「それでは、エリナ・バレンシュタインちゃん、そしてエリナちゃんのメガミ、アルトちゃんの歓迎を祝しまして~、かんぱ~い♪」
「「「「「かんぱ~い」」」」」
「カ、カンパイ、デス」
「カンパイだ」
組み紐リボンを作って二時間後、丁度、渉と巌次郎も仕事から帰ってきて、エリナとのファーストコンタクト&挨拶を済ませて、歓迎会を兼ねた夕食が始まった。祖父と両親はアルコール、未成年の誠士郎とエリナは麦茶で乾杯と相成った。(ちなみにエリナはこれが初めての麦茶。香ばしくて大好きになったと後に語る)
お馴染みのちゃぶ台の上には、大皿にうず高く盛られた唐揚げの山。簡単なサラダと、お吸い物にご飯に漬物。
「すごい量デスね……」
「もしかしてだけど、エリナちゃんって唐揚げ初めて?」
「ハイ。そうデス。食べ方に作法はありますカ?」
「ああ、ないない。箸でつまんでそのままガブっとな」
そう言うと、巌次郎はお手本を見せるように、さっきエリナに説明したように唐揚げを一口で食べてみせる。
「あー、じいちゃんのマネして一気食いしなくていいからね?」
「ハイ。イタダキマス」
そう言うと、エリナは器用に箸で唐揚げをつまむと、そのままカプッと噛り付く。
なんということでしょう。サクッとした香ばしい衣。丁度いい柔らかさの鶏肉からは、ジューシーな肉汁が溢れ、母国イギリスでも味わったことのある醬油の香りと味にドカンとショウガのパンチが響く。
「~~~~~~とってもオイシイです!」
「よかったね、佳さん」
「嬉しいわ~エリナちゃん。ドンドン食べちゃっていいから!今日の主役はエリナちゃんなんだから。男衆も、その辺を考慮に入れて食べるように」
「「「イエス、マム」」」
葛葉家の実権は佳が掌握している。以前はもう一人が完全に手綱を握っていたのだが、それは佳に譲られている。これは永久不滅だ。
「そういえば、エリナさんはお箸に扱い方が上手だけれど、もしかして練習してきたのかい?」
「ハイ。失礼のないようニと、mumとdadに習いマシタ」
「姫のご両親は翻訳家であらせられる」
「翻訳家なのか。だから日本語もそんなに上手なんだな。貰ったあ!!」
「じいちゃん、エリナさんの目の前で唐揚げかっさらわないでよ……」
「気にしていマセン。食卓は戦場デス……!」
母国で何を学んだのか。両親に何を吹き込まれたのか、だがまぁ葛葉家おかず争奪戦に参戦する度胸があるということだ。その度胸を嬉しんでよいのやら、なんというか。でも佳という最強のストッパーがいるから大丈夫だろうと誠士郎は唐揚げを箸で一つ摘まんで取り皿に乗せ、三升漬けを小さなスプーンを使って少し垂らして味変をする。
「?セーシローさん。ソレはなんですカ?」
「三升漬け。醬油と麹と青唐辛子をそれぞれ一升づつ……だいたい2ℓずつ入れてほっとくと出来る調味料のことだよ。辛い醬油って感じかな。試すなら二・三滴にしといた方がいいよ」
そこまで言われると、エリナも興味をそそられる。誠士郎からスプーンを受け取り、言われた通りにちょっとだけ唐揚げに垂らして食べる。
確かに辛い。でも、その辛さは少しまろやかで味わい深い。『コウジ』というもののおかげなのだろうか?
「気にいっちゃいマシタ♪」
「そりゃよかった」
順調に交流が進む傍らで、メガミ同士でも交流が進む。
「ほう。エリナ嬢はバトル好きなのか」
「うむ。姫に勝利を献上すべく、研鑽を続ける毎日だ」
「サンもだよ!サンも毎日ダンスしてるんだー♪」
「ダンス?それは戦闘にどう活かすのだ?」
「単なる趣味じゃよ。ちなみにじゃが、妾もサンも『強い』ぞ?」
「ほぅ……是非とも手合わせ願いたいものだ」
凛々しくも、肉食獣のような獰猛な笑顔を浮かべるアルト。どうやらかなりのバトルジャンキーのようだ。
元々、メガミはバトルプラホビーだ。更には全国ランキングも存在し、トップランカーともなれば、戦闘だけでなく、メガミの作成・改造技術もトップレベルとなる。中には一人で複数のメガミを駆使してバトルに臨むプレイヤーも存在している。
「近隣にメガミバトルが出来る施設はあるのか?」
「もちろんじゃ。ここら一帯のプレイヤーは大体そこに集まる」
「複合型商業施設だからね。食材とか、家電とか、ファッションとか、映画館も併設されてて、一日中いられちゃう場所なんだ~♪」
「ちなみにじゃが、この唐揚げの材料も、そこで買ってきたモノなのじゃよ」
「成程……許されるのであるならば、すぐにでも向かいたいものだ」
「それはエリナ嬢次第であろう。今日日本に着いたばかりなのじゃ。見えぬ疲れもあろうて」
「それは……確かにそうだ。姫を蔑ろにする訳にはいかない」
「アルトちゃんはエリナちゃんが大好きなんだね♪」
「ああ。全身全霊を以てして、御守りすると誓った御方なのだ」
誇り高きわんこ騎士。クオンはそんな印象をアルトに覚えた。おそらく、エリナが『こうしたい』と思ったことは、何が何でもその通りになるまで押し通すのだろうと感じ取る。きっとそこらのさじ加減はエリナも分かっている……はずだ。
こうして歓迎会は続き、巌次郎と渉が酔いつぶれたところでお開きとなり、クオンとサンに洗面所やトイレ、風呂の場所を教えるように頼み、その間に誠士郎は佳と共に歓迎会で使用した皿を洗って片付けていく。
クオンとサンはついでに風呂を沸かして、日本での風呂の入り方を教える。こういうことは同性の方が有り難い。どうやらバスタブにお湯が溜まるまでにエリナは二階にと向かっていく。パジャマと下着でも取りに行ったのだろうか?
「誠士郎、分かってると思うけど」
「洗濯物も気を付けろ。それと干すときも。あとは……じいちゃんとか?」
「私から言っておくから」
「母さんが言うなら大丈夫か」
皿を拭き終わると、誠士郎は巌次郎と渉の足首を掴むと、そのままズルズルとそれぞれの部屋まで引き摺ってぶん投げると、歯を磨いて顔を洗って、そのまま自室に戻っていった。
「フゥ……」
入浴し、薄桃色のパジャマ姿になったエリナは、火照った身体を自室として宛がわれた部屋の前のベランダに出て軽くその身体を冷ましていた。
異国の地の眼前に広がる街並みと街灯。夜空に輝く星。空気の匂い。何もかもが母国と違う。でも、これから『家族』になっていくホストファミリーのあたたかさは、今晩の歓迎会で十分理解することが出来た。それに、自身のメガミ、アルトも歓迎してくれた。それだけで安心出来る。
そんなことを思って目線を左に動かすと、隣りの部屋のカーテンの隙間から光が漏れている。この隣りの部屋は誠士郎の部屋だ。そこから光が漏れているということは、誠士郎が何かをしているか、明かりを付けたまま寝落ちているか……
ちなみにだが、エリナと誠士郎の部屋はベランダで繋がっていて、やろうと思えば窓から誠士郎の部屋に入ることが出来る。
まだ荷解きは全部終わってはいないからなのだろうか、それとも歓迎会が楽しくて仕方がなかったのだろうか、理由は分からないが、少しばかり寂しくなってしまった。
だからだろうか。無礼を承知で誠士郎の部屋の扉をノックしてしまった。
『ん?母さん?』
「ア、 アノ、エリナ、デス。ごめんなサイ。ちょっと、お話シタクテ……」
『いいよ。入って』
「失礼シマス」
ガチャッ。と、エリナは誠士郎の部屋のドアを開ける。
「Wow……Amazing……」
「椅子ないからベッドにでも座って」
エリナが誠士郎の部屋に抱いた印象は、『魔術師の工房』だった。
ゲームやアニメ、ファンタジー映画で見たことのあるような、様々な工具やパーツが所狭しと、それでいてキチンと整理されて置かれている。
今、エリナが座っているベッドの向かいに勉強机が置いてあり、チラリと見えた机の上には、ニッパーや接着剤にデザインナイフ等々と、プラモデル作成に必要な工具がこちらも整理されて置かれている。そしてその勉強机の隣に置かれたキャビネットの上に、『天蓋付きベッド』で寝ているクオンとサンがいた。
「セーシローさん。そのベッドって……?」
「ベッド?ああこれ?いつだったかサンがテレビで見てさ。欲しい欲しい~って駄々こねちゃって。だからクオンとのセットで作った」
「買ったのではなくて作ったのデスカ!?」
「マットレスの下に置き型の充電器仕込んであるから、そのまま充電できるようにしてある。今はスリープ状態だから、本当に眠ってる」
「近くで見てもいいデスカ?」
「いいよー」
エリナは座っていたベッドから立ち上がり、キャビネットに置かれた天蓋付きベッドをまじまじと見つめる。
色は全体的に乳白色。構造は同じだが、布団の色はクオンとサンをイメージしたような配色になっている。クオンは黒と白。サンは黄色みの強いオレンジ色。枕にしたってそうだ。それぞれの髪型を考慮に入れて作られており、配色も布団と似たような色をしている。
天蓋のカーテンは白のレースカーテンで、金属の心棒に金属の輪を使って、ちゃんとカーテンを開閉できるようになっているし、そのカーテンもちゃんと纏めることが出来るように纏めるための紐だってある。
「材質はなにヲ?」
「だいたい木材。色はアクリル塗料をエアブラシで。マットレスは通気性のいい布と小っちゃいバネ。布団と枕の模様は刺繡で、中身の素材には綿使ってる」
「コンなに細かい作業ヲ……」
「手芸用品店とかでイメージに近い部品売ってるから、それ買って少し改造したんだ。置き型充電器はジャンクパーツ扱ってる店で安く買えるしね」
誠士郎は簡単に言ってはいるが、それを実行に移すとなると話は別だ。メガミの要望を聞きつつ、それに合わせて設計図を作成し、その通りに作成するわけだが、まずサイズが小さくなるのは当然だ。それでも彼は作ってしまう。作れてしまう。
「あ、そういえば……」
そう呟くと、誠士郎はそのキャビネットの扉を開けてゴソゴソと探ると、その手には、あの天蓋付きベッドが握られていた。
「あげる」
「え?エ?」
「試作で作ったやつなんだけど、後でちゃんと作り直したヤツだから。予備に取っておいたんだけど、死蔵させとくのもね。だからあげるよ」
「デ、デスガ……」
「いいっていいって。モノは使ってなんぼだし。騎士の寝床は少し豪勢にした方が、異国の地に来訪した姫君を守る役目に邁進してくれるって」
まだ出会ってから数時間。エリナが誠士郎に対して抱いた印象は『春風』。
掴みどころがない。そして暖かい。人に対しても。メガミ対しても。自らが作ったモノに対しても。更に初対面なのに物怖じしない。
こちらとしては、なんとも有り難いが、『まだ』初日。
でも、他人行儀をすっ飛ばして、しばらく会っていない親戚もような感覚だ。
「アノ……」
「ん?どうしたの?エリナさん」
「ソノ、名前を呼び捨てで呼んでくれまセンカ?」
「まだ初日「早い方がいいデス」」
「母国ではそれが当たり前デス。ですからお願いシマス」
「じゃ僕も呼び捨てでいいよ。このベッドを君にあげる条件ってことで」
「条件が安すぎませんカ?」
「ホストファミリーなんてそんなモノなんじゃない?」
そんな軽口を言いながら、誠士郎はエリナに天蓋付きベッドを渡す。きっとこれが、最初の『契約』なのだろう。
「今日カラよろしくお願いシマス。『セーシロー』」
「改めてよろしくね。『エリナ』。それじゃ、おやすみ」
「ハイ。オヤスミ、デス」
そう可愛らしくエリナは微笑んで、嬉しそうに自室に戻っていった。
パタン。と扉が閉まると、はぁ~と長く息を吐き出しながら勉強机に突っ伏す。
「年頃の男の部屋には、もっと警戒心全開で入ってきなよ、エリナ」
その顔色が、少し赤くなっていたのは、今日の出来事での最大の秘密なのだろう。
おまけ
「フフッ。アルトが起きたらビックリデスネ」
「Thanks。セーシロー♪」