ゾンビが全滅し終わった世界【あべこべ】   作:耳野笑

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第3話 ヒバリの秘密――ヒバリ視点

 改めて、私とつばめの共同生活が始まる。

 

 相談の結果、まず川で魚を獲ることにした。

 

「あ、ヒバリ、ちょっと待ってて。着替えてくる」

 

 といって、つばめが部屋に行った。そして、1分くらいして――。

 

「おまたせ、ヒバリ!」

 

「……」

 

 私は衝撃を受け、固まった。

 

 つばめが着てきたのは、黒のウェットスーツだ。肌にピッタリ密着していて、体のラインが出ている。

 

 えっろ!!!!!!!!!!!!!!!!

 

「これ、ヨット部の装備なんだ! すごいでしょ!」

 

 私は、思わずガン見してしまう。エロい、エロすぎる。

 

 胸。太もも。はっきりと、つばめの身体の形が分かる。光沢のせいなのか分からないけれど、胸に段差があるように見えた。

 

 え、気のせい……? あれ、乳首じゃ……?

 

「あ、あの、そんなにじーっと見られると恥ずかしいんだけど」

 

「あっ、す、すまない。てっきり汚れてもいい古着とかに着替えてくるものだと思っていた。驚いたよ」

 

「ヨット部だったからね、いいでしょ!」

 

「ああ、機能的には最高だね。川や海において、それ以上の装備はない」

 

 と、早口でいろいろ言ってごまかした。

 

 私たちは、川に移動した。私は靴を脱ぎ始める。つばめは先に川へ入り、網を使って魚を捕まえようとするのだが、上手くいっていないようだ。

 

 私も合流する。

 

「ヒバリ、お手本見せてよ」

 

「ああ、分かった。」

 

 魚獲り網を水中に入れて静止する。魚が網の中に入ってきた瞬間、勢いよく持ち上げた。上手く行った。

 

「え、一発!? すごい!!!」

 

「この島での経験のおかげだよ」

 

「ヒバリ、カッコいい!!!」

 

「ありがとう、つばめもすぐできるよ」

 

 気分がいい。男子の前でいい格好ができて嬉しかった。

 

 *

 

 次に、私たちは畑の整地に取り掛かった。伸び放題の草を取り除いていく。

 

「ヒバリ! 見て見て! これ全部食べれるよ!」

 

 つばめが持っていたのは、大量のジャガイモだった。

 

「すごい、しばらく食料には困らないだろうね。除草が終わったら、また植えるためにいくつか種芋を見繕おう」

 

 ――1時間後。ようやく畑の一面だけ、除草が完了した。

 

 畑のジャガイモも収穫した。種芋を見繕って、植え付けもした。あっという間にお昼になった。

 

 庭で、ジャガイモの土と芽を取り除いていく。

 

「なんかふたりでこうしてると、夫婦みたいだね」

 

「っ……! そ、そうだね……」

 

 え、これ脈アリ?????????

 

 脈アリだよね??????????

 

 これマジでいける? 付き合える? 処女、卒業できる?

 

 ――そして、つばめが蒸しジャガを作ってくれた。塩を振りかけて完成だ。

 

「これ食べ終わったら、川で身体洗っていいかな? 夜真っ暗になってからは行きたくないし」

 

「そうだね。髪が濡れたままベッドには入れないし、昼に済ませるのが効率的だね」

 

 ということで、昼に水浴びをすることに決まった。

 

「お先にどうぞ。私は家にいるから、終わったら呼びに来てくれ」

 

「覗いちゃだめだよ?」

 

 つばめはニヤニヤしながらそういった。小悪魔の笑みだった。

 

 覗くつもりなんてなかったけど、ドキッとした。

 

「の、覗かないから安心して」

 

 なんか処女臭い反応をしてしまった。大丈夫かな、変に思われてないかな。

 

 リビングでじっと待つ。川のある方角を見てしまう。もちろんリビングの壁しか見えないけど、ついそっちを向いてしまう。

 

 つばめの裸……見たいな……。

 

 けど、流石に覗きには行かない。ここまで頑張って好感度を上げてきたのだから。

 

 数分後、つばめが戻ってきた。庭に洗濯物を干していく。制服、ズボン、あっ――。

 

 黒いパンツだった。

 

「あっ」

 

 つばめと、窓越しに目が合った。

 

 私は慌てて目を逸らした。つばめは続けて洗濯物を干していく。

 

 私は、チラチラと庭を見てしまう。

 

 うわっ、エロっ……男子高生のパンツ……生で初めて見た……。エロっ……。

 

 パンツに限らず、全部エロい。靴下も、Tシャツも、エロい。欲望に負けて、ついチラ見してしまう。

 

 つばめは洗濯物を干し終わった後、庭から窓ガラスを開けた。

 

「ヒバリのえっち」

 

「なっ……!? いや、ちがっ、その、すまない」

 

 流石に見すぎた。しどろもどろになりながら謝る。

 

「うそうそ。別に見られてもいいよ」

 

「えっ……そ、それは……でも、私は別の所に洗濯物を干すよ」

 

「え、ここでいいよ。これから一緒に暮らすんだから、気にしないで」

 

「そ、そうか。分かった」

 

 え、優しい……天使じゃん……。ほんとに優しい……。

 

 私は立ち上がり、川へと水浴びに向かった。

 

 水浴びを終えて、家に戻る。庭の物干し竿に、洗濯物を吊るしていく。すぐ隣には、つばめの下着もある。

 

 えっろ……。

 

 *

 

 午後。洞窟へ来た。水が満タンになったペットボトルを回収し、新しいペットボトルを設置する。

 

 私とつばめは、水際で海を眺める。波の音だけが聞こえる。

 

「静かだね」

 

「ああ、静かだ」

 

「僕たち、本当に人類最後のふたりなのかな」

 

「本土は大勢の生存者がいて、とっくに復興しているという可能性もある。実際に観測していない以上、可能性だけなら無限だ」

 

 最低から最高まで、なんでもありえる。シュレーディンガーだ。

 

「つばめのヨットで本土まで行くというのは、流石に無理かい?」

 

 と、訊いてみた。本当はつばめとふたりきりがいいので、島から出たくはない。でも、いつかはつばめも思いつく案だろう。

 

「無理! 距離が遠すぎ! フェリーでも2時間掛かるもん!」

 

 私は内心「よっしゃ!!!!!」と叫びながらも、口では冷静に「流石にそうか」とだけ返した。

 

 つばめとふたりきりの生活が続く。嬉しすぎる。私は世界一のラッキーガールだ。

 

 私たちは崖を上がった。港を通り過ぎ、さらに進んでいく。物資探し、兼、死体探しだ。

 

 学校を通り過ぎると、建物群がある。役場、旅館、公民館、住宅など。

 この辺りは、ゾンビが多くて入れなかった地域だ。実際、今でも他と比べて圧倒的にゾンビの死体が多い。

 

 私は、旅館の前で足を止めた。

 

「この島、映画館も総合病院もないのに、こんな大きな旅館があるんだね」

 

「大島の方から観光客が来るからね。入ってみる? 結構いいところだよ」

 

 私たちは中に入ってみる。受付のすぐ隣に、売店があった。使えそうなものを手に取りながら、順番に見ていく。 

 

「「あっ」」

 

 私たちは、ある商品が目に入って、同時に声を上げた。

 

 ――コンドームだ。しかも、大量にある。一区画まるまるゴムのエリアだ。

 な、なにこの量、ドラッグストアより品揃えいいじゃん。

 

 つばめが私を見てくる。気まずくて目を逸らした。

 

 どうしよ、この空気……。流石に困る……。

 

 すると、つばめが一箱手に取った。

 

「持ってく?」

 

「ぶっ……!?」

 

 噴き出した。

 

 は、はあッ!?!?!?!?!?

 

「あははっ! ヒバリ、そんな顔するんだ!」

 

「流石に驚くよ、それは」

 

 努めて、冷静を装いながら返答する。

 

「必要になるかもしれないよ?」 

 

「んんっ……!」

 

 え、使うの!? 使う相手私しかいないけど!? え、いいの!? マジで!?

 

「なんちゃって。他のとこ見よっか」

 

 つばめはコンドームを棚に戻した。

 

 あ、冗談、か……。

 

 私は真顔になる。冷や水をぶっかけられたような気分だった。テンションがガン下がりする。

 

 そして、私たちは売店を出て、廊下を進む。

 

「旅館なんて久々だから、ちょっとワクワクする~!」

 

「そうだね」

 

「泊まってく?」

 

「ああ、そうしようか」

 

 男子とお泊まり! やった!!!

 

 下がったテンションがちょっと戻った。

 

 廊下には、旅館内の間取り図が書いてある。客室は10部屋。――桜の間。葵の間。欅の間。楪の間。菫の間。撫子の間。睡蓮の間。紅葉の間。菖蒲の間。秋桜の間。

 

「ヒバリ、いくつ読める?」

 

「さくら、あおい、けやき、ゆずりは、すみれ、なでしこ、すいれん、もみじ、あやめ、コスモス」

 

「えっ、すごっ!!!」

 

「偶然だよ」

 

 内心、ニヤニヤしてしまう。男子の前でいい格好ができてめっっっちゃ嬉しかった。

 

「ヒバリほんとに頭いいね! 天才! 学問の神様!」

 

「それは菅原道真だけれども」

 

「これ『コスモス』って読むんだね。ずっと『あきざくら』って読んでたよ」

 

「確か『あきざくら』とも読んだ気がするよ。読みが違うだけで、意味は全く同じだけど」

 

「へ~! すごい! ヒバリカッコいい!」

 

 つばめのキラキラとした眼差しが、私に向けられている。嬉しい。気分がいい。

 

 一番近くの『桜の間』へと入ってみる。

 綺麗な部屋だ。六畳の和室。掛け軸には桜が描かれていた。押し入れには、二組の布団が入っている。どちらも未使用だ。

 

 私たちは広縁(ひろえん)のイスに座った。

 

「旅館のこのスペース、ワクワクするよね!」

 

「ああ、分かるよ」

 

「ここ名前あるのかな?」

 

「広縁だね」

 

「えっ、ヒバリ、ほんとになんでも知ってるね!」

 

「ふふっ、偶然だよ」

 

 運よすぎる。知識が生きる場面が、こんなに連続で来るなんて。

 

 ――夜になった。

 

「寝るの、同じ部屋でいいよね?」

 

「えっ、じょ、冗談かい?」

 

「ううん、冗談じゃないよ。せっかく布団も二組あるし、一緒に寝ようよ」

 

「なら、そうしようか」

 

 うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!?

 

 よっしゃぁああああああああああああああ!

 

 同部屋! 男子と同部屋! やった!!!!

 

 布団を出して敷き、それぞれ浴衣に着替えた。また、売店からお菓子やおつまみなどを持ってきた。

 ちなみに、つばめの隙を突いて、ゴムを一箱ポケットに入れてきた。わ、ワンチャンあるかもしれないし!

 

 開けっ放しのカーテン。青白い月光が射し込み、部屋がほのかに明るい。

 

 隣り合う布団。薄闇の中、私たちは見つめ合う。うわぁ……これ、最高……。

 

「なんか、修学旅行みたいでワクワクするね」

 

「修学旅行、か……確かにね」

 

「ね、恋バナでもする?」

 

「えっ、急だね」

 

「やっぱり修学旅行の夜といえば恋バナでしょ。どう? ヒバリは恋人いた?」

 

「いや、いなかった」

 

「じゃあ過去に何人くらいと付き合った?」

 

 ドキン!と心臓が跳ねた。

 

「……っ! え、えっと……」

 

 まずい。言い淀んでしまった。即答しなきゃいけなかった。

 

 つばめが、訝しげな表情で私を見る。

 

「もしかして、ゼロ?」

 

「なっ……!? いや、3人、くらいだ」

 

 心臓が口から飛び出るかと思った。

 

 マズい。マズいマズいマズい。

 

 ちゃんと、設定を考えておかなければいけなかった。こういう時、ボロが出るから。

 

 最悪だ。違和感を持たれている。どうしよう。

 

「本当?」

 

「ほ、本当だとも」

 

「最高でどこまでいった?」

 

 ――!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 急に、核心に迫る質問が来てしまった。未来を決める大事な局面だ。

 

 最悪だ。ちゃんと準備しておかないといけなかったんだ。

 

 私は、精一杯、平静を装いながら答える。

 

「え、せ、S○Xしたけど」

 

「初体験の場所は?」

 

「……えっと、大島のラブホで」

 

「どこのラブホ?」

 

「その、近くに蕎麦屋が二件あるところ……」

 

 友達と蕎麦を食べた時、ラブホの前を通った。私の知る唯一のラブホだ。

 

「あぁ、あそこね。前に男友達グループで大島へ遊びに行った時、ラブホ男子会やったことあるよ」

 

「えっ」

 

 ラブホ男子会!? 知らない文化すぎる! 男子ってそんなことするの!?

 

「じゃあ、ヒバリに問題です」

 

 といって、つばめは私に近付く。

 

 強烈に、嫌な予感がした。怖くて、後ろへ下がり、距離を取る。

 

「も、問題っ? な、なにっ?」

 

「そのラブホに入ってすぐのスペースに、石柱のオブジェは何本立ってるでしょう?」

 

「……っ!?」

 

 石柱のオブジェ!? なにそれ!?

 

「あんなに特徴的なオブジェ、記憶力がよくて博識でエリートなヒバリなら、もちろん覚えてるよね?」

 

「……お、覚えてるに決まってるだろうっ」

 

 なにそれ!? 知らないよ!!! そんなもの置いとくなよ!

 

「じゃあ、いくつ?」

 

 つばめは、さらに近付いてくる。既に、ふたりの布団の境まで来ている。

 彼の瞳には、疑心があった。不審に思っている。バレかけている。

 

「ど、どうして近付いてくるんだい?」

 

「答えは?」

 

「こ、答えは…………」

 

 つばめが本数を覚えてるってことは、そんなに多くはないはず。恐らく1桁だ。そして、1本という可能性もないはず。1本ならオブジェの色や形を問うはずだ。

 

 駄目だ、もう考える時間がない――!

 

「よ、4本、だ」

 

 一番、ありそうな数字を言った。

 

 つばめは、私をじっと見つめる。

 

 ど、どうだ……?

 

「正解は、3本だよ」

 

 惜しいぃいいいいいいいいいいいッ!

 

 惜しいっ! もうちょっとだったのに!

 

「っ……。そ、そうだっただろうか。忘れていたよ」

 

 私は頑張って取り繕う。だが――。

 

「ヒバリ、ウソ吐いたでしょ」

 

「っ……!!!」

 

 つばめはさらに近づいてくる。私は逃げようとするが、腕をがしっと掴まれた。

 

「なっ……!?」

 

「逃げちゃだめだよ」

 

「っ!!!!!!!」

 

 ついに、つばめは完全に私の布団へと侵入してきた。つばめの顔が、目と鼻の先にある。

 

「ねえヒバリ、ほんとはラブホ行ったことないんでしょ?」

 

 ――終わった。完全に終わった。

 

 もう、確信してる言い方だった。

 

「……はい」

 

 私は観念して、認めた。

 

「ほんとはえっちしたことない?」

 

「っ……! ぅ……は、はい……」

 

「彼氏いたことは?」

 

「な、ない、です……」

 

 つばめの質問に、胸を抉られる。処女であることを自白する、辛い時間だった。

 

 ああ……ここまで、頑張ってきたのに……。

 

 私は絶望する。

 

 けれど、つばめの口角が上がっていっている。楽しそうな笑みだった。

 

「ふふっ、ヒバリ、処女だったんだね」

 

「ぐぅっ……!!!!!」

 

「見栄張ってたんだ、可愛い」

 

「い、いわないでっ……!!!」

 

 恥ずかしい。嫌だ。つらい。

 

 キツすぎて、涙が込み上げてくる。

 

 さっきまで部屋の漢字が読めるくらいでドヤ顔してたのが、余計恥ずかしい。処女なのに調子に乗るんじゃなかった。

 

「今思うと、僕のウェットスーツ姿じぃ~っと見てたもんね」

 

「うぐっ……!」

 

「僕がパンツ干してる時も、チラチラ見てたし」

 

「ぐうっ……! ごめんなさいっ……!」

 

「売店でコンドームを棚に戻した時、ガッカリさせちゃったかな? ごめんね?」

 

「ぐぅううううううううっ……!!!!!」

 

 全部、バレていた。

 

 処女の一挙手一投足を、言葉にして説明され、突き付けられる。

 

 恥辱のあまり、身体中が熱い。死にそうだった。

 

 一方――つばめの表情はどんどん明るくなっていく。獲物を嬲って楽しむ捕食者の笑顔だった。

 

「ヒバリのこと、完璧で、クールで、カッコいいなーって思ってたのに、ほんとは処女だったんだね」

 

 グサッと、刺さる。

 

 上手く行ってたんだ、途中までは。実際、たくさん良い所を見せられたし、手ごたえもあった。けれど――全部バレてしまった。

 

「失望した、よね」

 

「そんなことないよ?」

 

「嘘だよ。どうせ『明日から住む家別々にしよう』とかいうんだ」

 

「いわないよ。これからも一緒に暮らそうよ」

 

 えっ……? こんなキモい処女だってバレたのに、一緒に暮らしてくれるの……?

 

「…………本当に? 嫌いになってない?」

 

「なってないよ。むしろ、ヒバリのこと知れて、嬉しいよ」

 

 つばめは顔を寄せ、私の頬に手を当てて、微笑む。近い。キスできそうな距離だ。

 

「つばめ……」

 

「それに、僕も童貞だし」

 

「えっ!?!?!?!?!?!?!?」

 

「声でかっ」

 

 童貞!? いや、そんなわけあるか!!!

 

「そ、それこそ嘘だろう! つばめみたいな可愛い男の子が童貞なわけない!」

 

「いや、ほんとに童貞だよ。彼女もいたことないよ」

 

「嘘だ! 処女をからかうのもいい加減にしてくれ!」

 

「ほんとだってば!」

 

「……本当に?」

 

「本当に」

 

「……からかってない?」

 

「からかってないよ」

 

 結構、本当っぽかった。つばめがこういう演技をできるとは思えなかった。

 

「そ、そうなのか……つばめ、童貞なんだ……」

 

「改めて言葉にされると恥ずかしいんだけど」

 

「つばめだって私のこと処女っていったじゃないか」

 

 さんざんからかっておいて何言ってるんだ。

 

 すると、つばめは――。

 

「ごめんね、お詫びに僕のおっぱい見せてあげる」

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 愕然とする。

 

 つばめは浴衣の(えり)に手を掛け、わざと胸元をはだけさせる。

 

 胸元が深く、覗き見える。肌色の面積が、一気に大きくなる。

 

 私はつばめの胸元を凝視する。

 

 エロっ……! エロっ……!! エロっ……!!!

 

 あっ、もう少しで乳首見えそう――と思った瞬間、つばめはバッと衿を戻し、胸を隠した。

 

「冗談だよ、処女さん♡」

 

「ぐぅううううううううっ! くっっっそ! 処女の純情をからかうなっ!」

 

 くそっ! ちくしょうっ! 遊ばれてるっ! 弄ばれてるっ!

 

 こいつっ! 私が処女だからってっ!!!

 

「ヒバリ、すっごい期待の顔してた~! ウケる~!」

 

「ウケるんじゃない!!!!!!!!!」

 

 騙されたことへの怒りと、バカにされていることへの屈辱。脳味噌が沸騰しそうに熱い。悔しすぎて憤死しそうだった。

 

「大体、女の布団に入り込んできた上にそんなことしてるの、襲われても文句言えないんだからな!」

 

「え~? ヒバリは襲わないよ。優しいもん」

 

「……っ! ぅ……っ!」

 

 優しい。その言葉が、心の深いところに入ってしまう。

 

 カッコいいという評価が消えても、優しいとは思ってくれている。

 

 嬉しい……嬉しいな……。

 

 怒りと悔しさの中に、嬉しさが混ざって、変な気持ちになる。

 

 ぐるぐると、色々な感情が渦巻く。

 

「つばめ」

 

「うん」

 

 私の中で、覚悟が決まった。

 

 私は起き上がり、正座し直す。そして、頭を下げた。

 

「恥を忍んでお願いします! S○Xさせてください!」

 

「うわっ、ガチ土下座……。僕リアルで土下座初めて見たよ……」

 

「処女のまま死にたくないです! 一回だけでもいいです! 情けをください!」

 

「吹っ切れすぎでしょ!!!!! 顔上げてよ!」

 

 私は顔を上げる。

 

 すると、つばめも起き上がり、私のことを抱きしめてくる。

 

 えっ、なんで、と思うのも束の間――。

 

「ヒバリ、イケメンだし、優しいし、正直……えっちしてもいいよ」

 

「えっ、ほんとに……!?!?!?」

 

「うん、ほんとに」

 

 マジ!?!?!?!?!?

 

 マジでヤらせてくれるの!?!?!?

 

「じゃ、じゃあ……!」

 

「でも、ちょっとだけ、心の準備できるまで待ってほしいな」

 

 暴走しかけた心が急ブレーキを掛ける。ヤバい、流石に急ぎすぎた。本当によくない。

 

「あ、ああ! もちろんだ! 性急すぎてすまなかった! 嫌わないでいてくれてありがとう!」

 

 つばめは強く抱きしめてくる。

 

 だ、抱きしめ返して……いいんだよね?

 

 私は、つばめの背に腕を回し、抱きしめ返した。

 

 密着する。お互いの体温が交じり合う。心地よくて、温かい。

 

 やっと抱きしめ返せた。嬉しい……やった……。

 

 しばらく、ずっと、そうしていた。

 

 やがて、つばめの方から腕を放し、私たちは離れた。

 

「さっきの話だけどさ」

 

「ああ」

 

「心の準備ができるまでの間――」

 

 つばめは、黒い笑顔を浮かべる。愉しげな瞳に宿るのは、嗜虐心。いい玩具(オモチャ)を見付けたという、獰悪な昂揚があった。

 

「ヒバリのことからかって遊んでもいいよね?」

 

「やめてよ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 *

 

 翌朝。

 

 私は目覚めた。

 

 隣を見て――瞬間的に、意識が覚醒した。つばめの浴衣が乱れ、胸元が見えている。けど、ギリギリ乳首までは見えない。

 

 胸。おっぱい。えっちな肌色だ。

 

 えっろ……!

 

 私は、慎重に近づく。もう少し屈んで覗き込めば、見えるんじゃないか?

 

 そして――。

 

「んんっ……」

 

 つばめが起きてしまった。

 

「あ、ヒバリ、おはよう」

 

「おはようっ」

 

 私はバッと飛び退き、何事もなかったかのように振る舞う。

 

 くっそっ……! もうちょっとだったのに!

 

 つばめのおっぱい!! つばめの乳首!!!

 

 見たかったっ!!!!!!!!!!!!!!

 

「ヒバリって処女?」

 

「朝からいきなり何!?!?!?」

 

「昨日の、すごい衝撃的だったから、夢だったんじゃないかなって」

 

「残念ながら夢じゃないよ……」

 

「そっか、土下座したのも夢じゃない?」

 

「ああ……」

 

「ウケるね、処女の土下座」

 

「ウケないでよ」

 

 あぁ……ほんとにからかわれるんだ……。ハハッ……。

 

 つばめは起き上がり、乱れた着衣を整える。

 

「ヒバリ」

 

「なに?」

 

「おっぱい覗こうとしてたのバレてるよ」

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 私は衝撃を受けてフリーズする。つばめは動けない私に近付いてきて――耳元で囁く。

 

「ヒバリのえっち♡」

 

 バタンと、私は力なく布団に倒れた。




【キャラクター】

『小野つばめ』
 中島生まれ中島育ちの男子。高2相当。黒髪黒目。ボブカット。背が低い。可愛い。高校時代はヨット部、中学時代は吹奏楽部に所属。
 ヒバリのことをカッコよくて優しくて博識で誠実で頼りになる女性だと思っていた。処女をからかって遊ぶことにハマる。

『西園ヒバリ』
 大島生まれ大島育ちの女子。高2相当。黒髪黒目。ポニーテール。背が高い。
 何が何でもS○Xしたい処女。つばめからの好意と信頼を勝ち取るため、頼りになる女を演じていた。処女であることがバレて、つばめにからかわれて遊ばれることに。

【進捗】

『後藤さん』発見済み。

『来栖さん』未発見。

『馬場くん』未発見。

『井出くん』未発見。

【雑記】

『小島』
 無人島を指す俗称。中島からヨットで行き来できる距離。

『中島』
 T島を指す俗称。人口は200人程度だった。小島の10倍以上の面積がある。T高校が位置する。大島とは陸繋砂州で繋がっているため、干潮時のみ徒歩で行き来できる。

『大島』
 O島を指す俗称。N県の全人口の半数が暮らしていた。N県最大の島。中島の約40倍の面積がある。
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