悲劇の恋じゃない、それは事案だ。と友人に言いたい俺が、なぜか片棒を担がされている 作:えなり
ジュリエットの父親という名の鬼神から逃げ出した俺とロミオは、俺の部屋で完全に沈黙していた。窓の外は、もうすっかり夜の闇に包まれている。
「……終わった」
ロミオが、死人のような声で呟いた。
「俺の果たし状と、三代目のアイアンバードが、敵の手に…」
「いや、お前の私物と犯罪の証拠が学校のグラウンドに放置されてるだけだ。敵の手に渡る前に、どうにかして回収しないと、今度こそ俺たちの学園生活が終わるぞ」
だが、どうやって?
あの父親は、間違いなく俺たちの顔を見た。今頃、グラウンド周辺を警戒しているかもしれない。下手すれば、学校に通報されている可能性すらある。回収に向かえば、待ち伏せされて御用、という未来しか見えない。
「だめだ…八方塞がりだ…」
「おお、神よ…!なぜ、我ら純粋な愛の使徒に、これほどの試練を与え給うのか!」
ロミオがベッドの上で天を仰いで嘆き、俺は机に突っ伏して頭を抱える。まさに、万事休す。進むも地獄、退くも地獄。
こんなくだらないことのために、俺の輝かしい未来が閉ざされてしまうのか。レポートのためとはいえ、なんでこんな奴に付き合ってしまったんだ…。
俺が本気で後悔に沈んでいた、その時だった。
ガタッ、と。部屋の押入れから、微かな物音がした。
俺は顔を上げると、押入れに向かって声をかける。
「おい、いるんだろ?ちょっと知恵を貸してくれ」
「……誰に話しかけているんだ、クロン?ついに幻覚でも見始めたのか?」
ロミオが訝しげな顔でこちらを見る。俺が答えるより先に、押入れの天井板がスッと横にずれ、一人の少女が音もなくそこから降りてきた。
ウーパーイーツの制服とキャップを身につけた、無表情な少女だった。
「ひっ…!ゆ、幽霊!?」
ロミオが腰を抜かして後ずさる。まあ、その反応が普通だよな。
「いや、違う。俺の家の屋根裏に住んでる、ウーパーイーツの配達員だ」
俺がこともなげに言うと、ロミオはさらに混乱した顔で叫んだ。
「いや、余計に意味がわからないだろ!なんでお前の家の屋根裏に人が住んでるんだよ!しかも配達員て!それ、お前のご両親は知ってるのか!?」
「ここが、このエリアで最も家賃効率と配達効率の良い拠点(ベースキャンプ)だと判断したからです」
少女が、ロミオの疑問に淡々と答える。彼女の名前は、たしか「コードネーム・ゼロ」とか言っていた気がする。本名は知らない。
「なあ、ゼロ。ちょっとまずいことになってて…」
俺が事情を説明すると、彼女は無感情な瞳で少し考える素振りを見せた後、静かに告げた。
「あなた方、危機的状況(デッドロック)に陥っていますね」
「ああ、その通りだ。何かいい案はないか?お前、ウーパーイーツの配達員だから、地理とか詳しいだろ?」
俺の全幅の信頼を込めた問いに、ロミオが「どういう理屈だ!?」とツッコんでいるが、今は無視だ。
ゼロは、俺たちにこう提案した。
「その状況、打破できます。私が提示するプランの成功確率は、12.5%。低いですが、現状よりは合理的です」
「じゅ、12.5%…!?」
「はい。まず、あなたたちが囮になってください。そして、父親の注意を引きつけている間に、私がドローンを回収します」
ゼロの口から語られたのは、俺たちが普通に犠牲になるだけの、あまりにも一方的な作戦だった。
「……なあ、クロン」
「なんだ、ロミオ」
「この作戦、俺たちが囮になるメリットが皆無じゃないか…?」
「何を言っているんだ?ウーパーイーツの配達員が言うんだから、これが一番良いアイデアに決まっているだろ?」
俺は、そう言って力強く頷いた。