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更新情報
2025/10/13 次回豫告の画像を追加
2025/10/30 章文字修正
006
次の日の朝、俺は斧乃木に会うため、某カフェへと向かった。
現在、午前7時13分。
報酬について懐柔、あるいは交渉する為に懐に多少の金を忍ばせて、ホテルを出る。
到着後、テラス席を取り、何時ぞやのような甘ったるそうな飲み物を注文。
税込560円。
それと自分用にブラックコーヒーを注文。270円。
合計830円である。
安いとは言えないが、必要経費と思うことにする。
その2分後に斧乃木が到着。
というよりかは、着陸のほうが正しいか。
例の『
やたらアクロバティックな登場の仕方だが、何かのアニメの影響でも受けたのだろうか。
例えてみるならば、某天空の城映画の「親方!空から童女が!」的な登場である。
どちらかといえばこのシチュエーションは、戦場ヶ原と阿良々木の出会い方だが。
ともあれ、着陸した斧乃木は、唖然としている俺の方へ、まるで何もなかったとでも言わんばかりに歩いてくる。
不味い。
相手のペースに呑まれている。
「よう、斧乃木」
俺の方から話しかけたのは、会話の主導権を握ろうとする、せめてもの悪あがきと思ってもらって構わない。
「おは、貝木お兄ちゃん。いぇーい」
正面に座った童女は、横ピースで返した。
だからその横ピースをやめろ。
まともに挨拶しないのか、こいつは。
今更ながら、この依頼を蹴ってもいいのではないかと思い始めてきたが、今後のため我慢する。
「それで、答えは出たの?」
「答えるよりも先に、その連続失踪事件について教えてもらおうじゃないか。お前が把握しているということは、少なくとも阿良々木たちが住んでいる街周りで起きているようだが…」
その場合、かなり慎重な行動を要する事になり、非常に高い報酬を要求することになる。
あの街をうろついているのがバレたら、それこそ、戦場ヶ原かファイヤーシスターズに殺されてしまう。
死にかける恐怖はもう御免だ。
およそ2000万円ぐらいが最低ラインだろうか。完全に捕らぬ狸の皮算用ではあるが。
そう考えていると、意外な回答が返ってきた。
「いや、あの街じゃない。その隣町の蝦蟇山周りの人間が次々に失踪しているらしいんだ。臥煙さんとお姉ちゃんは蛙の怪異絡みの事件と睨んでる」
「蝦蟇山?」
一瞬聞き慣れない地名が出てきたが、思い出した。
以前あの街に行く道中の駅の名前にそんな感じのがあったような気がする。
蝦蟇。
ニホンヒキガエルの別名であり、ヒキガエル科ヒキガエル属に分類される蛙の一種。
イボだらけの姿や、毒を持つことで忌み嫌われる一方で、ガマの油売りなどで親しまれている側面もある。
また、三竦みの一角を成し、蛇に喰われ、蛞蝓を丸呑みする。
蛞蝓──まさか。
「なるほど、三竦みか」
「そう。問題はそこなんだよ。蛙が蛞蝓を丸呑みするように、蛙の怪異は蛞蝓の怪異を抑え込める。せっかく新しい神が据えられたのに、それを無力化しかねないんだ。
「本来は北白蛇神社の蛇神が睨みを効かせていたことで、文字通り『蛇に睨まれた蛙』状態だったんだろうけど、千石撫子の一件で蛇が蛞蝓で上書きされた。脅威が消えた。
「神がわざわざ睨みを効かせる程の実力の怪異が天敵から解放されたんだ。奴にとっては復讐の絶好のチャンスだろうね。なにせ神様はまだ着任1ヶ月の新米なんだから。
「だから近隣住民を呑み込んで、力をつけ、意気揚々と直江津に攻め込もうとしている」
このままじゃあの街はおしまいだ、と斧乃木は締め括った。
「すると、あれか?俺が千石撫子を──蛇神を、蛞蝓豆腐で封じたことで、あの辺り一帯のパワーバランスが崩壊したという訳か。そういうことだろ?」
「結果的にはそうなるね」
「お前、昨日『あなたが千石撫子を騙して、神様の座から下ろしたことで、結果的にあの街が安定したんじゃないかな』とか言ってたよな。今言ってたのと、食い違わないか?」
「それはあくまで安定したのは直江津町だけであって、隣町でそんな事が起きるなんて臥煙さんも想定外だったんだよ」
「先輩の想定外って不味いじゃねえか」
「不味いどころの騒ぎじゃないよ。臥煙さんはパニックを防ぐために一部情報統制をしてるけど、そろそろ失踪者が15人を超えそうで駄目そう」
「そこまで行くまで放っといたのか?」
「まさか。専門家を5人送って、5人とも目玉だけ帰ってきたんだよ?無理無理」
「じゃあ神様はどうだ。据えられて、まだ1ヶ月弱だとしても、仮にも神様だぞ、対抗できる可能性はないのか?」
「可能性はあるかもしれないけど低いと言わざるを得ない。せいぜい時間稼ぎができるくらいだと思う。せいぜい…1週間くらいかな」
俺は本当に、本当に面倒臭い案件を拾ってしまった事に絶望した。
しかし、こんなときにも希望を捨てないのが俺である。
そういえば、と俺の脳内でもう一人の俺が語りかける。
聞くところによれば、その新しい神様は、元はといえば阿良々木の親友だという。
その親友が呑まれてしまえば、阿良々木は当然悲しむだろう。
臥煙の忘れ形見もそれを見て悲しむ可能性は非常に高い。
そもそも、あの街が危機に瀕しているということは、臥煙の忘れ形見が危機に瀕しているということである。
昨日の時点で答えは決まっていたが──
「どうだい、一緒に蛙の怪異を退治して、臥煙さんの信頼を取り戻すというのは」
今回は30分も要らなかった。
007
「報酬に関しては成功次第交渉しようと思うが、とりあえず直近で20万円寄越せ。あくまでも前金だぞ」
言い忘れていたが、俺は前金は最低15万は取らないと仕事を受けない。
神様を騙したときは10万円だったって?あんなの仕事と俺は認めない。ノーカンだ、ノーカン。
斧乃木はスカートから茶封筒を取り出し、ドンとテーブルに置いた。
封筒を受け取り、中を確認する。
きっかり20万入っていた。
仕事開始である。
俺と斧乃木はまず、直江津町の隣町、井戸海町に向かうことにした。
本来、斧乃木は阿良々木月火の監視任務があるそうだが、今日から4日間、阿良々木家の人間は家族旅行に向かうらしいので、特別に許可されたらしい。
つまり4日間のうちに依頼を完遂する必要がある。
ホテルをチェックアウトし、駅のプラットホームにて、俺のスマートフォンに表示される地図を見ながら作戦を立てる。
地図アプリで簡単に行き先が分かるようになったのはいい時代になったものである。
「蝦蟇山は井戸海町の南東、ここから2時間の所にある。山自体は北白蛇神社のある山よりも緩やかな地形だけど、ここに近づいた近隣住民が12人以上失踪しているから、蛙の怪異はすでに復活していると見ていいね」
「その怪異についてなにか情報は無いのか?山の名前から大蝦蟇のようだが」
蛙の怪異自体は、14種ほど存在するが、その中の大蝦蟇は山程の巨体を持つ中級の怪異である。
人間の精気を吸い込み、場合によっては死に至らしめる。
江戸時代後期の「北越奇談」には、ある男が釣りをしていた際に、岩場と間違えて大蝦蟇の背中に乗ったという話が載っているし、「絵本百物語」には槍を持ち、蛇をも喰らう、「周防の大蝦蟇」と呼ばれる個体が登場している。
もし、俺達が対峙することになる怪異が大蝦蟇なのだとすれば、細心の注意が必要だろう。
特に「周防」クラスだとすれば、天敵である蛇の怪異で抑え込めるかどうかすら怪しい。
そうこうしていると、電車が到着したので乗り込む。
通勤ラッシュの時間帯とずらしたため、車内には人はいない。
駅へ向かう途中で眼鏡を購入したため、現在電車内には、眼鏡を掛けた喪服姿の中年とティアードスカートの童女が並んで座っているという、よくわからない絵面となっていた。
「しかし、世の中というものは不思議なものだな。お前とバディを組むことになるとは、一ヶ月前の俺に言っても、信じないだろう」
「貝木の場合は、何を言われても信じないでしょ」
「何言ってる。俺ほど純粋な奴はそうそういないぞ」
「意外な話だね。心外と言ってもいいけど」
そんな雑談をしている間に、いつの間にか睡魔が襲ってきた。
一説によれば電車の中で眠たくなるのは、電車の一定のリズムの振動と音が、赤ちゃんのゆりかごのように作用し、脳に働きかけることによるものらしい。
俺としては、暇だから眠くなる説に一票を投じたいところだが、しかし、読書している人でも寝落ちしかけているのを見るに間違っていないのかもしれない。
そう思ったのを最後に、瞼がゆっくりと閉じる。
規則正しい走行音の中に、微かにゲコと鳴き声が混じったような気がした。
次回豫告
「いぇーい、ピースピース。斧乃木余接だよ」
「今日は僕の能力についての話だよ。こんなことめったにないから光栄に思え」
「普段は指先か脚部にしか発動させてない僕の『
「例えば、全身の筋肉に発動させて、筋肉モリモリマッチョの童女になったりとかね。少し前に正弦に披露したら、号泣して喜んでくれたよ」
「あとお姉ちゃんは死ぬほど爆笑した後に、『二度とやるな』って言ってたよ。あの時のお姉ちゃんの目は忘れられないね」
「次回、でいしゅうリターン其ノ肆」
「"体のどんなところにも"で変な想像した奴は死ぬ気で腹筋な」