烟る鉄底海峡   作:wind

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Shuttered blues(上)

「♫~~♫~」

 

 

「あ。起こしちまったか?」

 

 

彼女の歌で、あなたは目を覚ます。悲しげなメロディ。

彼女に朝の挨拶をしつつ、起き上がろうとすると関節に痛みが走る。

 

「まだ痛むのか?飯を持ってきてやるから少し待ってろ。」

 

 

「ほらよ。」

 

あなたは天龍に感謝しつつ、朝食を食べ始める。

 

 

 

 

 

 

 

「食い終わったか。」

 

 

「それで、お前らは何しに此処へ来たんだ?」

 

何しに?あなたは答える。『それは当然、…?』

 

「わざわざ飛べる船で来るぐらいだ、鎮守府に行こうとしたんだろうが…外ではこの件に対してどう認識されているんだ?」

 

「おい、聞いてるのか?」

 

 

『ああ、いや、すまない。申し訳ないんだが、質問には答えられそうにない。』

 

 

「…この状況で機密云々言うつもりじゃないよな?」

 

 

天龍の目が、剣呑な光を帯びる。

 

 

「…隠すつもりなら、怪我人だって容赦はしねぇぞ?」

 

 

『そうではなく。』

 

 

「ああ゛?」

 

 

『覚えていない。というか、そもそも今はどういう状況なんだ?』

 

 

 

 

『というか、私は誰だ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二話  "Shuttered blues"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジかよ…記憶喪失?いや、まぁあの高さから落ちて無傷ってほうが逆に変だったのかもしれないけどよ…。」

 

肩を落とした天龍に、あなたは謝る。

 

『力になれず、すまない。せっかく助けてもらったのに…。』

 

 

「…いや。別にそういう理由でお前を助けたわけじゃない。」

「言ったろ?お前の運がよかったってだけさ。」

「ストーンヘンジに撃たれて生きてる、なんてのは実際奇跡みたいなもんだ。」

 

『ストーンヘンジ?』

 

「コードネームってか、アダ名みたいなもんだ。島を丸ごと砲台化した深海棲艦のな。いや、島が丸ごと…か? アレのせいで此処じゃあ航空機は役に立たん。おかげで散り散りになった味方とは連絡が取れない。」

 

「霧が出て以来、あっちもこっちも妙な敵ばかり現れやがる。」

 

 

 

「多分、お前の船もアレに撃たれたんだと思うんだが…。覚えてないか?」

「オレが遠くから見たかぎり、砲撃を食らった空飛ぶ船からお前が放り出された感じだったが…。」

 

『なんとなく、何処かから落ちたのは覚えてる。その前に散々振り回された気もする。』

 

「そうか…。」

 

「落ちてきた装備に、何か情報があるかもしれないな。持ってこよう。」

 

『大丈夫、もう起き上がれるよ。一緒に行く。』

 

「…無理はするなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

外には数隻分の艤装パーツや予備弾薬が置かれていた。そのほとんどが駆逐艦用の…特Ⅲ型のもののようだ。

 

『これが?』 あなたは天龍に聞く。

 

「…そいつは別件のだ。こっちだよ、第一お前は朝潮型だろうが。」

 

言われてみれば、微妙に見慣れない型…なような気がする。自分のことすらひどくあやふやだ。

 

…流石に航行の仕方まで忘れてたりしないよな?あなたは不安にかられる。

 

 

 

天龍曰く特異な敵までいるらしいこの海域で、そんなことになったら死は避けられないだろう。

 

死にたくはない。

まだ任務だって残ってるんだ、とっとと味方と合流しよう。

 

 

そこまで考えて、自分の思考に苦笑する。

…どうやら人は、自分のことすら忘れても、死にたくないと思えるらしい。

少し、驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これだ。一部しか回収出来てないが、試しに装着してみろ。…案外、何か思い出すかもしれないしな?」

 

手持ち式の主砲が一つ。魚雷はなし。航行用の装備は最低限揃っている。

 

「推進器の類は椅子に固定されてた。魚雷が外されてるのは、多分船中で誘爆するのを防ぐためなんだろう。」

「どうだ、動かし方は覚えてるか?」

 

『…多分。』

 

 

「不安になる答えだな…。」

 

「試運転でもしてみるか。この島周辺ならギリギリ安全なはずだ。」

「オレから離れず、しっかりついてこいよ?」

 

 

ギリギリ…。

不安になるようなことを言う。

 

あなたはおっかなびっくり、海へと進み始めた。

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 

「砂浜に沿って島を半周する。ちゃんとついてこいよ~?」

 

からかうように天龍が言う。

あなたには彼女に言い返す余裕も無い。

 

「おいおい、ホントに大丈夫かぁ?」

 

 

『よし、よしよし。安定した。』

この後出力を上げて、舵の様子を見つつ…。

 

 

「お。思い出してきたみたいだな。」

「やっぱり、そういうのは体に染み付いてるもんなのかね。」

 

多少ふらつきつつも、あなたは天龍に追いつくことが出来た。

 

「よ~し。それじゃあ、もう少し速度を上げるぜ?」

 

 

島から一定の距離を取り続けるように、右に左に蛇行する天龍。

あなたはそれに必死に付いていく。

 

 

「Okだ!」

「中々上手いじゃないか。」

「そろそろ岩場に入る。勢い余って突っ込むなよ?」

 

蛇行がさらに激しくなる。

 

途中、あなたは岩場に様々な残骸が打ち上げられているのに気づく。

激戦の痕跡。

 

あの駆逐艦用装備もここから引き上げたものなのだろうか?

それにしては、やたら状態の良いものも混じっていたが…。

 

 

「考え事とは余裕だな!」

「なら、ここから先は先導はなしだ!」

「向こうのあの浜までいって戻ってこい!」

 

岩場を縫うように、あなたは行く。

 

 

 

 

折り返し地点に到達。

左右の出力を調整し、ターン。

 

 

そして、天龍の元に戻るべく加速。

 

そんなあなたの姿を、天龍は懐かしいものを見るかのように眺めていた。

 

 

「よし、航行に関しては問題なさそうだな。」

 

「じゃあ次は攻撃のおさらいをしとくか。」

「主砲を構えてみろ。」

「島に向けてなら、敵に気づかれる心配は少ない。やってみろ。」

 

一発、二発。

砲弾は重力その他の影響を受けつつ飛び、狙い通りに着弾した。

 

「良い腕してんなぁ!」

「実は、記憶失ってなきゃエース級だったりするのかもな?」

 

 

 

「うっし!じゃあ次だ!」

 

言って、天龍はあなたに簡素な木剣を渡す。

 

『これは…?』

 

「近接戦用の武器だが?」

 

『近接戦…主砲があるのに、わざわざ?』

 

「残念ながら、霧が出るのはドームの外周部だけじゃあないんだ。此処じゃあ突然濃くなったりもするあの霧のせいで、気づいたら敵が目の前にいる。なんてことも起こり得る。」

「練習しといて損はないぜ。」

 

「試しに打ち込んで来い!」

 

『しかし…振って当たったら結構な怪我をしかねない。』

 

「…フフフ、オレに当てられると思ってんのかぁ?」

 

彼女は自信満々で木剣を構えている。

あなたは寸止めできるように気を付けつつ、接近し木剣を振るう。

 

「踏み込みが足りねぇなぁ。」

 

軽く言って、木剣が打ち払われる。

 

二撃目。

「脇が甘い。」

三撃。

「勢いが弱い。」

四。

「体が崩れてるぞ?」

五。

「うりゃあ!」

 

無理な体勢で放った攻撃は見事にいなされ、木剣が弾き飛ばされていった。

 

「あー…。」

「此処らにゃあ近接武器を持った敵も珍しくない。せめてパリィの練習はしといたほうがいいみたいだなぁ…。」

 

 

 

こうして、天龍による近接戦闘講座が始まった。

 

 

 

特に重要だと念押しされたのは二点。

 

まずは如何にして推力を打撃力に変換するか。最適打撃がどうこうと言っていたが、理解できた自信はない。

そして如何にして敵の攻撃をいなすか。敵の攻撃を打ち払いつつ、可能なら自身の推力を利用して相手の体勢を崩せるとなお良い、らしい。

こちらはあなた自身が散々味わう羽目になった。打ち払われる剣ごと相手のターンに巻き込まれてしまうのだ。

 

 

マスターできたとは言いがたいが、艤装の推力を技に盛り込んだ彼女の実戦格闘術は役に立つだろう。

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 

彼女と二人、帰路につく。

日暮れが近いのか、霧に覆われた空が少しずつ暗くなっていく。

 

 

「なぁ、あの明かりが見えるか?」

 

天龍が指差す先には、ぼんやりと明かりが灯る大きい島がある。

 

「あれだ。あれがストーンヘンジだ。」

 

!『大きいな…。』思わず、あなたは呟く。

 

「あそこには対空用の馬鹿デカい砲と、それを守るための近接防御用の砲が多数据えられてる。」

「幸いなことに、対海上目標用の砲は射程が短い。命が惜しけりゃ近づかないことだ。」

 

『ああ、分かった。死にたくはないからな…。』

答えて、何かが引っかかるような感覚を覚える。

 

 

「ん?どうした?」

 

 

そう、そうだ。さっきも似たようなこと考えて…。

思い出した!

 

 

『そうだよ、確か味方がいたんだ!』

確か連絡用の通信機が艤装に積まれてたハズ…あった!

 

 

「通信機か?それ。」

 

 

『こちら、…あー、まぁ良いか。誰か、この通信を拾ったものは居ないか?』

 

 

 

 

ノイズ。

 

 

 

 

霧は内部での通信も阻害してしまうのだろうか?

 

 

「いや、今霧が薄いところなら大丈夫だ。この周辺に相手が居れば通じるはずだが…。」

 

 

 

『そうか!』

『繰り返す、誰かこの通信に答えてくれ!』

 

ノイズの中、途切れ途切れに何かが聞こえる。

 

 

 

「こち…、…ッド……ライト……。ブル………ト号…………すか?」

 

 

 

通じた!

 

 

 

しかし、それ以降通信が繋がる気配はない。

 

 

「向こうが霧の濃いところに入っちまったのかもな。」

「もう夜になる。今日のところは戻ろうぜ。」

 

 

『…分かった。』

『すまないが、今日も世話になる。』

 

 

「いいさ。」

「部屋は余ってるからな。」

 

 




行間のテストを兼ねて投稿。
初期ブレード=木刀。アーマードコア(PS2まで)ではお馴染み。

試しに振ってみた使命表のダイスで記憶喪失に。
プロットは無事死亡、ラスボスが交代する事態が発生。
人称ブレブレキャラ迷走の惨事。後でなかったことにするかも。

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