イェーイめっちゃ鬼殺隊   作:あああ

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昔々、或いは100年先の話。私はしがない定食屋の娘であった。
食いしん坊で可愛いお母さんと、娘にも嫉妬するレベルで陰湿な父と、少し反抗期でお父さんとお揃いなのが嫌な私。兄弟が五人、それとペットの白蛇。餌のネズミはカウントしない。
義一という友達がいて、善照という近所の兄がいて、ゲームとかが好きで、よく神社に入り浸っていたっけな。ありふれた平和の中で育った。

産屋敷神社では年に一度、神楽を奉納していて、善照兄さんもその一人だった。舞っている時だけは本当にかっこいい。私はよくそれを真似ていて、炭彦というお兄ちゃんの代わりに舞ったこともあった。義一も水の神楽が踊れた。
踊るのは好きだ。体の隅までわかるように、それ以外を見るのはやめて、一切の無駄なく決められた動きを繰り返し、昔は一晩も踊っていたらしい。今ではそんなことは無いけれど、踊って良いなら踊りたいかもしれない。
そこの神社に本があったんだ。流石に本当の話だとは思ってなかったけれど、事実ならなんて悲しくて、優しい人たちなんだろうか。
出来る事なら、恋の呼吸と蛇の呼吸も奉納してあげたい。もし昔の時代に来たことに理由があるとしたら、きっとそんな事だろうと思う。

後悔は思ったよりも無い。
長い夢のような体験をした。



朧げに人

柱が死んだら普通は噂くらいにはなるだろう。

実際はならなかった、まだ正式に柱にはなっていなかったからだ。それが隊士の為にも幸いだったと言う者も居れば、上弦の壱と遭遇してあれだけの時間、広範囲に血鬼術の残痕を残させた腕前を惜しむ声もあった。

しかし……珍しいことではない。これまでの歴史の中にいくらでもある、人の死が一つだ。

 

柱稽古が始まり、獪岳もそれに赴いた。当然のように立ちはだかる岩柱、悲鳴嶼行冥である。過去に孤児として寺で暮らしていた頃の恩師であったが、目は合わない。かたや盲目である。

しかし悲鳴嶼は聞いていた。うちの弟弟子を許すかは任せると、同僚になる筈だった女性が言っていた故に。

 

「ああ、悲しいことだ」

 

たとえ本人が「イェーイめっちゃ鬼殺隊」というノリで始めたことであっても。軽い隊律違反を繰り返し、仕事をサボり副業としてカエルの養殖をしていようとも。紛れもなく使命を全うした、偉大な隊士だった。お館様は報告を聞いた時、目を伏せて「あの分厚い遺書の詳細は聞けないんだね」と悲しそうに言っていた。

 

遺書。鬼殺隊員ではお約束のように書いて預けられている。宛先はお館様、師匠、獪岳、善逸、冨岡義勇、実弥ちゃん。家族には無し、そして書き損じとして藤の家に捨てられていた炭治郎、伊黒宛の手紙などがあった。

未来の文字は、あまり綺麗では無かった。筆でとにかく書き損じて、そのうち木炭を使って下書きを書くようになったようだが、割とクセのある文字を書く。あと何故か、左から右に書く。途中で気がついて縦書きに直したらしいが、お館様宛の鬼に間するレポートはほぼ怪文書のそれである。所々に横文字が登場するので解読に手こずっていた。

まぁ、本当に未来から来ているのでさもありなん。アレってまだ無いの?を何度でも繰り返しながら生きているし、持って来たオーバーテクノロジーは電源の切れたまま、ダメ押しとばかりにお館様に預けられた。意味があるのかもわからないが、100年ジェネレーションギャップのことは一先ずこれで終わりにしよう。

 

問題は内容だ。

一応彼女なりの努力の結果で、無限城の覚えている限りのことは書き残されていた。無惨が討てる、今年の冬──冬至か大晦日かは知らないがほんの数日の内に。それが気力だけで保っているお館様をどれだけ励ましたことか。

そして未来からもたらされた産屋敷ボンバーという単語が、どれだけの困惑をもたらしたことか。しみじみと遺書にしておいて良かった案件である。

兎に角。上弦の鬼についての情報は柱内で共有され、上弦の弐に食べられちゃってェ……と涙の跡と共にめちゃくちゃ書かれた胡蝶しのぶ氏は若干の気まずい思いをした。そういう事をあっけらかんと言うから嫌われるんですよ、と言いたい相手は既に草葉の陰である。

実弥ちゃん宛の手紙には、殴り書きの大きな文字で「弟が死ぬ前に話しておけ!ps.目を潰しても無駄」とだけ書かれており、正しく火に油。

ここまで読まれて全ての遺書に検閲がかけられる事となったが、冨岡と弟弟子に関しては本当に真っ当なことしか書かれておらず、再び激怒する実弥ちゃん。カエルを百匹引き取る羽目になる義勇。

 

対無惨用地雷原は混沌としていた……。

 

「しかし、事前に攻略?情報が貰えると言うのは有り難いですね」

「合ってればなァ」

 

何せ主観である。童磨戦まではかなりしっかり書かれていたが、黒死牟はかなりパァで「はっぱカッターめっちゃ切れて草」レベルの事しか書かれていない。そんな事はお前の死場所を見りゃわかる。

まともに役に立ちそうなのは鳴女という鬼のことくらいだろうか。しかし市街地戦に移行するのもまた考えものだ。武器の持ち込みができる点しか評価できないだろう。

 

「やはり、厳しい戦いになるんだね」

「お館様はこの情報を信じるのですか」

「……このスマホと言うものは今の時代に無いものだよ。しかし、ふふ、本になっているんだね」

「少し複雑な気持ちになりますが……」

「いいじゃない! 未来から助けに来てくれるなんて……なんて……」

「甘露寺……別にそこまで考えてる奴ではなかったと思う」

「まァそうだよな」「うん、そうだと思う」「地味にそうだろうな」

 

「………」(否定はしない)

 

まさか狐のキーホルダーのついたガラス張りの鉄板が決め手になっているとは梅雨知らず、柱稽古は進んでいく。

 

「獪岳!」

「やめろ、呼ぶんじゃねえ」

 

舞台は変わって、迫真の「呼ぶんじゃねえ(ド低音」と共に岩柱邸に電流走る。ダブル弟弟子の元にも烏と雀によって遺書が届いたのだ。

善逸の手紙はシンプルで「獪岳のことよろしく、自信持って生き残ってこーぜ!」だった。とっても軽やか。

 

「姉ちゃんが死んだって、マジなのかよ」

「……ああ、そうだよ。上弦と戦って喰われたんだよ」

「そ……そんな……本当に食べられちゃったのか?」

「知らねえよ、クソッ」

 

しかし軽く励まされただけの善逸は勿論、当事者の獪岳にとっては堪ったものでは無い。ずっと追いかけ続けた姉弟子、有り余る才能で全て呼吸を使う剣士。まぁ生活能力が皆無な癖に急に変な事を始めて喧嘩をするような仲ではあったが、辛うじて未来は尊敬を勝ち取っていた。それだけに辛い。

 

どんなに才能があっても倒せない鬼がいる。

そんな当たり前の事を、この世界は何度も突きつける。全ての努力を嘲笑うように命がこぼれ落ちる。何を間違ったのだろうか。正しいことって何だ。もしかして、死ぬことか?

 

「知らねえ。……俺のせいじゃない」

 

ああ、清々した、と考えれば楽だろう。

アイツが修行をサボっていつも呑気にお茶を飲んで遊び呆けていたから負けたのだと、言ってしまえば楽になるはずだ。ぐるぐると思考が空回りしている。いつも突然やってきて、勝手に腹が減ったと何処かへ連れて行き、さあ鍛錬だと煽ってくる、鬱陶しいだけの姉だ。

 

「アイツが勝手にやったことだ、俺には関係ない」

「違うだろッ!!」

 

獪岳は稽古場から離れ、林の中へと進んでいく。それを追い越して、善逸は立ちはだかって訴えた。

 

「だったらアンタは何でここに来た!? その鬼を倒す為じゃないのか!!」

「テメェに何が分かるんだよ、カス」

 

砂を投げる、善逸は避けない。目も逸らさない。逸らしてはいけないし、逃がしてもいけない。軋むような、塞がれかけた穴がひび割れて、箱が割れるような音がする。

 

「わかるよ!!! 姉ちゃんにもわかってただろうな!!! 壊れてんだよ、アンタは」

 

それはもしかしたら、俺もかもしれないけど。

声を出す前に木刀を腕で受ける。ああ、クソ。頼むって簡単に言うけどさ。俺、姉ちゃんに稽古をつけてもらったことなんか一度しかないんだぞ。いつも寝てる間に炭治郎と伊之助が何とかしてくれてるんだぞ? 無茶言わないでェ!?

 

「……構えろよ、カス」

「に、逃げんなよクズ!」

 

獪岳の手紙には「先に行ってるけど、善逸に五連続で勝ったら追いついたことにして良いよ!」と書かれていた。さてはて、善逸は勝てたのだろうか。

そして「いっぺん喧嘩させてみるので、仲直りの方よろしやす」と書かれた遺書を見て、頭を抱える慈吾朗師範。雷一門、天気は荒れ模様。

 

「……なんだ、これは」

「伊黒さんに会うので、ついでに持ってきました!」

 

時は進んで竈門炭治郎、蛇柱の稽古に来たところである。お館様が手紙にゴミ……書き損じの怪文書を同封してくれた。有り難いことに未検閲。幸いなのは下書きの状態なのでとても読める文字じゃないことくらいである。

 

「俺の手紙はほとんど黒塗りで……でも少し後悔の匂いがしたんです。伊黒さんのは──」

「要らない」

「何故ですか!?」

 

「どうせ死ぬ前にああしろこうしろと偉そうな事が書かれているんだろう。内容など予想がつくが俺はやらない」

 

伊黒と書かれた二つ折りには──

 





「帰りたいよ〜おと〜さ〜ん……」

さっきまでいい感じに締めようとしてたけど血の味しかしなくてマジで無理。リンパ液とか汗とかはちょっと塩味して美味いかもしれんけど口の中いっぱいの血はなんか……ヴェアッ!
あと体が痛い。コロナになった時より痛い! 
最悪だよ。二番目くらいに最悪。命があった事を喜んで本当にいいのか怪しいぞ。既にちょっと後悔し始めている……!

「……父親は、鬼殺隊か」
「コック志望も居るしウソだよこれウソウソ」
「……元気だな……食べるか?」
「あ、まだお腹痛いので大丈夫ですよ」

拝啓、助けてお父さんお母さん!
男の人の腕を出されてるんだ! 本当に腕を差し出されているんだ!!
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