メガミと『つくる』日常   作:ミヤビコウ

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楽しんでいただけたなら幸いです


お江戸の華は物騒

「なぁなぁなぁ葛葉聞いたか?一年に留学生来るみたいなんだ!しかも女子!可愛い子だといいな~!」

「ふーん」

「いやいや!ふーんってなんだよ、ふーんって!もう少し興味持てよ!」

「同じ地球人が留学って名の転校してくるだけでしょ」

「例え話が斜め上だな。それよりも……課題見せてくれ!!頼む!!」

「だと思った。ホラさっさと写しな、池」

「ありがとうごぜぇますだぁお代官様~」

 朔総高校の二年A組の教室。そのSHR前の予鈴が鳴る前の朝の風景。葛葉誠士郎は教室真ん中の、さらに真ん中らへんの席の前の友人、池直哉(いけなおや)と、どうでもいい?話をしていた。

 誠士郎と直哉は高校で出来た友人同士で、どういうわけだか気が合う関係だ。互いに家の行き来をする程の仲で、誠士郎の家業も手先の器用さを知っている。

 ただ、勉強の出来は見ての通りで、中間や期末、連休の課題には常に頼りにされている程の頭の出来だ。

「うっしゃぁああああっ!!終わった!さすがは心の友だぜ!!」

「そうならん様に頑張れよ、池。っと、予鈴が鳴った」

 バタバタと、教室の席に着く同級生を見ながら誠士郎はエリナのことを考える。登校前、エリナと共に祖母の仏壇に手を合わせてから一緒に登校するが、エリナの登校が初日ということもあって、色々と手続きがあるようで、誠士郎の先に佳が車で連れて行ったのだ。

 とはいえ、心配なものは心配で、ただでさえ留学生で誠士郎からしても可愛いい顔なのだから心配だ。

 そしてその心配は見事に的中する。

 

『うおおおおおおおおお!!!』

 

「なんだぁ!?」

「噂の留学生じゃないか?」

「でも教室一階だろ?ここまで男子の声が響くってことは、相当美人なんじゃないか!?」

「かもね……」

 一応、合流するタイミングは事前に決めている。だが、合流ポイントまでエリナが辿り着くかどうかは分からないし、留学初日なのだから不安もあるだろう。一応『局長』と『副長』に頼んであるが、『カオダケ』がいるので面倒だ。だとすれば。

「僕が行くしかないよね……」

「ん?どうしたんだ、誠士郎?」

「なんでもない。ほら、課題のプリント、池の所で止まってるよ」

「げ!先生!すんませんでした!!」

 相変わらずの池のテンションを見ながら、誠士郎は昼休みに向けて覚悟を決めるのだった。

 

 時刻は昼休み。教室の生徒たちは鞄から弁当を出したり、小銭を握って購買や学食へと向かう。そんな中、誠士郎は鞄から母親が作ってくれた弁当を取り出すと、教室から出ていこうとする。

「ん?誠士郎どこ行くんだ?」

「一年の教室寄ってから、学食に行く」

「お前が学食?いつも俺とダベリながら、ここで昼飯食ってんじゃん。しかも何で一年の教室行くんだよ?」

「ちょっとね。……なんだったら池も来る?」

「珍しいな。お前が誘うなんて。ちょっと待てよ!」

 急いで弁当を鞄から取り出した池は、誠士郎の後に続き、A組目の前の階段を降りる。そして、明らかに人だかりが出来ている教室に向かう。そこで池も理解する。誠士郎は件の留学生の所に向かっているのだと。

「なんだよ葛葉~お前も例の留学生のこと気になってんじゃ」

「違う。はいはいどいて。先輩ですよ~」

 そう言いながら、誠士郎はスルスルと人ごみを、かき分けることなく抜けてエリナの元へやって来る。

 視界が開けると、少し困り顔のエリナがそこにはいる。

 知らない土地で、これだけの同学年に囲まれれば不安にもなる。そして、そんな所に見慣れた人物が視界に入れば、救世主にも映るだろう。

「セーシロー!」

「ごめんね。もう少し早く来れればよかったね」

「大丈夫デス。セーシローの顔を見て安心シマシタ」

「そっか。じゃ、学食行こうか」

「ハイ!佳ママのお弁当楽しみデス!」

「じゃあ、僕の後ろについてきて。はいはい、二年生と留学生が通りますよ~」

 そうして誠士郎はエリナの手を取ると、そのまま学食に連れていく。

 一秒、二秒、三秒、と時間が過ぎていく一年生の教室。

 そうしてようやく脳が先程の光景を理解し始めると、こうするしかなくなる。

 

『えええええええええええええ!!!?』

 

 そりゃ、叫ぶしかなくなる。

 

二階 学生食堂

「……」

「そういえばエリナって、食事前にお祈りするんだったね」

「生まれてからの習慣でしたカラ」

「いいんじゃない?それじゃ」

「いただきます」「イタダキマス」

「いただきます。じゃねぇんだよ!葛葉!お前留学生とどういう関係なんだよ!!」

「セーシロー、この人は誰デスカ?」

「僕の友達。お、玉子焼きに梅干し」

「ナルホド。あ、アスパラのベーコン巻き。美味しそうデス」

「だから!一体!どういう関係なんだよ!」

「ウチがエリナのホームステイ先。連休前からいるよ」

「お世話になってマス」

「なん……だと……!」

 学食の窓際の席を確保した誠士郎たちは、隣が窓になるように机を挟んで座って、誠士郎の母、佳が朝早くに気合を入れて作った弁当を開封して、その弁当をしっかりと味わう。(誠士郎の隣には池がいる。というか誠士郎がそうした)

「お前!どうして隠してたんだよ!こんなビックニュース!」

「池みたいな反応する連中がウチに押し寄せるから。エリナはまだ日本に来日して日が浅いんだよ?そこに下心丸出しの馬鹿共が来たら、エリナが怯えるでしょ。だから、連休前に来てもらってウチとか、ここら辺に慣れてもらってた」

「いやでもよ!」

 

「そこ、うるさいぞ」

「すまない。相席を頼んでもいいかな?」

 

「『局長』と副長じゃん。もちろんいいよー」

「九重先輩!?それに副会長まで!?え?葛葉の人脈ってどうなってんだ?」

「共通の趣味かな。エリナ、この切れ長瞳のポニーテールの王子様系美人は、九重旭(ここのえあさひ)さん。三年生で、僕らの先輩。生徒会会計で僕は局長って呼んでる」

「紹介された九重旭だ。彼のように局長と呼んでもかまわない。ようこそ朔総高校へ。エリナ・バレンシュタイン君」

「これからよろしくお願いシマス。キョクチョーさん」

「何か困った事があれば遠慮なく私か天神平君を頼ってくれ。ついでに連絡先も交換しておこう」

「ハイ」

 二人は携帯端末を取り出して、連絡先を交換する。そう。思い切りナチュラルに。

「いつも思うけど、局長って天然誑しだよね、副長」

「それに関しては私も同意する」

「いや待て待て!何で九重先輩と副会長がいんだよ?俺、今日そんなに徳積んだか!?」

「僕が局長と副長に頼んだ。エリナのボディーガードとしてね。これなら新聞部も寄り付かないでしょ」

「確かにそうだな。遠巻きに新聞部の連中がこっち見てる。てか、俺はいいのかよ葛葉」

「池のことは信用してる。でも裏切るようなことしたら、顔のパーツ全部アーク溶接でくっつけるから安心して」

「安心出来るか!サイコパスかお前は!!」

 悲しいかな、朔総高校の新聞部はしつこい事で有名で、ロックオンされたが最後、個人情報を聞き出すまでしつこく取材してくる。『我々はこの情報社会において、真実を知り、それを公表する義務がある』などという大義名分を掲げてはいるが、その実、ド三流ゴシップ記事以下の新聞モドキのプリント記事しか作っていない。

 そんなところにエリナという留学生が来たのだから、格好のネタがやって来た。と、連中は思っているだろう。だからこそ、その牽制として九重と天神平を、学食という大勢の生徒がいる場所で引き合わせたのだ。

『もしエリナにふざけた理由で近づこうものなら、九重旭と天神平悠乃がバックにいる』という印象付けが狙いだ。それでも聞き耳は立てているだろう。なにせG並みにしつこい連中なのだから。なので、当たり障りのない情報を敢えて流す。

「エリナ君と呼んでも?」

「ハイ」

「エリナ君のホームステイ先は、誠士郎君の家だったね」

「そうデス。佳ママも、渉パパも、グランパも、よくしてくれてマス」

「ちなみになのだが、メガミに興味は?」

「キョクチョーさんも興味があるんデスカ!?バトル派?鑑賞派?」

「私はバトル派だ。誠士郎君とはその縁で知り合った」

「局長強いんだよねー」

「そうなのか。私は興味がなかったから知らなかった」

「今度バトルしてみるか天神平君?」

「最近葛葉にメガミを修理してもらったばかりなので……それにバトル派ではないですし……」

「早くエレナ君とバトルしてみたいものだ」

「望むところデス!」

 これで多少は情報をばら撒くことには成功しただろう。

 もし仮に取材という名目で、新聞部がやって来ても、父や母や祖父が速攻で警察に連絡するだろうし、美人二枚看板、鶴亀コンビが黙っていないだろう。彼女たちのネットワークはSNSよりも伝達能力が早いし強力だ。

「エリナ君は、どこか部活に入る気はあるのかな?」

「未定デス。キョクチョーさんはどうなのデスカ?」

「私は剣道部だ。ただまぁさっさと引退して、受験に専念したいところではあるな」

「そっか。九重先輩もう受験っすもんね」

「滑り止めとして、誠士郎君の所に住み込みで雇って貰おうと考えてはいるがね」

「え、何それ。僕初耳なんだけど」

「初めて言ったからな。天神平君も一緒にどうだい?」

「勝手に決めないでください」

 やり取りが、もはやギャルゲー。周囲の雰囲気が、多少羨望と殺気が混じり始めるのは当然だろう。美少女留学生と、生徒会の高嶺の花二人とフランクに話す男二人。しかも片方はその留学生のホームステイ先。そうもなるだろう。

「ご馳走様でした。それでは諸君、先に失礼するよ」

 九重は手を合わせ、トレーを持って食器返却口に歩いて立ち去って行った。だが、どういうわけだが、そういった細かい動作が凛として見えるのは錯覚ではない。

「一々かっこいいんだよなー、九重先輩って」

「本当デスネ。現代のサムライのようデス」

「生徒会役員全員が、九重先輩が会長だったならと思っているよ。本当に有能な先輩だ」

「局長のファンクラブとか親衛隊とかあるしね。そして学食で会うと必ずカツ丼頼んでるんだよねー」

「ちょっと待て。お前そんなに九重先輩と会ってんのか?」

「向こうから勝手に来るんだよ。多分、エリナのところにも勝手に来ると思うよ」

「どうしてデスカ?」

「「そういう先輩だから」」

「セーシローとフクチョーさん、セリフがシンクロ!」

「それ、俺に対する当てつけか?」

「「違うから安心しろ」」

「シンクロ率400%!!それ以上はダメよシ〇ジ君!」

「ん?バレンシュタインさんってそういうサブカル知ってんの?」

「DadとMamは翻訳のお仕事シテますから、いっぱい知ってマス♪」

 

『RBI各員に通達。今日この日より二年A組葛葉誠士郎を『対象』と認定、行動開始とする』

『RBI各員了解。久々の活動に心が燃える!』

『気付いたとしても遅いぞ葛葉誠士郎。我々RBIからは逃れられないのだからな!』

『RBIに栄光あれ!!!』

『『『『『栄光あれ!!!』』』』』

 

 そんなこんなで放課後。

 連休明けの体がある程度には引き締まった所で、生徒たちは思い思いの行動に移る。部活の準備だったり、真っ直ぐ帰宅したり、その途中で遊んで帰ったり、様々なグループがいる中、誠士郎は着々と帰り支度を始める。部活動もしていないし、面倒な委員会にも所属していない。そのため、ほとんど毎日直帰してしまう。

「葛葉、今日も真っ直ぐ……じゃなくて、バレンシュタインさんと一緒に帰んのか?」

「通学路を覚えないといけないし、ホームステイ先、僕の家。方向は一緒でしょ?」

「そらそうか」

「でも、エリナもエリナで友達できれば、自然とそっちと一緒に帰ったりするでしょ。はぁ、これが子供の成長を嬉しくもあり悲しくも感じる親の気持ちなんだね」

「お前人生何周してんだよ。達観しすぎてね?」

「まだ一周もしてないよ。それよりもホラ、バイト遅れるよ、池」

「やべっ!じゃあな葛葉!課題また写させてくれよな!」

「自分でやんなさい」

 そんなやり取りをしてから、誠士郎は階段を降りてエリナの教室へと向かうと、昼休みのような人だかりが出来ていた。呆れ顔でその様子を見ている誠士郎は、昼休みと同じようにスルスルと人ごみを抜けると、エリナの前にやって来た。

「是非とも野球部のマネージャーになってくれないか!」

「違う!彼女はサッカー部のマネージャーになるべきだ!」

「どうかな!?女子バレー部にレギュラー枠が一人あるの!入部考えてくれないかな!?」

「何いってるのよ!そんなことより女子バスケに興味ない!?マネージャーでも補欠でもレギュラーでもいいから!!」

 

「え、えと、ソノ……」

 

 あわあわしている彼女に、それも異国から来てまだ初日の登校だというのに、体育会系の部活動の部員『ども』のやかましくて煩わしい声が四方八方から聞こえてくる。

 ここにいる『人間共』が、エリナの何を知っているのだろうか。それを知らず、理解しようともしない『連中』の声を聞いていると、本当に『イラつく』し『殺意』が沸き起こる。

 

『我慢しなくてもいい感情だってあるんだよ。笑いたきゃ思い切り笑え。泣きたきゃわき目も降らず泣け。怒りを覚えたら爆発させていい。あぁでもタイミングは計りなさい。しっかり証拠を掴んでからね』

 

『証拠』は掴んだ。この後すぐに校長室に叩きつけて帰るだけ。だからこそ、エリナを驚かせることになるだろうが、貯めに貯め込んだ『怒り』を『爆発』させる。

 三秒。息を吸ってから。『爆発』のさせ方は、『会長』から教わっている。

 

「ガタガタガタガタうるせぇんだよこのすっとこどっこい共が!!!ウチのエリナに用があんなら俺のこと殺してからにしやがれってんだ!!分かったか後輩同級生先輩共が!!」

 

「え、えと」

「だれ、あいつ……?どこのクラスのヤツ……?」

「すっとこどっこいって、どういう意味?」

「え、いや、それは……」

 

「分かったかって聞いてんだよこのすっとこどっこい共!!意味ぐらい調べろボケナス共が!!」

 

「ひぃぃ!」

「わ、わかりましたぁぁぁぁ……」

「い、今すぐ調べますぅぅぅ!」

 

「ケッ!………………行こっか、エリナ」

「ア、 ハイ!セーシロー!」

 そうして誠士郎は貯めた怒りをぶちまけるだけぶちまけると、スッとエリナに手を差し伸べる。エリナはその手を迷うことなく手に取って握る。その手はとてもあたたかく、とても安心する。本当に、心から。

 そのまま腕を引かれるが、決して無理矢理ではなく、こちらに合わせて優しく引いてくれ、そのまま二人は昇降口に向かって歩いて行った。誰もその歩みを止めることは出来ない。何せ誠士郎に怯え切った生徒が、自然と誠士郎と、誠士郎と手を繋ぐエリナを避けて道を作ってしまうからだ。

 この日、この場にいた生徒から生徒に噂話やSNSで一気に『葛葉誠士郎を決して怒らせてはならない』という掟が出来たのだった……まぁそれを無視する馬鹿連中もいるにはいるのだが。

 

 

 

 

おまけ

(セーシローと手を繋いだママ)

(とっても、落ち着きマス……)

 

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