強くてニューゲーム、だと思ったか?   作:可視彩淘汰

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ルッカの話では、城への道程は小一時間ほど。ゲームでの移動は数秒だったので、新鮮でありつつ煩わしい距離感だった。

フィールドエンカウントが皆無な原作通りで戦闘もないし、微妙な空気感のルッカと談笑できるわけもない。

あいにく話術も足りていない自分では、余計な気疲れはしたくなかったので、終始無言で先頭を歩いた。

ルッカは、追従していることを気配で伝えつつ、同じく終始無言であった。

 

そんなこんなできっかり一時間ほど、俺たちはガルディア城周りの森に到着した。

フィールドの感覚と同じなら、森も相応に拡張されているのだろう。

モンスターも出るだろうから、警戒しながら道を行く。そして、ほぼ原作通り、最初の分かれ道を左に間曲がった先に、モスティ3匹が待ち受けていた。

 

原作の進め方によっては最初にエンカウントするモンスターとあって、実力を試すにはもってこいだ。

俺は鞘から刀を抜くと、手前のモスティに向かって踊りかかった。

 

結論から言うと、凄まじいの一言だった。

一匹目のモスティは当然のように一刀のもとに消え失せ、続く二匹も流れるような体捌きで完封した。

体が覚えているというレベルではない、勝手に体が動くレベルだ。

しかも、強くてニューゲームとはいえ、敵が三体いたら一度以上は攻撃を喰らったイメージだがそれすらなく、

むしろ最初の一体が斬られた際、他の二体が驚き竦み上がっていたほどだ。

戦闘といえないほどの戦闘が終わり、そういえば存在を忘れていたと振り返ると、モンスターに負けず劣らず、狼狽えているルッカがいた。

 

「あんたって……ううん、何でもないわ…」

 

まさに絶句という様子だった。

だが、俺に聞いていた状況からかすぐに平静を取り戻せたのはさすがと言ったところだ。

そしてその様子から思い当たった。もしかして、自分以外は強くてニューゲームではないのではないか。

 

「あんたの話の通りだと、私たちも歴戦の戦士のはずなんだけど…」

 

そういうとホルスターから初期装備(エアガン)を引き抜き、10メートルほどの距離にある岩に向かって撃つ。

その射撃は何というかただのエアガンで、岩を狙ったはずなのに手前の地面に力なく落ちるところも含めて、とても実力を感じることはできなかった。

試しに岩を直接殴ってくれとお願いしたら、武器が壊れると愚痴りながらも試してくれ、結果はカツンッという乾いた感触のみであった。

 

その後も森を進みながら、遭遇するモンスター相手に、自分とルッカの実力試しを行った。

結論としては、俺は想像通りの強くてニューゲーム状態で、剣技も魔法も、思うままに操れた。

一方ルッカはやはり初期状態で、戦力として考えるなら対策が必要だろう。

だが、どうせならなばある程度の敵に対してパワーレベリングした方が効率的なので、ルッカにはそのように伝えて先に進むことにした。

それに、序盤は戦力としてよりは、物語を動かすキーマンとしての活躍ができれば良い。

 

森は、入口付近こそ原作の通りだったが、二度ほど分かれ道を選ぶともう脳内の原作マップは役に立たず、

たまに木々の隙間から見えるガルディア城の廃墟を目印に進むしかなかった。

よって、王国裁判から逃げた先に着く袋小路に、偶然辿り着くこともなく、俺たちは無事城の廃墟に到着した。

 

城は何というか、廃墟としか表現しようが無い。

崩れ落ちたのは十数年も前ということで、それこそ硝煙が立ち上っているわけでもなく、ただ破壊された煉瓦や木材が積み重なるのみであった。

原作通りだと、入り口と思われる場所の少し先に見える赤黒い布が玉座の辺りだろうか。

何が起きたか分かるようなものでも落ちて無いかと、足元に気をつけながら移動を開始した時だった。

 

「危ないっ!!」

 

ルッカの叫びだと認識し、立っていた場所から反射的にバックステップすると、凄まじい速度で自分が立っていた場所に、針の束のような物が降り注いだ。

気付かぬうちに、害意を持った何者かに接近してしまったようだ。

刀を抜き構えると、瓦礫の陰から見覚えのあるモンスターが現れた。というかモンスターというより…。

 

「!?」

 

もう何度目か分からないほどの、信じられない光景だった。俺のデータベースでは、コレが現代に現れたことは一度もないはずだ。

 

瓦礫の陰からこちらを攻撃したのは、なんとプチラヴォスだ。

フリーズした頭脳が回転を始めると、俺は一気に余裕を無くした。

 

もっとも、無理からぬ話だ。

本来であれば終盤も終盤、平均的に高レベルのメンバー3人でもそれなりに骨の折れる相手だ。

強くてニューゲームのクロノの体とはいえ、つい一時間前に初めて戦闘を体験した俺と、初期状態のルッカでは、かなり無理のある戦いとなると思われた。

しかも、原作のような平坦なバトルではなく、ルッカの護衛を考えながら、だ。

そして何より。

 

バヂィッ!!

 

次弾も何とか躱すことができたが、プチラヴォスから放たれる針攻撃が半端な威力ではない。

まず着弾音からして、針が地面に衝突した音とは思えない。当たろうものなら四肢欠損、当たりどころが悪ければ即死も有り得る威力。ルッカなど、ひとたまりもないだろう。

俺の本能は一気に、殲滅から撤退に切り替わろうとしていた。

 

「なっ!?」

 

ルッカの叫びで振り向くと、更にとんでもない事態が起きていた。

そこには、退路を塞ぐように、同じプチラヴォスが二体と、ひと回り大きく赤黒い殻を持つ、見たことのないプチラヴォスが居た。

 

__これは無理だ。

 

即座に心が折れてしまった。

これがゲームだったら負け確定バトルだろう。

これまでの攻撃速度を見るに、連携した攻撃をしてきたら撤退すらままならない。増してや、ルッカを守りながらだ。

 

バキッ!!

 

突然視界が反転した。痛みはほとんど感じないがいつの間にか自分は仰向けになっていた。

 

「何ボーッとしてるのよっ!あんたまさか、諦めたんじゃないでしょうね!」

 

どうやらルッカが身を挺して、突然呆けた俺を突き飛ばし、勢い余って自分も倒れ込んできたようだ。

 

「クロノの体で、こんなに早く諦めるって、どういうつもりよっ!」

 

こんな避け方で二人とも大した怪我がないのは、奇跡に近いと思う。次は無いだろう。

だがルッカの厳しい叱責も、俺の心には響いて来ない。

それが分かってか、ルッカはすぐに対応を切り替えたようだ。うつ伏せになった俺の両足を掴み、無理矢理この場から引きずろうとした。

しかし、ラヴォスは空気を読むような存在でもなければ、アニメのような都合の良い展開も約束されていない。

 

そして唐突に、

 

「ザシュッ」というモノが切れる音と破壊音、そしてルッカの絶叫が響き渡った。

一体のプチラヴォスの攻撃がルッカを掠め、右手が武器ごともぎ取られたようだった。

俺の足を掴んでいた手は即座に離され、ルッカはその場でもんどりを打った。そして、

 

「!!??」

 

次は俺の背中を、衝撃が襲った。

衝撃の強さで息が止まり、口からは少量とはいえ血を吐いたようだ。

最強装備群であるノヴァアーマーの上から、この衝撃だ。

 

無理だ。

 

相手に一太刀も浴びせていない状況で、既に戦意は無いに等しい。

プチラヴォス一体でも手に余るのに、いかにも強化型ですと言わんばかりの赤いやつもいる。

仲間が3人いて、全員強くてニューゲームでもそこそこ以上苦戦するだろう。

 

まあ、死んだら死んだでしょうがない。

元の世界に戻るかもしれないし、意外にもコンティニューするだけかもしれない。

このまま成仏することになったとしても、未練も後悔も特にない。

それにもしかすると、タイムリープモノかもしれない。次回は、ルッカの警戒を買わないようにしないとな。

 

そんな益体もないことを考えていると、先ほどとほぼ同じ位置に、同じ衝撃が来た。

体の奥(内臓)から何かが上がってきて、それを口から噴き出したのを最後に、俺は意識を手放した。

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