転生したので、たった一人で地球と貿易してみる:勝手に短編集 作:woodenface
その後もメイクラのマルデア向けローカライズのために何度も打ち合わせが行われたが、その経過は非常にスムーズなものだった。
元々メイクラには多言語に対応するためにゲームに登場するアイテムの名称や表示するフォントを切り替えるための機能が実装されていて、マルデア語への変換はこれまでのゲームの中で最も早く終わった。
マルチプレイモードもローカルネットワーク限定に再調整され、プレイヤーのアバターの見た目である『スキン』も基本の『スチーブ』と『アルックス』の2種以外にマルデア人、ネズム人、ニャムル人、ドワフ人などを模したものが収録される予定だ。
地球でもメイクラがマルデアに輸出されるということは既に噂になっているらしく、『ついにメイクラは星を越えて開拓する!』、『マルデアの人々がメイクラで何を作るのか楽しみだ!』と大盛りあがりだ。
中には『この【MODs】も広めて欲しい!』なんて意見もあった。
【MODs】、スウィッツ版のメイクラでは『アズオン』と呼ばれる追加データパッケージ群だ。
プログラムが明快なため、公式だけでなくファンが非公式な物を作ることも出来るアズオンはメイクラの拡張性の証左でもあるが、マルデアにはまだ早いと思っている。
マルデア版『メイン・クラフト』の購入後の無償アップデートとプレゼントである地球のメイクラユーザー製ワールドデータのダウンロードは購入した店舗で専用機器を使って行う。
つまりは販売店舗に専用機器の保持・管理をお願いしなければならないので、その分はガレリーナ社が負担する手筈になっている。
1店舗あたりの金額はそこまでじゃなくても、今のマルデアゲーム業界の販売店舗すべてに依頼するとなると結構な額になると見積もられている。
それでも、地球のゲーム開発陣が無料にしているものをマルデアで有料にしたいとは思わない。
【MODs】の導入はそれらに加えて悪戯に販売店の負担を増やしてしまうから、現状で対応環境を整えるのは難しいだろう。
今は多少の損を許容してでも、ビデオゲームの買い切り型の娯楽という形を守るべきだ。
それに、地球でも大人気のメイクラ関連のグッズが売れれば取り返せる範囲だと思うし。
……そういえば、私がカリフォルニアの森林公園に残した簡易住居は現在、地球の人たちの人気の観光名所になっているらしい。
『マルデア大使が地球で作った最初の建築物』って扱いみたいだけど、あんな土でできた豆腐建築をたくさんの人に見られるとちょっと恥ずかしい。
あくまで簡易住居として作ったからそこまで長くは持たないと思うし、早めに自然に帰って欲しいなぁ。
販売のための営業はそこそこ好調で、これまでに取引のある玩具の小売店は発注量の大小はあってもほとんどが注文を決めてくれた。
決め手となったのは、事前に設置してもらう契約になっていたデータのダウンロードのための専用機器でお客さんのスウィッツに決められた時間だけメイン・クラフトが遊べるデモ版をインストールできるようにしたことだろう。
サニアさんの解説付き動画を見て遊びたくなったお客さんたちは小売店でデモ版をインストールし、感じられた面白さの片鱗にそのまま製品版を予約する人が多かったからだ。
専用機器の設置だけでも継続的にお金は入ってくるから、小売店側には有利な条件だったのもあるけどさ。
珍しいことに今まで全く縁の無かった場所からも発注が掛かった。
メソラさんが飛び込み営業で、教育現場から発注をもぎ取ってきたんだ。
『積み木や魔術人形で遊ぶより創造的』、そういう売り文句で幼年層の教育機関から発注を取ったんだって。
まあ、教育機関とはいっても公式な所ではなく、私的な保育園みたいな所からなんだけどね。
それでも、基本的に『魔術の素養を高める』と信じられている伝統的な魔術道具のおもちゃではなくビデオゲームを導入することを決めさせたのは大手柄だ。
地球でも創造性を養うという名目でメイクラが使われている学校もあるらしいし、上手くいけば他の教育機関からも発注がとれるようになるかもしれない。
大人からこどもまで創造力を爆発させられるメイクラを楽しんで欲しいね。
そしてついに製品版『メイン・クラフト』の発売日。
私たちガレリーナ社の社員たちはそろって通信対応のために準備していた。
フィオさんのように通信対応専任の社員もいるけれど、発売日ばかりは皆で対応しなければ手が足りない。
基本的な質問に対しては公式ページの解説動画『メイン・クラフトで出来ること』に誘導することとして、私たちは次から次にやってくる通信対応に追われた。
「焼いてる暇がなくて生のお肉を食べたんだけど……お腹を壊したりしない?」
「腐っていても食べちゃうんで大丈夫です」
「住んでる家をモデルに家を建てたんだけど……なんか違う」
「分かります……」
実際に立ててみるとなんかこれじゃない気がしてくるよね。
「青いフェルクルみたいな子を見てみたいのに、全然見つからないの」
「根気よく探しましょう」
「なんかキノコが生えてる牛を見つけたんだけど、この子病気?」
「そういう牛です」
いろいろな質問をされたものの、一番多かった質問は黒くて背が高いモンスター『エンディーマン』に関することだった。
「このモンスターは大魔術師アルセイアと関係あるの?」
エンディーマンは視線を合わせると襲い掛かってくるモンスターで、瞬間移動を行うのが特徴だ。
そして
アルセイアが編み出したワープ技術はマルデア史上最大の発明といわれるほどのものであり、現在の暦の基準でもある。
それと謎のモンスターが上手く結びつかず頭が混乱する人が多かったようだけど、『エンディーマンは倒すとワープを可能にするアイテムを落とします』と答えると、そういう魔術具を使っていたのかとみんな納得してくれた。
その日の通信対応を終えて社員全員でぶつけられた質問について情報を共有してみると、やはり1人1人まったく違った世界が広がっていることに驚く声が多かったようだ。
メイクラは地形生成のアルゴリズムに応じてそれぞれ違う世界が構築される。
解説動画のものともネットの他のプレイヤーが報告したものとも全く違う、自分だけの世界。
それはプレイヤーたちを困惑させ……同時にこれ以上なく胸を高鳴らせていた。
ネット上では『私のメイクラ世界の絶景』を写真にしてアップロードした人も多く、自分のメイクラ世界に愛着を持ってくれたのが分かる。
通信対応はドワフ国からも来ておかしくないはずなんだけど……あちらからは全く来ていない。
凝り性のドワフ人の事だから、質問するより先になぜなのか自分で出来るだけ試してみて、質問に来るのは本当にどうにもならなくなってからなんだろう。
下手をしたら夢中でプレイしていて通信で聞く時間すら惜しいという状態にあってもおかしくないのがドワフ人の凄いところだ。
そして危惧していた状況も今のところ起きていない。
メイクラはそのゲームの性質上、演算しなくてはならない物が増えすぎるとゲームの処理が重くなるという弱点を抱えている。
しかし、マルデアのゲーマーたちは今のところスウィッツが処理落ちするほどのプレイをする者は出ていないようだ。
それが発売日当日だからなのか、それとも国民性なのか、はたまた解説動画でホラーチックに『ゲームクラッシュの恐怖』を取り上げたからなのかは不明だけど、これからも用法容量を守ってプレイしてくれると嬉しいな。