嘘物語   作:嘘烏

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今回からオリ設定あり。
神撫子はエアスポットの管理のこととか知らないよな〜とか考えて書きました。

2025/08/24 矛盾点を修正、005を一部変更
2025/10/13 次回豫告の画像を追加
2025/10/28 章の文字修正


第再話 でいしゅうリターン 其ノ弐

003

幸いにも下山は無事に済んだ。

満身創痍を通り越して瀕死の状態であった事を考えると奇跡のように思える。

携帯の電波が通じるようになっていたので、ふと日付を確認してみた。

 

3月20日。

ふむ。

ふむふむ。

俺が仕事を終えて襲われたのが2月1日だから、1ヶ月半雪に埋もれていたことになる。

いやその理屈はおかしい。

いくら仮死状態とは言え約2ヶ月埋もれていたら流石に死ぬだろう。

不可思議だ。

神様の御加護か?

いや、それは考えにくい。

他人のことをまるで相手にしていないあの神様(元神様か)がそんな事を俺にするとは思えない。

妙にひっかかる。

 

そんな事を考えながら、俺が1月から拠点にしていた町―――間違っても阿良々木どもが住む街ではない――に戻る。

 

駅のコインロッカーから詐欺計画ノートを回収し、今夜の宿へと向かう。

念の為に預けておいて良かった。

 

生憎、タクシーを捕まえられなかったので徒歩で向かうことにしたが、これは失敗だった。

ホテルに到着したと思ったら、エントランスの前に誰かいる。

「いぇーい」

オレンジ色の帽子にミント色の髪。

ティアードスカート。

誰がいるか嫌でも分かる。

斧乃木余接だった。

「ピースピース」

…宿は別の所にするとしよう。

 

004

その後、踵を返して別の宿へと向かおうとしたが、あまりにもしつこくついてくるので、諦めて結局最初に泊まる予定だったホテルにチェックインした。

「いい年した中年がいたいけな童女をホテルの一室に連れ込むだなんて、犯罪臭しかしない状況だね」

「何がいたいけだ。痛々しいの間違いだろう。無表情で横ピースしてる奴のどこが痛々しくないんだ。」

「いぇーい」

…無視した俺を褒めてほしい。

 

「ともあれ、なんとか生きてたみたいだね、貝木お兄ちゃん。てっきりあのまま死んだものかと思ったけど」

「勝手に殺すな。人はそう簡単に死なねぇよ」

死んでたまるかよ。あとお兄ちゃん付けはやめろ。

字は違えどあのロリコンと同じ呼ばれ方をされるのは、流石に納得いかない。

「本当は正弦みたいに人形でも使って地獄から帰って来たんじゃないの?」

「人形?」

何を言ってる、この童女は。それと俺の関節を突き回すな。

というか手折に何があった。

斧乃木はそんな俺の怪訝そうな顔を見ると、

「こっちの話さ」

と話を打ち切った。

どうやら俺が遭難していた間に色々あったらしい。

 

本題に入る。

「で?お前がわざわざ来るということは何かあったのか」

「瀕死のあなたに手当てをするよう、臥煙さんとお姉ちゃんから言われてね。本来はお姉ちゃんの方が適任なんだけど、今は北極にいるから、代わりに僕が選ばれたんだ」

斧乃木は無表情ながら不服そうに言う。

頭の上のオレンジ色のアレの耳が左右に揺れていた。

お前は猫か。

「そいつはありがたいな。しかし、俺は臥煙先輩から縁を切られたはずだが、そう簡単に無かったことにするのはどうなんだ?」

「それを僕に言われても困るよ。臥煙さんが何を考えてるなんて僕には分からないし、分かりたくない。――それでも僕が思うに、あなたが不安定な千石撫子をうまく騙すことに成功した後、不在だった神の座に安定した新しい神を据えることが出来たから、臥煙さんとしてはもうあなたのことを許しているんじゃないのかな」

不安定?

千石撫子が神になることであの街が安定していたから、臥煙先輩はその神様を引きずり降ろさんとする俺と縁を切った訳だが、少なくとも俺はそう認識しているが、そうじゃないのか?

「神様がいるだけじゃ駄目だったんだよ。一応、神様がいる自体である程度は安定していたみたいだけど、あくまで神様がエアスポットにたまる「よくないもの」を管理することで街のバランスが保たれるわけだから、能動的に神様が管理しないと駄目だった。千石撫子の場合、その神様の役割が不十分だったんだ。

「はっきり言えば、千石撫子は不適格だったんだよ。もちろん、御札を飲み込めば誰でも神様になれるわけじゃないから、そっちの適性はあったんだろうけど。彼女の場合、神様としての心構えが足りなかった。そもそもが突発的な事故みたいなものだったから、臥煙さんが軌道修正しようとしても、すでに出来なかった。

「だから、あなたが千石撫子を騙して、神様の座から下ろしたことは、結局のところ臥煙さんの思惑通りだったんじゃないのかな」

そういうものなのかな。

「結局、俺はあの女の手の内、ということか」

そう俺が呟くと、

「僕ら含めてそうなんだろうね」

と、横ピースで斧乃木は返した。

鬱陶しいからやめろ。

「そうだ、あの後、千石撫子は漫画家を目指すようになったんだけど、貝木は千石撫子に何を言ったんだい?」

そんなの決まってる。

「当たり前の事を言っただけだ」

 

005

少しシャワーを浴びてから、手当てを受けることにした。

傷にシャワーが染みて痛み、やはり人助けはするもんじゃないと思いつつ、部屋に戻る。

 

斧乃木の手当てはシンプルなものだった。

霊験あらたかな御札を殴られた後頭部に貼って、終わり。

御札の効果は前に見たことがあるが、とてつもないものだ。

大学時代、影縫にボコボコにされたときに謝罪と慰謝料代わりに貼られたが、一瞬で傷が治癒して、驚いたものだ。

 

「それと、あなたにちょっとした仕事の依頼を持ってきてあげようと思ってね。これは個人的な依頼だ」

「仕事?」

「そう。貝木、あなたには連続失踪事件を解決してもらう。どうにも、この事件は怪異絡みであるようでね」

は?

「そうはいっても、俺は瀕死の体だぞ。それに俺は刑事でも探偵でもない、ただの詐欺師だ。俺に何ができるっていうんだ?」

体調に関しては、影縫の御札でなんとかなっている。

とは言えない。いくら霊験あらたかと言っても限度はある。

しかし、この件を拒むのは単に面倒臭いからだ。

人は面倒臭いという感情に弱い。

それは俺も同じことだ。

 

「でも、あなたは専門家だ。偽物であろうと、詐欺師であろうと、怪異の専門家だ」

と斧乃木は言う。

「臥煙先輩に相談できないのか。専門家の一人や二人、つけてくれるだろ」

と、俺が言うと、

「それがそうもいかないんだよ。ちょっと色々あってね。僕一人で追っていたけど、手こずってしまった」

 

…少し1人で考えたい。

そう言って斧乃木を帰し、ベッドに倒れ込む。

千石撫子という怪異につい数ヶ月前相対し、殺されそうになった身としては、暫く怪異とは距離を置きたかった。

代わりに影縫はどうかと考えたが、あいつは北極にいると聞く。

臥煙先輩も立場上動きづらいし、忍野の奴は消息不明。

手折に至っては、生きてるかどうかすら不明だ。

となると、俺くらいしか、今の斧乃木が頼れる奴はいないようだった。

 

どうしたものか。

 

「さて、自問自答だ」

姿見の前に立ち、何時ぞやのように自問自答する。

「斧乃木余接の為に働いてやる気持ちは俺にあるか。昔からの付き合いの奴の依頼を受けてやる気持ちは俺にあるか」

「NOだ。幾ら昔からの付き合いとは言え、俺の知ったことではない」

1人で頑張らなければならない童女に多少は同情したが、たぶん何とかなるだろう。

 

「ならば、襲われてしまった善良な一般市民達の為に、俺は無償で何か出来るだろうか」

「NOだ、誰だそいつらは。知らん」

 

では、と続けて、

「斧乃木さえも手こずらせる怪異、そいつを調査することが俺の詐欺の役に立つかもしれない。費用は、その投資だと思うことにするするのはどうか」

と、問うてみても、

「NOだ、投資だとしてもいくらなんでもリスクが大きすぎる。そもそも数ヶ月前まで死にかけてた身だ。怪異と相対するにはコンディションが悪過ぎる」

との答えが出るだけだった。

俺は命よりも金を大切にする人間だが、しかし、それでもリスクは冒したくない。

命は取り返しが付かない。

絶対に。

 

「それよりも問題は報酬だ。斧乃木は払えないだろう。だったらまた影縫からせしめるというのは、NOだ」

影縫の奴は北極だ。

武者修行でホッキョクグマと闘うリアルモンスターハンターな暴力陰陽師に連絡ができるとは到底思えない。

というかしたくない。

それにいくらグローバル化が進んだとはいえ、北極まで直接電話は繋がっていない。

…繋がってないよな?

もし仮に繋がったとしても国際電話は高い。

 

ふむ、駄目だ、いくら考えても、この仕事を受ける理由が見当たらない。

何の得も無いどころか、受けることが、俺の損にしかならない。

 

「では」

臥煙先輩はどうだろうか。

影縫から連想して、臥煙先輩との関係について考えてみる。

いくら俺がやったことが、結果的に臥煙先輩の手助けになったとはいえ、あるいは斧乃木の推測通り、あの女が俺を許しているとしても、正式には俺は完全に縁を切られてしまっている。

こんな俺でも臥煙先輩が作り上げた組織、臥煙ネットワークと言うものに所属していた。

今後の商売の事も考えると、やはり臥煙ネットワークに入っていない状態は非常に不味い。

どうにかして臥煙先輩の信頼を取り戻さなくてはならない。

 

一つ息をつき、決意を固める。

「臥煙先輩の信頼を取り戻すために斧乃木余接に協力し、強力な怪異と対峙することが俺に出来るだろうか」

今度こそ、答えは一瞬で出た。

 

 

 

 

「YESだ」




次回豫告
「やあ、悪魔様こと沼地蠟花だよ」

「皆は掃除をしていて驚いたことがあるかい?」

「私は先日、部屋を掃除していたら、なんと血まみれのカッターナイフが出て来てね」

「ひどく驚いたものだ。自分でも驚くくらいに動揺してね」

「パニックになってゴミ箱に捨てたと思ったら、夢だった」

「夢オチなんてがっかり?私なら不幸な事がなかったことにがっかりしてしまうが」

「次回、でいしゅうリターン其ノ参」

「なんであんな夢見たんだろう?」
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