オリ異聞帯で上条さんを召喚する話 作:自爆しかありますまい
(ハワイ島、エリソン・オニヅカ・コナ空港ラウンジ、 藤丸の礼装につけられた小型カメラの映像より)
『えっと、どこから話せばいいだろうか。やはりあそこからか』
上果の頼んだコーヒーの氷がグラスにぶつかりカラン、と良い音を鳴らす。
相も変わらずの混雑具合でラウンジ内も人で溢れかえっていたが、運よく座れた三人。ラウンジと言う名の高級志向の喫茶店だったことでカルデア二人組に奢った飲み物二つで、上果の財布の中――サンドリヨンから土下座で借りた――は破壊されかけている。
それでも澄ました顔をしているのだから、カッコつけとはカッコ悪いものだ。
『この異聞帯はアレイスター・クロウリーという20世紀頃の魔術師が、生きながらえた事象から端を発した。カルデアに馴染み深い人物で言えばエレナ・ブラヴァツキーあたりが間接的とは言え関連しているだろうか。簡単に言えば近代西洋魔術の大御所だ』
『アレイスター・クロウリー、ですか確かにそのお方なら――』
『しかし、そんなことは大した問題ではない。天才とは言え、たかだか一魔術師が生き残った程度でそう簡単に世界の未来は潰えない。言っただろう? 魔神オティヌス救済についてと』
『オティヌス……?』
忘れてしまったのか、はたまた単純に聞き覚えが無かったのか、藤丸立香は顔を顰める。
それを見かねたマシュは、
『オティヌス。それは北欧の主神オーディンの別名を指します。ただ、これはシグルドさんとジークフリートさんの様な関係ではなく、イスカンダルさんとアレキサンダー大王の関係に近い、つまり同一人物を指す名称です。これが本当なら……』
『――敵はオーディンだ』
きっぱりと上果は言った。そこまで言われて事の重大さが理解できない藤丸ではなかった。
オーディン。
北欧神話における主神。ミミルの泉に片目を捧げ、世界樹「ユグドラシル」の枝で首を吊る事で叡智を手に入れた魔術を司る神。北欧異聞帯どころか他の特異点、異聞帯問わず何度もその名前を聞いた程のビッグネームだった。
『では、なぜ救済についてなんて言い方を?』
『そもそもオティヌスがある人間――彼「■■■■」によって救われた他の世界を幻視したことがこの異聞帯の生まれるキッカケだった。彼を手に入れるため、その世界のテクスチャを上から貼り付けるという暴挙に出た。しかし、そこに色々と特殊すぎる事情を持つ彼の姿はなかった。だからこの世界は未来がないと剪定された。テクスチャ側から「彼の居ない世界に未来はない」と否定された、そういう話だ。しかしだな、まあ、そのなんだ。…………俺にはそれがあまりに気の毒でな』
『だから、ですか?』
『言っただろう、頼むと。別にこれはカルデアを利用してまで行うべき作戦じゃない。ただ、泣いている奴を放っておけなかっただけの我儘に過ぎないからな』
その言葉が確かならば、カルデア側にとっては知ったことではない。あくまでも上果は自分の我儘だとし、カルデアに助力を乞うている。
――彼は、本当に味方なのか。全て真相ならば少なくともこちらを害する意思はない。
その考えが藤丸の頭の中で反芻する。
『……、』
どうだろうか。
判断の難しい話だった。
『クリプター』と言っても元はAチーム、つまりはカルデア側の人間だったはずだ。それが何らかの因果でこうして敵に回っていた。ならば、逆に仲間として戻ってくる可能性も往々にしてある。それに騙すことが目的だとして、彼からこうして頭を下げるまでして得られるリターンはあるのだろうか。最初から裏切る予定ならもっと別のアプローチがあるはずだ。それこそ現地サーヴァントに見せた身内を裏切らせるとか。この世界の成り立ちを知っている人間がするような犯行ではないと思う。
少なくとも、こうして対面というリスクを冒してまで得られるリターンなんかないはずだ。
『と、これが現時点で判明していることだ。正直、これ以上はペペちゃんに渡した招待状通り聖杯戦争が行われる事しか知らない。誰が参加しているのかも、一人を除いてさっぱりだ』
あらかた上果が説明し終わった所でマシュは質問する。
『しかし、どうやって助けるのですか?』
『事の本題である彼を召喚しようと思っている。実のところ、召喚が出来ればこの異聞帯は逆説的に剪定される条件から外れる。故に空想樹を切り倒さなくても異聞帯の消滅を目指すことができるって話がある。カルデア側にもメリットがあると思うがどうだろうか』
『……それは本当に可能なのですか? 世界にテクスチャを貼り付けるなんて、想像もできないような事をしてなお存在しなかった人なんですよね?』
『確かに普通なら無理だろう。しかし逆だ。逆にこの世界のテクスチャのおかげで可能性は大いにある』
『それは一体……?』
『――「
それはブライスロードの秘宝。またの名を先代幻想殺し。
その効果はいたってシンプル。幻想の否定。魔術、超能力だろうがあらゆる異能を打ち消す力を持つ。ある聖人の遺体の右手を矢状の魔術礼装にしたもの。
かつて『黄金夜明け』と呼ばれる魔術結社によって秘密裏に運用された、
『ブライスロード、の秘宝……』
『それを手に入れるために、何としてでもカルデアと協力を取り付ける必要があった』
そんな話をしている最中の事。ポーン、と電子音が鳴る。
再び流暢な英語のアナウンスが流れる。
『?』
『気づいたか?』
『今のは警備員の呼び出し? ……何かあったのでしょうか?』
『そうだな。どうやら、物騒なことが始まったらしい』
(ハワイ島、エリソン・オニヅカ・コナ空港フロント、 手荷物カートに設置された防犯カメラの映像より)
『ええと、君が
そう言ったのは濃い青のつなぎの上から白衣をまとった瘦せ細った老人だった。
メカニックとも研究者とも判断できる。しかしそう断定できないのは、その手に持った黒いシンプルな銃を持った野蛮極まる姿によるものか、或いは瞳の奥からひしひしと伝わる野心からだろうか。
その老人の後ろには二人の小柄な少女。
傍から見れば孫を二人連れたおじいちゃんとして見えるだろう。しかし、片方の人間ではまずありえないような深紅の赤髪を持った少女は裸足にスク水の様な体にぴっちりと張り付いた服を身に纏っていおり、観光客ではないだろうと簡単に理解させる。
対するは、紫色のパーマのように広がる癖のある髪を持った少年。
どこかのブランド品だと思われる腕時計や高級そうなワイシャツやズボンの姿はどこかの御曹司然としている。そして右手には独特な形の文様のタトュー、「令呪」が存在している。つまるところ、間桐慎二と呼ばれた少年はこの異聞聖杯戦争「ナチュラルセレクター」の参加者だった。
『オカルトは信じないタチだったんじゃが、なにぶん上からの命令でナチュラル……なんとかを潰せってね。他の「
『……はい、そうですかって渡すとでも?』
『確かにそうだねぇ。じゃあ仕方ない。仕方ないから解剖してから考えるか。麻酔は全身が良いかい? 希望があるなら局所麻酔にしてあげよう。なに、外科の経験は無いがそこは年の功、失敗には慣れている』
老人は全く迷いを見せずにその引き金を引いた。
パンッ、と。軽い銃の音。続いてカラン、と薬莢が地面に落ちる音。
普通であればそれだけで人は死ぬ。それは一見すれば普通の一般人の少年であろう慎二も例外ではない。
しかし、その引き金を引くよりも早く、慎二は
『ふむ、今度から自動射出装置でも付けた方がいいかな? いや辞めておこう。なんか暴発して死因になりそうじゃし』
その発砲音に空港内は騒然とした。観光気分の客や空港職員の顔が驚愕のソレに変わる。観光地の空港で発砲音、その意味が分からない程平和ボケした人々ではなかった。
事件の中心に居るであろう老人と慎二から焦って逃げ出すように散り散りに離れたことで、ぽつんと空間ができた。さしずめ決闘の様な雰囲気だった。
――老人からほんの少し離れた場所に慎二ともう一人はいた。
褐色肌に白い髪、赤い外套をまとった長身の男だった。彼は何処からともなく白と黒の中華剣を二本取り出すと構えを取った。
『やれやれ、出番が早すぎるのではないか? 才能どころか悪運も持ち合わせているとは恐れ入る』
『うるさいぞアーチャー。それよりもアイツらだ』
慎二は老人を睨みつける。まさか大胆に先ほど到着したばかりの慎二を、それも人目のある空港で襲い掛かるなんて正気の沙汰じゃない。
その様を見て老人は興味深そうに、
『どこから現れたのかな。透明化能力か、はたまた光学迷彩による周囲の溶け込みか。後でカメラの映像を
「はい先生」
『――アーチャー、やれ!』
『言われずとも』
カァッンッ、と重々しく火花が散る。
神秘によって強化された鉄と、劣化ウランの五六倍の強度を誇るセインティウム製の剣同士がぶつかる。
技術の末の跳躍によって静かに近寄った浅黒の男――アーチャー。
単純な脚力だけで飛ぶように接近した小柄な赤髪の少女――レディバード。
明らかに一般的な成人男性よりも力強いであろう
「邪魔です」
『それはこちらのセリフだが!』
軽い小競り合い。
小柄な体形と比較して、その大剣を軽々と扱うレディバードはアーチャーの擦り切れた記憶のどこかにあったギリシャの大英雄が如き剛腕を想起させる。どちらかと言えば星の聖剣を扱う彼女の方か。いや、しかし少なくともそこに積み重ねられた技術はないまるで知識として知っているだけの薄っぺらな剣だった。
ごうんっ。
アーチャーをめがけて不自然に空港に備え付けの椅子が飛んでくる。まるで念動力のような明らかに自然現象ではありえない、アーチャーを狙ったものだった。それを軽く躱すアーチャーに今度は火炎やつむじ風と多種多様な単純な物理現象から離れた現象が起きる。一見すると不自然極まりない現象に後押しされながらその剣でアーチャーを追い込むレディバード。しかし。
『……まったく、これでは駄目じゃな。拮抗しているように見えて力を逃がされておる。あれじゃあ後数分もあれば押し切られるじゃろうて。これじゃあ超能力も形無しか。……
『本当にやるの?』
『気が引けるのも分かる。だがな、それが「
『うん、わかったよ』
老人の後ろから歩いてきたのはもう一人の小柄な少女だった。
年齢は中学生程か、少なくとも状況が状況でなければ先ほどのレディバート以上に老人の孫のように見えただろう年頃。黒髪お団子頭に、ピンクのセーターとミニスカート、黒いストッキング。アパレル店員が選んだような組み合わせであるものの、どこかおどおどしている少女に似合った服装だった。その首元からピンク色のヒモでつるされた物が特に目を引く。携帯電話、小型ワンセグテレビ、携帯端末と画面が付いた機械類がいくつもアクセサリー代わりにじゃらじゃらと吊り下げられていた。
『……それが「木原」なんだよね。本当は嫌で嫌でたまらないけど』
そう言った少女の首元の機械類が一斉に電源が入り、ブツンっと音を出す。
『
ここで、少女の纏う雰囲気が刻一刻と変わる。まるで多重人格のように、殺意に満ち溢れた、全てを諦めたような、相手を嘲笑するような、敵すら眼中にないと言わんばかり、ころころと雰囲気が変わる。
『
狙われたのは慎二だった。
ガッ、とクラウチングスタートからの飛び出るようなアスリートさながらのスタートを切った少女。一直線で人に出せる力ギリギリを狙ったような速度で木原円周は走る。
『
瞬間、飛びかかるようにして慎二の肋骨と胸骨、即ち心臓に向かって下胸部から拳。たとえ木原円周の育ち切っていない体から繰り出された物だったとしても、慎二にとっては致命打となるほどの一撃だった。
しかし、それは――当たらなかった。
『――かはっ!?』
クリーンヒットだった。
ガツンっ、と小さな木原円周の体に衝撃が走った。アーチャーに横っ腹を蹴られた彼女はゴロゴロと慣性に従いながら転がっていく。
『アーチャー、遅かったじゃん? でも、まあ、助かったけどさ』
『これでも無防備なマスターのために色々と善処したと言うのだがな。注文が多いことだ』
『……ふぅむ?』
老人は遠くにレディバードの姿と、先ほどまで小競り合いしていた場所に落ちている二本の剣を確認した。彼女がはるか後方のカート置き場に突っ込んでいるのを見るに、蹴り飛ばされたか弾き飛ばされたかしたのだろう。
木原円周が間桐慎二に攻撃を仕掛けたあの一瞬でアーチャーはマスターの危機を判断して、剣を手放す事によって勢い余って倒れ込んだレディバードを仕留めずに吹き飛ばしてから、空間移動まがいの速度で木原円周を蹴り飛ばしたと言う事になる。この際、脚力はどうでもいとしても――
『取捨選択の判断が早いね』
『なに、それだけが取り柄でね』
アーチャーは誇る事でもないように言った。
彼の過去の経歴からして、この手の瞬間瞬間の判断はとりわけ得意な部類だった。
しかし木原円周は、否、『木原』は終わらなかった。
『――
がっ、と起き上がった木原円周の真横には先ほどまで散乱していたはずの手荷物カートが魔改造されていた。新しくアームが追加され、カート側部に何丁もの様々な種類の銃を装備、頭脳部分として木原円周の持っていた携帯端末にコードが幾重にも接続されていた。出来の悪い子供の工作にしては余りにも物騒なソレが姿を現す。
その数多の銃口は慎二とアーチャーに向けられている。いつでもお前たちを撃ち殺せるんだ、とでも暗に言っているように。
『おい正義の味方。アーチャー的にはアイツらはどうなんだよ?』
『最悪だとも。胸糞悪い、吐き気を催す。おおよそ世界レベルで見れば善でも、人として見れば邪悪だ』
だからこそ、アーチャー個人の疑問が残る。
『貴様ら、何故こんな場所で行動に出た? 関係ない者達まで巻き込む気か。気にしないタチだとしても、気に留めない訳ではあるまい』
『――被害? ああ、なるほどね。そんなもの決まっている、たまたまこの場所に用があったから。つまり、もののついでじゃよ。まあ、心苦しくはあるがの』
そうあっけらかんと老人は答えた。
まるで話にならない。まるで価値観が違う。一部の魔術師のように優先している物が倫理観ではない。きっとあれは人の形をしただけの別の生物、そんな風に慎二はトラウマを刺激されながら思った。もっとも『木原』である以上あながち間違いでもないが。
――そんな時の事だった。大急ぎでラウンジから飛び出てきた上果と藤丸、マシュが現れたのは。
『あれは、エミヤさん!?』
『なぜ真名を……!? いや、今はこっちが先だ』
何故かいきなり真名看破された事に動揺しつつも、目の前の物騒な手作りおもちゃから目を離さないアーチャー。
唐突に現れた三人を興味深そうに見つめる老人。さっさと逃げた他の観光客たちとは毛色が違う。つまりは、この間桐慎二と似たような境遇の者たちか、と結論を出す。
『なんじゃなんじゃ、ぞろぞろと。わしはいつからロックスターになったんじゃ?』
「恐らくは違うと思います。ていうかこんな老人のファンなんていません。nullです」
『ゼロどころか存在できないとでも言いたいのかな? レディバード君。わしだって長年木原としてやってきた科学者じゃよ。一人ぐらいは……いるよね?』
「不明なエラーです」
いつの間にか戻ってきていたレディバードとコントの様な会話をする老人。
『あ?』
『どうしたんですか、上果さん……?』
マシュの呼びかけにも反応せず、その老人の姿を見た上果は驚いたように言った。
『何故だ。何故こんな場所に手前が居る!? ――
『本当は
CONFIDENTIAL DOCUMENTS
Key persons of "Holy Grail War" 2/7
マスター:間桐慎二
サーヴァント・アーチャー:エミヤ
マスター:サンドリヨン
サーヴァント・キャスター:アンデルセン
思ったより評価もらえている事に驚いたのは作者なんだよね。
禁書知らない人向けに言うと、上条さんout 木原inは割とシャレにならないレベルにヤバいです。
▽キャラ解説
・木原円周
出典:新約4巻
『学習装置』担当の木原。あらゆる木原や他人物たちの行動パターンや人格などをインプットしており、手数だけなら無数に存在する。
・レディバード
出典:創約3巻
木原端数が生み出したアンドロイド。並外れた力に複数の超能力まで使えるハイスペックロボ娘。
・木原端数
出典:創約3巻
歳をとった木原。学園都市の闇の部分、暗部でもかなり上位の存在。悪辣、悪性、マッドサイエンティスト。大物界の小物。
・間桐慎二
出典:Fate/stay night
みんな大好きワカメ。本来なら魔術回路が存在しなかったが、この異聞帯のテクスチャの影響によって魔術師化した。でも、アーチャーの維持に全力なので魔術は使えない。
・エミヤ
出典:Fate/stay night
ノーマルエミヤ。慎二に召喚されたときは本気でビビり散らかした。その後「あれ、衛宮じゃん。お前が英霊とか世も末だな」と一発で看破された。