イェーイめっちゃ鬼殺隊 作:あああ
鳴女は考えた。どのみちジリ貧ならば同士討ちさせた方が良いに決まっている。
鳴女は舞台演出家でもある。ほぼ決着のついた黒死牟戦から一人、悲劇を演出するに相応しいキャストを引き抜く。
鳴女は演奏さえできれば良い。そこに人が死んでいればもっと良い。合いの手にも寛容である。
さあ、始めよう。最初からだ。
──獪岳とポジションチェンジしたとしたら、私ってどうなっちゃうんだ?
「あ、あぁれ? ごめん、ちょっとタンマ」
鳴女の前で急にふらついた未来を建物が攫っていく。致し方なく、伊黒がそれに対処すれば何故か引違戸から不死川まで吐き出された。咄嗟に二人を抱える羽目になる。
安全な場所へ、一旦、竹内という隊士とカナヲのいる場所へ戻ろうとするが、とうとう鬼になった茶柱の気がおかしくなったらしい。
「え、殴ってくる筆頭みたいなのが来たじゃん」
「何を言っているんだ、しっかりしろ。さっきまで甘露寺と話せていただろう」
「おとう……小芭内がなぜここに?」
「間違えるにしても誤魔化し方はなかったのか!?」
伊黒小芭内は未来の事を何とも思わない。
もしかして、一族の生き残りじゃないかと経歴を調べた事はあるが、明確な答えはわからなかった。ただ、もし親戚だったとして、あの家に嫌気がさして剣士を志した兄妹だったとしても、小芭内が心を開くことはないだろう。
視界に入る度に汚い血と逃げた業を思い出すので、未来がちょっと仲良くできるかなと思って話しかけた時に限って邪険にしていた。
「いいじゃない、同い年だし。柱だし。実は私も伊黒だし」
「お前は鬼だ。もう下ろす、錯乱するなら一人でやれ。首なら落としてやる」
「厳しいなぁ」
しかし、例の、汚すぎて冨岡に二度も殴られる羽目になった遺書によれば、未来は本当に"未来"から来ているらしい。これによって小芭内は、まさかの想定をしなければならなくなった。
「……本当に俺が父親な可能性があるのか?」
どことなく面影があるのだ。俺ではなく、甘露寺の。
それは例えば毛先とか、黒子とか、裏表のない眼差しとか。おそらく十人中七人くらいは小芭内を見出すにしても、三人は甘露寺を見出せる。小芭内と煉獄はその三人だ。
もしそうだった場合、小芭内は未来を殺せない。甘露寺の子供を殺すことなど出来ようもない。だから聞いた。
「未来、お前は人を食べたか?」
「わかんないよ、もう」
もしカナヲが起きていたら気付けただろう。血液が逆再生するかのように動いている事を。
未来はその質問の瞬間から巻き戻しをされていた。発動した血鬼術を抑えようとしたが無惨がそれを許さず、かろうじて話したかと思えばそれをも忘れていく有様で、しかし見た目はどこまでも変わらなかった。
「黒死牟は? 童磨は? ……獪岳は?」
「未来?」
「おとうさん」
砂時計の砂が無くなる瞬間は早く感じるものである。
「助けに来てくれたの?」
そして、最悪の状態から再生される。
身体中の水分が何かに吸い取られるような感覚、骨が軋んで筋繊維が脈を打ち、脳に深刻なダメージが発生する。空腹による意識障害のような、視界が狭まる感覚。暴れ出す衝動。冷や汗と身体の震えを押し退けて、なんとか身体の手綱を取った、のはいいが。
目の前の実弥ちゃんのいい匂い、奥で倒れているカナヲ、両の手の爪に染み込んだ血。
「違う。違うね? もしかして、私がやった?」
「しっかりしろ、伊黒未来! 無惨に呑まれるな」
「どうしよう、どうしょうどうしようごめんなさいごめんなさいごめんなさあああ」
なにやら、不味いことになったらしい。床に寝そべっていた不死川はそう思った。
起きたのはついさっきだが、少なくとも黒死牟が倒れた瞬間と弟の無事は確認していたので冷静だった。冷静じゃなかったらタコ殴りにしてたとは思う。
「わりィ、ちょっとまたたび効いちまったかも」
「不死川……! 起きてたならもっと早くに言え」
側から見ると急に取り乱し始めた未来は刀も持たず逃げるように走り出す。それを不死川が手に持っていたカエルをぶん投げて止めさせる。
「ケロちゃん、どこから?」
「おまえの弟ォ!」
我妻善逸、稀代のストライクパスである。そして未来が触ったカエルがオタマジャクシに戻ったのを見て能力を確信する蛇と風。血鬼術の暴走、対象は本人!
「手足までは切っていいかァ」
「……いや、それはちょっと可哀想じゃないか?」
「急にヌルいこと言い始めたなァ。お父さん」
「違う……! わ、わからないが」
「効いてんなァ」
抜刀した不死川と小芭内に合わせて肉から刀を生成する未来。その能力からして相当な長期戦になるかと思われたその時、上から人が降ってきた。この城ずっとこんな調子だな。
「姉貴!! あーもう、未来、しっかりしろ!!」
「獪岳!!? よかっ……」
刀をほっぽり出して落ちてきた弟弟子をキャッチした上弦の伍に、殴るような勢いで札が貼られ、注射が打たれる。しばらく床で跳ねるオタマジャクシだけが動いていた。
愈史郎は珠世さんの関わらないことにはかなり有能である。お館様に烏と視界を共有し、混乱に乗じて鳴女を乗っ取り、最終決戦でギリギリまで医療行為に当たる神(珠世)がたまわしたサポーターである。ちょっと毒舌だが、鬼殺隊みんな辛辣なので問題はない。
「よし、馬鹿醜女のアホ血鬼術が治ってよかった。これで無惨の支配も消えるだろう。というか今までどうやって動いてたんだ」
「無惨の声が聞こえたら聞く前に戻ってました」
「馬鹿ッつうかよくそれで通ったなァ」
「コイツ元からクソなんで無視に関しては一家言ありますよ」
「それより今はどの時点までの記憶があってどこまで血鬼術の制御ができるんだ。無駄な時間を取らせておいて役に立てません等とぬかすなよ」
珠世様基準で全部の女を馬鹿だと思っている愈史郎、テクニカル悪口理詰めの小芭内、身内に厳しい獪岳。この野郎どもの中ではただ口調が荒いだけの実弥ちゃんが一番優しい。育ちの良い甘露寺さんがビックリしている。
「はい、愈史郎さん。これで無惨の支配から抜けたんであれば正式に鬼になっても問題ないでしょうか。ずっと体がバキバキでしんどかったんです」
「時間をかけるな。さっさとなればいいだろう」
オタマジャクシをカエルに戻したような感覚で自分を未来に進める。ごちゃごちゃと繰り返していた記憶が戻ったり戻らなかったりするが、散らかりすぎて前衛美術みたいになっており意味はない。しかし体は何かを覚えているようで無意識の調整や能力の拡大ができるようになる。使いづらいわけだ、中途半端に得た能力に更に枷が付いていたわけだから。一旦能力を自分に絞ったのは英断と言える。
それにしてもウッワ、チートやん、ご都合血鬼術だろ感はあるが、直接戦闘向きじゃ無いものに限って強くなる法則でもあるんだろうか。もしくは純粋に血の量がゲフンゲフン。貧血になれ鬼舞辻無惨!
鬼のツノが伸びたり、身長が伸びたりと気味の悪い動きをする私を差し置いて、愈史郎が無惨に奇襲をけしかける提案をする。有難いことに原作よりもメンバーが多く、しのぶさんが目を覚ませば更に医療班も増えそうだ。テンポが良く来すぎて夜明けまでの時間はやや増えるが、十分有利であると言える。
「はい、愈史郎さん。提案です」
「何故いちいち挙手をする」
「私を無惨に食わせてください。時限爆弾やれます」
「一応聞くが何をする気だ」
「繭に戻そうかと思って」
刀で戦うよりこっちの方が早いと思います。完全体になった能力が有用すぎる。
これ日の光浴びるとか以前に「日が昇る前まで戻る」とか「日が落ちた後まで進める」とかの無法ができるようになる(未来形)タイプのチートらしい。鬼になりきらなくって良かった。未来に進める時点で進化先を考えて複数から選べてしまう事に震える。気に入った未来が出るまでやり直せるんだって……
チ、チートだろ(n回目)
これ私以外が持ってたらどう使ったんだ。完全体カーズになって全てを破壊するとかも想像力豊かだったらやれたんだろうか。全然やりたくならなくて良かった〜。将来の夢は不労所得!
「まず私の存在が無くなるギリギリまで戻した状態で食われておいて、そこから無惨に能力を明け渡して戻し続ける。どこまで戻すかは体感だけどタイマーはセットできる」
「それで繭のまま太陽で焼くのか。失敗は許されないぞ。そもそも無惨が貴様の血鬼術を操作できるようになったらどうする」
「それができたらもう無惨は私のことを鬼にしてる。アイツは私が発動した血鬼術を暴走させることしかできないし、細胞も抽出させない」
「作戦を決行した後、お前はどうなる」
「消えてなくなる」
「却下だ」
「いやどのみち無惨が死んだら鬼も死ぬっぽいし、結末は変わらないのでは?」
「馬鹿がよォ。この面子によくもマァ言えたわ」
「もう少し獪岳に配慮してやったらどうなんだ。可哀想に震えてしまって。弟弟子だとやかましく言っていたじゃないか」
「そうよ! みんなで一緒に朝日を迎えるの!」
むぐぐと唸る。そんな良い一手があるだろうか。鳴女を抑える愈史郎、稀血の実弥ちゃん、もうすぐ目を覚ますしのぶちゃんとカナヲちゃん、無事な獪岳。甘露寺さんと小芭内。
「閃いた。ちょっと実弥ちゃん血を貰っていい?」
「気持ち悪ィ顔だな。碌なことじゃねェだろ」
「お父さんとお母さんにも協力して貰いたいな。心配しないで、グロい部分はスキップするよ」
無惨を戻すには私が長時間の間触る必要がある。もしくはもっと近しい物を代理にしたら能力が使えるかもしれない。
「つまり二人の子供を作って私の能力を持たせて〜」
「却下ァ!!!」
無惨が、茶柱を食べた……?
裂かれた羽織と小さく飛び散った血液をみて、あまりにも間抜けな一節が頭を過ぎる。そう思ったのも束の間、触手の名前も型もない攻撃で炭治郎が沈む。義勇が抱えて退くが状況は芳しくない。
「どうする? 柱なら今、私の部下が三人倒したようだ。もう一人腑を食われた柱がいるようだが、今の柱で時間稼ぎは可能なのか?」
蛇、恋、何故か巻き込まれた風が犠牲になっている。近くにいた虫の息のしのぶにもトドメが刺され、暴走しきった上弦の伍が小さくなって倒れ伏した、かのように、無惨には見えていた。
「……何だ? 小さすぎる」
取り込んだものはどうやら腕のみ。そうか、珠世の鬼だ。幻術で本人だと誤認させたのか。それしきのことで欺いたつもりか!
取り込んだ腕が血鬼術を発動している。しかし意外な事に毒は取り除かれ血がより早く流れていくのを感じた。障害にはならない。むしろ高揚する、体が早く動かせる!
「いいだろう。残る柱は四人か? やれるものならやってみろ。全てここで終わらせてやる」
今ここにいる水柱、片目がない炎柱、出血多量霞柱、一夜の命、岩柱。無惨は余裕だと思った。
足りないなと思った人は多分戦線離脱、音柱である。あとは目が覚めたら素人手術にキレる蟲柱。実際は風も恋も蛇も死んでいないので、余裕で九対壱だった。三途の川でお館様が祭りの準備を始めたようだ。