悲劇の恋じゃない、それは事案だ。と友人に言いたい俺が、なぜか片棒を担がされている   作:えなり

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「ハイテク」作戦

アスファルトに背中から叩きつけられた衝撃が、まだ肺のあたりに残っている。俺とロミオは、ジュリエットの家の前の道路で、二人して大の字になっていた。ウーパーイーツのバッグは、無残にも俺たちの数メートル先でひしゃげている。

 

「……見たか、クロン。あのお父上の、まるで悲劇の獣のような眼光を」

「いや、俺たちを見る目がゴミを見る目だったぞ。あと、悲劇の獣ってなんだよ、ただの屈強な民間人だろ」

 

ロミオはゆっくりと身を起こすと、天を仰いで拳を握りしめた。その瞳には、悔しさよりもむしろ、恍惚とした光が宿っている。

 

「なんでちょっと嬉しそうなんだよ!物理的に投げ飛ばされたんだぞこっちは!」

 

「これは試練だ、クロン。シェイクスピアも言っている。『愛の道は、決して平坦ではない』と。あのお父上は、俺たちの愛の深さを試す、最初の城壁だったというわけだ」

 

「城壁っていうか、普通に不法侵入(未遂)に対する正当防衛だからな?なんなら警察呼ばれてないだけ感謝すべき局面だからな?」

 

もうダメだ。こいつの脳内では、俺たちの愚行がすでに悲壮な叙事詩の一節に変換されている。俺はひしゃげたウーパーイーツのバッグを回収すると、さっさとこの場を去ることにした。こんな奴の茶番に付き合って、レポートを棒に振るわけにはいかない。

 

「待ってくれ、クロン!」

 

背後からロミオが叫ぶ。知るか。俺は振り返らない。

 

「今学期のレポート、全部俺が手伝う!」

 

俺はピタリと足を止めた。

 

「……全部、だと?」

「ああ。なんなら昼飯も奢ろう。だから、もう一度だけ、俺の翼になってくれ!」

 

翼。こいつは俺のことを、愛の天使か何かだと思っているのだろうか。だが、レポート全回収に昼飯付き。その条件は、俺のすり減った道徳心を補って余りある魅力を持っていた。俺はゆっくりと振り返り、ニヤリと笑う。

 

「話を聞こうか、ロミオ。……次の作戦とやらを」

 

ロミオは待ってましたとばかりに駆け寄ってくると、声を潜めてこう言った。

 

「今度の作戦は、ハイテクで行く」

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

翌日、俺とロミオは家電量販店に来ていた。ロミオが自信満々に指差した先には、手のひらサイズの小さなドローンが鎮座している。値段は一万円弱。高校生の小遣いを叩けば、なんとか手が届く範囲だ。

 

「これだ。この鋼鉄の鳥で、俺の想いをジュリエットに届ける」

「いや、ほぼプラスチックだろこれ。で、具体的にどうするんだよ。まさか、これでジュリエットちゃんを吊り上げて空輸するとか言わないだろうな」

 

俺の指摘に、ロミオは「それも考えたが、予算の都合でな」とさも名案だったかのように頷いた。こいつの発想の飛躍には、毎度のことながら眩暈がする。

 

「違う。このドローンに、一輪の薔薇を運ばせるんだ。そして、ジュリエットの部屋の窓辺にそっと置く。なんてロマンチックなんだ…」

 

「それ、ジュリエットの部屋の窓が開いてなかったらどうするんだよ。ドローンが薔薇くわえて窓にガンガンぶつかってたら、ただの怪奇現象だぞ」

 

「む……。では、スピーカーを取り付けて、俺の愛のセレナーデを奏でるというのはどうだ?」

 

「近所迷惑で即通報案件だろ!発想が昭和の暴走族なんだよ!」

 

こいつに任せていては、計画がファンタジーの世界から出てこない。俺は現実的な(?)プランを提示する。

 

「いいか、まずやるべきは偵察だ。このドローンでジュリエットの部屋の窓の位置を正確に把握する。それから、手紙をドローンに貼り付けて、窓の外にホバリングさせて読ませる。これなら安全確実だろ」

 

「おお…!現代の伝書鳩というわけか!それもまた一興だな!」

 

俺の凡庸なアイデアに、ロミオはなぜか感動していた。こいつの「ロマンチック」の基準は、本当に意味がわからない。

 

こうして、俺たちの次の作戦『オペレーション・アイアンバード』の概要は固まった。偵察、そして手紙の配達。シンプルだが故に、付け入る隙はないはずだ。

 

俺たちはなけなしの金を出し合ってドローンを購入した。箱を抱えるロミオの目は、すでにジュリエットとの再会を夢見て、キラキラと輝いている。

 

その輝きが、数時間後には絶望の色に染まることも知らずに。

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