自分がヒロイン   作:ぜいにくまん

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第1話

「アイリスももうすぐ成人だね。大きくなったものだ」

 

「そうね。なんだかあっという間」

 

両親が話していた。

アイリスとは己の名前である。異世界で少女に生まれ、15年が過ぎていた。

どうも中世くらいの文明レベルらしい。奴隷制度もある。ウチは商売をしていて、比較的裕福な家庭のようだった。運がいいぜ。

 

運がいいと言えばこの身体はとてつもない美少女であった。異世界人は基本的に容姿が整っているのだがその中でも抜群に可愛い。

鏡を見ながら自分の半身に話しかけた。

 

『おいアイリ。俺たちは本当に美しいな。変な男に惚れるんじゃあないぞ。許さないからな』

 

『興味ないよ〜。イリスこそ好きな人とかいないの?そもそも男の人はダメそうだけど』

 

異世界に産まれたばかりの俺は、自分以外にもうひとりの意識が存在することに気付く。

何も出来ない退屈さに気が狂いそうだった俺はなんとかやりとりできないかと死に物狂いで日本語のイメージを使いやりとりを試みた。

俺と違って完全に産まれたばかりなので最初はろくに意思疎通もはかれなかったが、文字通り一心同体となって成長していく俺たちは異世界言語を習得することも早かった。

二馬力あるからな。

それからは心中でやり取りをする事に夢中になっていた。おかげでアイリは凄まじく早熟だ。俺の影響か現在でも男に興味がない。同じく俺も性別が変わったからか女性に性的な興味をもたなくなってしまった。

種の保存的な意味で生物としてまずいことになってしまった気がするが、男と寝たくはないしアイリを抱かせるのも嫌なので仕方ない。両親にはめっちゃ申し訳ないけど。

孫は諦めてもろうて…。

両親からは随分手がかからない赤ん坊だったと言われていた。よく虚空を眺めながら笑ったりぼーっとしていたのは心配だったらしいが。変な子でゴメン…。

 

はじめはもうひとりの俺とかAIBOとか呼んでいたが、アイリスが自分たちの名前ということがわかったあたりでお互いに名前を呼び分けるようになった。

基本的にはアイリが表に出ているが好きに俺と入れ替わることもできる。俺が憑依してるとか多重人格みたいな感じなんだろうか。

裏に引っ込んでいても同じものを見て感じる事ができるし、いっそ楽なので嫌だと思うこともなかった。

美少女とお付き合いできないわけだが、自分自身が美少女だしな。これはこれで満足である。

俺が完全に表に出るのはもっぱら訓練の時だった。

異世界よろしく魔物が存在しており、そこらの一般村人であっても戦う事は身近であった。自主的に訓練する美少女を両親が褒めるくらいには必須技能であったのだ。

 

ちゃんとチートらしきものもあった。

いわゆるステータス表示である。

 

他の人たちには見えないらしいそれが、俺には俺の意思で表示させる事ができる。

これに関してはアイリであっても見えないようで残念がっていた。

自分のステータスが正確に見えるだけでも中々のアドバンテージであるが、俺たちは器用とか敏捷みたいなステータスに×2が付いている。まず俺たちはふたりでひとつであることの特性と考えて間違いあるまい。

 

こんなものが使えて魔物がいる異世界ならば戦闘力を高めない異世界転生好きがいるだろうか。いやいないはずだね!

元々武道とかやってたので鍛えることも楽しいし目に見えてステータスが延びるのを見ることも楽しかった。

冒険者という職業もあるようなので将来はそれもいいなあと幼い頃は考えていたわけだ。

今は家族とのんびり商売して暮らすのも悪くないと考えている。

アイリにとっては正真正銘の家族だし、俺にとっても大事な家族たちである事に間違いはない。

表に出て言葉を交わすことこそなくとも、常に一緒に育ててもらった大事な人たちだった。

 

 

 

その両親が盗賊に殺された。

商談のために他の町へ向かう途中だった。

父はズタズタにされ母は何人もの盗賊達に辱められたのちに殺されていた。

 

『盗賊たちに復讐したい。絶対許さない』

 

『俺に任せろ。俺が。いや俺たちで皆殺しにしてやる。必ずだ。一匹も逃しはしねえ』

 

その日俺たちは誓った。

 

いまだ成人でなかった俺たちの後見人に親族がつき、両親の財産はその後見人の管理となった。

そして俺たちはその親族によって奴隷として売られようとされていた。俺たちが成人になる直前の一連の出来事に盗賊の襲撃事態が計画されていたものだったのではと疑念が湧く。

事がスムーズに運び過ぎている。どこまで手が伸びているかもわからない。誰も信用できなかった。

俺たちふたりだけしか信用できない。

 

しょせん成人前の小娘と侮っていた運び屋たちの隙をつき、剣と金を奪って逃走した。

両親は知っていたが、既に俺たちの身体能力は大人にも引けを取るものではなかった。

 

思い出の家も必ず取り戻す。今はここから離れるべきだ。俺が表になり、道なき道を進み途中で出会った馬車を乗り継いで遠く離れた地へと降り立つ。

 

ここから始めよう。知らない町で自分たち以外頼れるものはいない。

自分がどれだけ戦えるのか。どれほど成長できるのか。ずっとふたりでやっていくのか。仲間はどうする。戦闘奴隷を買うのか。

考える事は山ほどあった。だが不思議と生活への不安はふたりとも出てこなかった。

泥水を啜ろうとも必ず生き延びて復讐してやると誓っていたから。

名もない、辺境の町と呼ばれる場所へ俺たちは足を踏み入れた。

 

 

 

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