転生したので、たった一人で地球と貿易してみる:勝手に短編集 作:woodenface
カリフォルニア州、ビバリーヒルズ。
世界でも屈指の富豪たちが家を構えるこの高級住宅街に、その人は邸宅を持っていた。
「お会いできて光栄です、リナ・マルデリタさん。僕が開発に関わったゲームがこの星を飛び出すなんて……夢のような気分です」
「メイン・クラフトはそれだけ可能性を秘めたゲームですから。モッチさんの考えたゲームの面白さをマルデアの人たちに上手く伝えられるよう、頑張らせていただきます!」
おしゃれな帽子にダンディなおヒゲの男性……モッチさんと挨拶を交わして硬く握手をする。
2009年、彼が公開した試作ゲームは未完成ながらも多くの人たちに支持されて、アルファ版、ベータ版、プレリリースと絶えず開発とアップデートを続けて、いまや『世界で一番売れたインディーズゲーム』として世界記録になるほどの人気を誇っている。
ほぼ全ての物が四角い立方体のブロックによって創られた世界。
そこでプレイヤーはブロックを壊し、材料を集め、道具をクラフトして更なる材料を求めて採掘に地下へと潜る。
暗闇から現れるモンスターたちと戦ったり、まだ見ぬ場所へ冒険に行く者。
畑を耕したり、家畜の世話や魚を釣ったりと緩やかな日々の生活を過ごす者。
様々なブロックを組み合わせ、新たな建築物を自らの手で創り上げる者。
……そしてただひたすらにブロックを破壊する作業に没頭する者。
多くのプレイヤーのそれぞれのプレイスタイルをすべて許容する懐の深いゲーム、それがメイン・クラフトなのだ。
いつかのゲームイベントで『メイン・クラフトは人生』と言っていたゲームファンの人が居たけれど、それくらい自由度とやり込み性、そして時間を注ぎ込めるだけのゲームだと皆が思っているという証拠だ。
モッチさんは初期のメイクラ開発に携わった人で、現在はミクロソフツとムヤンスタジオに権利を委譲しているものの、彼が果たした功績は大きい。
メイン・クラフトをマルデア向けにローカライズする前に、一度会っておきたい人物だった。
「僕はもう開発から離れてしまったけれど、マルデアにもメイン・クラフトの破壊と創造の遊びが広まってくれると嬉しいな」
「はい、お任せください!」
そして、それからしばらく私はモッチさんとメイクラの話をして盛り上がった。
ゲーム開発の裏話なんかも話してもらえて、その失敗談にはつい噴き出して笑ってしまったよ。
あの爆発する緑のモンスターの原型がブタの失敗作だなんて、そんなことある!?
この話はゲームの発売後に、公式ページのオマケコーナーにでも掲載しよう。
マルデアのゲーマーたちも、この裏話にはきっと笑ってくれるはずだ。
モッチさんと1時間ほど談笑をして、私はローカライズの打ち合わせのためにワシントンのムヤンスタジオ支社へと向かった。
ムヤンスタジオ支社でのローカライズの話し合いは、とにかくアップデートをどのように行うかに終始した。
言語方面のローカライズに関してはこれまでのゲームでの経験の蓄積があったし、オンラインでのマルチプレイ要素に関してはそもそも環境が無いので最初からローカルネットワークのみ可能とする方向で話が進んでいる。
ムヤンスタジオとしても、購入した人へのゲームの定期的な無料アップデートは地球では行われていることなので、マルデアを例外にしては申し訳が立たないという話だった。
オンライン環境に繋がれないマルデアでどのようにアップデートプログラムを配信するか。
この問題は、意外な事にスウィッツの対応担当者として来ていたNikkendo側から解決策が出てきた。
アップデートをするかは購入者個人の自由として、メイン・クラフトのアップデートプログラムを内蔵した機器を各小売店に配布して、購入したお店でアップデートをしてもらう形にしたらどうかというものだ。
かつておもちゃ屋で、買ったゲームの記録媒体を別ゲームに上書きする『ファムコム・デスクシステム』を展開していたNikkendoらしい解決策だね。
これで問題なくメイン・クラフトをマルデアで販売できるようになる……かというと、そんなことはない。
メイン・クラフトの売りは自由なゲーム性。以前マルデアで発売した都市運営ゲーム『サムシティ・マルデア』よりもさらに自由で、ゲーム内で目標などはほとんど説明されない。
このままでは何をすればいいか分からないままゲームをプレイして、プレイヤーはよく分からないまま飽きてしまいかねない。
そこで、『メイン・クラフトで出来ること』という動画をサニアさんの解説付きで発売前に公式ページで少しずつ公開し、マルデア人ゲーマーのメイクラ知識を底上げしてから発売することになった。
本当はここまででローカライズの打ち合わせは終わるはずだったのだけど、ムヤンスタジオの開発者から地球のゲーマーたちに協力してもらってマルデアの人たちにプレゼントを送ろうという企画が持ち上がった。
メイクラのアップデートの仕組みを応用すれば既存のマップデータ、誰かが再構築した世界をダウンロードすることもできる。
地球のメイクラユーザーたちに彼らが精魂を込めて作り上げたマップデータを提供してもらい、記憶媒体に封入してマルデアに送ろうという企画だ。
もちろん私は喜んで受け入れた。
地球とマルデアのゲーマーたちの交流になるし、マルデアのゲーマーにはメイクラの溢れる可能性を見せることが出来るからね。
あとは企画に関わる打ち合わせをして、会議室の机でドーナツを食べて爆睡しているフェルを拾い上げて私はワープでマルデアへと帰還した。
マルデアのワープルームに帰還すると白い滅菌魔術の煙が身体を包み、ワープ装置を管理していたガレナさんが声をかけてくれる。
「やあ、おかえり。ローカライズの打ち合わせは上手くいったか?」
「バッチリです! 面白い企画も立ち上がりましたし、計画通りに進められそうですよ」
「わちしのおかげで、交渉はすむーず」
いや、フェルはさっきまで爆睡してたでしょ。
……そんなことは置いといて、今回決まった販売計画を話し合うためにガレナさんと一緒にガレリーナ社のオフィスへと向かう。
オフィスに着いたらゲームをしている社員たちを会議室に集めて販売戦略の会議だ。
今回のソフト、メイン・クラフトは社内の販売実績で問題になっているドワフ国へ向けたキラーソフトなのだ。
ドワフ国への販売は前回のレトロオールスター第4弾でたしかな実績を刻んでいる。
しかし、その売り上げは現在伸び悩んでいた。
ドワフ人はケチではないしゲームもプレイすれば楽しいと分かってくれる。
だが、新規プレイヤーの開拓という点ではレトロオールスターの影響は限定的だった。
特にドワフのこどもに対するゲームの普及は進んでいないと言わざるを得ない。
そもそも彼らはゲームという娯楽に触れようとする動機がなかったのだ。
ドワフのこどもたちにとって一番の憧れは、国の誇りである『ドワフの魔石』を掘り出す鉱山の採掘夫たち。
国の経済を回す魔石を掘り出す彼らこそこどもたちの身近なヒーローであり、遊びとは大抵において採掘夫ごっこの事を指すものだった。
好奇心旺盛なこどもですらそうなのだ、大人のドワフ人は輪をかけて新たな娯楽への欲求が乏しい。
マルデアでは珍しく『酒』という明確な娯楽文化があるのもそれに拍車をかけていた。
つまりドワフ国ではいまだにゲームは『知る人ぞ知る娯楽』であり、マイナージャンルの域を出ていなかった。
その状況を打破するためのメイン・クラフトである。
ドワフ人なら大人かこどもまで夢中になる採掘という作業、目につくあらゆる物を破壊し再構築することが許される職人気質のドワフにはたまらない世界、そして己が創り上げた武器でモンスターと戦うクラフト要素。
何から何までドワフの人々にとって魅力的なメイン・クラフトは間違いなくドワフ国での新規プレイヤーを開拓するキラータイトルになりうる。
普通のマルデア人向けの販売計画が問題ではあったけど、今後の無償アップデートの見通しが立ったことと解説動画の投稿スケジュール、地球のメイクラユーザー製マップのプレゼント企画の存在でそちらも問題なく進みそうだ。
いくらでも時間と熱意を注ぐことが出来るゲーム、メイン・クラフト。
それを万全の形でマルデアに送り出すため、ガレリーナ社は一丸となって……テストプレイに励んだ。
メイクラってマルチプレイも楽しいよね!