四月、空は透き通るように青かった。
東京魔法大学付属第一高校の正門前は、新入生とその家族たちで賑わい、制服の紺と桜色の花びらが混じり合って揺れている。
今年もまた、日本各地から選び抜かれた魔法師の卵たちがここに集まってきた。
志賀啓太は、その人混みの中で一歩だけ離れた位置に立っていた。
両手はポケットに突っ込み、目線は校門の上部、揺れる校旗を見ている。
制服は規定通りだが、胸ポケットの二科生を示すマークだけが、彼を他の生徒たちと分け隔てていた。
(相変わらず、視線が鬱陶しいな…)
ちらりと横目で見れば、数名の新入生が啓太の腕章を見て小声で何かを言い合っている。
二科生――劣等生。
魔法技術が平均以下とされた者たちの烙印だ。
だが啓太は気に留めなかった。
彼の魔法は現代魔法の体系では測れない。
「無下限呪術」。
空間そのものに干渉し、対象との距離を無限に引き延ばすことで、物理的・魔力的なあらゆる干渉を拒絶する。
この能力を測る術は、第一高校の入試試験には存在しない。
だから啓太は、あえて平均的な魔法しか見せず、二科生として潜り込んだ。
理由は単純だ――目立たず、自由に動くため。
入学式は滞りなく進んだ。
新入生代表の少女――司波深雪の透き通るような声が講堂に響く頃、啓太は半分だけ意識を飛ばしていた。
形式的な祝辞や学校の方針説明よりも、頭の中で組み立てている空間座標式の方がよほど重要だった。
式が終わり、クラス分けが発表される。
啓太は一年E組。二科生が大半を占めるクラスだ。
廊下を歩いて教室へ向かう途中、不意に横から声をかけられた。
「ねえ、君もE組?」
振り向けば、オレンジ色のショートヘアの少女が立っていた。
活発そうな笑顔と、目尻が少し上がった鋭い瞳が印象的だ。
両手は腰に当て、こちらをじっと見ている。
「志賀啓太。よろしく。」
啓太が簡潔に名乗ると、少女はにやっと笑った。
「千葉エリカ。よろしくね。剣術の名門千葉家の次女、って肩書きも一応あるけど、そこはどうでもいいか。」
「そうか。」
啓太は相変わらず表情を崩さない。
エリカは首をかしげた。
「なんか、静かだね。新入生ってもっと浮かれててもいいと思うけど。」
「別に浮かれる理由はないしな。」
そのそっけなさに、エリカは逆に興味をそそられた。
(この人、ただの大人しいタイプじゃないな…)
教室に着くと、担任から自己紹介を求められる。
啓太は立ち上がり、名前だけを告げてすぐに着席した。
拍手もまばらで、クラスメイトの何人かは小声で笑っている。
その日の放課後、啓太が帰ろうとすると、エリカが追いかけてきた。
「ねえ、志賀くん。明日の実技授業、ペア決めるって聞いたけど、一緒に組まない?」
啓太はわずかに眉を動かした。
「理由は?」
「理由?単純に面白そうだから。あんたの戦い方、見てみたいの。」
啓太は少しだけ考え、そして頷いた。
「わかった。」