俺は、今眼前に展開されている情報を理解するのに時間を要した。
場所は、森の中。先ほどまで居たはずのガルディア城廃墟ではない。
すぐそばには
そしてその手前には、横たわっているルッカ。右手がなく、信じられない量の流血が見られる。顔色も血色がなくなっているようなので、危険な状態だろう。そこまでは判別できても、何をすべきか分からなかった。
数秒か数十秒なのか分からない時間が経過し、エリクサーならば…となんとなく思い立ち、袋を漁った。
結果として、ルッカは嘘のように健康体になった。四肢欠損という類のバッドステータスが無い以上、そういったことがあっても治るんだろうなと予備知識にはあったが、薬というよりは、もう魔法的な力が働いているんだろう。腕も血色も戻り、表情こそ険しいものの、なんの前触れもなく目を覚ましそうだ。
そして、ようやく正常な思考が回ってきたのだろうか。目の前の赤黒いゲートは何なのだろうかという疑問が沸いてきた。しばらく眺めていたが、消える様子も、それこそプチラヴォスが飛ばされてくる様子もなかった。ゲートの役割を考えれば、自分たちは恐らく別の時代に飛んだのだろう。ルッカがすぐに目を覚ます気配はないため、自分の混乱を覚ます意味でも少し物思いに耽ってみようと思う。
まずここがどこなのか。自分の知識はゲームのドットグラフィックだけなので、「森の中」だけでは流石に判別がつかない。本来の歴史であればガルディア城近くのゲートは未来につながるが、青々とした木々を見るに、未来では無さそうだ。空は明るく、吹雪いてもいないため、中世、原始のどちらかか、実はタイムトリップしていなく現代、または原作に無い時代という可能性もある。ルッカから遠く離れすぎぬよう、辺りを散策してみようと少し歩き始めたところ、早速エンカウントした。
現れたのはノーマルのジャリーが3体。つまり、中世がほぼ確定した。ということは、現在地はトルース村裏山の可能性がかなり高い。ちなみに現代にもジャリーは出るが、問答無用で襲ってこないので候補から除外した。
原作ではテレポッドのゲートがここにつながったが、先ほどの赤黒いゲートもこの時代・場所に繋がっているということだろうか。判断材料が足らなすぎて断定できない。時代はほぼ確定することができたので、ジャリーは瞬殺してルッカのところに戻ることにする。
ゲートの場所に戻ると、ルッカが目を覚ましていた。ルッカはこちらに気付くと心から安心した笑顔をむけてきた。
「クロノッ!」
自身が大怪我をしたばかりだというのに必死で駆け寄り、胸に飛び込んでくる勢いだった。何このヒロイン美少女。結局飛び込んでは来なかったが。
「大丈夫?怪我してない!?」
少し勢いに押されながら、多少怪我したがアイテムで治したと答えると、ルッカは目に見えてハッとなり、心から残念そうに吐き捨てた。
「…アンタなのね」
俺がクロノで無いことを思い出したんだろうか。あまりの扱いの差に文句を言いたい気持ちもあったが、今の時点では仕方がないものとして話を進めることにした。
仏頂面に戻ったルッカに、これまでの状況・考察を伝える。時代を移動し、中世にいる可能性が高いこと。覚えていないが、今目の前にあるゲートで脱出してきたと思われること。そして、ここにいても何も始まらないので、より森が開ける方へ向けて移動しようかと提案。ルッカは「先にゲートの観察をしたいから、その後はそれでいいわ」と同意してくれた。
小一時間後、俺たちは森を抜けるために行動を開始した。
道程は、ガルディア城の森と同じだった。エンカウントはほとんど無いが、俺の脳内マップのデータベースに引っかかるロケーションも無い。さらに一時間ほど歩いたところで、見覚えがある街道に遭遇し、俺よりもルッカが強く反応した。
「あれって、もしかしてトルース村!?ううん、雰囲気が全然違うから、中世代のトルース村ってこと?」
流石の察し力である。そして遠方には、この時代では健在のガルディア城が見えた。
「これでアンタの話が与太話でないことは証明されたわけね」
ここまで酷い目に遭っていて、まだ疑っていたらしい。話し合いの結果、情報収集目的でトルース村に立ち寄ることにした。
ゲームでは民家とグッズマーケットしか無かったはずだが、実際には村として違和感が無い程度の集落はあった。ルッカはほとんど変わって無い街の造りを興味深そうに観察したり、父親そっくりのバンタに目を丸くしたりしていた。
一時間ほどの逗留でトルース村を後にし、ガルディア城を目指した。現代と同じ森に入ってすぐ感じたのは、魔物がいないということだった。最初の分かれ道から城門に至るまで、一度もエンカウントしないばかりか、ガルディア城の兵士と幾度がすれ違い、その都度彼らの明るさに驚かされた。自分が知っている
城門に到着し、門番に止められはしたが、旅人だというとあっさり入城を許可してくれた。さらに、流石に旅人をいきなり王に謁見こそはさせてくれなかったが、応接室のようなところに通された。
「知っての通り我がガルディアは、目下「超」魔王軍の脅威に晒されていてね」
待て、今何つった!?
テーブルを挟んで応対してくれている、兵士の主任さんのような人物の言葉に、我慢できずツッコミを入れる。
「あれ?まさか知らないの?まあ、脅威に晒されているとは言っても散漫な侵攻だからね…。他国から来たのなら、知らないかもしれないね」
勝手に納得された。だが、今の情報から分かる乖離は二つ。
一つは、魔王ではなく「超」魔王だということ。
もう一つは、原作とは違い、それほど情勢が追い詰められていないこと。
折角、事情を知らない他国から来たと勘違いされているので、その設定でしばらく情報収集をしてみることにする。
「うん、やっぱり「超」魔王のことを知らないんだね。とか言いながらも、我がガルディアも戦端を開いて久しいんだけど、いまだに分からないことだらけなんだ」
気のいい兵士だ。こちらを不審に思うこともなく、情報を開示してくれるようだ。
「敵の正体は、はっきり言って分からないことだらけだ。魔族を束ねる王を自称して、強力な幹部と沢山のモンスターを引き連れ
詰めが甘いと聞いて思い当たったのは、原作魔王軍の
「それにもう一つ。「超」魔王がガルディアに対して優位に立てない一番の理由が、彼らもまた第三の勢力から、侵攻を受けているからなんだ」
これは完全に乖離だ。このようなシナリオは一切無かったはずだ。
「誰が「超」魔王軍に横槍を入れているのか、はっきり言って分かっていない。統制の取れていない別の魔物の軍団じゃないかとの見解もでたけど、それにしては
ここまで説明を聞いても、誰が横槍を入れているのか、検討もつかない。あの魔王の勢力とやりあえる第三者勢力など、
「本当ならお城を案内したりしたいんだけど、そこまで余裕があるわけじゃないからごめんね」
とても物腰が柔らかくて余裕が感じられる兵士だ。あとは自分達の足で、この時代を色々と見て回ることにしようと決め、話を切り上げようとした時だった。急ぎ足の兵士が一人入室してきた。
「隊長、お取り込み中にすみません!超魔王軍の襲撃です!」
隊長と呼ばれた男はこちらにチラリと視線をくれたあと、兵士に続きを促す。
「ゼナン橋の向こうに、前回のデカい骨の奴が 3体です!」
デカい骨の奴?ジャンクドラガーか?
それが 3体!?普通にヤバい戦力な気がする。大丈夫なのか聞いてみたが、
「騎士団長も副長も待機してるから、何でもないよ」
とのこと。実際事情に精通している彼から、焦りや慢心は一切感じなかった。
「とはいえ、我々も有事に備える必要が出てきた。旅人さん、すまないけど後は自由に城を回ってくれていいよ」
自由に回っていい許可までいただいた。本当に余裕があるようだ。
それはともかく、早速予定がなくなってしまった。どうしようかルッカに相談してみると、
「このままお城の人のお話を聞いても、忙しいなら今の話以上の情報は得られないんじゃない?わたしたちもその超魔王軍を見に行ってみましょう」
自分も同意見だったので、そのまま城を辞し、ゼナンの橋へ向かうことにした。マールのご先祖様がご健勝か一目見たい気持ちもあったが、そんなに簡単に目通りを許されるはずがないだろう。
道中エンカウントも無いので、本来の歴史ではどういった展開が起きるか、移動の間にルッカに共有しておいた。
「まとめると、本来なら「超」が付かない魔王がいて、ガルディアが滅亡に瀕しているってわけね」
橋が見える頃には、ルッカは中世の本来の歴史を把握した。その上で、現在の情勢を一緒に見極めてもらおうと思う。