烟る鉄底海峡   作:wind

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Shuttered blues(中)

翌日。

 

 

「今日は、霧が濃いなぁ…。」

 

そうね。

 

「お、起きたか。」

 

おはよう、天龍。

太陽がないと時間が分からなくて困るわね。

 

「失くしてから分かる偉大さってか。」

 

 

 

 

 

天龍は椅子に座って海を見ていた。

あなたは持ってきた椅子を置き、天龍と二人座って海を眺める。

 

 

 

 

 

「…その椅子は。」

 

小屋に置いてあったのを持ってきた。

…マズかったかな?

 

「いや。構わない。構わないが…。」

 

天龍は立ち上がる。

 

「飯にしよう。」

 

 

?あなたは天龍の様子がおかしいように思う。

 

 

 

 

…この椅子は大事なものだったのかもしれない。

天龍の座っていた椅子と見比べると、とても綺麗だ。

 

あなたは傷が付かないよう気を付けつつ、椅子を持って帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…わざわざ持って帰ってきたのか?」

「構わんっていったろ?放っておいても良かったんだぞ。まだ椅子はあるし…。」

「どうせ、もう使う当てもない。」

 

 

投げやりな口調とは裏腹に、残り四脚の椅子にも埃や汚れは見受けられなかった。

あなたは椅子を丁寧に置く。

 

 

 

 

 

 

 

 

無言での朝食が終わると、天龍が口を開く。

 

 

「多分、この霧じゃあ通信は通じないだろう。」

「今日もオレと近接戦訓練をしないか?」

 

…分かったわ。

あの訓練はためになった。むしろこっちからお願いしたいぐらいだ。

 

 

そんなことならもっと早く言ってくれれば良かったのに。あなたは思う。

食事中も、天龍が送ってくる視線が気になって仕方なかったのだ。

 

 

 

天龍は武器をとりつつ、外に出ていこうとする。

 

 

 

あなたは木剣の他にも武器が立て掛けてあるのに気づいた。

槍。柄の一部が加工されている。ナックルガードが増設されているようだ。

 

天龍の武器だろうか?にしては剣の扱いがとても上手かったが。

コウボウ・エラーズというやつだろうか。

 

 

…何かおかしいような気もする。

なので直接聞いてみることにした。

 

 

 

 

 

 

「は?訳が分からんが、ケンカ売られてるのか?」

「…もしかして、弘法筆を選ばずって言いたいのか。それにしても意味は通らないが。」

 

「…あの槍のことか。いや、別に槍の扱いは上手いわけじゃない。」

「いつもの得物は折れちまったからな。あれは借り物なんだ。」

 

 

 

「ほれ、剣だ。」

「艤装はいらん。今日中にパリィの感覚を覚えてもらうぞ!」

 

 

…お手柔らかに頼むよ。

 

 

あなたは昨日の訓練を思い出し、頬を引き攣らせた。

彼女の訓練は、中々にスパルタだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

剣が弾き飛ばされ、あなたは砂浜に転がった。

いくら攻めても天龍には届かない。

 

 

「よーし、攻守交代だ。」

「オレの剣をパリィしてみろ。」

 

言って、彼女はまだ寝転がるあなたに剣を振り下ろした。

慌てて転がり、飛ばされた剣を手に取る。

 

危ないな!

 

「ダラけてる方が悪い。」

「ほら、散々手本は見せてやったんだ。しっかり受け流せよ?」

 

「オラ!」

 

 

天龍の剣撃を、あなたは必死で受け流す。

 

「タイミングが早い!」

「敵の動きをしっかり見るんだ。」

 

「オラ、オラ!…!そう、そのタイミングだ!」

 

「次は剣の角度に気をつけてみろ。」

「コツさえ掴めば武器が無くても敵の攻撃が逸らせるようになる。」

 

 

「よし、基本はサマになってきたな。」

「さぁ!今まで教えたことを使いながら斬りかかってこい!」

 

 

天龍の剣の扱いだけでなく、教えるのも上手かった。手馴れてる感じがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…!

また、あなたの剣が弾き飛ばされる。天龍のフェイントに引っかかってしまったのだ。

 

「剣技を磨くだけじゃなく、それをどう戦闘に活かすかも考えるんだ。」

 

 

 

そういうことなら…!

 

あなたは拾い直した木剣の切っ先で地面の砂を跳ね上げようとする。

 

「甘い。」

 

しかし、その動きは潰されてしまった。下がった状態を狙われ、剣を足で踏みつけられ

てしまう。

 

握っていた剣に引っ張られ、あなたの体勢が崩れる。

 

 

天龍は踏み込んだ勢いを活かし、剣を振るう。死に体になったあなたに避けることはできない。

 

だが。

 

 

 

 

 

甘いのはどっちだ。読み通りなんだよぉ!

 

「…なにっ!」

 

 

 

今の自分にフェイントを見切ることは不可能。ならばフェイントを使えない状況に持ち込むしかない。

だから、意図的にこの状態に持ち込んだ。

 

天龍が放ったカウンター。とても鋭く早い剣撃。

しかしカウンターである以上、フェイントを挟む意味は無く、タイミングはとても分かりやすい。

 

 

 

だから、コイツをっ! 弾く!

 

 

 

剣を手放し、左手で天龍の剣を弾く。

天龍に初めて現れた、明確な隙。それを逃さず、あなたは拳を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 ペチ っという気の抜けた音が鳴った。

 

 

 

 

あなたの拳が天龍に当たった音だ。…所詮、死に体で放ったパンチなどそんなものだ。

 

 

 

 

…いや、まぁ。一発は一発だし?一矢は報いたことになるし。

 

 

言い訳染みたことを言うあなたの足元では、天龍が笑い転げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 

「フ、フフフフ、いや、すまない。お見事だ。一日二日の訓練でオレに一撃入れられるヤツなんてほとんどいなかった。実際すごいよ、お前は。」

「しっかし、ペチって、フフフ…。」

 

 

忍び笑いを漏らしつつ、天龍はいう。

 

 

 

…笑うか褒めるかどっちかにしてくれ。

流石に疲れた。先に戻ってるよ。

 

 

 

「本気で褒めてんだぜ?機嫌悪くしないでくれよ~。」

 

 

 

別に、本気で気にしてるわけじゃないさ。

 

天龍の声に答えつつ、あなたは小屋に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂浜に一人残る天龍。

 

 

 

「フフフフフ…。」

 

「………。」

 

「……。」

 

「…。」

 

「…にしても、笑ったのなんか何時ぶりだろうな。」

 

「…」

 

「あいつなら、オレの代わりに…。」

 

 

 

天龍は海を、そしてその先にあるはずの鎮守府を見やる。

 

 

「終わらせなきゃ、な。」

「自分で巻いた種だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 

「♫~~♫~」

 

 

今日も、彼女の歌で目が覚めた。

 

 

 

 

「よう。起きたか。」

 

「ん?これか?」

 

「お前の艤装には足りないもんが色々とあったからな。」

 

「特Ⅲ型のだが、規格は合うはずだ。」

 

 

 

 

…だが。それは…。

 

綺麗な多数の椅子や大きい小屋。

彼女が時折見せる寂しげな表情。

 

そのあたりから、なんとなく察せられるものはあった。

 

 

 

 

大切なものだったんじゃ…。

 

 

 

 

 

「……。」

 

「流石に気づくか。」

 

「だが、どのみちもう必要のないものには変わりない。」

 

「そして、お前にはこれが必要だ。」

 

だが…。

 

「気にするな。」

 

「いや…違うか。」

 

「オレは、お前に使って欲しいんだ。」

 

…。

 

…分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________________________

 

 

天龍に薦められ、あなたは艤装を試着することにした。

魚雷管が装着され、ウェポンラックも増設されている。

 

…槍も改造していたし、天龍はこういうのも得意なのだろうか。

やはりコウボウ…。

 

 

彼女の多芸さに戦慄していると、また天龍が口を開く。

 

 

 

「どうだ、通信は繋がりそうか?」

 

 

え?ああ。

試してみる。

 

 

…非常に微弱だが、信号がきてる!

これなら、大まかな方向だけは分かりそうだ!

 

 

 

「なら、行こうぜ。」

「……オレの決意が、折れる前にさ。」

 

 

 

 

あなたは後半の呟きを聞き取ることが出来なかった。

だが、天龍の様子がおかしいことは分かる。

 

 

どうして、もっとこう…喜ばないんだ?

 

 

「喜ぶ?」心底意外そうに、天龍は言う。

 

「何をだ?」

 

何をって、これで味方と合流できるじゃないか。

 

「ああ、オレも連れてこうって?」

 

え?

 

「エスコートはしてやるが、オレにはまだやることがある。」

 

ちょ、ちょっと待って…!

 

 

「ほれ、調整してやるから艤装を貸せ。」

 

「ついでに準備もしておけよ。」

「一人分のな。」

 

 

早口に言って、天龍は戻っていく。

あなたは一人取り残された。

 




お気に入りに登録してくれた人がいて、とても嬉しい。

…書いてる内にどんどん長くなって困る。
ここから先はさらにダイジェスト化が進むかも。

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