TSして王女になった僕が、華々しい戦死を遂げるまで   作:間川 レイ

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第1話

1.

「異世界転生もの」というジャンルが創作にはある。

 

いわゆる現実世界ではさえなかった俺だが、死後異世界に転生して引き継いだ知識やらチートで我が世の春を謳歌するぜ!というものだ。

 

これを下らないと見下す人たちもいる。その気持ちもわからないわけではない。だけど僕にとって、この異世界転生ものというジャンルは間違いなく救いだった。

 

誰だって夢想したことはあるだろう。

 

ああ、もし人生をやり直すことができたらと。もっと優れた容姿、優れた環境で、これまでの人生への反省を踏まえてやり直すことができたらと。あとはおまけで人より優れた才能を生まれ持っていたりしたら最高だ。そんなことを一度も思ったことがないという人間はそうはいまい。そんなことを一度も思ったことがないのは、よほどの勝ち組ぐらいだ。

 

僕だってそうだった。失敗するたびに、努力しても努力しても夢に追いつけぬ自分を自覚するたびに、ああ、なんてみじめな人生だろうと思っていた。

 

だからこそ、異世界転生ものというジャンルには夢があった。転生して堅実に努力を積み重ね、栄光を得る彼らを見るたびに、いつか僕だってと夢を見ることができた。お酒とゲーム、あとは小説ぐらいしか楽しみのない人生だったけれど、異世界転生ものは間違いなく、僕にとって救いだった。

 

だから。

 

だから僕がつまらない事故であっさりと死んでしまった後、我が身も異世界転生を果たしたと気づいたときにはそれはそれは喜んだものだ。たとえ前世が男で、今世が可憐な女の子であったとしても、それはちっとも苦ではなかった。むしろ将来の美貌が約束されているであろう我が身を見るたびに、思わずだらしのない笑顔を浮かべたものだ。

 

また、転生した環境もとても恵まれていた。大陸の北東に位置するそれなりの規模の王国の第二王女という身分は、それなりの贅沢ができた。何より、その世界の文明レベルは剣と魔法の支配する中世ヨーロッパレベルであったけれど、魔道技術の発達によって現代日本とそれほど変わらない生活を送ることができたのは僥倖だった。僕は、念願かなって前世より明らかに恵まれた環境を手に入れることができたのだ。

 

だが決して僕は慢心などしなかった。今度こそ満足できる人生を送るため、それなり以上の努力をしたつもりだ。

 

まずは勉学。前世での僕は、決してまじめな学生ではなかった。基礎をおろそかにし、テストの直前にありあわせの張りぼての知識で間に合わせていた。山を張る才覚だけはあったようでそれなり以上の大学には入れたものの、本物の秀才が集う大学で通用するはずもなく。評価はボロボロ。社会でも通用するはずがなかった。

 

だから今世での僕は、必死に基礎から鍛えなおした。第二王女という身分を生かし、国内最高峰の先生を雇い集めて師事させてもらった。なかなか厳しい先生もいたし、決して楽ではなかった。それでも子どもの脳というのは僕が覚えているよりはるかに物分かりがよく、この体の地頭もよかったようで、すくすくと知識を吸収することができた。今ならこの世界における主要言語程度ならなら読み書きには全く困らないし、王国第一国立大学ぐらいなら受かるぐらいの学識はついたと自負している。

 

次に運動。前世での僕の運動能力はだめだめだった。ハンドボールは投げても10メートルは飛ばず、1キロ走れば息も絶え絶え。そもそも運動というものを嫌悪し、運動習慣なんてなかった。その結果が若年性生活習慣病の数々に百貫デブ。メンタルはズタボロで最後の方など風呂に入るのも億劫がっていたからさぞや僕の死体は臭かったことだろう。

 

だが今世ではそんな結末断じて認められなかった。それに何より、こんな将来美人になっていることが確定しているこの体を粗末にすることなど僕の美意識が許せなかった。だから毎日早朝夕刻のランニングは欠かさなかったし、日々の筋トレも一日たりとも欠かさなかった。12の頃になると城勤めの兵士たちに混ざって訓練に参加するようになった。最初の頃は姫様のおままごとに付き合わされるなんてと明らかに僕を煙たがっていたこの城の兵たちともすっかり仲良しだ。

 

どうやらこの身体は剣技に天賦の才能があるようで、5年間休まずに訓練に参加し続けた結果、3人ぐらいとなら並みの兵士と同時に打ち合っても勝てるぐらいには剣の才能を高めることができた。魔術の才能がなかったのは残念だが、馬術の才能には特に恵まれて、この国最精鋭の近衛騎士団の面々よりもうまく乗りこなせるぐらいだ。体もすっかり引き締まり、短めに切りそろえた髪と相まって、ご婦人方から王子様と黄色い声援を浴びるのは気恥ずかしい限りだ。

 

周囲の環境づくりにもものすごく気を配った。僕の生まれた王国、聖ド・フランソワ王国はその土地を治める領主である無数の貴族たちと、その頂点に君臨する王からなる専制国家だ。

 

この国では僕が生まれたころ、民は生かさず殺さず搾り取れるだけ搾り取るもの、という価値観が宮廷や貴族の間では主流だった。幸い両親である国王陛下は民はいつくしむべきものと考えていたが、そんな価値観の貴族はごく少数だった。僕はこれではいけないと思った。

 

なぜならこの構造は民が黙って支配に耐えている間はまだいい。だがその支配が行き過ぎて、民たちが怒りのままに立ちあがったら?真っ先に彼らの憎しみの的になるのは僕たち王族なのだ。ギロチン送りになるのはごめん被る。真の怒りに民たちが立ち上がった時、それを抑ええた専制国家は歴史上存在しないのだ。そしてそういう場合旧支配層はたいてい悲惨な目に合うのが相場だ。しかもこちとら可憐な男装のよく似合う美少女なのだ。飢え猛った者たちに人間の尊厳を汚されるのは何としても避けたい。

 

だから両親に国の基礎は民であるとして、あまりに民を虐げる貴族の処分を提案。また国の各機関の上級職にも平民を広く登用するよう提案した。また各地で学校を作り国民に学力向上並び王室への敬愛の精神を教育することを提案した。

 

他にもこの国の軍制は平民と異なり貴族は魔法を使えるからという理由で貴族を中心とする騎士団制を中心としていた。ただ平民兵を替えのきく消耗品程度にしか見ておらず、このことに不満を持つ平民や平民士官も少なくなかった。だから彼らの不満をそらすために、平民主体となる歩兵部隊を作り、その武器には最近北方連合で開発されたマスケット銃を当てることなどを提案したりした。

 

ただまあさすがにこうした改革案は短兵急に過ぎたらしく、貴族達の根強い抵抗もありほとんどが実現の目を見なかったのは残念だ。貴族の処罰はほとんど行われず、王の直轄地にしか学校はおけなかった。

 

ただ、僕の手元にそこまで言うのならといくつかの平民主体となる歩兵連隊創設の許可が下りたのが幸いといえば幸いか。平民という身分の枠にとらわれ出世にできずにいた、ジャック、ジョーンズ、クラウゼンという優秀な指揮官を確保できたことも幸いに入れられるかもしれない。それにこうした一連の改革により僕の評判は王都の市民の間では悪くないらしい。これなら、万が一のことがあっても僕だけは何とかなるかもしれない。

 

そう、僕はできるだけのことをやったのだ。僕の人生は安泰だ。気の合う娘たちも宮廷の社交界にできたし、その娘たちと一緒にサロンでくつろぐのは幸せの極みだ。おいしいお菓子に、おいしい紅茶。まったりと好きな小説について語り合える友人たち。時に軽くいちゃついてみたり。勿論お互い本気になったりはしない。お互い節度をもって、一夜の夢を共にする。夢にまで見たパラダイス。

 

ああ、幸せだ。いつか結婚して身をかためなければならないとはいえ、当分はこの幸福を堪能できる。そう。そう、思っていたのだ。あの時までは。

 

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