烟る鉄底海峡   作:wind

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beginning of Journey

「♫~~♫~」

 

 

 

小さな島の浜辺の小屋。波の音ににまじり、かすかに歌が聞こえる。

椅子に座った一人の艦娘。彼女が歌っているようだ。

 

 

「…はぁ。」

諦観に満ちた溜息とともに、彼女は視線を空へと上げる。

 

 

 

 

しかし、青色は見えない。霧によって覆い隠されている。

 

今、この海域に、空はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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鉄底海峡上空。

 

 

 

霧で出来たドームの上を、三機のヘリが飛行している。装甲輸送へリ、Stork。

積載量の多さが売りのこのヘリは、機体下部に装甲車のようなものを吊り下げていた。

それぞれ赤、青、黄のカラーリングが施された最先端揚陸艦。そのうち、あなたは青い二番艦ブルージェット号に搭乗している。

 

 

赤の一番艦レッドスプライト号から通信が入る。

 

「鉄底海峡上空に到達しました。再度、作戦の概要を説明します。

かつての激戦の後、この海域は南木提督の元防衛線の再建が進められてきました。しかし先日の嵐の後、この海域は異常な霧によって覆われ、内部との連絡が取れない状況に陥っています。

我々のミッションオブジェクティブは内部に突入し、南木鎮守府の人員と接触すること。並びにこの現象の原因調査、解明です。

この霧は恐らく深海棲艦により引き起こされたものだと思われます。そして、そうだとすれば内部に敵がひしめいているという可能性も否定出来ません。そのため、今回の作戦では飛行可能なライトニング級次世代揚陸艦群が使用されます。霧のドームの中心点に近い南木鎮守府に上空から接近し、事態の収拾を図ります。難しい任務です、総員の奮闘に期待します。

 

これより、霧によって閉ざされた鉄底海峡への突入作戦を開始します。対ショック体勢をとって下さい。」

 

 

通信終了。

艦隊が突入準備に入る。

 

 

 

ストーク前側のウインチが巻かれ、揚陸艦が傾く。あなたはベルトが体に食い込むのを感じた。

 

「各部チェック。」

 

「エンジン、点火準備。OKです。」

「ストークとの接続解除準備、完了。」

「突入角調整用補助スラスター、テスト。異常なし。」

「オールグリーン。」

「二番艦準備完了です。」

直後に他艦からも準備完了の連絡が入る。一番艦から通信。

 

 

 

「了解、艦隊発進。我に続け。」

エンジンが点火される。飛行開始。

 

微かに音、そして振動。ストークと船体を繋ぐケーブルがパージされたのだ。

落下。

あなたは浮遊感を感じつつ、筋肉を緊張させ、振動に備える。

空気抵抗により船体が震える。しかしそれもエンジン出力が上がることで落ち着いた。

 

高度を維持しつつ、一番艦に続く。

 

 

「こちらStork2。投下成功を確認しました。皆さん、ご武運を!」

ヘリのパイロットに見送られつつ、揚陸艦は行く。

 

 

前方に、機首を下げていく一番艦が見える。

 

「霧に突入します。カウント10。」

「9。」「8」「7」「6」「5」「衝撃に備えて!」

 

突入。

 

霧に覆われ、揚陸艦の姿が消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちら一番艦。損傷なし。各艦無事ですか?」

「二番艦、異常なし。」

「三番艦、同じく異常ありませ…!通信です!」

 

「何処からです!?」

「この通信コードは…間違いありません。発信位置、コードとも南木鎮守府のものです!」

「無事だったか…!内容は?」

「読み上げます。即時帰投せよ…?ここには」ノイズとともに通信が切れる。

 

 

 

「おい、どうした?応答しろ!」

「三番艦が予定コースを外れていきます!」「火を吹いてるぞ!?」「エンジントラブルか?」

 

 

「違う、砲撃だ!すぐ高度を下げろ!狙い撃ちにされるぞ!!」

 

一番艦が急下降し、二番艦もそれに続こうとする。

 

 

瞬間、二番艦の後部に着弾。誘爆。左エンジンブロックが吹き飛ばされる。

バランスを崩した青い船はパーツを撒き散らしながら海に向かって落ちていく。

 

船体に穴が開いているのが見える。

あなたは衝撃に弄ばれ、船から投げ出されつつあるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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小さな島の浜辺の小屋。歌っていた彼女は、空に青い流星が流れるのを見た。

 

手に持つコインを弄びつつ、彼女は呟く。

 

 

「まだ、終わらないのか…。」

 

 

コインが指で弾かれ、彼女の視線がそれを追う。

コインの向こうに、流星から投げ出される人影のようなものが見えた。

 

驚き、コインを取り落とす。

 

 

…いや、自分には関係ないとばかりに、彼女はコインを拾おうとする。

…もし、表が出ていたらアイツを助けに行こう。そんなことを考えつつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は落ちたコインを見る。

 

 

 

 

 

 

「…はぁ。」

「つくづく、運の良いヤツだな…。」

 

彼女はため息をつきながら立ち上がり、ボロボロの艤装を装着し始めた。

 

 

 

 

 

そんな彼女を、砂浜に縦に突き刺さっていたコインの顔が見送っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あなたは見知らぬ小屋で目を覚ました。

波の音が聞こえる。

 

ここは…?あなたの記憶は船から投げ出されたところで途絶えている。

 

 

 

「よう、目が覚めたか?ブルーバード。」

 

見知らぬ艦娘。彼女が助けてくれたのだろうか?彼女の声に答えつつ、聞く。ブルーバードというのは…?

 

「お前のことだよ。青い船から落ちてきたからな。あの高さから落ちてほぼ無傷だもんなぁ…。実際運が良いよ、お前。固定されてた椅子ごと落ちたのが良かったんだろ。まぁそれでも体に負荷が掛かったのは事実だ。」

「もう少し寝ておけよ。」

 

 

 

それだけ言って、彼女は部屋を出ていこうとするので、あなたは慌てて呼び止めた。

 

「…なんだよ?」

いや、まだ礼を言っていない。助けてくれてありがとう、貴方は恩人だ。そうあなたが言う。

 

「お前の運が良かっただけ、ただそれだけだよ…。」

 

呟くように答えた彼女に問いかけようとして、恩人の名前すら聞いていないことに気づく。

 

「あ?オレの名前?…天龍だ。」

 

ぶっ壊れた南木鎮守府の生き残りだよ。彼女はそう答えた。

 

 

 

 

 

 

1st, "beginning of Strange Journey" is the end.

continue to next "Shuttered blues"

 




ほぼ初投稿につき、行間がおかしいかもしれません。
第一話とはいえ短すぎるので、後で統合するかも。

又、レッドスプライト、ブルージェットと違いエルブスには黄色要素は無いのですが差別化のため黄色扱いしてます。

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