Are you a Human? 作:来訪ξ紳士
床に転がる血濡れた肉塊を見下ろす。
しかし、胸の奥底には一滴の悲哀も、罪悪感すらも湧き上がってこなかった。
あるのは、酷く冷たく。
透き通るような『虚無』だけだ。
引き金を引いた指先は微塵も震えていない。
胃液がせり上がるような吐き気も、頭蓋骨を叩き割るような頭痛も、すべては『そうあるべきだ』という脳の錯覚に過ぎなかった。
——ゆっくりと、銃を取り落とす。
重い鉄の塊が床に激突し、鈍い音を立てる。
だが、その強烈な金属音に対する驚きの反射すら、身体には起こらなかった。
おかしい。
夜通し、息を詰めるような緊張感の中で、彼らを疑い続けてきたはずだ。
人間を完璧に模倣する『来訪者』の恐怖に怯え、猜疑心に駆られ、生き残るための苦渋の決断を下したはずだった。
——己の首筋に、手を当てる。
脈がない。
心臓が動いていない。
いや、そもそも、この異常な熱帯夜の中でエナジードリンクを胃に流し込んだ時から、一度も汗を流していなかったではないか。
矛盾した記憶を語った女。
異常な骨格を持った男。
生存本能を欠落させた宗教家。
痛覚を持たない子供の女。
彼らを『来訪者かもしれない』と疑うための根拠として並べ立てた要素のすべてが、見事なまでに己自身へとブーメランのように突き刺さっていく。
息継ぎをしていない?
——最後に呼吸をしたのはいつだ、銃を構えてから今まで、一度も酸素を肺に入れていない。
骨格が歪んでいる?
——銃を下ろした腕の関節は、明らかに人間の可動域を超えた逆方向へと曲がり始めている。
生存本能がない?
——夜明けとともに急激に上昇していく致死の室温の中にありながら、皮膚は熱さを微塵も感知しない。
痛覚がない?
——試しに、足元に落ちていた薬莢を素足で踏み抜いてみる。
何も感じない、ただ、黒い泥のような無機質な体液が、床へ滲み出していくだけだ。
分厚いカーテンの隙間から、灼熱の太陽光が差し込んでいる。
その光に照らし出された自らの影を見て、すべての記憶の辻褄が合った。
彼らは人間だった。
こんな狂った世界でも、ただ必死に生きようともがいていた、紛れもない本物の人間だった。
であるならば、自分とは一体なんなのか?
あまりにも完璧に人間を模倣しすぎたがゆえに、自らが化け物であるという正体すら忘れ、人間の持つ最も醜い『他者を疑い、殺害する』という業を、ご丁寧に再現してしまった化け物。
ああ、それはきっと。
——No, I'm not a Human
—TRUE END—
実績解除:『来訪者』を獲得しました
おめでとうございます。そして感謝を