【全文】TCGアニメ2期ラスボス女に憑依した時の初見シーズン対面について【無料】 作:アマルティア・テーベ
「カードが足りませんね」
『私』の、七瀬サラの口が言葉を発する。
この世界での初対戦で襲撃者をぶちのめした後、私は寂れた安宿に転がり込んでいた。人口密集地では間違いなく追手に見つかりやすいと考え、なるべく人の少ない場所へと逃げた形になる。
カードが不足している。
デッキの枚数が足りない、という意味ではなく、多様な戦術の構築ができないという意味で。
競技環境における【大罪】にはいくつかのデッキタイプが存在していた。それぞれのゲームレンジや得意な戦術には差があり、いざ戦う側に回るとそれぞれのゲーム展開は全く違う。
「ウィザーズオブタイザイ」と巷で罵られた原因がここにある。全ての型を完璧に対策することは難しい以上、Tier上位の【大罪】を全てメタるよりも【大罪】を握って他の【大罪】をメタる方が楽なのだ。
私が好んで使っていたのは悪魔属性ユニットやスペルをふんだんに取り入れた【大罪GS】(実態は【悪魔GS】だが響きの関係かこう呼称される)のため、これを目指すのが望ましい。そうできなくても、せめてデッキに細かい調整を行えるだけのカードの余裕が欲しい。
だがここで問題がひとつ。それらの不足カードが手に入らない。当たり前と言えば当たり前だが、ここはカードゲームアニメの世界。別のテーマのカードなんてデッキにはそうそう入っていないし持ってもいない。
《グリム・エフェクト》などは厳密には別テーマが初出のカードではあるのだが、アニメでも大勢のプレイヤーに使用されている汎用的な防御札であるせいかこのデッキにも入っている。不幸中の幸いだ。
「フィニッシャーは各種大罪で文句なし。ただ、どうも汎用が足りていない……保持者が明確な《エニグマ・ギフト》や《ブラッディ・リチュアル》あたりは確保しておきたいところですが、果たして彼らは交渉に応じてくれるのか……いや、そもそも出会えるかが問題か」
強いカードは1枚30万円……なんて世界観ではない「ウィザウィズ」のアニメにおいて、カードを調達するのは難しいことではない。適当なカードショップに入れば、好きなカードを現実の時と大差ない値段で手に入れることができる。
問題は、カードショップにあるカードプールには偏りがあること。正確に言うと、明らかに一部のカードは一般には流通しておらず特定の勢力、あるいは個人の間だけで保持されていること。七瀬サラの【大罪】ユニットもその系列であり、全く関係ない他のプレイヤーが所持している描写はない。
悲しいが、そういったカードに限って強力だ。ラスボス補正マシマシのパワカに頼ろうにも、ラストバトル限定なのかそれらは既にデッキに存在していない。
「リリス関連のカードはない……まあ、あったとしても下手に使えませんが。はぁ……」
作中では認め合ったウィザードたちがお互いのカードを信頼の証として交換するシーンが何度もあった。だが世界を滅ぼしかけた私にそんな素敵な思いやりを見せてくれる相手はいない。最終的にグッドゲーム・ファミリーの面々すら裏切る形で世界を滅ぼそうとした私には、頼れるツテなどないのだ。
七瀬サラはカードショップに入れるかも怪しい。指名手配されていて入った瞬間に警察がすっ飛んでくるかもしれない。
「……四方八方から《アスモデウス》や《デッドキャリアー》が飛んでくるのも嫌ですが、これはこれで困りますね……」
テーマカードだけでは補いきれない欠点を補強するために、他のカードで補う。カードゲームでは初歩の初歩だが、アニメ世界ではその実現は難しい。
『私の見えないところで未知の法則がありそうなこのアニメ世界で、別テーマのカードを入れた上できっちりデッキを回すことができるのか?』という特大の疑念は残っているものの、ひとまずの指針はできた。
「……負ければ、まあろくでもないことになるのでしょうね……確実な勝利。まずはそれを安定させなければ」
警察、というか司法機関に引き渡されるのが一番マシだ。確実に有罪判決が出るだろうが、少なくとも重犯罪者相応の扱いに収まる。過程はどうあれ最後には人間らしい死に方ができるだろう。
……だが、私を追っているのは公的機関だけではないのだ。反社会勢力から路地裏のチンピラまで、私の首にかけられた懸賞金目当てに今も無数のハンターが世に放たれていることだろう。現に先程、一人のハンターが私の居場所を見つけてみせた。
(複数人に囲まれれば、危うい……そもそもカードで戦ってくれる保証もない)
ヤクザ者に捕まり、あっさりと殺されれば幸運。拷問の果てに切り刻まれて魚の餌になるならば、まだ上等。
最悪の場合は死なせてもらえないかもしれない。私はまだ死にたくないが、死んだ方がマシな苦痛に晒され続けるのも嫌だ。
「あの異能も、今は使えない……制御ができない以上、頼れませんね」
七瀬サラの精神を『私』が乗っ取っているからか、あるいは2期ラストの戦いで力の大半を喪失してしまったのか。アニメで七瀬サラがやっていたような、カードからユニットやスペルを実体化させる異能は私の意思ではほとんど使えない。せいぜい先程の襲撃者相手にやったように、ダメージを増幅させて吹き飛ばす程度だ。
「……主人公陣営へと合流するべきか。それともマフィアの残党を頼るか、はたまた独立したまま動き続けるか……どの択が正解なのでしょう」
口に出すことで思考がいくらか整理されていく。
一つ目は論外。このまま向かったところでお礼参りに来たと思われて全力で迎撃されるだろう。特に暁ジンギあたりは差し違える覚悟で殺しにくる。というか海を渡る手段がない。イタリアから日本までどうやって向かうかが課題になる。
二つ目も難しい。もう手遅れかもしれないが、これ以上罪を重ねるのはよろしくないと思う。そもそも勢力と呼べるほどの規模が維持できているかも怪しいし、彼らが私を見つけても飛んでくるのは歓迎の声ではなく鈍器や刃物かもしれない。
三つ目。消去法だが、これは以外とアリかもしれない。潜伏しながら情報を集め、3期のストーリーをどうにか解読しながら戦力を増強し続ける。これしかない。
「キャラクターの再利用に余念がないこのアニメで、私が生きていることには必ず意味がある筈」
生きて罪を償うために生かされているのか、より強大な脅威への引き立て役として生かされているのかは分からないが、楽な道でないことだけは間違いない。
「ひとまず、今は……ハンターを返り討ちにしながら、どうにかカードを確保するしかありませんか」
一度のプレイミス、一度の負けが即座にデッドエンドに繋がるかもしれない。
七瀬サラの人生は、残念ながらスイスドローではないのだ。
◇
日本時間午前2時13分。
暁ジンギは突如かかってきた国際電話に叩き起こされ、その内容を聞いて僅かな眠気までも消し飛んだ所だった。
「……なんだと?その情報は確かか?」
『裏も取れてない情報を垂れ流すわけがないだろうが。あたしはまだボケちゃいないよ』
「御託は後にしろ。本当に七瀬サラが現れたのか?」
『ああ。こんな冗談をわざわざ高い通話代払って言うわけないだろう』
電話先の声は明らかに疲弊が感じられた。老獪さと溌剌さの同居した奇妙な女の声に、どうしようもないうんざりとした気配が乗っている。
『グッドゲームに押さえつけられてたマフィアの連中はこぞってヤツを確保しようとしてる。あの異能を手に入れて、グッドゲームの椅子をそのまま奪い取ろうとしてる……そいつらの雇ったハンターの一匹が、見事に嗅ぎ当てたのさ。うちの捜査員どもにも見習ってほしいくらいだよ』
暁ジンギは戦慄した。
おぞましい力を秘めたあの怪物が、つい一ヶ月程前に世界崩壊を後一歩の所まで実現しかけた怪物が、生きていた。その事実に、2メートル近い巨体の背を冷や汗が一滴伝う。
「偽物の可能性は?」
『ないね。ハンターに『聞き取り』をしたが、情報は全て一致する。タクティクスもユニットも全てだ。何より、そいつは七瀬サラに負けた後吹っ飛ばされて気絶していたらしい。腕輪の記録データも損傷が激しくて映像は残ってないが……生身でパニッシュシステムと似たことをやらかせるような怪物、そういないだろう?』
七瀬サラは怪物だ。
カードの力を現実にする異能を持ち、その遵法意識は極めて希薄。己の目的のためならば他者を平気で足蹴にし、その命を食い潰すことも躊躇しない。そしてあの女は世界を滅ぼすことすら画策していた。
……かつて凶行に走った暁ジンギが言えた義理ではないが、あれはどうしようもない大罪人だ。
(奴の、あの異能……今も機能しているのか?)
極めて厄介なことに、七瀬サラは己の【大罪】のユニットから劣化した分身体のカードを生み出し、直属の配下に与えていた過去がある。それらの分身体カードには強力な精神汚染作用と異能の擬似再現能力があり、その気になればあの女は道端のチンピラをテロリストに仕立てることができる。
今この瞬間にも、奴は手駒を増やしているかもしれない。生存が確定した以上は一刻の猶予もない。
「わかった。すぐにそちらへ向かう」
『おいおい……別に来てくれって懇願してるわけじゃないんだよ。怪物がそっちに渡って報復するかもしれないから情報提供をしてるんだ。そもそもね、グッドゲームの連中を鎮圧したのも、あの怪物を潰したのも日本人だ。この上さらに日本人が後始末をするなんてことになったらイタリアの面子は丸潰れだよ』
「知ったことではない。そちらのウィザードをいくら差し向けたところでいたずらに戦力を消費するだけだ。真っ先に命を削るべきは俺だ」
ハッ、と電話先の声が鼻で笑った。
『死に急ぐ野郎だ……まあ、いいさ。そっちの政府にも連絡は行ってる。あんたの急な海外渡航も許可されるだろうよ』
「許可の有無は問題ではない」
『問題大アリさ。いいかい、やり方を考えろと言ってんだ。またあんたにドラゴンに乗ってイタリアの空を飛び回るような真似されちゃ困るんだよ。分かるかい?』
ジンギは苦虫を噛み潰したような顔になり、押し黙った。冷静に言葉を選び、どうにか反論をする。
「……あれは緊急事態だった」
『返事は!?』
「…………善処する」
『チッ。分かってない奴の言葉だよそりゃ!』
ぶつん、と勢いよく通話が切られた。
「……善処はする。だが、加減をして殺せるような怪物ならば苦労せんのだ……」
ジンギは外套を羽織り、デッキケースを握り締めた。
物語は動き出す。
かつて世界を呪った者同士の邂逅は、近い。
《暁ジンギ》
「ウィザーズ・オブ・ウィズダム」1期ラスボス。
病死した妻を蘇らせようと暗躍していた。
【月光】【DD】とArc-Vのテーマがすごくいい感じに強化されていて大変ありがたいです。
この調子で捕食植物も待ってるぜ…