ゾンビが全滅し終わった世界【あべこべ】   作:耳野笑

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 これ以後、ヒバリ視点は、一部または全部を読み飛ばしても、問題なくお楽しみいただけます。


第2話 ふたりきりの学校探検――ヒバリ視点

 

 私とつばめは、まず学校へ向かうことにした。

 

「誰もいないね~」

 

「ああ、静かだね」

 

「この島で生きてる人間、僕らしかいないかもね」

 

「私もそう見込んでいるよ」

 

「ふふっ、アダムとイブみたいだねっ」

 

「……!」

 

 私は驚き、言葉に詰まった。

 

 え、アダムとイブ……? その言い方って、男女の仲になることを想定してる……?

 

 き、期待していいの……?

 

「あれ、僕なんか変なこと言っちゃったかな?」

 

 しまった、無言になってしまった。なんか言わないと。

 

「ああいや、なんでもないよ。アダムとイブは最初の人類とされているけど、私たちは最後の人類かもね」

 

「最後の人類! なんかカッコいい!」

 

 つがい。オスとメス。始まりの人類。

 

 私はなんとなく海を見た。さりげなく、踏み込んでみる。

 

「私たちが人類最後の人間の場合、私たちが死んだ時点で、人間は絶滅することになるね」

 

 私たちがS○Xして子供を作れば、最後の人類ではなくなる。けど、そのまま言ったらド直球セクハラだ。

 

 私からは言えないけど、ワンチャンつばめの方から『僕たちで子供作れば最後じゃないよ?』とか言ってくれないかなと期待していた。

 

「そうだね~」

 

 めっちゃ軽い返事だった。たぶん何も考えていないし、私のことも意識していないのだろう。

 

 私は内心ガッカリした。けど、それを表に出さずに会話を続ける。

 

「思ったより悲観してはいないんだね」

 

「ん? まあ、ひとりじゃなければそれでいいし!」

 

「ひとりじゃなければ……?」

 

「うん! ひとりだと、寂しかったから! こうしてヒバリと一緒にいれて嬉しい!」

 

「……! そっか、私も、つばめと一緒にいれて嬉しいよ」

 

 無理もない。つばめは1年間、小島でひとりきりだったのだ。私も半年間をひとりで過ごしたので、気持ちは分かる。

 

 だから、一緒にいて嬉しいというのは、本心だ。

 

 そして……意外と、自分の存在を肯定的に受け止められていて嬉しかった。

 

 その後、私が拠点にしていた洞窟にも寄った後、さらに歩くこと数分――港にたどり着いた。

 

「せっかくだから、僕の船見ていってよ」

 

「ああ、ぜひ」

 

 大量のヨットとボートが繋留されていた。

 

 こんなにボートがあるのに、小島へと逃げられたのは、つばめだけだったのか。

 

 中には港から脱出しようした人もいたはずだ。だが、港へ至る前にゾンビ化し、死んでしまったのだろう。

 

 もし、大勢の島民がこのボートに乗って、小島へと避難していたら。そして、その中に感染者がいたら。小島でもゾンビパニックが起こり、全滅しただろう。

 

 つばめひとりしか逃げられなかったのは、かえって幸運だったのかもしれない。

 

「僕のヨットはこれだよ」

 

「凄いね、これであの小島まで行ったのか」

 

「あ、そうだ! 今度一緒に乗ろうよ!」

 

「……! あ、ああ、楽しみにしているよ」

 

 ヨットなんて、乗ったことないんだけど。いや、つばめが一緒に乗ろうっていうからには、そんなに難しくないんだろう。多分大丈夫だ。

 

 そして――学校にたどり着いた。校門のバリケードは破壊されたままだ。

 

 校舎のバリケードも破壊されていた。崩れた机の中には、ゾンビの死体もあった。

 

 私たちは廊下を進む。

 

「あ、ここ……」

 

 つばめが足を止めた。

 

「つばめの教室かい?」

 

「うん」

 

 中に入る。つばめは教室を眺め、じっとしていた。

 

 数秒して――つばめが泣き出した。咽ぶ声が漏れる。

 

 や、ヤバい。なんか声掛けないと。

 

 早くも、試される時が来た。男子と関係を築く上で、おそらくここが分岐点。

 

 何も言えず黙って見ているだけの、男慣れしてない女か。

 

 適切で、器用に、心に寄り添うような言葉を掛けられる女か。

 

 上手くやらないと、評価がガン下がりする。人間関係において、序盤のミスは取り返せない。

 

 私は、脳味噌をフル回転させながら話し掛ける。

 

「……つばめ」

 

「ご、ごめんねっ」

 

「いや、いいんだ。隣の教室にイスがあるから、少し休もう」

 

 隣の教室に移動し、イスに座った。

 

 何を言おう。いや……待て。こんな号泣してる時に話し掛けられても、流石に何も返答できないか。

 

 ここは、一旦沈黙だ。泣き止んできた頃、タイミングを見計らって声を掛けよう。

 

 私は何も言わず、つばめに話すべき内容の候補を考えながら、じっと待った。

 

「ここ……」

 

 泣き出してから5分後くらいに、つばめは突然声を出した。準備できてなくて、ビクッとしてしまった。

 

「ここ、ヒバリが、仲間と一緒に過ごしたところでしょ?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「ヒバリは……つらくないの?」

 

「私は……」

 

 私は、教室全体を見渡した。

 

 ここで、四人と寝泊まりした。一緒に食事をした。その彼らがもうこの世にいないことが、恐ろしく、信じがたい。

 

「……ショックは、ある。もう会えないと思うと、悲しい」

 

「そっか、じゃあ、同じだね」

 

「……ああ、同じだ」

 

 本番はここからだ。ここで何を言うかで、評価が変わる。私の価値が、ここで決まる。

 

 私は、つばめが泣いていた5分の間に考えていた話を始めた。

 

 私の仲間たちの話だ。直前にその話題も出たので、自然な流れのはずだ。

 

 後藤さんと、初めて魚を釣った時のこと。来栖さんと、バリケードを作った時のこと。馬場くんと、ライターを見付けて喜んだ時のこと。そして、井出くんが――。

 

「井出くんが、小島から火が上がったのを見たそうなんだ。妖怪じゃないかって、怯えてた。この辺りでは、海上に火が見える不知火って現象があるから、それを連想したんだと思う」

 

「……うん? 小島? 火?」

 

「あっ」

 

 つばめの反応で、私は閃いた。

 

「まさか、つばめだったのか……!?」

 

「う、うん! たぶん僕! 火起こしして暖を取ったり、魚を焼いて食べたりしてた!」

 

 そうか、なるほど……! 中島から、小島でつばめの付けた火が見えていたのか……!

 

「ふふっ……! あははっ! なにそれウケるっ! 僕妖怪だと思われてたの!?」

 

 つばめは爆笑する。私も笑った。素直に、面白かった。

 

「ありがとう、ヒバリ。パンデミックが起こってから、こんなに笑ったの初めてだよ」

 

「ああ、どういたしまして」

 

 正解だ。完全正解だ、これ。

 

 経験。勇気。そして運も味方し、正解を出せた。100点満点のパーフェクトコミュニケーションを叩き出した。

 

 つばめは元気になって、笑ってくれた。泣いている男子を励ますことができた。

 

 1年前の私だったら、何も言わず黙っているだけだっただろう。だが、成長した。どうだ、見てるかみんな。私は強くなったぞ。

 

 私とつばめは、死体探しに戻った。

 

 職員室に入る。つばめが机の前で止まった。そして、リュックからプリントを取り出した。進路希望調査表だ。

 

 第1希望には『O島のO大学に進学』とだけ書いてあった。第2希望と第3希望は空欄だ。

 

「大島の大学に進学予定だったのかい?」

 

「ううん、テキトーに書いただけ。全然決まってなかったよ」

 

 つばめはシャーペンを取り出し、第2希望の欄に『生きる』、第3希望の欄に『四人を見付けて弔ってあげる』と書いた。

 

「生きるより進学が優先されてるの、変だね」

 

「ね」

 

 つばめは消しゴムで第1希望の欄を消した。

 

「本当に、やることないなあ……」

 

「そうだね、何も、することがない」

 

 進路……か。1年前までは、そういうことも考えてたのにな。もう、何もなくなっちゃったな。

 

 その後、学校を出て、海沿いの車道を歩きながら死体探しを続ける。

 

「ねえヒバリ、僕ら、どこに住む? やっぱり学校がいいのかな?」

 

「いや、つばめの家を拠点にしよう」

 

「えっ、僕の家?」

 

「ああ、目の前に畑があるから、野菜を栽培できる」

 

「そっか、じゃあそれで!」

 

 こうして、拠点が決まった。

 

 直後、だいぶ凄いことを言ってしまったと気付いた。

 

 初対面の男子相手に、一緒に住もうと言ってしまった。つまり、同棲だ。

 

 あぶな~~~~~~~~~!

 

 意識してたら、絶対挙動不審になって吃ってた。何も考えず言ってよかった。

 

 ていうか、そうか。これから同棲するのか。男子とふたりきりで、同じ家で暮らすのか。

 

 うわっ、すごっ。どうしよ、最高だ。楽しくなってきた。

 

「こうやって車道を歩くの、ちょっとワクワクするよね」

 

「まあ、本来はありえないことだからね」

 

「でも、こっちの方が自然な感じもするんだよね」

 

「どういう意味だい?」

 

「車って大きいし重いでしょ? だから、轢かれたら死んじゃうじゃん。そんな物が、身の回りを高速で動き回ってたんだよ。当たり前に受け入れてたけど、かなり異常だったんじゃないかな」

 

 当たったら死ぬ物体が、高速で生活圏内を動き回っていた。確かに、そう考えると恐ろしいことのように感じてくる。

 

「確かにそうかもしれない。いいね、つばめの発想は、自由で面白い」

 

「えへへっ、でしょ~? ヒバリも――」

 

 その時――つばめの言葉が止まった。

 

 彼はガードレールに手を置いて、砂浜を見下ろす。

 

「ヒバリ、あれ」

 

 つばめが指差した先――テトラポッド群の中から、人の脚が飛び出ていた。まだ、はっきり肉の形が残っている。

 

「……まだ動くゾンビかもしれない。慎重に近付こう」

 

 私が先行する形で近付いた。女として、当然そうすべきだと思ったからだ。

 

 都度石を投げ込むが、無反応だった。そして、死体の下にたどり着いた。完全に動かない死体だった。

 

「……問題ない。この死体はもう動かないよ」

 

 私は振り返って、つばめを制止する。

 

「見ない方がいい」

 

「……ううん、だいじょうぶ」

 

 つばめが隣に立った。

 

「……後藤さんだ」

 

 私は、そうつぶやいた。

 

 信じ難かった。共に過ごした仲間が、こんな風に死ぬなんて。

 

 ふたりで、死体を砂浜へと移動させた。

 

 学校の倉庫からシャベルを二本持ってきて、穴を掘った。後藤さんの遺体を穴に入れる。土を被せる前に、黙祷する。

 

 ……後藤さん。

 

 強い人だった。人間性も、人生経験も、対人コミュニケーション能力も、全ての点で私を上回る人だった。

 

 人生の勝者だった。そんな彼女が、こうして亡くなった。

 

 自分が生きているのに、彼女は死んだ。そのことが、不思議で、強い違和感がある。

 

 そして、私は目を開けた。ふたりで土を被せた。遺体は完全に埋まった。

 

 ふたりで水際に座り込み、汚れた手を洗う。

 

「ありがとう、彼女を見つけてくれて」

 

「うん、どういたしまして」

 

 私たちは立ち上がる。

 

 私は、遺体を埋めた地面を見つめる。

 

 後藤さんのことを思い出そうとすると、つらい記憶も甦ってくる。

 

 ……ごめん。でも、ありがとう。

 

 後藤さんは、いい人だった。何回も助けられた。生きていてほしかった。

 

 どうか、安らかに眠ってほしい。

 

「ヒバリ、こっち向いて」

 

「え?」

 

 つばめは、私に一歩近づく。

 

「えいっ」

 

 抱きしめられた。

 

 抱きしめられてる。

 

 私、抱きしめられてる。

 

 !?!?!?!?!?!?

 

 つばめが、ぎゅーっと力強く抱きしめてくる。

 

 男子と密着している。

 

 そう理解した途端――脳味噌から幸福ホルモンがドバドバと放出され、昂揚する。

 

 うわっっっ!!!

 

 ちかっ!!!

 

 私、男子とくっついてる!!!

 

 なんで!?!?!?

 

 あったかい!!! 胸がぎゅんってなる!!!

 

 幸せ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 けれど――あっという間に、つばめは離れてしまう。

 

「えへへっ、元気出た?」

 

「……ああ。……」

 

 あっ、ダメだ。こんなの、好きになっちゃう……。

 

 ヤバいこれ。ニヤける。絶対キモい顔になる。ダメだ、口角下がれ! 真顔をキープしろ!

 

 いや、気を遣って元気づけようとしてくれたんだ。無表情なのも感じ悪いか。やっぱちょっと笑っとこう。

 

「ありがとう、気を遣ってくれて」

 

「……うん」

 

「もう大丈夫だ。帰ろう、つばめ」

 

 *

 

 夜になった。

 

 夕食を食べる。誰かと一緒に食事をするのは半年ぶりだ。

 

 メニューは、私の持っていた缶詰と、つばめが島から持ってきた野菜だ。

 

「小島には、タロイモとニンジンも生えていたんだね」

 

「うん。あと、ギシギシっていう食べられる野草もあったよ。お腹壊すかもしれないから、普通地元の人は食べないけど」

 

「ああ、緩下剤にも使われている植物だね」

 

「えっ、すごっ!!! そんなことまで知ってるの!?」

 

 つばめの大きなリアクションが嬉しい。驚かれている。尊敬されてる。気分がいい。

 

「ヒバリ、博識だね! すごい! 天才!」

 

「偶然だよ」

 

「ドヴォルザークの曲も知ってたし! 知識人って感じする! カッコいい!」

 

「有名な曲だからね」

 

「すごいよ! 僕の友達なんてトランペットとトロンボーンの区別もつかないのに!」

 

「まあ、楽器経験がないなら無理もないね」

 

 ラッキーだ。運が味方して、たまたま知識人を装えている。

 

 今、つばめの中での私は、頼りになる存在に見えているだろう。かなりいい感じだ。

 

 ――あっという間に、食事は終わった。

 

 食事が終わっても、私とヒバリは話し続けた。

 

 男子との会話、楽しすぎるな……。幸せだ……。

 

「そろそろ寝よっか」

 

「ああ、そうだね」

 

 私は、つばめの両親の寝室を使わせてもらうことになった。そしてなんと、つばめが一回使った枕をくれた。

 

 え、い、いいの?????

 

 さらに――。

 

「ねえヒバリ、一緒に寝る?」

 

「えっ」

 

 フリーズした。

 

 え、マジか。そこまで行くのか。

 

 やっぱり、島の人は距離感近いのかな。それとも、つばめが陽キャすぎるだけか。

 

「あははっ、冗談だよ」

 

 私は固まった。

 

 あ、冗談……。

 

 そっか。

 

 そっか……。

 

 そうか、流石に冗談か。危ない。完全に真に受けた。

 

 そりゃそうだ。田舎だからって、そんなに貞操観念が緩いはずもない。

 

「でも、ホントに寂しくなったら一緒に寝ようね」

 

 !?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 

「おやすみ、ヒバリ」

 

「ああ、おやすみ、つばめ」

 

 反射的に、挨拶を返した。でも、一個前の発言の理解と咀嚼はまだ完了していない。

 

 私は、つばめの両親が使っていた寝室へと入り、考える。

 

 ――でも、ホントに寂しくなったら一緒に寝ようね。

 

 胸の中で、期待がぶわっっっ!と膨らむ。

 

 ……本当に? いいの? 一緒に寝ても。

 

 えっ、これ、来た? 私の時代来た?

 

 遅れてきた青春、始まってる?

 

 つばめから貰った枕をベッドに置く。つばめは感触が合わず一回しか使っていないらしい。それでも、使ったことには変わりない。

 

 現役男子高生の、使用済み枕……。

 

 うつぶせになって、枕に顔を埋めてみる。

 

 優しくて甘い、いい香りがした。

 

 あ、これ、最高っ……いい匂いするっ……。

 

 好きだ……。つばめ、好きだ……。可愛い……好き……。

 

 身体は疲れているはずなのに、眠気を興奮が上回って、意識が冴えている。

 

 だめだ、寝れない!!!!!!!!!!!

 




【キャラクター】

『小野つばめ』
 中島生まれ中島育ちの男子。高2相当。黒髪黒目。ボブカット。背が低い。可愛い。高校時代はヨット部、中学時代は吹奏楽部に所属。
 ヒバリのことを、カッコよくて優しくて博識で誠実で頼りになる女性だと思っている。

『西園ヒバリ』
 大島生まれ大島育ちの女子。高2相当。黒髪黒目。ポニーテール。背が高い。
 何が何でもS○Xしたい処女。つばめからの好意と信頼を勝ち取るため、頼りになる女を演じることにした。

【進捗】

『後藤さん』発見済み。

『来栖さん』未発見。

『馬場くん』未発見。

『井出くん』未発見。

【雑記】

『小島』
 無人島を指す俗称。中島からヨットで行き来できる距離。

『中島』
 T島を指す俗称。人口は200人程度だった。小島の10倍以上の面積がある。T高校が位置する。大島とは陸繋砂州で繋がっているため、干潮時のみ徒歩で行き来できる。

『大島』
 O島を指す俗称。N県の全人口の半数が暮らしていた。N県最大の島。中島の約40倍の面積がある。
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