魔法科高校の劣等生 ― 無限の境界 ―   作:ハヤオ

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第12章 波紋

1. 夕暮れの帰路

夕陽が倉庫街の屋根を黄金色に染めていた。

戦闘の熱気が嘘のように、街は静かだった。

風が吹くたび、埃と潮の匂いが混ざった空気が肌を撫でる。

啓太は歩きながら、視界の端にエリカの姿を捉えていた。

彼女は疲労を隠すように背筋を伸ばしていたが、足取りには微かな重さがある。

 

「無理するな。あの場で動けたのは、ほとんど気力だけだろう。」

 

「……あんたにだけは言われたくないわよ。」

エリカは軽く笑ったが、その瞳の奥にはまだ境界の闇が映っているようだった。

 

2. 残滓

啓太の右手には、まだかすかな感覚が残っていた。

無下限呪術を極限まで行使したときに生じる“裂け目”の感覚。

それは空間を捻じ切るような手応えであり、同時に現実との接点を削るような危うさを伴う。

(……あの男は俺の術式を“この世界の系統外”と言った。

 なら、奴もまた系統外――あるいは、もっと古いものなのかもしれない)

 

境界の番人。原初の境界。

その言葉が意味するものはまだ分からないが、直感が告げていた。

あれは単なる敵ではなく、何か大きな流れの中で動く存在だ、と。

 

3. 不穏な視線

港の近くまで戻ったとき、啓太は背筋に微かな寒気を覚えた。

無下限の感覚が、自分とエリカを見ている“視線”を捉える。

足を止めず、視線の方向だけを探る。

倉庫の屋根の影、そこに一瞬だけ赤い反射が見えた。

双眼鏡か、監視用の光学センサーか。

 

「エリカ、後ろを振り向くな。少し早歩きする。」

 

「……了解。」

彼女は短く返し、啓太の歩調に合わせた。

 

4. 情報の共有

駅前に辿り着いた頃には、視線の気配は消えていた。

それでも啓太は油断せず、人混みの中に紛れ込む。

ベンチに腰掛け、飲料を二つ買ってエリカに渡す。

「……この件、司波たちにも共有したほうがいい。

 九校戦に絡む動きかもしれない。」

 

エリカは缶を開け、一口飲んでから頷いた。

「わかった。でも、あの戦いのことは全部話すつもり?」

 

「全部は駄目だ。無下限の詳細は伏せる。」

「だろうね。」

 

5. 九校戦の影

その夜、第一高校の生徒会室には重苦しい空気が漂っていた。

渡された簡易報告を見た深雪が表情を引き締め、幹比古も眉を寄せる。

「……境界の番人? そんな存在、魔法協会の記録にはありません。」

 

啓太は視線を伏せたまま、必要最低限だけ説明した。

不審者集団と境界空間、そして“原初の境界”と呼ばれる防御障壁。

 

達也が静かに口を開く。

「それは……人為的に作られた次元干渉領域だろう。

 ただし、既存の魔法では不可能な規模だ。」

 

啓太は彼と視線を交わし、一瞬だけ理解を共有する。

互いに踏み込みすぎれば危険だと、直感で分かっていた。

 

6. 準備

数日後、九校戦に向けた最終調整が始まった。

啓太は模擬戦や装備テストの合間に、あの戦闘の反省を続けていた。

エリカは刀の切れ味を確認しながら、ふと彼に声をかける。

「ねえ啓太。あの戦いの後、あんた……少し変わったよね。」

 

「そうか?」

「うん。なんか、“次に来るもの”をずっと待ってる感じ。」

 

啓太は少しだけ笑った。

「……もしかしたら、もう近くまで来てるのかもしれない。」

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