カードにはどれも傷一つ見当たらない。現実でも見覚えのあるカードが何枚もある。

 世界観的なあれこれのせいか、汎用カードが抜けている部分があるがそれでも十分なパワカの束だ。

 

「ほぼ普通の【大罪】だ……」

 

 【大罪】、もしくは【大罪悪魔】──2期ラスボスである七瀬サラの使うデッキであり、それはもう強い。足回りからフィニッシャーまでパワーカードの宝庫なのだ。おまけにその殆どはろくにパワーダウンすることもなく現実でもカード化されている。私も公式サイトで情報を見た時に「そりゃラスボスやれるわ」とドン引きした。

 

 当然、紙のウィザウィズ環境でも文句なしのTier1街道爆走中。多分もうすぐ販促バリアが切れるので勢いよく規制されると思う。《罪深い継承》とか特に。純正と混合含めて大型大会ベスト32の半分を占めていたのだから、もう処刑台は近い。

 

(……【大罪ネクロ】に【大罪魔獣王】……ああ、きっと彼らは巻き添え規制を免れないのでしょうね……【大罪GS】もどのくらい持っていかれるか……)

 

 思考が逸れた。

 

 ここまで性能がぶっ壊れているのは……恐らくは1期ラスボスである、暁ジンギのカードがどれもこれも微妙な効果持ちばかりであったこと。おまけに切り札すらも現実のカード化にあたってサポートカードの方にクソ雑魚じみた調整を加えられていたことと無関係ではないだろう。

 ネタにされていた1期ラスボスからの反動なのだろうが……それにしたってちょっと強すぎる。ネットで七瀬サラに向いているヘイトの7割くらいは環境の【大罪】へのヘイトだと思う。

 

「はぁ……ここは、恐らく……ファミリーが持っていた隠れ家のどこかでしょうか」

 

 唯一の家族であった父を殺した後、七瀬サラは転がり落ちるまま闇社会の雇われプレイヤーとして各地を渡り歩いて生活費を稼ぎ、その末にイタリアを根城とする多国籍系カードマフィアの「グッドゲーム・ファミリー」──アニメ2期のメイン敵組織だ──のトップをぶっ飛ばして乗っ取り、世界の破滅という目的を隠して手足として活用していた。

 だがそのファミリーも今やない。主人公たちの活躍により主要な悪人はほぼ全員逮捕されたことが描写されている。

 何やら下っ端が逃げ出した意味深なカットがあったので、恐らく3期においても話に何かしら影響はしてくるのだろうが。

 

「どうしたものでしょうか……」

 

 瞳を閉じ、意識を集中させる。記憶の海を遡る。過去へ、過去へと。2期最終話のAパートの景色へと。

 

 

 ──燃え盛る炎の中心で叫ぶ少女。

 

『罪……?私が私であることを殺された、その報復をすることが罪?……あはははは!!ああ、やっぱりなんにも、なぁんにも!わかっていないじゃないですか!?』

 

 ──ひとりぼっちで佇む少女。

 

『私が罪人であるというなら、私の父は一体なに?あんなものの血が流れているこの身体は、なんだって言うんです!?』

 

 ──血の涙を流す少女。

 

『お前たちに理解できる筈など、はじめからありませんでした』

 

 ──世界を呪った罪人。

 

『滅ぼせ、アスモデウス──!こんな世界、私ごと!!』

 

 ──炎の魔人を従えるウィザード。

 

 

 リアルな情景。炎の熱と、表皮を焼く痛みも思い出せる。あまりにも臨場感のある景色。今の私はどちらなのか。この怨嗟とかつての日々、どちらが私を構築しているのか。口に出す言葉すらも肉体の影響から逃れられない今、答えは出ない。

 

「……はあ。これは『私』の記憶なのか、七瀬サラ本人の記憶なのか……どちらとも断言できないのが恐ろしいですね」

 

 今私がいるこの時間軸は、恐らくアニメ3期の部分だ。

 

 困ったことに私は、始まってからしばらくしてもアニメ3期の展開を追えていない。初見の感動のために徹底的に情報を絶っていたため、転生したこの世界の未来に何が起きるのかまるで想像がつかないのだ。

 

「3期からの展開、いったいどうなっちゃうんです……?」

 

 1期ラスボスは改心し、2期では主人公チームを導く大人という立ち位置にいた。そんな感じで七瀬サラもそれっぽいポジションに落ち着くのかもしれない。

 

 だが1期ラスボスの所業は「カードの力使って亡き妻を復活させて2人仲良く不老不死になるぜ!」という同情の余地があるものであり、計画が無事に成功していた場合に発生する被害も精々23区が物理的に灰になる程度だった。

 

 程度、と呼べる被害ではないのだが。かなりの悪党ではあるのだが。結局『未遂』である。本人の高潔な精神性もあり、計画の過程でも余計な実害はなかった。イタリアを起点に全世界滅亡を最終目的としていた七瀬サラと比べれば、妻のために東京を焼くとかはぶっちゃけかわいいものだと思う。

 

 加えて七瀬サラはマフィアを乗っ取る過程で先代のドンをぶちのめして追放しているため、忠義深いメンバーからは明確に恨まれている。力による強引な支配であったため、人望もない。慕っている者よりも恐れや恨みを抱いている構成員の方が多いのは間違いない。

 

 2期の最後では行方をくらませて生死不明になっていたが、恐らく素直に死んだと考えている者の割合は視聴者どころかアニメの登場人物達をひっくるめても少数派だ。今もマフィアの残党や政府、警察は七瀬サラを……『私』を探していることだろう。

 

 要するに、襲撃されても文句を言えない理由がアホみたいにある。今この瞬間にもヒットマンがカード片手に殴り込んでくるかもしれない。

 

「カードが手元にあるだけでも万々歳、といったところですかね……はあ。どうしよう」

 

 幸か不幸かここはカードゲームアニメの世界。基本的には、カードで勝てば大抵の要求は通る。

 カードには力がある。それがこの世界だ。

 ならば私はこの過ぎたる力の責任を、いつか取ることになるのだろうか?

 

「……不貞寝しましょ」

 

 考えても答えが出るわけないのでとにかく寝よう。

 もう一度眠れば、全て終わっているかもしれないし。

 

 

 数分後。

 どがしゃあん!という破壊音に叩き起こされる私。

 

「ヘイ、ヘイ、ヘイ!見つけたぜェ〜お嬢ちゃん!」

 

 ドアどころかドア枠ごと勢いよく蹴り破って現れた陽気なドレッドヘアの黒人を見て、私は「ああ、これ絶対ハードモードじゃん」と思った。まさか本当にカード片手に陽気な不審者が突っ込んでくるとは。

 

 恐るべし、カードゲームアニメ。

 

 




次回、対戦回です。
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