イェーイめっちゃ鬼殺隊   作:あああ

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時と空間

 

鬼舞辻無惨の支配がかかるのは鬼化二日目、羊の二つ時、おやつ時。巻き戻りの上限は血を口にした後、無惨に目を抉られた後。その間、最大活動時間は約三十時間。

余裕と侮るなかれ、正気を取り戻すまでに短くても半日かかる。禰豆子氏は凄いんだ。

窓から見える鬼を数えて曖昧な時間からこれに気がついた時には何日ドブに捨てたかわかったもんじゃなかっただろう。マジで時計って偉大です。

目覚めて現状把握に三時間、弟弟子との移動に二時間、戦闘に……20分? そもそも獪岳に出会った時点で更新しとけば良かったと後の祭り、ロスタイム一時間半。集中治療でえーっと四時間?とか?

どうする、炭治郎と義勇の治療にも少し使った。合流したところまで戻す……それで目の前のしのぶさんを見て落ち着いていられるだろうか。まぁいいか、私が忘れても周りに人が居るからなんとかなる。やっちゃえ。

 

「……うわ、手が血塗れ」

「誰がやったと思っているんだ。少しは身綺麗にしろ」

「ウッスウッス」

 

シュレディンガーの鬼システムは体感時間による曖昧な砂時計で運用されている。砂が落ち切る前にひっくり返すのは勿論のこと、流れる砂は現在の認知であり巻き戻している間の時間は倍速設定が可能。

しかし人が巻き戻るのは見ればわかるが、自分の巻き戻しは感覚に依存しており、ぶっちゃけ戻し過ぎて訳がわからなくなることがしょっちゅうである。正気を取り戻してからの十八時間をエネルギーとして使い人の時間を戻しているらしいし、戻した分は私の中で進んでいる。進めた分は戻っている。

 

いや……いや……わけがわからん!!

誰だこの能力考えた奴、お陰様で私は頭の中で短針を戻し長針を進め、秒針は折った。考えてられるか、20分って60分の3分の1だから繰り下げて0.333とか……いや、覚えてられん!式を考えてるうちにどこまで足したか忘れるって!!

 

だからっておもむろに血文字で壁に足し算書き始めてご覧、アホのガリレオだ。

ストップウォッチ的なものを寄越せ、なんで使い手がこんなに苦労するんだ。もう今何時間残ってるかわからんぞ。数学の成績2なんだよ。

期限が迫ると少しずつ無惨の声が近づいてくるので総リセットするのは簡単だが、他の人を戻すとこっちが進むのはさっき判明してやばい。改めて戻すのは簡単でも戻し過ぎて痴呆になってる。手持ちの時間配ってんのなんで?なんで?

 

てか今何時間何分何秒地球が何回回った時?

 

「黒死牟ってどうなってる……?」

「知らん」

「困るって、最低でも無一郎が生きてるうちに行かないと。胴体が分かれてても部品があれば戻せる筈、行かなきゃ……」

「どうやって行くんだ」

「……鳴女は?」

「お前、鬼になって記憶が飛んだか」

 

落ち着け、今は二日目の朝。人に使わなければ宵越しの時間は確保している。愈史郎と合流できてるのも良い事だ。だよね?

義勇と合流して……義勇ってどこ行ったんだ。なんだこのイリュージョン。別れたってことは黒死牟の所に行ったのかな。じゃあいいや…‥。

 

「おい、クソ姉貴。大丈夫か」

「ちょっとフラフラするけど大丈夫。移動しようか」

 

そう言った瞬間に足元の床が勢いよく抜けた。

宙に投げ出される私、愈史郎、獪岳、そして意識不明重体のカナヲとしのぶ。わああ、掴んで掴んで!! なんでカナヲちゃんまで重症なんだ!?

 

 

 

頼りない本作の主人公が信用ならない語り手になりつつある最中、獪岳は介錯人兼お目付け役として場に立つことになった。因みに義勇の行方は知らないし、炭治郎の行方もわからない。唯一わかるのは弟弟子の居場所だけである。

 

「……チッ 分断されるわけにはいかねえか」

 

掴んだ蟲柱を鬼に押し付ける。まぁ鬼だし、死ぬことはないだろう。落下の途中で見かけた隊士目掛けて荒っぽく蹴り飛ばし、その反動で落下する姉弟子へ近づく。

間抜けな顔をした姉弟子はハッとしたように刀を握り、重症の隊士を庇うようにして着地体制をとった。ここは……無限城の中央に近い場所?

 

三味線、いや、これは琵琶か。

 

「わあ!パルキア!」

「げ、空間系かよ」

 

挟み込むように伸びてきた床を雷で抉って突破し、着地しようとすればまたしても壁が迫る。両手の塞がった姉が刀を一旦捨て置き逃げに徹するのが見えるが、ここぞとばかりに追撃されている。チッ、姉の調子がすごぶる悪い。

姉弟子の調子が悪いには種類がある。一つは空腹。急にダイエットだのなんだの言って飯を抜いているパターン。もう一つは精神退行。突然意味のわからないことを言って、どこかに帰りたがる病気。見たところ半々だな。

 

「めんどくせぇ姉……」

「聞こえてんのよ! ちょっと、助けて!!」

 

ぴょんぴょん逃げ回る姉に似たような動きで近づいてくる影があった。ちょうど近くに居た恋柱である。

 

「待て、甘露寺! 鬼だソイツは」

「ええーっ!? そうなの未来ちゃん!」

「そうです、甘露寺さん! でも大丈夫です!」

「大丈夫なのね! わかったわ!」

「甘露寺ーッ!!」

 

蛇柱、伊黒の叫びも虚しく、二人は仲良く建物をぴょんぴょん移動していく。何が通じ合ったのかわからない女性陣を呆れた顔で追うしかない。俵抱きに持ち直されたカナヲの首がめっちゃ揺れてる。しかも、この女達やたら馬力があり、息を合わせたわけでもないのに建物を壊すこと壊すこと。まぁ調子が戻ってきたのは良いことか。

 

「蛇柱様! 姉です、味方です!」

「見ればわかる、仕方ない、甘露寺を信用しよう。……またしてもアイツか!」

 

修羅のような顔になる伊黒を見て姉が何をやらかしたのか不安になる獪岳。流石に鬼になった姉が何かをしでかしたという話は「ここにくるまで存在を知らなかった」ことから無いと思っているが、日頃の行いに信頼がない。

 

「恋の呼吸 陸ノ型──猫足恋風」

「和の呼吸 蛇ノ型──狭頭の毒牙」

 

カナヲを抱えたまま上弦を追い詰め始めた姉を見ながら気の遠くなった獪岳である。

 

「許すまじ……許すまじ茶柱……」

「すみません、本当にすみません」

 

しかしやはり、誰も気が付かない。

鬼のケガはすぐに治るものだという先入観か、元よりあまり人の話を聞いていないと思われているのか。未来が少しずつ過去へ戻ってはふり出しから始めていること、そしてそのシステムが少しずつ瓦解していること。砂時計の砂は少しずつ減っている。

そして、彼女はそこまで精神が強いわけではないのだ。

 

「……戻れ。そんなにも帰りたいならば私が戻してやろう」

 

無惨の声が聞こえてきた。未来は条件反射のように血鬼術を発動する。

 

 

時間は少し巻き戻って、信頼と安心の主人公を見てみよう。

 

「すんすん、アッチですね! 大丈夫ですよ寛三郎さん、すぐに追いつきますからね!!」

 

竈門炭治郎は烏に案内され冨岡義勇を追っていた。或いは逆に案内している気もするが、それはさておき。

進むと少し硝煙の匂いがして、待機命令を受けて近寄れない隊士がこの先に水柱が向かったと教えてくれる。その頃には機関銃の連続する発砲音が遠くから聞こえており、炭治郎はなんの音かと怯えながら近づいた。

 

「義勇さん!」

「来たか、炭治郎」

 

冨岡義勇は繭から女性を切り取った所であった。炭治郎も知る鬼、珠世さんである。村田が心底ホッとしている。

しかしその瞬間無惨がポンと産まれてブチギレながら暴れ始めた。インターネットで一番貶されている流行りのラスボスとは言え、主人公側に先に来られたら意地でもその風格を取り戻してくる。繭の中から最新兵器を煽る余裕はもう無くなっていた。

 

「しつこい。(中略) 異常者の相手は疲れた」

「存在してはいけない生き物だ……」

 

無惨には心臓が七つ、脳が五つあり、背中から九本管が生えていて更に隠すように腿から八本触手が生えている。そして鬼のパンツ(スーツだったもの)は失われ、下半身は口の生えた謎のズボン?を履いている。少年誌に居て良い風貌のギリギリだ。これがヤンジャンだったらかなり存在してはいけないレベルは高かったと推測される。

 

一般隊士が蜘蛛の巣を散らすように逃げ回るのを追いかけながら、無惨が「鳴女! その女をこちらへ寄越せ!」と叫んだ。

場所が変わる。地形が変わる。そして、灰色の、鱗模様の羽織が落ちてきた。血に混ざって僅かにお茶の香りがする。

 

「……え?」

 

小さい、子供のような大きさの鬼だ。それを無惨はヒョイと掴んで、握り潰して食べてしまった。

 

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