強くてニューゲーム、だと思ったか?   作:可視彩淘汰

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ガルディア城から歩くことおよそ30分後。俺たちはゼナン大橋を眼下にする高台に到着した。

 

「あれ?旅人さん来ちゃったの?」

 

声を掛けられ振り返ると、先に出発したのに後に到着した主任さんが、呆気に取られていた。

 

「このご時世に旅なんかしてるなら腕に自信はあるんだろうけど、今出てるやつは1体でも騎士団長が苦戦するくらいだから、さすがにこれ以上は近づかないでね」

 

呆れているが、別に気分を害してはいないようだ。実に大らかな人物だ。

 

不意に、大勢の人間の歓声が耳に入ってきた。声の方を見ると、橋の上のジャンクドラガー一体が崩れ落ちるところだった。

そして、あと2体のジャンクドラガーに対峙する人影は二つ。一人は鎧を着込み、顔も見えない兵士。もう一人は軽装の鎧のみで、頭防具を付けていない。短髪の青年のようだった。

 

「前回の襲撃でネタがバレちゃってるからね。もう騎士団長とグレンが遅れをとる相手ではないよ」

 

主任さんのコメントがフラグを建てたかのごとく、騎士二人はそれぞれ一体ずつのジャンクドラガーを翻弄してゆく。騎士団長は圧倒的な速度と手数で、グレンは的確な受け捌きと技量で…ってちょっと待て、グレンだと?

遠くてはっきりとは見えないが、確かに原作通り、黄色がかった緑髪を靡かせて敵の攻撃をいなし続けている。あのジャンクドラガー相手に、たった一人にも関わらず付け入る隙を与えていない。そのまま二人は華麗に切り結び続け、ものの数分でそれぞれが対するジャンクドラガーを撃滅せしめた。

強くてニューゲームにより、戦闘の技と知識を体得した自分(クロノ)から見ても、目が覚めるような武技だった。

 

 「ん?旅人さんはグレンを知ってるのかな?ガルディアでは知らぬもの無し!の実力者だけど、風来の方にまで知れ渡ってるとは光栄だね」

 

主任さんはのんびりしたものだが、こちらとしては大きな乖離だらけで目眩がしてきた。既に強くてニューゲームステータス以外の、攻略アドバンテージを全て失ってしまった感さえある。

グレンがカエルにならず、しかも戦闘を怖がらずにガルディア騎士団副長として戦っている…この状況になるまでに、一体どれだけの原作改編が必要になるのか、見当も付かない。もう考察云々言っていられる状況ではなかった。

とりあえず、正気を保つために最終目的を口の中で唱えた。ラヴォスを倒すラヴォスを倒すラヴォスを倒す…。

 

そんな自分を怪訝そうに見ながら、ルッカが冷たく皮肉ってきた。

 

「また乖離のようね。この分だと、アンタの『原作知識』っていうのもどこまで役に立つのかしら。私としては、巨大ガエルと旅することにならなくて助かるけど」

 

カチンとくる物言いだが、図星なので何も言い返せない。それに、カエルが何の未練もなくグレンとして立っているなら、何を説得して仲間にできるというのだろう。強力な仲間の当てが、また一人いなくなってしまったのかもしれない。

 

その後、ジャンクドラガーと同時に展開していた魔物も殆どが討ち取られ、戦局は人類側完全勝利と言って差し支えなかった。兵士たちは陣形を組み直し、撤収の準備を開始し始めた、その時だった。

 

「愚かで力なき人間どもよ。超魔王様のお出ましである。平伏すが良い」

 

辺りに響き渡る、重厚で禍々しい音声。

 

時空ゲートとは趣が違う仄暗いゲートからまず現れたのは、魔王幹部・三魔騎士のはずの外法剣士ソイソー。

そしてやたら派手な虹色のゲートからは、空魔士マヨネー。

 

そして最後に現れたのは、自分の記憶とはあまりに違って、豪華絢爛極まる衣装に着られた…もとい纏ったビネガーだった。原作(ゲーム)ではこの場面で三幹部が揃い踏みはしていない。ということはこの場で「超魔王」もお目見えとなるかもしれない。期待して様子を伺っていると、最後に現れたヒキガエルの化け物ことビネガーが、仰々しく名乗りを上げ始めた。

 

「人間ども、頭が高い!私こそ魔族の頂点にして、魔のチカラを極めし王の中の王…超魔王ビネガー様だぁっ!」

 

思わずズッコケてしまった。そういうオチなのか…。

 

ということは、である。本来の魔王がいない、もしくはこの時代に存在しない可能性が一気に高まった。ああ見えて原作(ゲーム)では忠誠心の高いところを示し、裏切られても尚魔王に敬意を持って接していたビネガーが、主君を蔑ろにするような名乗りをするとは思えなかった。そんなビネガーが「魔王」を名乗ったのだ。恐らくは彼の上には誰もいないだろう。

 

「ちょっと、加勢しなくていいの?流石に人間側が不利じゃない?」

 

私は役に立ちそうもないけど、と付け加えてルッカが指摘をしてきた。確かにその通りだ。ジャンク・ドラガーは相手にできても、ビネガー・マヨネー・ソイソーの三人相手は厳しいかもしれない。実際、一気に飛び出してきたソイソーを、サイラス・グレン二人掛かりで止めたところが見えた。

 

俺は、加勢するので安全なところにいるようルッカに告げて、装備を一部変更しながら一気に戦線に加わった。狙いは、戦場にいるのに手鏡を見て、メイクを気にしているマヨネーだ。

戦場に到着すると、そこから一足飛びに近づき、刀剣(にじ)を一閃する。直前で気付いて回避されたが、メイク道具ごと腕に負傷を与えることに成功した。

 

「ちょっと、いきなり何するのヨネ〜!お化粧直し中に襲いかかるのがニンゲンの作法なのネ〜!?」

 

それを言うなら、戦闘中にメイク直しするのが魔族の流儀なのかと聞きたい。マヨネーの叫びを半ば無視して、連続して攻撃を仕掛ける。

 

少し驚いたのが、前の戦闘(プチラヴォス)の時が嘘のように、状況を冷静に判断できている。急激な強敵との戦いで、少し腹が据わったのだろうか。マヨネーは悪態を吐きながらも魔力を溜め、何かを繰り出そうとしているのが見てとれた。だが。

 

「アンタ、なかなか好みの顔だけどムカつくのヨネ〜!喰らえ、風のワルツ!」

 

豪風がマヨネーから放たれるが、少し立っているのがキツい程度の風力で、ダメージは全くない。それもそのはず。記憶が確かなら風のワルツは、多少のダメージと混乱が厄介なスキルだ。マヨネーの攻撃の厄介さは多彩な状態異常に依るものが多いため、戦場(ここ)に来る直前で装備をリボンに変えたので、もう何の脅威も感じない。混乱が全く効果を為していないのを確認して、マヨネーは目に見えて狼狽えた。

 

「サイラスッ!お前は超魔王をやってくれ!この剣士は、俺の方が相性が良さそうだ!」

 

ふと見ると、グレンがサイラスに声を掛け、敵を分担しようとするところだった。

 

「あんた!かなり腕が立つようだが、ソイツを任せても良いかっ!」

 

更にグレンは、俺にも声を掛けてきた。少し驚いたが、突然現れた敵か味方か分からない第三者であっても、同じ人間であれば声を掛けるのは当然かもしれない。俺はマヨネーから注意を外さずグレンに向かって親指を立てた。

 

かくして、三幹部(と呼ぶのが合っているかは分からないが)と俺、サイラス、グレンの、それぞれ1対1の戦いが始まった。

 

とはいえ、俺の相手(マヨネー)はもう消化試合のようなものだ。原作(ゲーム)でも一人だけ撤退するシーンがあったし、ヤツが土壇場まで戦うところは想像ができない。そして見立て通り、マヨネーが幾つか技を繰り出し、それらに一切の効果が認められないことが分かると、明らかに及び腰になった。

 

「コイツ、おかしいのヨネ〜!ニンゲンに良く効くはずの技が、何も効かないのヨネ〜!」

 

そして空を飛べることをいいことに、こちらの攻撃が届かない高さまで移動してしまった。こちらとしては魔法やかまいたちなど攻撃する手段はあるが、警戒されている状況では回避される可能性が高い。ひとまず警戒を続けながら、他の二人の戦況を伺ってみた。

 

まずグレンだが、ここまで強かったのかというのが素直な感想だ。ソイソーは恐るべき手数で一方的に攻め続けているが、グレンはそのすべてを見切り、ある程度の余裕を残して捌いているように感じた。ソイソー自身も焦りは感じていなさそうだが、お互い隙を窺っている印象だ。

そしてサイラスだが、こちらはビネガーとは相性が良いようだ。この世界は魔法に詠唱などは必要ないようだが、魔法の発動にはある程度の集中力がいる。サイラスは持ち前の剣速で、ビネガーを完全に翻弄していて、攻撃らしい攻撃をほとんどさせていない。だがビネガーも短距離テレポートのような能力で出現したり消えたりしており、サイラスの攻撃もひと掠りもしていない。

 

と言う具合に、戦況は一旦膠着した。俺がいなくて3対2の状況だったら話は変わったかもしれないが、このままいけば危なげは無いだろう。マヨネーが完全に諦めたら、俺も即座にグレンの加勢に動くつもりだが、それを察してかマヨネーもこちらの様子をじっと伺っている様子だ。

 

さて、この状況で自分はどう動くのがいいだろうかと考えていると、ルッカの叫び声が聞こえてきた。

 

「ねえっ!橋の向こう側に砂煙が見えるわよ!」

 

すぐに状況を確認した。確かにこの戦場に向けて、橋の向こう側から砂煙が近づいてくる。方向的に味方の増援は無いだろうが、魔族側のものとも考えにくい。三幹部が揃い踏みしている状況で、戦況を好転させるような存在は、少なくとも俺のデータベースには無い。

 

そしてこちらの様子を伺っていたマヨネーも、近づいてくる存在に気づいたようだ。

 

「超魔王様まずいのネ〜!例の奴らがまた攻めてきたのヨネ〜!」

 

『例の奴』らということは、魔王軍にちょっかいを出しているという第三勢力だろうか?これは早々に謎の一つが解明されるかもしれない。俺はマヨネーに気を向けつつ、近づいてくる存在を見極めることにした。

 

しかし、楽観的な俺の期待は、最悪な方向に裏切られることになる。

 

攻めてきていた第三勢力は、プチラヴォスの群れだったのだ。

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