【悲報】魔王♂だが、財政破綻で美少女Vtuberになりました ~勇者に勧誘されたり、アンチにブチギレたりしながら、今日も余はダンジョン配信でスパチャを稼ぐのだ!~   作:月城 友麻

45 / 69
45. 絶対に不可能

 魔道端末の向こうから、熱気を帯びたリリィの声が響き渡る。

 

「さあ、ついに幕を開けました! 大陸史上最大の賞金をかけた『美少女剣士マオ討伐特別企画』! 本日も解説席には、お馴染みサキサカさんをお迎えしております!」

 

「サキサカです。今日は歴史的な一日になりそうですね!」

 

 ベテラン解説者の落ち着いた声音にも、どこか抑えきれない期待が滲んでいる。

 

「画面をご覧ください! 第一階層の攻防が……おっと? 早くも脱落者が!」

 

 配信画面に映し出されたのは、入り口付近で呆気なく倒される挑戦者たちの姿だった。ゴブリンたちの目は、いつになく爛々と輝いている。

 

「これは……!」

 

 サキサカが身を乗り出した。

 

「通常のゴブリンとは明らかに動きが違う! まるで精鋭部隊のような統率された攻撃パターンです。油断した挑戦者が次々と餌食になっていますね」

 

「ま、まあ、ダンジョン内ですから死んでもリスポーンはしますので……視聴者の皆様、ご安心を」

 

 リリィが慌てて付け加える。

 

「とはいえ」

 

 サキサカの声に、同情が混じる。

 

「装備もアイテムも全て没収。中には家宝の剣を持ち込んだ方もいたようで……痛恨の極みでしょうね」

 

「せ、せめてマオちゃんの姿を一目見てから倒れて欲しかったところですが……」

 

 

 

 

〔だっせぇ、何しに来てんだよwww〕

〔ゴブちゃん覚醒してて草〕

〔いいからマオちゃん映せよぉぉぉ〕

〔マオちゃ~ん! 愛してるぅぅぅ〕

 

【同接:125796人】

 

 

 

 配信開始からわずか数分。すでに同時接続数は十二万人を軽々と突破し、なおも増え続けている。大陸全土が、この前代未聞の戦いに釘付けになっていた。

 

「サキサカさん。この企画、専門家の目からご覧になっていかがでしょう?」

 

 サキサカは深く息を吸い込んだ。

 

「賞金百万ゴールド……狂気の沙汰ですよ、これは」

 

 彼の声に、興奮と畏怖が入り混じる。

 

「神聖アークライト教国の懐の深さには脱帽ですが、百万ゴールドもあれば一生遊んで暮らせる……。誰もが理性を失うのに十分な大金です。実際そうそうたる面々がエントリーしています。これはもはや天下一武闘会、大陸一の猛者を決める戦いと言っても過言ではありません!」

 

「確かにAランク冒険者まで参戦していますからね……マオちゃん、防衛できるでしょうか?」

 

 司会者の問いに、サキサカは苦い表情を浮かべた。

 

「……正直に言いましょう」

 

 彼は言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。

 

「これは、絶対に、不可能です」

 

 配信画面に一瞬の静寂が流れる。

 

「ソロ戦限定とはいえ、この千人を超える挑戦者が、たった一人の少女に波状攻撃を仕掛けるんですよ? どんな英雄でも、いや、伝説の勇者でさえ……」

 

「そ、そこまで厳しいんですか!?」

 

「連戦による体力の消耗を考えてください。あの華奢な体が……いったい何人まで持ちこたえられるか」

 

 サキサカの声に、本物の心配が宿っていた。

 

「私たちにできるのは、マオちゃんの奇跡を信じることだけですね。皆さん、全力で応援しましょう!」

 

 

 

〔するする! マオちゃん不滅!〕

〔マオちゃんガンバ! 全財産賭けてるんだぞ!〕

〔マオは俺が育てた〕

〔ハイ! また死んだー! ゴブリン強すぎぃ!〕

〔マオなら俺の隣で寝てるぜ〕

 

 コメント欄は、期待と不安、そして愛に溢れた叫びで埋め尽くされていく。

 

 

       ◇

 

 

 一時間後――。

 

「速報です! 速報が入りました!」

 

 リリィの声が、興奮で上ずっている。小さな手で次々と魔導スクリーンを操作し、ダンジョン各地に配置された魔眼石(ゴーレムアイ)からの映像を切り替えていく。

 

「早くも先頭パーティが、九階に到達! ボスフロアまであと一歩です!」

 

 画面に映し出されたのは、銀色に輝く鎧をまとった五人組。その動きは流麗で、まるで一つの生命体のように完璧に統率されている。

 

「これは……白銀の牙(シルバーファング)! ですか?」

 

 リリィが身を乗り出した。

 

「そうです。いやぁ、恐るべき速度ですね! ダンジョン突入からわずか一時間! さすがAランク、もはやSランクに限りなく近いパーティと呼ぶべきかもしれません!」

 

 パブリックビューイングの観客から、どよめきが上がる。

 

「あっ! これ、今戦っているのは……頭が牛の魔物ですか?」

 

「そうなんです!」

 

 サキサカの声に熱が入る。

 

「これこそが第九階層の守護者、憤怒の牛頭魔(ミノタウロス・レイジ)!」

 

 画面に映る巨体。身長三メートルを超える筋骨隆々の肉体。牛の頭から吹き出す白い蒸気。そして両手に握られた、人の背丈ほどもある巨大な戦斧。

 

「手強い相手ですよ! 目にも止まらぬ速さで振り下ろされる斧は、岩をも砕く破壊力!」

 

 ブォン!

 

 空気を切り裂く音が、画面越しにも伝わってくる。

 

「普通に受けたら即死ですからね!」

 

 ドゴォォォン!

 

 斧が床に叩きつけられ、石畳が爆発したように砕け散った。破片が雨のように降り注ぐ。

 

 

 

〔うわ、やべぇ〕

〔これ勝てるの?〕

〔ミノタウロス強すぎwww〕

〔頑張れ白銀の牙!〕

 

 コメントが滝のように流れていく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。