ゾンビが全滅し終わった世界【あべこべ】   作:耳野笑

10 / 14
第5話 もし僕がゾンビになったら――ヒバリ視点

 遂に、雨が降った。つばめと出会ってから初めての雨だ。

 

 これで、飲み水を大量に確保できた。せっかくなのでカップラーメンを作ってみる。

 

 ふたりでいただきますをして、一口食べる。

 

 舌、喉、脳髄、内臓――全身が喜ぶ程の美味しさだった。感激する。つばめも泣きそうなくらい喜んでいた。

 

「僕、カップラーメンがこんなに美味しいって思ったの初めてだよ!」

 

「なんだか、雪山から生還した冒険家みたいだね」

 

「あの時食べたカップラーメンが人生で一番美味しかったって言うやつ?」

 

「そうそう、そんな感じ」

 

 あっという間に食べ終わってしまった。

 

 つばめは外を見ている。普段より薄暗い室内。雨の音だけが響いている。

 

「死体探し、あと二人だね」

 

「ああ、つばめのおかげで、もう折り返しだ」

 

「どういたしまして。ところで、全員の死体見つけたら、その後どうする?」

 

「その後?」

 

「うん、何かやりたいことある?」

 

 私は考え込む。もちろん処女を卒業したい。つばめとS○Xがしたい。

 

 けど、今訊かれているのは、継続的にするようなライフワークの話だ。

 ゾンビパニックが起こる前の生活における、勉強や部活動、個人的な趣味・遊興の枠に、今の生活だと何が当てはまるか。

 

 畑の拡張、海での漁。……これはちょっと違う。生活のための作業だ。

 

 ……。…………。

 

「……何もすることがない」

 

「そりゃそうだよね」

 

 私たちには何もやることがない。勉強、部活、SNS、スマホゲーム、カラオケ、映画、ボウリング――今はもう、全て存在しない。

 

 死体探しが終わった後、私たちはとんでもなく暇になってしまう。

 

「まあ、この話は置いておくとして。死体探しが終わってからじゃなくてもいいんだけど、一回大島へ行ってみない?」

 

「……大島へ?」

 

 いつかこの話題は出ると思っていたが――正直、嫌だった。

 

 大島に行けば、生存者に出会う可能性もある。だが、合流は危険だ。

 そもそも悪意ある人間かもしれない。悪意はなくとも、つばめを含む男女グループになると、つばめを巡ってトラブルになる可能性が高い。

 

 そして何より――つばめとふたりきりの時間が終わってほしくない。

 

「うん、服が欲しいんだ。夏用と冬用」

 

「ああ、そうだね。私も新しい服が欲しい。それに、ライターもなくなりそうだし、携帯用コンロもあった方がいい。その他調味料とか、保存の利く食品も持ってこよう」

 

「夜暗くなっちゃうから、ランタンも欲しいな。あと、ジャガイモばっかりだと飽きるから、色んな野菜の種も欲しい」

 

 リスクはともかく、物資が欲しいのは事実だった。

 

「じゃあ決まりね! 大島へ探検に行こう! いつ行く?」

 

「明日以降で、準備と天気がよければ行ってみよう」

 

 そう答えたが、内心は複雑だった。物資が手に入る期待と、他の生存者に対する不安。両者を比べると、後者の方が圧倒的に大きい。

 

「了解! 楽しみ~!」

 

 つばめはワクワクしていた。けれど、私は愛想笑いをするしかなかった。

 

「でも、今日は暇だね」

 

「そうだね」

 

 雨が降り続いている。畑仕事も魚獲りもできない。死体探しも雨の中やることではない。

 

「トランプあるけど遊ぶ?」

 

「ああ、いいね」

 

「じゃあ僕の部屋おいでよ」

 

「え、ああ、そうか」

 

 つばめの部屋。つばめの部屋か……。入るの初めてだ……。入れてもらえるんだ……。

 

 2階へ移動し、つばめの部屋へ入る。男子の甘い香りがした。

 

「いい匂いする……」

 

「なんか恥ずかしいんだけど」

 

 机の上に、写真立てがあった。写っているのは、つばめを含む男女混合のグループ。全員ウェットスーツだ。ヨット部の集合写真なのだろう。

 

 そっか……そういえば、つばめって陽キャだった……。

 

 つばめの部屋にはラグが敷いてあり、ローテーブルが置いてある。私たちは、テーブルを挟んで座った。

 

 ババ抜き、スピード、ポーカー、大富豪。知っているトランプゲームを一通りやっていく。

 

「あとは神経衰弱だろうか」

 

「ヒバリ、頭いいから強そ~」

 

 トランプを裏向きに並べて、神経衰弱を始める。つばめはカードをめくりながら、話し始めた。

 

「小島にいた頃さ、雨の日は体力を使わないように、何もせずじーっとしてたの」

 

「……ああ」

 

 外からは、ざぁざぁと雨の振る音。電気の点いていない室内は薄暗い。

 

「なにもしないでいると、すっごい寂しかった」

 

「……ああ、分かるよ。ひとりは辛い」

 

 私はカードをめくりながら、そう答えた。

 

 私も半年間、ひとりで過ごした。洞窟の中で体育座りをしながら、海を睨んでいた。

 孤独には強いつもりだったけど、それでも辛かった。

 

 一方、つばめは、誰かと一緒にいることを好む、明るい男の子だ。当然、私よりも孤独に弱い。

 彼の1年間は、私の半年間を単に2倍する以上に辛いものだっただろう。

 

「雨の時とか、夜とか、空が暗い時が特につらかった。どんどん気持ちが沈んじゃって。お母さんとか、友達とか、みんながゾンビになってる姿を思い出してさ。僕もあの時ゾンビになってれば、こんな寂しい思いをせずに済んだのかなって考えてた」

 

 つばめの表情は(かげ)りを帯びていた。薄暗い室内のせいか、より傷ましく見える。

 

 一方で、つばめがめくったカードはペアになった。

 

「半年以上経ったころから、誰かと会いたくて、誰かと話したくて堪らなかった。もう、ゾンビでもいいから会いたいって思った」

 

「ぞ、ゾンビでもいい……か。それくらい辛かったんだね」

 

「うん、とにかく動いてる人を見たかったの。それで、1年経ったら中島に戻ろうって決めた」

 

 私もカードをめくるが、ペアはできなかった。お互いに、何度か同じカードをめくってしまっている。

 

 まあいいか。今はゲームに集中する時じゃないし。

 

「1年経って、僕は中島に戻った。そして、ヒバリに出会った」

 

 無人のはずの島で、トロンボーンの演奏が聞こえてきた。いよいよ世界が終わるのかと絶望した。けど、音の発生源に行ってみると、そこにいたのは生存者だった。

 それが、つばめとの出会いだった。

 

「あの時は、本当に感動したよ」

 

「私も同じ気持ちだったよ」

 

「しかもイケメンだしラッキー!って思った」

 

「え」

 

 私は驚き、カードをめくる手を止めて、つばめを見る。

 

「そんなこと思ってたのかい?」

 

「うん」

 

「そ、そうか……」

 

 え、嬉しい。

 

 なにそれ、嬉しい。

 

 あ、ヤバい。口角上がる。

 

 そっか、イケメンか……。男子からそんなこと言われるの初めてだ……嬉しい……。

 

「ヒバリも僕のこと可愛いって思ったでしょ?」

 

「え、それは……」

 

「思ったでしょ?」

 

「お、思ったよ。思うに決まってる。可愛すぎて驚いた」

 

「ふふん、そうでしょ」

 

 つばめは胸を張る。

 

 事実、つばめは可愛い。ボブカット、つぶらな瞳、整った目鼻立ち。人懐っこい性格も相まって、小動物のような愛くるしさに溢れている。

 

 美少年すぎる。可愛すぎる。大好きだ。

 

「当時は演技をしていたから言えなかったけど、あの日は私の人生で最も嬉しかった日だ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「つばめに『一緒にいたい』と言ってもらえた時、心の中では大歓喜だった。こんな可愛い男子と一緒に暮らせるなんて夢みたいだと思った」

 

「あ~、なるほど。言わなかっただけで、お互い最高の第一印象だったんだね」

 

「そうなるね」

 

 第一印象含め、最初は上手く行っていたのだ。だが、あの日、私の本性は暴かれてしまった。

 

「だから、処女だとバレた日、全部終わったと思った。嫌われたし、気持ち悪がられるだろうし、それが自然だ。もし家から出ていけと言われたら、そうするつもりだった。けれど――」

 

 私はつばめを見る。彼も手を止めて、私を見つめ返す。

 

「私の勘違いでなければ、嫌われるどころか、ちょっと嬉しそうに見えた」

 

「うん、嬉しかったよ。なんというか、素のヒバリを知って、ヒバリをすごい近くに感じられたから」

 

 つばめは笑顔でそう答えた。

 

 実際、心理的にも物理的にも、距離は縮まった。

 

 初めの頃のつばめは、あまり私をからかってこなかった。だが、今では毎日のように処女煽りをしてくる。それ自体は大変遺憾だが、距離感は近くなった。

 

 そして、明確にラインを越えたタイミングがあった。生着替えを見せてくれた時だ。

 

「着替えを見せてくれた時は、本当に驚いたよ」

 

「あの時のヒバリ、すごい嬉しそうだったね」

 

「ああ、幸せだった」

 

「これ勝ったらまた見せてあげるよ」

 

「えっ!? ちょっ、ズルいぞ、自分が勝ってるからって!」

 

 つばめの方が枚数でリードしている。しかも終盤戦なので、ワンプレイが勝敗に直結する。

 

 くっ……! 真面目にやっておけばよかった……!

 

「がんばれ~。ちなみに今、黒のスポブラだよ~」

 

「っ!!!!!!!!!!!!」

 

 私は長考する。

 

 どこだ、どこにあったっけ、絶対出たはずだ。

 

「あははっ、必死でウケる~!」

 

「必死にもなるだろうこんなの!」

 

 つばめは楽しそうに笑っている。処女の必死な姿を笑っている。カースト上位者の道楽だ。見世物にされている自分が情けなくて悔しい。

 

「やっぱり処女からかうの楽しいね」

 

「そろそろ襲うぞ」

 

「かかってこ~い」

 

 つばめはおどけてそう言った。多分、信頼されているが故の冗談だ。私自身あまり実感はないが、それくらいの関係値を築けているのだ。

 

「本当にかかっていったらどうするんだ」

 

 ぼやくようにそう言って、私はカードをめくる。ペアは不成立だった。

 そして、残った組合せが確定してしまう。つばめは残りの札を全部持っていった。

 

「はい、僕の勝ちね。残念ながらスポブラはお預けです」

 

「ぐうぅうううっ! 見たかった……!!!」

 

「処女さんかわいそ~(笑)」

 

「くっそ……!!!!!!!!!!!!!!」

 

 悔しい。悔しい。悔しい。

 

 これじゃただ笑いものにされただけだ。

 

 つばめは愉しそうに、小悪魔じみた笑みを浮かべている。

 

 憤怒と、屈辱感。血潮が燃えるように熱い。処女というコンプレックスを繰り返しバカにされ、怒りと恥ずかしさと情けなさでどうにかなりそうだった。

 

 すると――。

 

「ヒバリに問題です」

 

「え、な、なに?」

 

 その言葉に、トラウマがフラッシュバックした。鮮明に蘇る、つばめの問題に答えられなかったせいで処女バレした記憶。

 あの瞬間の焦燥感と絶望感は、もう二度と味わいたくない。死ねる。

 

「僕がゾンビになっちゃったら、どうする?」

 

「えっ」

 

「ゾンビになった僕が、こんな風に襲い掛かってきたら」

 

 つばめはテーブルを迂回するように、私へと近づいてくる。

 

「がおーっ」

 

「えっ、えっ」

 

 つばめはゾンビっぽく両腕を突き出しながら、徐々に迫ってくる。

 

 あっという間に距離が詰まる。私のすぐ傍だ。つばめは目を細めた。その眼差しに、女を狂わせる魔性の色香を感じた。

 

「はい、時間切れ~」

 

 がぶっ、と首を甘噛みされた。

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 驚愕で、身体が強張る。さらに――つばめは、ちゅっ♡と私の首にキスしてから顔を離した。

 

「僕がゾンビならもう死んじゃってたよ?」

 

 興奮で、心臓がバクンバクンと爆音を鳴らす。情欲がドバっと溢れ、身体中が熱を帯びる。

 

「つばめ」

 

 私はつばめの両肩に手を置いた。自分でも無意識の内に、ラグの上に押し倒していた。

 

 薄暗い部屋。雨風の音。目を見開くつばめ。

 

「お願いしますっ! ヤらせてくださいっ!」

 

「こら、だめだよ。ゴムないんだから」

 

「実は私、旅館から一箱持ってきたんだ!」

 

「うわヤる気満々じゃん!!!」

 

「い、いい!?」

 

「う~~~~~~~~ん……」

 

 つばめは悩んでいた。そして、長考の末の結論は――。

 

「ごめんね、もっと他にしたいシチュエーションあるんだ」

 

「ど、どんなシチュエーション……?」

 

「勝負下着付けたい。スポブラはムードないもん」

 

「スポブラもエロいと思うけど」

 

「ちゃんと身体洗いたい。昨日の昼から洗ってないし、今日も雨だから洗いに行けないし」

 

「あ、それは確かに」

 

「あと、その……笑わないでほしいんだけど、夜にS○Xしたい。薄暗い部屋で、できればランタンくらいの光源だといいかも」

 

「分かった、ランタンだね。絶対大島で見つけてこよう」

 

 私は強く頷く。

 

 こんな私にS○Xの機会を恵んでくれるのだから、つばめの希望は絶対に叶えてあげるべきだ。

 

「あと……流されえっちもいいと思うけど、どうせならちゃんと恋人になってからしたいな」

 

 つばめは、そういって微笑んだ。恥ずかしそうに頬が紅潮している。

 優しくも、誠実な訴えの籠もった言葉だった。

 

 瞬間――乱暴を咎められた子供のような気分になった。さっきまでの興奮は消え、身体がぐっと冷え込む。

 

 私はつばめの上からどいて、流れるように土下座した。

 

「おっしゃる通りです、すみませんでした」

 

「あははっ、処女の土下座二度目だ~!(笑)」

 

 深く悔いる。告白もしてないのにS○Xさせてもらおうなんて、順番が逆だ。誠意もない。台無しだ。嫌われてもおかしくない失態だ。

 

「反省してます」

 

「いいよ」

 

 つばめは私の頭を撫でてくれる。不思議と、全然怒っていなさそうな態度だ。

 

「そもそも『処女捨てさせてあげる』って話だったのに、僕がちゃんと付き合ってえっちしたいって言い出したんだから、ヒバリはなんにも悪くないじゃん」

 

 私は驚愕し、頭を上げる。

 

 つばめの優しい笑顔に、彼の芯にある穏やかさを見た気がした。

 

「優しすぎる……! ありがとう……!」

 

「よしよし」

 

「つばめ、天使すぎる……!」

 

 私は感動していた。器が広すぎる。オタクに優しい陽キャ男子とかいうレベルじゃない。本物の天使だ。

 

 *

 

 数日後。

 

 快晴だ。澄んだ青空、穏やかな気温。大島へ遠征するのに適した天気だった。

 

 私の持ち物は、リュックと、旅行用のトランクだ。後者は、つばめの母のものだ。

 リュックには、食料品と、ライターや懐中電灯などの装備が入っている。食料は約3日分。探索に使える実時間は2日くらいという見積りだ。

 

 玄関の前で、晴れた空を見上げる。

 

 遂に、この日が来てしまった。

 

「よし、じゃあしゅっぱ~つ!」

 

 つばめは楽しそうだった。一方、私は『他の生存者に出会う可能性』に対して不安を抱えていた。

 

 私たちは大島へ向けて出発した。中島の端まで歩く。すると、海の中に一本の砂道がある。――陸繋砂州(りくけいさす)。島と島を繋ぐ、砂の道だ。

 

 砂道に足を踏み入れる。一歩ごとに靴が沈むので、歩くのが大変だ。

 

 左右に海がある。海面が太陽の光を跳ね返してきらめく。潮風が吹いて、髪が揺れた。

 

「うわ、トランクつらそう」

 

「ああ、濡れた砂と車輪の相性が最悪だ」

 

 車輪がスムーズに回らない。さっきまで歩いてきた車道と比べると、快適さが雲泥の差だ。

 

「疲れたら代わるよ」

 

「心配には及ばない。任せてくれ」

 

「ありがとう、ヒバリ」

 

 これは女の仕事だ。女らしさを示せる数少ない機会が来て、嬉しくもあった。

 

 話しながら歩く。ちょうど、中島と大島の中間地点に来た。

 

 私は、意を決して話を切り出す。

 

「つばめ、ずっと訊きたかったことがあるんだ」

 

「なに?」

 

「大島で他の生存者を見付けたとする。個人か団体か、どちらでもいい。その人たちと合流して生活を共にするつもりはあるかい?」

 

「え、う~ん……」

 

 つばめは一度後ろを振り向き、また前を見た。

 

 つばめは、明るくて、社交的で、人懐っこい。その上、1年間孤独な生活を送った反動もあって、より人恋しいだろう。

 だからきっと、彼は人が多くいる場所を望むはずだ。

 

 もしつばめが他の生存者との合流を望むなら、私はそれに従うしかない。

 つばめとのふたりきりの時間が終わってほしくはない。けれど、やむを得ない。もう覚悟を決める時が来たのだ。

 

 そして、つばめは悩んだ末に答えを出した。

 

「しないよ。僕はヒバリとふたりで暮らしたい」

 

 ――愕然とする。

 

 私はつばめを見る。

 

 あまりにも私にとって理想的すぎる答えだった。

 

 誰とも、合流しない。ふたりで暮らす。つばめは、そう望んでくれている。

 その事実を理解し、衝撃と歓喜に満たされる。

 

「そ、そうか」

 

「ヒバリと一緒にいるの、一番楽しいもん」

 

「私もだ。つばめといるのが、一番楽しい」

 

 食い気味に、はっきりとそう伝えた。心からの言葉だ。

 

 つばめは「やった、嬉しい」といって、弾けるような笑顔を見せた。

 

 私の方が、嬉しい。こんな幸せがあるのか。

 

 つばめが、私を選んでくれたのか。

 

 凄い。凄すぎる。私が、誰かにとって『大切な人』になれたのか。

 

 男性に自分を選んでもらえるという未体験の出来事に、怖れにも似た喜びが込み上げる。

 

 すると、つばめは愉しそうにニマニマと笑いながら、私の腕を突っついてくる。

 

「それに、スケベなヒバリは僕とふたりっきりの方が嬉しいもんね」

 

「うっ……!? ぐっ……! ま、まあ……そうだけど……」

 

 図星だった。下心がバレバレで恥ずかしい。

 

「もしかして心配してた?」

 

「あ、ああ、してた」

 

「だいじょうぶだよ、これからもふたりで暮らそうよ」

 

「よかった。その言葉を聞けて、ホッとしている」

 

 嬉しくて泣きそうだった。長く悩んだ分、不安から解放された安堵も大きかった。

 

 ――砂の道を渡り切り、大島側の砂浜に着いた。(おか)の方にはテトラポッドが積まれている。

 

「着いた~!!!」

 

「ああ、着いたね。……久々だ」

 

 大島――私の生まれ育った場所であり、本来の生活圏だ。

 

 随分久々だ。なんだか、1年前ここにいたことが信じられない。

 

 私たちは、陸へと上がる階段に向けて、砂浜を歩いていく。コツンと、つばめの靴に何かが当たった。ガラス製のビンだった。

 

「ん?」

 

 つばめはしゃがみ、ビンを拾った。中には、折りたたまれた紙片が入っている。

 

「なんだろこれ」

 

「ボトルメッセージだろうか。それにしてはビンも紙も安っぽいけれど」

 

 つばめは紙片を取り出そうとするが、上手くいかない。

 

「私が割ってみるよ」

 

「あ、そうだね。おねがい」

 

 私はビンを遠くに放り投げる。テトラポッドに命中して割れた。

 私たちは近付き、紙片を拾い上げ、広げてみると――。

 

『西園さんへ。アンズとハジメがゾンビ化した。私たちは無事。大島のホームセンターへ逃げることにする。ミユとジュンより』

 

「なっ……!?!?!?!?!?!?」

 

 私は衝撃を受け、言葉を失う。けれど、つばめは首を傾げている。

 

「えっと、全員誰?」

 

「……後藤アンズ。井出ハジメ。来栖ミユ。馬場ジュン。私と共に過ごした仲間たちの名前だ」

 

「えっ!?!?!?」

 

 アンズとハジメがゾンビ化した。私たちは無事。ミユとジュンより。つまり――。

 

「じゃあ、残りの二人は生きてるってこと!?」

 

「そうかもしれない。このメッセージがいつ書かれたものか分からないから、確証はないけど」

 

「そっか……よかったね、ヒバリ」

 

「ああ……」

 

 来栖さんと馬場くん、生きてるかもしれないのか……。よかった……。いい人たちだったから、生きててほしいな……。

 

「でも、この西園さんって誰だろうね? 他に生存者がいたのかな?」

 

 再び言葉を失う。私はつばめを見る。

 

「……西園ヒバリ。私の苗字だ」

 

「あっ」

 

 つばめは「あ、ヤバっ」という顔をした。

 

 私はショックのあまり、真顔になる。

 

「つばめ、今私の苗字忘れてただろう」

 

「そ、そんなことないよ? そうだよね、西園ヒバリだよね、ちゃんと覚えてたよ」

 

「嘘すぎる」

 

「じゃ、じゃあヒバリは僕の苗字覚えてるの!?」

 

「小野つばめ」

 

「申し訳ありませんでした!!!!!」

 

「ま、まあ構わないよ」

 

 マジか……苗字覚えられてなかったのか……うわ、結構ショックだ……。

 

「ごめん~~~!!!」

 

「気にしてないから」

 

「ウソじゃん!」

 

「怒ってはないよ。ただショックなだけで」

 

 つばめは私の腕に抱き着いてくる。そして、甘い砂糖菓子のような、媚びっ媚びの猫撫で声で――。

 

「ほんとにごめんね? またパンツ見せてあげるから許して?」

 

 その言葉に、私は活力を取り戻す。急に元気が込み上げてくる。

 

「絶対だからな、絶対見せてもらうからな」

 

「うん、だから元気出して?」

 

「出た。完全に出たから問題ないよ」

 

 よっしゃ!!!!!!

 

 またつばめのパンツ見れる! やった!

 

 そして、私たちは改めて紙片のメッセージを見る。気になるのは『大島のホームセンターへ逃げることにする』という部分だ。

 

「ホームセンターっていっぱいあると思うけど、どこだろ」

 

「私の通っていた高校の近くにホームセンターがあるんだ。私たちの間でホームセンターといえば、そこのことだった」

 

「へ~! じゃあ行ってみようよ!」

 

「ああ、そうだね。道中で物資も探しながら行こう」

 

「うん、了解!」

 

 私たちは移動し始める。他にも数個ビンを見付けた。割ってみたが、中のメッセージは全て同じだった。

 

「見つけてもらえるように、いくつも置いたんだろうね」

 

「だね。ところで、その二人が生きてるとして、合流できたらどうするの?」

 

「安否を確認して別れるつもりだ。彼らは大島で暮らすだろうし、特に生活を変えるつもりはないよ」

 

「うん、そうだね!」

 

 陸へと繋がる階段を上り、道路上に立つ。

 

 不思議な気分だった。中島を出発した時は、生存者と出会うことを恐れていた。ところが今は、かつての仲間と再会できるかもしれないという期待を抱いている。

 

 そして――ここから、大島探検が始まる。




【キャラクター】

『小野つばめ』
 中島生まれ中島育ちの男子。高2相当。黒髪黒目。ボブカット。背が低い。可愛い。高校時代はヨット部、中学時代は吹奏楽部に所属。
 ヒバリのことをカッコよくて優しくて博識で誠実で頼りになる女性だと思っていた。処女をからかって遊ぶことにハマる。

『西園ヒバリ』
 大島生まれ大島育ちの女子。高2相当。黒髪黒目。ポニーテール。背が高い。
 何が何でもS○Xしたい処女。つばめからの好意と信頼を勝ち取るため、頼りになる女を演じていた。処女であることがバレて、つばめにからかわれて遊ばれることに。

【進捗】

『後藤アンズ』発見済み。

『来栖ミユ』 未発見。生死不明。

『馬場ジュン』未発見。生死不明。

『井出ハジメ』発見済み。

【雑記】

『小島』
 無人島を指す俗称。中島からヨットで行き来できる距離。

『中島』
 T島を指す俗称。人口は200人程度だった。小島の10倍以上の面積がある。T高校が位置する。大島とは陸繋砂州で繋がっているため、干潮時のみ徒歩で行き来できる。

『大島』
 O島を指す俗称。N県の全人口の半数が暮らしていた。N県最大の島。中島の約40倍の面積がある。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。