ゾンビが全滅し終わった世界【あべこべ】   作:耳野笑

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『ここまでのあらすじ』

【つばめ視点】
・パンデミック発生。
・つばめ、ヨットで無人島へ逃げる。1年間のサバイバル生活。
・つばめ、中島へ戻る。ヒバリと出会う。
・死体探しの旅、スタート。一人目の死体を埋葬。
・ヒバリが処女だと発覚。彼女に土下座され、『心の準備ができたらS○Xさせてあげる』と約束。
・つばめ、処女をからかって遊ぶことにハマる。

【ヒバリ視点】
・パンデミック発生。
・ヒバリ、仲間四人と中島へ逃げる。校舎で半年間の共同生活。
・バリケードが破壊される。四人は状況上、死亡濃厚。
・ヒバリ、崖際の洞窟で半年間生活。その後、つばめと出会う。
・死体探しの旅、スタート。一人目の死体を埋葬。
・つばめに処女だとバレる。彼に土下座し、『心の準備ができたらS○Xさせてもらう』ことを約束してもらう。
・ヒバリ、処女をからかわれる日々が始まる。


第4話 待ち人、隣にあり――つばめ視点

 晴天だ。空には薄い水色が広がっている。

 

 僕とヒバリは、今日も畑の整地作業を進める。

 

 1年間放置された畑は、ほとんど草むらのようだった。畦道との境が見えないほど、草が生い茂っている。

 

 中には、僕の胸のあたりまで伸びた草もある。根元を掴み、ぐいっと引っ張って取り除いていく。

 

「ん……?」

 

 緑の中に、土色の大きな物体を発見する。近づいてみると――。

 

「うわっ!」

 

「つばめ? どうした?」

 

 ヒバリが心配して、すぐに僕のところへ来てくれる。僕は草の中を指し示す。

 

「ゾンビの死体あった」

 

 落ちていたのはゾンビの死骸だった。乾燥しきって、骨と皮だけになっている。

 

「私が運ぶよ」

 

「ひとりでだいじょうぶ?」

 

「この状態の遺体なら、ひとりでも運べるよ」

 

「そっか、ありがとう、ヒバリ」

 

 ヒバリはゴム手袋と軍手を付けて、死体を運んだ。畦道に放置するのも気の毒なので、近くの林まで運び、ふたりで埋葬した。

 

 疲れたので、一度家の中に戻って休憩する。

 

 ペットボトルの水を飲む。美味しい。けど、水がなくなってしまった。

 

「水、なくなっちゃった」

 

「私のをあげるよ」

 

「ありがとう」

 

 ヒバリからペットボトルを受け取り、水を飲む。その様子を、ヒバリはじぃーっと見つめてくる。

 

「間接キスだね」

 

「っ……!」

 

 ヒバリの顔に動揺が表れる。頬も赤い。

 

 微笑みながら、彼女にペットボトルを返す。

 

「そういえば、ヒバリと出会ってから一回も雨降ってないね」

 

「そうだね。一回でも降れば、大量に水を確保できるんだけど」

 

 庭には、バケツ20個と、逆さの傘10本を用意してある。雨水を溜めるためのものだ。残念ながら、今のところ役に立ってはいない。

 

 今は洞窟の真水をペットボトルに溜めて飲んでいる。けれど、溜まる量と飲む量はちょうど同じくらいだ。余裕はない。

 

「もっと水があれば、お米研いだり、お湯を沸かしたり、インスタント食品食べたりできるんだけどね」

 

「意外と降らないものだね、雨って」

 

 ふたりで外を眺める。風もないので、何の音もしない。亡んだ世界の静けさだった。

 

「ヒバリって年齢=彼氏いない歴の処女なわけだけど」

 

「なにいきなり!?!?!?!?!?」

 

「仲間のうちの誰かと恋人にはならなかったのかなって。今の僕たちみたいに、一緒に暮らす内に仲良くなったら、ワンチャンあったんじゃない?」

 

「……」

 

 ヒバリは渋い顔をして、テーブルへと視線を下げた。

 

「ヒバリ? もしかして聞かない方がよかった?」

 

「………………つばめに問題だ」

 

「えっ、うん」

 

「人が五人いる。内訳は、女性が三人、男性が二人。カップルは何組できると思う?」

 

「二組だけど……え、ま、まさか……」

 

「5わる2は、2あまり1。その『あまり1』が、私だ。四人はお互いにカップルになり、私だけがあぶれたんだ」

 

「ぶふっ!!!!!!!!!!!!!(笑)」

 

「笑うな!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「今のは笑わせに来てたでしょ!!!!!」

 

「こっちは切実に悩んでたんだぞ!!!!」

 

 ヒバリは泣きそうな顔でキレ出す。

 

「しかも、私たち五人は同じ教室で寝てたんだが……彼女たちは、時々抜け出して他の教室でS○Xしてたんだ」

 

「えっ、ゴムは?」

 

「私が知らない間にコンビニから持ってきていたらしい。私だけ知らなかったけど」

 

 ヒバリの表情は真剣そのものだ。迫真すぎて余計に面白い。けど、喋っている途中なので笑うのは我慢する。

 

「私もS○Xしたかった。切実に、S○Xしたかった。でも……! 相手がいなかったんだ……!」

 

「ぶはっ!!!!!!!!!!!!!!!(笑)」

 

「だから笑うな!!!!!!!!!!!!!!」

 

「これは笑わせてよ流石に!!!!!!!!!」

 

 ヒバリはテーブルに顔を突っ伏した。S○Xの相手がいなくて泣いている哀れな処女だった。かつてのクールな才女の面影はない。

 

「しかも、彼女たちは気持ちよくS○Xできるのに、私はオカズがないから満足にオ○ニーもできなかったんだ」

 

「そうなの?」

 

「つばめ、君に分かるか? エロ漫画もインターネットもない状況故に、なんのオカズもなく、満足なオ○ニーもできない処女の気持ちが」

 

「いや、分かんないけど」

 

 僕は男なので、オ○ニーできない女性の辛さはよく分からない。

 でも、今にも血涙を流しそうなほど顔を歪めるヒバリの姿を見ていると、確かに辛そうだなとは思う。

 

「ねえ、ヒバリ」

 

「なんだい」

 

「ちょっとだけサービスしてあげる」

 

「えっ……?」

 

 ヒバリが急に顔を上げる。

 

 僕は立ち上がり、窓を開け、物干し竿に掛かったままのウェットスーツを取り込んだ。

 

「今から川へ魚獲りに行くところだし、ここで着替えてあげるよ」

 

「マジ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

「声でかっ」

 

 ヒバリの目がキラキラと輝き出す。期待に満ちた眼差しだった。

 

 僕はジャージの上を脱ぐ。肌にピッチリくっつく黒インナーが露わになる。

 

「エロっ……」

 

 ヒバリがすごい小さい声で呟いた。

 

 ヒバリはギンッギンに目を見開いて、僕を凝視する。まとわりつくような、粘り気のある視線だった。

 

「エロっ……!」

 

「ヒバリ、目やらし~(笑)」

 

 さらに、ジャージの下に手を掛ける。ヒバリの喉がゴクリと鳴った。

 

 僕はジャージを脱いだ。黒のパンツを晒す。

 

 ギンッ!!!!!とヒバリの視線が鋭くなる。火傷しそうなほどの熱視線だ。

 

 ヒバリは、鼻の下が伸び、鼻息は荒く、顔は紅潮している。興奮状態だった。

 

 僕に夢中になっているヒバリ。性欲で頭がいっぱいになっているヒバリ。どうしよう、ヒバリ、可愛い……!

 

 僕はウェットスーツに脚を通し、腕を通し、最後に背面のジッパーを上げた。

 ヒバリは最後の一瞬まで、僕を視()し続けていた。

 

「どうだった?」

 

「最高でした!!!!!!!!!」

 

 ヒバリは興奮で顔を赤くしたまま、嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

 僕はジャージの上下を手に取る。川に行くので、ついでに洗濯してしまうべきだけど――。

 

「はい、あげる」

 

「えっ」

 

「先に魚獲ってるから、ゆっくり来ていいよ?」

 

 と伝えて、僕は網を持ち、家を出た。

 

 ヒバリは30分くらい遅れてやってきた。

 

 *

 

 昼食として焼き魚と蒸しジャガを食べ、洗濯と水浴びを済ませた。

 

 午後。洞窟に寄って、空のペットボトルと満杯のペットボトルを交換した。

 

「今日も死体探しする?」

 

「ああ、そうしよう。地元の人から見て、目ぼしい場所はあるかい?」

 

 僕の方が土地勘はある。村、港、学校、住宅地は探したので、あとは――。

 

「神社だね。この島には3つ神社があるんだけど、3つ見て回ると、ちょうどよく一周できるよ」

 

「分かった、案内は頼むよ」

 

「うん、任せて」

 

 この島には、K神社、E神社、Y神社の計3つ神社がある。今回は、近い順にKEYの順で回ることにした。

 

 車道を歩きながら、ふと気になったことを尋ねる。

 

「ヒバリって五人の中で唯一カップルになれずS○Xもできなかったんだよね?」

 

「そ、そうだけど」

 

「四人のこと、どう思ってるのかなって」

 

「仲間だと思っている」

 

 即答だった。

 

「半年間を共に過ごした。たくさん助けられた。何より、彼女たちとの思い出の中には、楽しい記憶が多い。だから、大切な仲間だ」

 

「ヒバリ……」

 

「――という気持ちと、私にもS○Xさせろよという気持ちを天秤に掛けたとき、ギリ前者が勝る」

 

「あ、ギリなんだ」

 

 とはいえ、ヒバリは四人を大切にしている。劣等感とか、嫉妬心とか、そういうものより強い想いで。

 

「ヒバリのそういうところ、好きだよ」

 

「……そ、そうか」

 

 ヒバリは照れくさそうな顔をした。

 

 ヒバリはそれきり、黙り込んでしまった。多分、僕に言われた「好き」という言葉を大切に反芻しているのだろう。

 

 学校でシャベルを回収した後――K神社にたどり着いた。林の中にポツンと立っている、寂れた神社だ。拝殿の鈴に繋がる縄は、先端がほつれてバラけていた。

 

 なんだか、寂しさが湧いてくる。

 

 拝殿の中と裏の倉庫を確認したが、死体はなかった。

 

 次に、住宅街を少し通り過ぎて、E神社を訪れた。真っ赤な鳥居。石畳と、砂利の敷き詰められた境内。拝殿も社務所*1も真新しい。

 

 ある地域で最も立派な神社を「一の宮」という。中島の一の宮に当たるのが、このE神社だ。

 

「大きいね」

 

「うん、元日は、毎年ここに来てたんだ」

 

 なんとなく、拝殿の前に立つ。なんとなく、縄を揺らし、鈴を鳴らす。

 

 僕は目を閉じ、両手を合わせた。

 

 ……ヒバリの仲間が、みんな見つかりますように。

 

 目を開けると、ヒバリも目を閉じて両手を合わせていた。

 

 五秒くらいして、ヒバリは目を開けた。

 

「何をお願いしたの?」

 

「仲間が早く見つかりますように、と」

 

「ふふっ、そうだと思った」

 

 僕らはぐるっと拝殿の周りを回った。何もなかった。社務所も覗いてみる。何もなかった。

 

「あ、おみくじ引いてこうよ!」

 

「いいね」

 

 六角形のおみくじ箱を取り、ぶんぶんと振ってから逆向きにして取り出す。ヒバリも同じようにして、おみくじを引いた。

 

「あ、大吉!」

 

「私もだ」

 

「え、すごい!」

 

 ふたりとも大吉だ。めでたい。

 

 細かいところも読んでみる。――待ち人、隣にあり。

 

「えっ」

 

「どうかしたのかい?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 思わず、ごまかしてしまった。

 

 なにこれ、隣にありって。こんなのあるんだ。初めて見た。

 

 ヒバリを見る。自分のおみくじをじっくり読んでいる。

 

 待ち人。運命の人。伴侶になる人。

 

 ……そうなのかな。確かに、そうかも。

 

「学問、大いに実る、だそうだ」

 

「ふふっ、もう関係ないね」

 

「ああ、全くだね」

 

 そして、E神社を出て、北上する。Y神社にたどり着いた。境内中央に、細長く尖った奇岩がそびえ立っている。

 

「安産祈願の岩なんだって」

 

「へえ」

 

 ヒバリは岩に触れた。

 

「産む機会はあるのだろうか」

 

「なんで僕見ながら言うの」

 

「S○Xしてくれる可能性のある相手が、つばめしかいないからだ」

 

「そうだけど」

 

「本当に、切実に、頼むよ」

 

「必死でウケる(笑)」

 

「ほ、本当にS○Xしてくれるのか? 冗談とかじゃない?」

 

「ゴムはするけど、ちゃんとしてあげるよ」

 

「そ、そうか……ありがとう……」

 

 ヒバリは岩から手を離した。そのまま拝殿の方へ歩く。

 

「実際、病院もないし助産師もいないし、出産は危なくない?」

 

「そうだね。出産は母体への負担が大きい。さっきはああいったけど、リスクを考えると避けるべきだろう」

 

「うん、だから、生えっちはしないよ。ちゃんとゴム付けるから」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 拝殿の中を覗いてみる。特に何もない。

 

「今思ったんだけど、神社巡りも修学旅行っぽいね」

 

「そういえばそうだね」

 

 拝殿の裏側へと回る。――死体があった。

 

「っ……!」

 

 朽ちたゾンビたちと比べて、比較的新しい死体だ。

 

 念のため、慎重に近づく。動く様子はなかった。

 

「ヒバリ、これって……」

 

「……井出くんだ」

 

 *

 

 境内は土が硬くて掘れそうになかったので、参道の脇にある地面に埋めた。

 

「きっと、井出くんも喜んでるよ」

 

「ああ……」

 

「あんなところに野晒しなんて、可哀想だもん」

 

「そうだね」

 

「ねえヒバリ、ライター持ってる?」

 

「ああ、持ってる。使うのかい?」

 

「うん、キャンプファイヤーしようよ」

 

「きゃ、キャンプファイヤー?」

 

 ヒバリは目を丸くする。

 

「うん、火葬の代わりに」

 

「火葬の代わり、か……つばめは自由だね」

 

「ダメかな?」

 

「いや、いいと思う」

 

 僕たちは、林で枝と枯れ葉を集めて、境内に戻った。それらを地面に置き、火をつける。

 

 キャンプファイヤーというより、焚き火だ。

 

 僕とヒバリは拝殿前の石段に並んで座り、炎を眺める。

 

「ヒバリ、死なないでね」

 

 強い語気になってしまった。ヒバリも驚いている。

 

「もう、ひとりはやだよ。ずっと一緒にいてよ」

 

「……ああ、約束する。ずっと一緒だ」

 

 ヒバリは真剣に、そう答えてくれた。

 

 僕はヒバリへ近づくように座り直す。肩と肩が触れ合う距離だ。

 

 炎が揺れる。

 

 ヒバリを見ると、目が合った。

 

 綺麗な目。氷像のように、整った顔立ち。

 

「…………」

 

 何も言わず、見つめ合う。静寂の中に、パチパチと火の弾ける音だけが鳴る。

 

 ――待ち人。自分の、生涯の伴侶になるかもしれない人。

 

 じっと、待ってみる。なにかしてくるかな。

 

「…………」

 

 長い間、見つめ合う。にらめっこみたいで面白くて、思わず目を逸らす。火はずいぶん小さくなっていた。

 

 すると、ヒバリは――。

 

「ビックリした。キスされるかと思ったよ」

 

「あははっ、僕もそう思ったよ」

 

「し、していい?」

 

「だめ~。さっきのタイミングが正解でした~」

 

「そんなっ!?!?!?!?!?」

 

 ショックを受けているヒバリを余所に、僕は立ち上がる。枝と木の葉は燃え尽きた。

 

「帰ろっか」

 

「…………ああ」

 

 ヒバリはしょぼんとしていた。キスし損ねたのが悲しいのだろう。

 

「元気出してよ、これからいくらでもチャンスはあるんだから」

 

「ああ、ありがとう……」

 

 参道で立ち止まり、埋葬した所で、再び黙祷を捧げる。

 

 死体探しの旅は、これで折り返しだ。残りは二人。見つかるといいな。

*1
おみくじを引いたりお守りを買ったりするところ




【キャラクター】

『小野つばめ』
 中島生まれ中島育ちの男子。高2相当。黒髪黒目。ボブカット。背が低い。可愛い。高校時代はヨット部、中学時代は吹奏楽部に所属。
 ヒバリのことをカッコよくて優しくて博識で誠実で頼りになる女性だと思っていた。処女をからかって遊ぶことにハマる。

『西園ヒバリ』
 大島生まれ大島育ちの女子。高2相当。黒髪黒目。ポニーテール。背が高い。
 何が何でもS○Xしたい処女。つばめからの好意と信頼を勝ち取るため、頼りになる女を演じていた。処女であることがバレて、つばめにからかわれて遊ばれることに。

【進捗】

『後藤さん』発見済み。

『来栖さん』未発見。

『馬場くん』未発見。

『井出くん』発見済み。

【雑記】

『小島』
 無人島を指す俗称。中島からヨットで行き来できる距離。

『中島』
 T島を指す俗称。人口は200人程度だった。小島の10倍以上の面積がある。T高校が位置する。大島とは陸繋砂州で繋がっているため、干潮時のみ徒歩で行き来できる。

『大島』
 O島を指す俗称。N県の全人口の半数が暮らしていた。N県最大の島。中島の約40倍の面積がある。
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