魔法科高校の劣等生 ― 無限の境界 ―   作:ハヤオ

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第8章 決戦前夜

1. 後半戦の幕開け

九校戦も折り返しを迎え、会場の熱気は頂点に近づいていた。

競技場全体を覆う巨大な観覧テントの中、観客たちは声を枯らし、拍手と歓声が交錯する。

その熱気とは裏腹に、啓太の心は静まり返っていた。

(……来るな)

 

後半戦初日の競技は《スピード・スター》――高速移動魔法を駆使してコースを走破するタイムレースだ。

第一高校からの出場は、司波達也、千葉エリカ、渡辺摩利。

啓太はあくまで補助員として選手控室の奥に陣取っていたが、その目は絶えず外部の魔力流を監視していた。

 

2. エリカの走り

「啓太、後でちゃんと見ててよ?」

出走直前、エリカはヘルメット越しに笑いかける。

「……走り終わるまで、気を抜くな。」

 

「わかってるって。」

 

スターターの合図と共に、エリカが飛び出した。

滑らかな加速、そして曲線を描くカーブでも一切減速せず、まるでコース全体が彼女を押し出しているようだった。

 

――実際、その通りだ。

啓太が配置した“傾斜領域”が、彼女の足元にわずかな前方加速を与えている。

他の選手には感知できない微弱な空間の歪み。

 

実況席が歓声を上げる中、エリカは2位に1.5秒差をつけてゴール。

観客席からは割れんばかりの拍手が響いた。

 

3. 不穏な兆候

だが啓太は、観客の歓声よりも別のものに意識を向けていた。

――空間の“震え”だ。

競技場の南端、物資搬入口付近で、微弱な位相のずれが観測された。

(転送陣……いや、術式干渉か)

 

彼はすぐに無線で摩利へ連絡を送る。

《南搬入口、魔力干渉あり。警戒を》

 

摩利の短い返事が届くより早く、啓太は観客席の影に姿を消した。

 

4. 黒鉄連盟の計画

同じ頃、南搬入口の奥――

黒鉄連盟の幹部格、グレイ・ヴァルターは、片膝をつきながら転送陣の制御を確認していた。

「第一目標は志賀啓太、第二目標は千葉エリカ。達也も排除できれば尚良しだ。」

 

「捕らえるのか?」

部下の問いに、グレイは冷笑を浮かべる。

 

「いや……生きたまま運べるなら、な。」

 

5. エリカの違和感

競技を終えて控室へ戻ったエリカは、タオルで汗を拭きながら首をかしげた。

「……啓太、どこ行った?」

深雪が心配そうに答える。

「さっき、搬入口の方へ向かっていきました。何か異常を感じたようです。」

 

エリカの瞳に警戒色が宿る。

「やっぱり……変な感じがする。」

 

6. 影との遭遇

啓太が南搬入口に辿り着くと、すでに整備員に偽装した数名の男たちが動いていた。

彼らの周囲には、観客やスタッフの姿はない。

完全に隔離された空間。

「……ようやく見つけた。」

啓太の声に、男たちは一斉に振り返る。

 

「志賀啓太……やっと会えたぜ。」

 

次の瞬間、短剣と飛び道具が同時に襲いかかる――が、すべてが啓太の目の前で止まった。

まるで空間そのものが固まったかのように。

 

「距離無限。触れられると思うな。」

 

低い声と共に、彼は指先をひねる。

途端に敵の武器は反転し、持ち主の体を浅く切り裂いた。

 

7. エリカの乱入

「啓太っ!」

後方から駆け込んできたエリカが、刀を抜き放つ。

一閃――刃は黒鉄連盟の一人の腕をかすめ、武器を吹き飛ばした。

 

「お前、こういう時に黙って抜け出すな!」

 

啓太は淡々と返す。

「巻き込みたくなかった。」

 

「巻き込まれるのは慣れてるの!」

 

二人は背中合わせに構えた。

前衛はエリカ、後衛で空間制御を行う啓太。

息の合った連携で、男たちを一人、また一人と倒していく。

 

8. 不意の襲撃者

だが――影のような一撃が、啓太の防御をすり抜けた。

空間の無限距離を越えて到達する、特殊な魔力干渉。

(……これか)

 

一瞬で距離を詰めた影の男が、エリカを狙う。

啓太は反射的にその前に立ち塞がり、空間を圧縮して反撃した。

 

轟音と共に、搬入口の壁が粉砕される。

だが影の男は即座に後退し、転送陣へと飛び込んで姿を消した。

 

9. 嵐の前

敵の残党はすべて拘束されたが、啓太の表情は険しいままだった。

「……本命はまだ動いていない。」

 

エリカが刀を納め、息を整える。

「でも、次はもっと派手に来るんでしょ?」

 

「ああ。九校戦の最終日……そこで全て仕掛けてくる。」

 

夕暮れが湖面を染める中、二人は短く視線を交わした。

その眼差しには、言葉にしない決意が宿っていた。

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