転生したので、たった一人で地球と貿易してみる:勝手に短編集   作:woodenface

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オデッシア編 英雄の帰還

 その日、ガレリーナ社からの次期発売タイトルの発表でマルデアに……いや、マルデアの一部、ゲーム業界という限られた範囲に激震が走った。

 

 次期発売タイトルの名前は『ハイパーマルオ・オデッシア』、スウィッツが輸入された当初に購入者たちを魅了したマルオの新作である。

 しかも、初期タイトルの『ハイパーマルオ』やレトロゲームオールスターで収録された『マルオブルザーズ』のような2D(平面)操作型ではなく、『マルオカーツ』のような3D(立体)操作型アクション!

 今までにない形での英雄の帰還に、マルデアのゲーム界隈はまさにお祭り騒ぎになっていた。

 

 

 

 

 

 公式であるガレリーナ社からの発表は子供たちにもすぐに拡がった。

 母の駄菓子屋……じゃなくてゲーム専門店でも、集まった子供たちの話題はマルオの新作のことだ。

 

「ねぇ見た? 次のスウィッツの新作はマルオだって!」

 

「見た見た! ゼルドみたいに操作できるマルオなんてすげーぜ!」

 

「今回はヨッスィーは出ないのかしら? 帽子ちゃんも可愛いけど、ちょっと残念……」

 

「でもマルオだし、絶対面白いよ!」

 

 マルデアでのスウィッツの発売当時、マルオのゲームはスウィッツと同梱で販売されていた。

 だからこそ、子供たちにとって最も馴染みのあるゲームのキャラクター『Mr.ビデオゲーム』は地球と同じくあの丸顔のおじさんなのだ。

 プレイする前から面白いと確信させる信頼、それを持たせるだけの実績をマルオのゲームは築いている。

 子供たちの話は徐々に親を説得する方法へと変わっていたけど、それだけ新作マルオに期待してるってことでもある。

 彼らの期待に応えるためにも、早く発売のための準備を終わらせなくちゃね。

 

 

 

 

 地球のゲームの輸入・翻訳元である私たちの会社、ガレリーナ社。

 マルオの新作という『確実に売れるゲーム』の販売に向けて社員一丸となって動いていたけれど、中でも特に熱意を持って働いている人がいた。

 サニア・ベーカリーさん、ガレリーナ社では広報を担当してくれている。

 彼女はゲーム輸入事業の創業期にマルオと出会い、魔法省直下の研究所からガレリーナ社へ籍を移したかなりのツワモノな経歴の持ち主だ。

 それだけあって、マルオへの想いは強い。

 間違いなく売れることがわかっている『ハイパーマルオ・オデッシア』に少しでもケチを付けられないよう、気合を入れて公式ページ掲載用の攻略解説動画を作ってくれていた。

 

「サニアさん、すみません。今回はサニアさんの負担が大きくなってしまって……」

 

 ガレリーナ社副社長という立場として、私が負担をかけてしまったことを謝罪したものの、サニアさんは何でもなさそうに答えた。

 

「別にいいわよ。これまでのマルオのゲームに来た質問から考えて、攻略関係のものが多くなるのは分かってたし。……動画を撮るためにももっとゲームをやり込まなくちゃ!」

 

「あはは……ほどほどにしてくださいね?」

 

 オデッシアでは物語を進めるのに各地に隠された『パワーモーン』を集める必要があるため、ある程度は攻略動画で見つける方法を教えたほうがいいものもある。

 一応ゲームの中でも隠された場所のヒントは教えてくれるけど、分からない人はすぐに質問しに来がちだからね。

 でも、これだけ入念に準備をするのは間違いなくたくさん売れると確信していることの裏返しでもある。

 最新ゲームという枠組みではハイパーマルオとマルオカーツしか発売されていなくても、レトロゲームで収録された過去のマルオゲームやアーケード版マルオなど、マルデアでのマルオの人気はやはり大きい。

 たくさん売れればその分通信対応も忙しくなるだろうから、丁寧な準備が必要になってくるだろう。

 動画撮影を進めるサニアさんとローカライズの最終確認をする社員を残して、私たち他の社員は各小売店へ営業に向かったのだった。

 

 

 

 

 当然といえば当然だけれど、『ハイパーマルオ・オデッシア』は各小売店でかなり多くの発注を受けた。

 

「いやはや、これは売上が楽しみになるソフトですな。前々からマルオの新作がいつ発売するか聞いてくるお客さんは多かったんです。今回は期待していつもの倍の数を注文をさせてもらいますよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 こんな会話が複数の小売店で行われ、あまりの発注量に一部のお店では搬入に小型の縮小ボックスを使うことになったくらいだ。

 発注の決定に伴い、販売促進のためのグッズも各小売店に配布された。

 ゲーム内の映像を編集したデモムービーの映像データや登場キャラクターなどの説明文の書かれた小冊子、オデッシアの舞台となるさまざまな国の画像データを元にした魔術写真などだ。

 

 ハイパーマルオ・オデッシアではマルオがお姫さまをさらったいつものカメの親玉を追いかけてさまざまな国を訪れる。

 見渡す限りの砂漠の国、氷に閉ざされた雪の国、美しい水を湛えた湖の国などその種類は多く、プレイヤーはマルオと共にそれらの国での冒険を体験するのだ。

 それぞれの国は地球の各地がモチーフになっていて、中には地球の大都市がモデルになっている国もあるので、マルデアの人たちにもこのゲームを通して地球の美しい風景を感じてもらえたら嬉しいな。

 

 

 営業を終えて会社のオフィスに再集結した私たちはそれぞれの受けた発注の数を共有し合い、その数に感嘆の声をあげる。

 

「マルオの人気なら今まで以上の発注は来るだろうと思っていたが……これは予想以上だな」

 

「そうっすね、こりゃー当日の通信対応も気合を入れなきゃヤバそうっす」

 

 深刻そうなガレナさんの言葉に楽観的なメソラさんも同意を示し、フィオさんたち通信対応専任社員たちが顔を青くした。

 

「大丈夫です。サニアさんも丁寧な攻略解説動画を作ってくれていますし、攻略関係はそちらへ誘導すればいいでしょう。それに人手は増やす方法はありますから、きっと何とかなります!」

 

 私の激励の言葉に、社員のみなさんが互いに笑みを浮かべて頷き合う。

 ガレリーナ社はまだまだ新興企業で少数精鋭といえば聞こえはいいが、実態は生粋のゲーム好きが少しずつ入社してくれているだけの人手不足の状態だ。

 それでも膨れ上がるゲーム人口に対して通信対応の人手を増やす方法を見つけてからは多少楽になったかな?

 

「じゃあ今回もあの求人を出すっすか?」

 

「ええ、お願いします」

 

 メソラさんの言った”あの求人”というのは、通信対応の人員のための短期バイトの募集だ。

 もちろん、ゲームの内容も知らない人に通信対応をさせてお客さんに適当な事を言ってもらっては困る。

 だから、短期バイトの求人で来た人たちは『発売日より先にゲームを出来る限りやり込んでもらう』ことにしている。

 報酬の金額自体はそこそこ程度だと思うけど、この業務内容の付加価値のおかげで求人を受けてくれるゲーマーには事欠かなくなった。

 なんなら短期バイト経由でガレリーナ社に就職を決めたゲーマーも居て、会社の発展にも良い影響を与えてくれている。

 ……実態は、ニンジンを鼻先にぶら下げられて走る馬とそう変わらないんだけどね。

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