イェーイめっちゃ鬼殺隊 作:あああ
獪岳は無限城に来たばかりのことを思い出した。弟弟子に何のまぐれか一度だけ負けて、しかし不貞腐れる訳でもなく、己の意思で死地に赴いた時のこと。そこに理由付けをするとしたら、否が応にも姉弟子の存在は避けられない。
師曰く、雷の呼吸の適性があるものは得てして激情型であると言う。色恋にうつつを抜かすものが多いとも言われている。確かに弟弟子を思い出すと、憎たらしいことに間違いとも言い切れない。
『私が暴れ始めたら首を切りなさい。いいね獪岳、返事!』
そして姉弟子は逃げるのがめっぽう上手い。
足が速いとかじゃなくて、問題から逃げるのが上手い。修行の時は壱ノ型で煽りにくるし、飯の時は返事をしないし、鬼になった時は……もう忘れた。獪岳は光の速度で失恋したのである。これがカスに聞かれていた場合、獪岳は姉を切ってから死のうと思っている。
「腕、生えないなぁ」
「そうかよ」
クソ。呑気なもんだ。切り取った腕の断面の血を舐めようとして、間抜けな顔をしている。いつもそう!
とても完璧な人間とは言えない。尊敬に値する人じゃない。しかしどうだ、唯一だ。獪岳を一人にせず、怒らず、許し、助けた。頼んでもないのに、こんのタラシめ! 死んでしまえ!
獪岳の心の箱は、少し粘着質な物で塞がれていた。
善逸や愈史郎とは違った方向性で恋愛をしている獪岳に、未来は変な懐き方しちゃったなぁとか思っている。幸か不幸か記憶が飛んだので振り出しに戻った。一番可哀想なのは巻き込まれる善逸だろう。
「あ、始まったな。愈史郎と無惨の鳴女相撲」
「なんだって?」
「城が壊れるんだ。欲しいものがあったら今のうちに回収したほうがいいよ」
腕がなかなか生えない未来と護衛の獪岳は愈史郎、竹内、目が覚めたしのぶと共に安全地帯に居た。
目が覚めたしのぶは怖かった。外科手術の件は許してくれたが、カナヲの件は許してもらえなかった。愈史郎が加勢してくれるわけがないので泣くまで突かれた。指じゃなくヘアピンの針で突かれたので、腕が薬物中毒者みたいになった。
今となっては無惨の腹の中だが、実弥ちゃんの血で下味を付けた腕は美味しかっただろうか。しのぶちゃんも率先して自分の血を提供しており、戻すんじゃなく進めようと言ったのも彼女である。なんか怖いギミックがあるらしい。ホンマに怒らせちゃダメな人って居るなぁとシミジミと感じた。おそらく珠世さんだったらここまで性格の悪……効きの良い薬は作れていない。
腹にあんまりな傷が残った件にはボロカス言われただけで怒っている雰囲気ではなかった。まぁボロッカスに言われたが、やった時のことは覚えていないし、もう治り切った所まで時間を進めてしまったので手の施しようがない。
「俺は珠世様と帰るためなら何でもする。殺してやるぞ鬼舞辻無惨……!!」
「愈史郎さんは相変わらずですねぇ」
「珠世さんも大変ね〜」
ここにお茶があったら、煽りながら一服と言ったところか。惜しいことをしたな。因みに夜明けまでは二時間あるらしいので三十分多めに踊る必要がある。腕は生えてくるだろうか?
鳴女の頭が潰れたのを皮切りに軋み落ちる無限城。頑なに私を離さない獪岳と愈史郎印の医療セットを抱えたしのぶ、ビビる竹内隊員と共に外へ出た。夜空が綺麗だった。
「さて、裏方は帰るまでが戦いです。忙しくなりますよ」
「はーい、しのぶ先生」
竹内と獪岳、私で愈史郎を掘り起こし、開けた土地を作り、そこに羽織とか布とかを敷けば限界野良病院だ。とりあえず烏に案内されながら重症者を運び込む。片手とは言え、元柱だからこれくらいはやらねば。
「お、むいむい」
「誰がむいむいだ」
なんと、拾った無一郎氏には腕があった。代わりに全身の傷のせいで貧血で起き上がれなかったらしい。そこは原作と一緒なんだ……。
「うーん、無限城の最初の傷ってどこ?」
「どれだっけ。それどころじゃなかったから」
「じゃあ大事をとってやめとくかな」
よくわからん血鬼術でうっかり刀鍛冶編まで戻ったらエグい。五体満足なら標準医療のほうが間違いはないはずだ。にしてもやっぱり黒死牟は強かったんだろうか。回想が長かった事しか覚えていない。この作品、兄という生き物に対して当たりがキツすぎる。うちの兄ちゃんもここまでするんだろうか? 別にしなくていいと思うよ!
近くに落ちていた玄弥くんに関しては体が繋がりかけており、ならせっかくだしと思って私も髪の毛を提供した。後輩に髪の毛を食わせる先輩、絵面が本当に酷かった。実弥ちゃんにバレたら殺されちゃう♡
「よし、他に怪我人は?」
「ね゛え゛ち゛ゃ〜〜ん゛」
「あらあら可愛い弟弟子が屋根の下敷きに」
獪岳が運ぶために戻ったのを見送ってから出てくる辺りがすごくらしい。別に悪いことじゃないのよ? ホントホント。
「足だけ直そっか? 戻すのと進めるのどっちがいいかしら」
「痛いよぉ〜 おじいちゃんのところまで戻してェ〜〜」
「……そう言えば左手で進めてるから今進める事しかできないんだわ。よし、運んであげよう」
生えかけた腕で支えてヒョイと背負う。うんうん、よく頑張った。やればできる子だ。
逆にやれという人が居ないとどこまでも落ちぶれていく性質ではあるので、獪岳も頑張ったのだろう。二人ともうちら(慈吾朗氏と私)の誇りだかんね!
「姉ちゃん……変な人と結婚しないでね……兄貴とか……柱とか……」
「そんな予定はないのよ。びっくりしたぁ」
さて、この辺で腕が生えたので現場復帰となる。善逸を下ろし、無惨を見やった。なんか思ってたより元気そうだな。えーと甘露寺さんが離脱して煉獄さんも離脱して実弥ちゃんも離脱! マジで!?
「血の抜きすぎか実弥ちゃん!!」
「うるせェ早く回復しやがれ!!」
「実はできない! 代打で出るわ!」
「出んなァ!! 一回聞けェ!!」
実弥ちゃんはストリートが一番強い。ええとつまり、試合じゃなくて型のない殺し合いが本領なわけだ。だからこそ生き汚なさに定評があり、こんなとこで大人しくするタイプじゃあない。予期せぬ何かが起こったと考えた方が良い。私か?
「腕が解析された、血鬼術で対抗するな!取られるぞ!」
「私だ!マジで!」
「動きが早ェから絶対逃すな!!」
……あああああ逃げる!? 逃げる!! 無惨は逃げるぞ、考えてなかった!!
髪の毛がワーッと逆立って血がサーッと顔から下りて悪寒がシャーッと首にくる。弟達が居なくて良かった。すごく情けなかった。このウワーッ!?感はあんまり見せるものじゃない。ええい負けるな、何とかするんだ!お姉ちゃんだろ!
「早く復帰してね!」
「ワーってるよ!!」
「ホントだね!?ホントにね!?」
普段は「え?なんとかなるなる」を地で行く女が表立って危機感を露わにするのはギャップがある。時に未来は沢山いる兄妹の中ではどちらかと言えば末の方だ。姉ぶっているが妹の方である。
そういうトコロは可愛げがあんだよなぁ。不死川は場違いにもそんなことを考えた。隠れていた獪岳が出てきて凄く力強く医療行為を始める。善逸もそれに続いた。
「血鬼術、使えるには使えるけど……!」
腕が吸収されきった、つまり"先送り"はもう取られてる。お得意の"巻き戻し"が取られるよりはマシか……逆命ってわかりにくいな? 改名しとく?
ともあれ最悪だ。無惨が倍速で動くぞ。逆に他の柱は何とか食いついていってるということなのか。スゲーな普通に。やるなイグッティ。
とりあえず落ちていた日輪刀を拾い、握って感覚を確かめる。月の呼吸の適性の人だったのだろうか、薄紫色の刀身だった。肉の刀と違って一つ一つが命と同等に重い。大切に使わせて貰おう。
赫刀という技がある。初出は刀鍛冶編の中盤だったか。要約すると柄を強く握る、刀に衝撃を加えるなどして温度が上がれば鬼が回復しずらい武器になるというものである。
丁度、成功例を目撃した。目の前に刀を強く握った父が居た。鬼舞辻無惨はちっちゃいトルネードのように暴れ回っていて、その手指が迫っていた。死ぬ。血鬼術を使ったわけでもないのにスローモーションに見えた。
「ヤダァァ!!?」
引っ掴んで投げる。心臓が口から出るかと思った。ほん怖!
これは流石に原作にもあった展開の筈だが、まぁわからんな。どこで誰が死んだかくらいしか覚えちゃいない。そして父……厳密には父親じゃないが同じ顔の人を目の前で死なせる訳にはいかない。まだ告白もしてないのに死んでもらっては困る! 来世に影響が出る!!
「未来ッ!? 生きてたのか!!」
「義勇も元気そうで良かった!!」
「(無惨の血を喰らっているので)元気ではない!!!」
「(解毒薬なら)もうちょい(で来るから)辛抱して!!」
無惨の速度が上がり、必然的に鬼殺隊の動きが置いていかれているせいで援軍の到着が遅れている。あれっもしかして不利ですか?
しかしもうそんなことを考えている場合ではなく目の前の竜巻に集中するしかない。炭治郎が目で追えないと言った通り。カスの縄跳びみたいなゲームが始まった。
ムチは長く、先端が細くなればなるほど速度が上がり、音速を超えることができるらしい。実際に謎の衝撃波とか出してた気がするし、普通にバケモン。身体スペックのゴミ。無限ゴミ。
「うーん和の呼吸 月ノ型──月魄災渦!」
「何だと!?」
「ウソでェす!! 風──木枯らし颪ィ」
「……伍ノ型──瓦輪刑部」
「アッ 怖ァ!?」
降ってきたモーニングスターをビビりながら避ける。岩の呼吸、怖スンギ。しかもこれ私鬼だから回復すると思われてないか。しないんですよ、下手すりゃ玄弥くんよりねえ!!
「そうか……未来だけ柱稽古をやっていない……」
「そうよそうよやさしくしてよ」
「しかし……ほとんどの呼吸を使えると……」
「岩は無理だよどうやって使うんだよォ!!」
「ああ、わかる。悲鳴嶼さんは強い」
「そんな話をしている場合かっ!?」
駄目だツッコミが足らん早く復帰してくれ実弥ちゃん小芭内の負担が重すぎるぞ!
とりあえず個で固い悲鳴嶼さんは置いておいて、連携が取れる組の隙を埋める形で行こう。危ないムチを掻い潜りながら小芭内の刀にぶつかってみる。よっしゃ!赫刀ぅ熱ァ!?!?
「アッ痛ゥ! 食らえい!!」
ええい投擲。ごめん月の呼吸の人!!
よく考えたら鬼が赫刀持てたら黒死牟も持ってるよなぁ!?!? 受け取れ無惨!!
「またか! この蝿ども!!」
「やーいやーいフローラルフォーム!!」
「どこが生花だ!!!」
諦めて肉から刀を精製する。黒死牟先生、教えてくれてありがとう……!
実際、特殊な刀を作ろうってんならこれが一番手っ取り早い。じゃあ何で日輪刀拾ったかって、言わせんなよこちとらまだ心が鬼殺隊やってんのよ。悪鬼滅殺って掘られてるやつが良かったの! DX日輪刀がいいの!!
飴なしムチを延々と回避するのはエフェクト弾幕ゲーと違った趣があるが、鬼化バフがかかっている私よりも柱の方が体力の消耗が激しい。しかも連戦だ。
不味い、いくら何でも綻ぶ。実際に綻んだお父さんを咄嗟に庇おうとして、不自然な風?が吹いた。……透明人間!?
「カナヲちゃん、実弥ちゃん、伊之助……」
「生きていたか……!!」
「それに獪岳と善逸も居るね!!」
「わかってるなら敵の前で声に出して言うんじゃねぇ!!」
鉄球と斧がぶつかるおっかない音がする。鐘なんてレベルではない。それと共に実弥ちゃんが義勇に奇襲を仕掛けており、かなり面食らっていた。そんなことより夢のタッグだ。うちの弟達が共闘を!?
「行くぞ善逸」「わかってる獪岳」
「わあ!! すごいうれしいなこれ!!」
パギャッ
ドンという音は遅れてきた。より早くなった無惨は容赦なく人を削っていった。気づけば時刻は朝五時半。我々は例外なく建物や地面へ吹き飛ばされていた。何が起きたかなんてわからなかった。
──なんだよ、全然強いじゃないか。鬼舞辻無惨……