ユリが単独転移か何かしたら八本指と揉めるだろうし六腕はけじめを求めるだろうし、なんかそういうの

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もしユリが単独で六腕と闘ったら

 

「よく来たな。アルフ」

「私に御用とのことでしたので」

 

 アルフとはここ最近ユリ・アルファが名乗っていた偽名である。

 場所はリ・エスティーゼ王国王都にある、さる貴族の邸宅前庭である。

 他の住居と比べて立派な門扉をくぐったユリを出迎えたのは無数の男女。そのうちから六人が、鶴翼のようにユリを見ていた。いずれも薄笑いを浮かべ、さながら上位者の振る舞いである。

 背後で思い金属音。門扉が閉じられた音だ。気配で人が動いたのを分かっていたユリは驚かない。

 

 六人の中央、浅黒い肌をした禿頭の男が続ける。

 

「俺は闘鬼ゼロ。我ら六腕を虚仮にしてくれた報いを受けて貰う」

 

 建物の窓からは複数の人影が見える。今回の件で落としかけた六腕の信用を取り戻すための、ユリを嬲り殺しにする様を眺める顧客達である。

 

「千殺、マルムヴィスト」

「踊るシミター、エドストレーム」

「空間斬、ペシュリアン」

 

 ピクリ、ユリの眉が上がった。やや重心を傾け、警戒の全てをペシュリアンに向ける。

 

「幻魔、サキュロント」

「不死王、デイb」

 

 次の瞬間、デイバーノックの頭が弾け飛んだ。ユリが影すら落とさぬ人外の速力で詰めより、渾身の突きを放ったのだ。ユリがもといた地面は爆ぜ、今踏み込まれた石畳は砕け、二つ隣まで波打っている。

 

「不死なる王とは、あまねく世界にただ御一方、いと高き御方にのみ相応しき御尊名。貴様がごとき下郎が僭称するなど不敬も甚だしい」

 

 六腕のひとりがまばたきの半分程度の間に死んだ。それをすぐに理解出来るものは、この場にはいなかった。

 理解が追い付く間もなく、ふたたびユリの姿がかき消えた。

 

「自己紹介の最中に失礼いたしました。どうぞ、続けてください」

 

 一瞬前の神業などなかったかのように、ユリは元の位置に戻り、メイド服に乱れも汚れもなく平然と佇んでいた。

 

「ッ、お前達! 時間を稼げ!」

 

 ゼロが叫び、同時に腕の入れ墨が輝いた。ゼロの全力の準備を目にして、残る六腕が動揺から抜け出せぬままに、しかし臨戦態勢を取る。マルムヴィストはゼロの前に身体を置き、ペシュリアンはユリの斜め前方に距離を置き、サキュロントは姿を眩まし、エドストレームはシミター布陣させる。

 心の平静を待たずに戦闘に移れるのは、紛れもなく彼らが戦闘者として優秀な証拠だろう。

 

「あら、もうよろしいのですね。では」

 

 場違いなまでに礼儀正しく名乗りを待っていたユリも、六腕の様子を見て戦闘を開始した。

 足元の石畳を蹴り上げる。

 先ほど砕かれた石畳はひとつひとつが拳大の礫となって夜の闇を飛ぶ。

 ただそれだけで、エドストレームとマルムヴィストは全身の骨を砕かれて死んだ。

 

 倒れるマルムヴィストの死体を目眩ましに、万全の準備を整えたゼロが踏み込んでいた。

 身体を低く迫るゼロは、蹴り上げで膨らんでいたスカートの影に隠れ、ユリの視線からは死角に入ることに成功している。そこから大腿骨四頭筋と脊柱起立筋、腹横筋と僧帽筋上部、上腕三頭筋と浅指屈筋と腕橈骨筋と、すべての筋肉を奇跡のように完璧な統率で駆動した。ゼロの生涯において間違いなく最高の一撃。

 死角から放たれる人類最高峰のガゼルパンチ。

 

 ゼロは自身の極限を越えた集中力で、引き伸ばされた時間の中、それを見た。

 致死の拳の内側の、手首に、そっと、ヒールが当てられたのだ。ユリは蹴り上げた右足を戻しながら、ヒールでゼロの拳を弾いた。腹立たしいほどにゆっくりはためくスカートの隙間からユリの顔が見えた。その目線は、ゼロを見ていない。視線の先にいるのはペシュリアンだ。

 ゼロの拳を弾いたユリは、その足を地に下ろすのと連動して、拳搥をゼロの頭に打ち下ろした。産まれる国が違えば、振るわれる場所が違えば、歴史に名を残し多くの戦士の憧れとなったであろう一撃は、対象に一瞥もされることなく、鮮血と共に弾けて消えた。

 

「な、あ、ぅぁあ……」

 

 ひとり残ったペシュリアンが呻く。やはりそれから視線を切らず、ユリは左の裏拳を虚空に放った。すると、頭を失ったサキュロントが崩れ落ちた。

 ペシュリアンは瞬く間に自分ひとりが残された状況に理解が及ばず、見苦しくもおたおたしている。

 否、そうではない。彼にもまた、ゼロの一撃が見えていたのだ。闘うものの到達点が、珠玉の一拳が、あのメイドに取っては見るにも値しないものだったと言うのか。その動揺が、自身も一流の戦士であるペシュリアンを襲っていた。

 その醜態を見て、ユリは嘆息と共に拳を突き出した。

 嘆息は己に向けられたものだ。空間斬と言うから警戒したが、全くの取り越し苦労だった。それもそうだ。もし至高の四十一人屈指の強さを誇るあの御方と同じ技を持っていたなら、この程度の連中と一緒にいるはずもない。

 

 その夜。王国を長年蝕み腐らせ、周辺国までその食指を伸ばしていた八本指は壊滅した。

 それを王国は国政に活かせるだろうか。ユリはメガネの奥で思案していた。


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