ゾンビが全滅し終わった世界【あべこべ】   作:耳野笑

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『ここまでのあらすじ』

【つばめ視点】
・パンデミック発生。
・つばめ、ヨットで無人島へ逃げる。1年間のサバイバル生活。
・つばめ、中島へ戻る。ヒバリと出会う。
・死体探しの旅、スタート。一人目の死体を埋葬。
・ヒバリが処女だと発覚。彼女に土下座され、『心の準備ができたらS○Xさせてあげる』と約束。
・つばめ、処女をからかって遊ぶことにハマる。生着替えを見せてあげる。
・二人目の死体を発見、埋葬。

【ヒバリ視点】
・パンデミック発生。
・ヒバリ、仲間四人と中島へ逃げる。校舎で半年間の共同生活。
・バリケードが破壊される。四人は状況上、死亡濃厚。
・ヒバリ、崖際の洞窟で半年間生活。その後、つばめと出会う。
・死体探しの旅、スタート。一人目の死体を埋葬。
・つばめに処女だとバレる。彼に土下座し、『心の準備ができたらS○Xさせてもらう』ことを約束してもらう。
・ヒバリ、処女をからかわれる日々が始まる。生着替えを見せてもらえた。
・二人目の死体を発見、埋葬。


第5話 もし僕がゾンビになったら――つばめ視点

 遂に、雨が降った。ヒバリと出会ってから初めての雨だ。

 

「やった~~~~~!!!!!」

 

 僕たちは喜んだ。庭のバケツと傘に、雨水が溜まっていくのが見える。

 

 これで、飲み水を大量に確保できた。インスタント食品も作れる。早速、朝食として食べることにした。

 

 軒先で、水を鍋に移す。ライターで火を付けて焚き火にし、鍋を掛けて沸騰させる。そして、カップラーメンにお湯を注ぐ。3分待って、フタを開けた瞬間、醤油の匂いが鼻腔を直撃する。

 

 ふたりでいただきますをして、一口食べる。

 

「ぅ~~~~~~~~~~~っ!!!」

 

 感激する。涙が出そうなくらい美味しい。ヒバリも感動し、幸せそうな顔をしていた。

 

 ずっとジャガイモばかり食べて飽きていたので、ジャンクフードの味の濃さが身に沁みる。

 

「僕、カップラーメンがこんなに美味しいって思ったの初めてだよ!」

 

「なんだか、雪山から生還した冒険家みたいだね」

 

「あの時食べたカップラーメンが人生で一番美味しかったって言うやつ?」

 

「そうそう、そんな感じ」

 

 あっという間に食べ終わってしまった。幸せだった。

 

 不思議な気分だった。ゾンビパニック前は『簡単な食事』だったカップラーメンが、今では『最上級の贅沢品』になっている。

 一度、野草や野菜しか食べられない生活を経たことで、価値観が大きく変わってしまった。

 

 僕は外を見る。雨粒がバケツの水面を打ち続けて、飛沫が跳ねている。

 

「死体探し、あと二人だね」

 

「ああ、つばめのおかげで、もう折り返しだ」

 

「どういたしまして。ところで、全員の死体見つけたら、その後どうする?」

 

「その後?」

 

「うん、何かやりたいことある?」

 

 ヒバリは考え込む。10秒。20秒。だいぶ長考だ。

 

「……何もすることがない」

 

「そりゃそうだよね」

 

 以前、職員室で進路希望調査票を書いた時のことを思い出した。あの時も、結局何もやることが思いつかなかった。

 

「まあ、この話は置いておくとして。死体探しが終わってからじゃなくてもいいんだけど、一回大島へ行ってみない?」

 

「……大島へ?」

 

「うん、服が欲しいんだ。夏用と冬用」

 

 これは、主にヒバリのための提案だ。いつまでも他人の服を着ているヒバリが可哀想だった。

 

「ああ、そうだね。私も新しい服が欲しい。それに、ライターもなくなりそうだし、携帯用コンロもあった方がいい。その他調味料とか、保存の利く食品も持ってこよう」

 

「夜暗くなっちゃうから、ランタンも欲しいな。あと、ジャガイモばっかりだと飽きるから、色んな野菜の種も欲しい」

 

 考えてみると、欲しい物がたくさん浮かんだ。

 

「じゃあ決まりね! 大島へ探検に行こう! いつ行く?」

 

「明日以降で、準備と天気がよければ行ってみよう」

 

「了解! 楽しみ~!」

 

 今からワクワクする。服も、道具も、なんでもタダで手に入るのだ。

 

「でも、今日は暇だね」

 

「そうだね」

 

 雨が降り続いている。畑仕事も魚獲りもできない。死体探しはできなくもないけど、雨の中動き回る気はしない。

 

「トランプあるけど遊ぶ?」

 

「ああ、いいね」

 

「じゃあ僕の部屋おいでよ」

 

「え、ああ、そうか」

 

 ふたりで2階へ移動する。

 

 僕の部屋へ入る。思えば、女子を部屋に入れるのは小学生以来だ。

 

 ヒバリは部屋に入ると、ぐるっと見回した。

 

「いい匂いする……」

 

「なんか恥ずかしいんだけど」

 

 僕の部屋にはラグが敷いてあり、ローテーブルが置いてある。僕とヒバリは、テーブルを挟んで座る。

 

 ババ抜き、スピード、ポーカー、大富豪。知っているトランプゲームを一通りやっていく。

 

「あとは神経衰弱だろうか」

 

「ヒバリ、頭いいから強そ~」

 

 トランプを裏向きに並べて、神経衰弱を始める。

 

 僕はカードをめくりながら、なんとなく話し始める。

 

「小島にいた頃さ、雨の日は体力を使わないように、何もせずじーっとしてたの」

 

「……ああ」

 

 外からは、ざぁざぁと雨の振る音。電気の点いていない室内は薄暗い。

 

「なにもしないでいると、すっごい寂しかった」

 

「……ああ、分かるよ。ひとりは辛い」

 

 ヒバリがカードをめくりながら、そういった。暗く凍えるような洞窟の中から海を見つめ続けたヒバリも、同じ気持ちだったはずだ。

 

「雨の時とか、夜とか、空が暗い時が特につらかった。どんどん気持ちが沈んじゃって。お母さんとか、友達とか、みんながゾンビになってる姿を思い出してさ。僕もあの時ゾンビになってれば、こんな寂しい思いをせずに済んだのかなって考えてた」

 

 カードをめくる。情報が揃い、ペアができ始める。

 

「半年以上経ったころから、誰かと会いたくて、誰かと話したくて堪らなかった。もう、ゾンビでもいいから会いたいって思った」

 

「ぞ、ゾンビでもいい……か。それくらい辛かったんだね」

 

「うん、とにかく動いてる人を見たかったの。それで、1年経ったら中島に戻ろうって決めた」

 

 ヒバリがカードをめくるが、ペアはできなかった。というか、ふたりで同じカードを何回もめくってしまっている。お互いゲームに集中していない。

 

「1年経って、僕は中島に戻った。そして、ヒバリに出会った」

 

 トロンボーンを吹いて、それを聞いたヒバリがやってきた。演奏に夢中だった僕はそれに気づかなくて、振り向いた瞬間人が立っていて滅茶苦茶ビビった。

 

 けれど、ちゃんと人間だった。

 

「あの時は、本当に感動したよ」

 

「私も同じ気持ちだったよ」

 

「しかもイケメンだしラッキー!って思った」

 

「え」

 

 ヒバリが目を丸くしながら、カードをめくる手を止めて、僕を見る。

 

「そんなこと思ってたのかい?」

 

「うん」

 

「そ、そうか……」

 

 ヒバリの口角がぴくぴくと上がっている。嬉しいのだろう。

 

 ヒバリがイケメンなのは事実だ。氷像のように整った容貌。心の奥底まで見通せない、妖しい翳り。

 それに加えて、豊かな知識や語彙が漂わせる、大人びた雰囲気。

 

 強くて、クールで、カッコいい、頼りになる女性に見えていた。実際は処女だったけど。

 

「ヒバリも僕のこと可愛いって思ったでしょ?」

 

「え、それは……」

 

「思ったでしょ?」

 

「お、思ったよ。思うに決まってる。可愛すぎて驚いた」

 

「ふふん、そうでしょ」

 

 僕は胸を張る。気付けば、ゲームも中盤戦だ。

 

「当時は演技をしていたから言えなかったけど、あの日は私の人生で最も嬉しかった日だ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「つばめに『一緒にいたい』と言ってもらえた時、心の中では大歓喜だった。こんな可愛い男子と一緒に暮らせるなんて夢みたいだと思った」

 

「あ~、なるほど。言わなかっただけで、お互い最高の第一印象だったんだね」

 

「そうなるね」

 

 僕はヒバリをイケメン美女だと思っていた。ヒバリは僕を可愛い美少年だと思っていた。

 知らなかった。こんなすれ違いがあったんだ。もっと正直に言っておけばよかったな。

 

「だから、処女だとバレた日、全部終わったと思った。嫌われたし、気持ち悪がられるだろうし、それが自然だ。もし家から出ていけと言われたら、そうするつもりだった。けれど――」

 

 ヒバリは僕を見る。僕も手を止めて、ヒバリを見つめ返す。

 

「私の勘違いでなければ、嫌われるどころか、ちょっと嬉しそうに見えた」

 

「うん、嬉しかったよ。なんというか、素のヒバリを知って、ヒバリをすごい近くに感じられたから」

 

 僕は笑顔で、そう答えた。

 

 あの件がきっかけで、僕たちの仲は一気に縮まった。主に僕が、ヒバリに対して遠慮なく距離を詰められるようになったから。

 

「着替えを見せてくれた時は、本当に驚いたよ」

 

「あの時のヒバリ、すごい嬉しそうだったね」

 

「ああ、幸せだった」

 

「これ勝ったらまた見せてあげるよ」

 

「えっ!? ちょっ、ズルいぞ、自分が勝ってるからって!」

 

 僕の方が枚数でリードしている。終盤戦なので、ワンプレイが勝敗に直結するだろう。

 

「がんばれ~。ちなみに今、黒のスポブラだよ~」

 

「っ!!!!!!!!!!!!」

 

 ヒバリは急に真剣な顔で卓上を見つめ出す。長考だ。懸命に記憶をたどっているのだろう。

 

「あははっ、必死でウケる~!」

 

「必死にもなるだろうこんなの!」

 

 やっぱり、素のヒバリの方が面白い。話してて一番楽しい。

 

「やっぱり処女からかうの楽しいね」

 

「そろそろ襲うぞ」

 

「かかってこ~い」

 

 僕は両腕を広げた。本当にかかってこられたら困るけど、多分ヒバリはそんなことをしない。優しくて、真面目で、誠実な人だから。

 

「本当にかかっていったらどうするんだ」

 

 そういって、ヒバリはカードをめくった。残念ながらペアは不成立だ。

 そして、残った組合せが確定してしまったので、僕が残りの札を全部持っていく。

 

「はい、僕の勝ちね。残念ながらスポブラはお預けです」

 

「ぐうぅうううっ! 見たかった……!!!」

 

「処女さんかわいそ~(笑)」

 

「くっそ……!!!!!!!!!!!!!!」

 

 ヒバリは悔しそうな顔で僕を睨む。処女という恥部を繰り返しバカにされ、怒りと屈辱で顔が赤くなっていた。

 

 どうしよう、本当に楽しい。ヒバリのせいで変な扉開いちゃったかもしれない。

 

 もっと、もっと、ヒバリを辱めたい。その上で、抱きしめてあげたい。情緒がおかしくなって僕のことしか考えられなくしたい。

 

「ヒバリに問題です」

 

「え、な、なに?」

 

「僕がゾンビになっちゃったら、どうする?」

 

「えっ」

 

「ゾンビになった僕が、こんな風に襲い掛かってきたら」

 

 僕はテーブルを迂回するように、ヒバリへと近づく。

 

「がおーっ」

 

「えっ、えっ」

 

 僕はゾンビっぽく両腕を突き出しながら、徐々にヒバリへと迫る。

 

 そして、あっという間に距離が詰まる。ヒバリのすぐそばにやってきた。彼女の表情には戸惑いがあった。

 

「はい、時間切れ~」

 

 がぶっ、とヒバリの首を甘噛みする。

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 驚愕で、ヒバリの身体が強張った。僕はついでに、ちゅっ♡と首にキスしてから顔を離す。首筋にはうっすら噛み跡が付いていた。

 

「僕がゾンビならもう死んじゃってたよ?」

 

 ヒバリは、瞳孔がギンッギンに開いていた。飢えた獣と相対しているような身の危険を感じる。

 

「つばめ」

 

 ヒバリは僕の両肩に手を置いた。あっ、と声を上げる間もなく、ラグの上に押し倒された。

 

 薄暗い部屋。雨風の音。ヒバリの顔に翳がかかる。獣欲に燃える双眸が、僕を見下ろしている。

 

「お願いしますっ! ヤらせてくださいっ!」

 

「こら、だめだよ。ゴムないんだから」

 

「実は私、旅館から一箱持ってきたんだ!」

 

「うわヤる気満々じゃん!!!」

 

「い、いい!?」

 

「う~~~~~~~~ん……」

 

 いいか、よくないかで言えば、いい。

 

 ヒバリとS○Xすることには抵抗がない。僕も、それくらいヒバリのことを好きになっている。

 

 でも、男の子としての綺麗な心が、もっと素敵な初体験を夢見ている。

 

「ごめんね、もっと他にしたいシチュエーションあるんだ」

 

「ど、どんなシチュエーション……?」

 

「勝負下着付けたい。スポブラはムードないもん」

 

「スポブラもエロいと思うけど」

 

「ちゃんと身体洗いたい。昨日の昼から洗ってないし、今日も雨だから洗いに行けないし」

 

「あ、それは確かに」

 

「あと、その……笑わないでほしいんだけど、夜にS○Xしたい。薄暗い部屋で、できればランタンくらいの光源だといいかも」

 

 言ってて滅茶苦茶恥ずかしい。今ぜったい顔赤い。

 

 けど、ヒバリは大真面目に頷いてくれた。

 

「分かった、ランタンだね。絶対大島で見つけてこよう」

 

「あと……流されえっちもいいと思うけど、どうせならちゃんと恋人になってからしたいな」

 

 セフレとか、ワンナイトとか。そういうのも楽しいのかもしれないけど、ヒバリとは正真正銘生涯を共にする相手になれる気がしている。

 だから、正式に恋人になって初体験をしてみたかった。

 

 ヒバリはハッとして、僕の上からどいて、流れるように土下座した。

 

「おっしゃる通りです、すみませんでした」

 

「あははっ、処女の土下座二度目だ~!(笑)」

 

「反省してます」

 

「いいよ」

 

 僕はヒバリの頭を撫でた。こんなことで嫌いになんてならないし、謝るほどのことだとも思っていない。

 

「そもそも『処女捨てさせてあげる』って話だったのに、僕がちゃんと付き合ってえっちしたいって言い出したんだから、ヒバリはなんにも悪くないじゃん」

 

 ヒバリは頭を上げる。驚きの表情だった。

 

「優しすぎる……! ありがとう……!」

 

「よしよし」

 

「つばめ、天使すぎる……!」

 

 ヒバリはさっきまで処女をバカにされていたのを忘れたかのように感動していた。

 

 ちょろい。ヒバリという女性の弱さが、とても愛おしい。

 

 僕はしばらく、ヒバリの頭を優しく撫でてあげた。

 

 *

 

 数日後。

 

 快晴だ。澄んだ青空、穏やかな気温。大島遠征にはぴったりの日和だ。

 

 僕は普段使っているリュックに加えて、大きめのセカンドバッグを持っている。ヒバリはリュックと、旅行用のトランクだ。ちなみに僕の母のものだ。

 

 リュックには、水、蒸しジャガ、缶詰などの食料品と、懐中電灯などの装備が入っている。

 食料は約3日分だ。探索に使える実時間は2日くらいという見積りだった。

 

「よし、じゃあしゅっぱ~つ!」

 

 僕たちは大島へ向けて出発した。中島の端まで歩く。すると、海の中に一本の砂道がある。――陸繋砂州(りくけいさす)。島と島を繋ぐ、砂の道だ。

 

 砂道に足を踏み入れる。一歩ごとに靴が沈むので、歩くのが大変だ。

 

 左右に海がある。海面が太陽の光を跳ね返してきらめく。潮風が吹いて、髪が揺れた。

 

「うわ、トランクつらそう」

 

「ああ、濡れた砂と車輪の相性が最悪だ」

 

 ヒバリは重そうにトランクを引いてきている。帰りはもっと重くなるので、しんどくなるかもしれない。

 

「疲れたら代わるよ」

 

「心配には及ばない。任せてくれ」

 

「ありがとう、ヒバリ」

 

 話しながら歩く。すると、中島と大島の中間地点に来たあたりで――。

 

「つばめ、ずっと訊きたかったことがあるんだ」

 

「なに?」

 

「大島で他の生存者を見付けたとする。個人か団体か、どちらでもいい。その人たちと合流して生活を共にするつもりはあるかい?」

 

「え、う~ん……」

 

 僕は歩きながら、後ろを振り向いた。砂上には、僕たちふたりの足跡と、車輪の跡が残っている。

 

 小島から帰ってきたばかりの僕なら、生存者と合流して一緒に暮らそうとしただろう。団体であれば尚のこと、混ぜてもらおうとしたはずだ。

 

 でも、今の僕はヒバリと共に過ごして、孤独感が癒えている。あの時ほど人に飢えていない。

 

 そして、なにより――ヒバリと過ごす日々が楽しい。この時間が、一番楽しい。

 ヒバリとふたりきりで過ごす生活。そこに他の人を混ぜた生活。二つを天秤に載せると、前者の方に傾く。

 

「しないよ。僕はヒバリとふたりで暮らしたい」

 

 ヒバリが僕を見る。真顔だけど、強い感情の籠もった表情だった。

 

「そ、そうか」

 

「ヒバリと一緒にいるの、一番楽しいもん」

 

「私もだ。つばめといるのが、一番楽しい」

 

「やった、嬉しい」

 

 嬉しくて、笑顔になる。

 

 ヒバリの一番になれたことが嬉しい。処女の彼女が、勇気を出してはっきり想いを伝えてくれたことが嬉しい。

 

 やっぱり、僕はヒバリのことが好きだ。人生で初めての、恋だ。

 

 僕はヒバリの腕をちょんちょんと突っつく。

 

「それに、スケベなヒバリは僕とふたりっきりの方が嬉しいもんね」

 

「うっ……!? ぐっ……! ま、まあ……そうだけど……」

 

 図星を突かれたからか、ヒバリの表情が歪み、直後小声になっていった。

 

「もしかして心配してた?」

 

「あ、ああ、してた」

 

「だいじょうぶだよ、これからもふたりで暮らそうよ」

 

「よかった。その言葉を聞けて、ホッとしている」

 

 太陽のせいかもしれないけど、ヒバリの目が光っているように見えた。

 

 ――砂の道を渡り切り、大島側の砂浜に着いた。(おか)の方にはテトラポッドが積まれている。

 

「着いた~!!!」

 

「ああ、着いたね。……久々だ」

 

 ヒバリは感慨深そうにつぶやいた。ヒバリにとっては故郷であり、本来の生活圏だ。

 

 陸へと上がる階段に向けて、砂浜を歩いていく。コツンと、靴に何かが当たった。ガラス製のビンだった。

 

「ん?」

 

 ビンの中に、折りたたまれた紙片が入っていた。

 

「なんだろこれ」

 

「ボトルメッセージだろうか。それにしてはビンも紙も安っぽいけれど」

 

 僕はビンのフタを開けて、紙片を取り出そうとする。けど、ビンの口が小さいせいで上手く取り出せない。

 

「私が割ってみるよ」

 

「あ、そうだね。おねがい」

 

 ヒバリはビンを遠くに放り投げる。テトラポッドに命中して割れた。

 僕とヒバリは近付き、紙片を拾い上げ、広げてみると――。

 

『西園さんへ。アンズとハジメがゾンビ化した。私たちは無事。大島のホームセンターへ逃げることにする。ミユとジュンより』

 

「なっ……!?!?!?!?!?!?」

 

 ヒバリが激しく狼狽えた。こんな姿は初めてだ。でも、僕には何のことか分からない。

 

「えっと、全員誰?」

 

「……後藤アンズ。井出ハジメ。来栖ミユ。馬場ジュン。私と共に過ごした仲間たちの名前だ」

 

「えっ!?!?!?」

 

 再び紙片を見る。アンズとハジメがゾンビ化した。私たちは無事。ミユとジュンより。

 

「じゃあ、残りの二人は生きてるってこと!?」

 

「そうかもしれない。このメッセージがいつ書かれたものか分からないから、確証はないけど」

 

「そっか……よかったね、ヒバリ」

 

「ああ……」

 

 ヒバリの表情には万感の思いがあった。

 

「でも、この西園さんって誰だろうね? 他に生存者がいたのかな?」

 

「……西園ヒバリ。私の苗字だ」

 

「あっ」

 

 ヤバっ、忘れてた。

 

 ヒバリは真顔になる。そして、糾弾するような眼差しで僕を見る。

 

「つばめ、今私の苗字忘れてただろう」

 

「そ、そんなことないよ? そうだよね、西園ヒバリだよね、ちゃんと覚えてたよ」

 

「嘘すぎる」

 

「じゃ、じゃあヒバリは僕の苗字覚えてるの!?」

 

「小野つばめ」

 

「申し訳ありませんでした!!!!!」

 

「ま、まあ構わないよ」

 

 ヒバリは露骨にショックを受けていた。罪悪感がすごい。

 

「ごめん~~~!!!」

 

「気にしてないから」

 

「ウソじゃん!」

 

「怒ってはないよ。ただショックなだけで」

 

 僕はヒバリの腕に抱き着き、媚びっ媚びの猫撫で声で許しを乞う。

 

「ほんとにごめんね? またパンツ見せてあげるから許して?」

 

 ヒバリの目の色が変わる。ギンッ!という力強い眼差しで僕を見る。

 

「絶対だからな、絶対見せてもらうからな」

 

「うん、だから元気出して?」

 

「出た。完全に出たから問題ないよ」

 

 許してもらえた。ヒバリも元気になった。性欲に真っ直ぐすぎて面白い。

 

 僕たちは改めて紙片のメッセージを見る。気になるのは『大島のホームセンターへ逃げることにする』という部分だ。

 

「ホームセンターっていっぱいあると思うけど、どこだろ」

 

「私の通っていた高校の近くにホームセンターがあるんだ。私たちの間でホームセンターといえば、そこのことだった」

 

「へ~! じゃあ行ってみようよ!」

 

「ああ、そうだね。道中で物資も探しながら行こう」

 

「うん、了解!」

 

 僕たちは移動し始める。他にも数個ビンを見付けた。割ってみたけど、中のメッセージは全て同じだった。

 

「見つけてもらえるように、いくつも置いたんだろうね」

 

「だね。ところで、その二人が生きてるとして、合流できたらどうするの?」

 

「安否を確認して別れるつもりだ。彼らは大島で暮らすだろうし、特に生活を変えるつもりはないよ」

 

「うん、そうだね!」

 

 陸へと繋がる階段を上がる。道路上に立つと、ワクワクした。

 

 生活を豊かにするための物資。美味しいインスタント食品。出会えるかもしれない、ヒバリの仲間。

 色んな期待でいっぱいで、心臓が高鳴るのを感じた。

 

 ――ここから、大島探検が始まる。




【キャラクター】

『小野つばめ』
 中島生まれ中島育ちの男子。高2相当。黒髪黒目。ボブカット。背が低い。可愛い。高校時代はヨット部、中学時代は吹奏楽部に所属。
 ヒバリのことをカッコよくて優しくて博識で誠実で頼りになる女性だと思っていた。処女をからかって遊ぶことにハマる。

『西園ヒバリ』
 大島生まれ大島育ちの女子。高2相当。黒髪黒目。ポニーテール。背が高い。
 何が何でもS○Xしたい処女。つばめからの好意と信頼を勝ち取るため、頼りになる女を演じていた。処女であることがバレて、つばめにからかわれて遊ばれることに。

【進捗】

『後藤アンズ』発見済み。

『来栖ミユ』 未発見。生死不明。

『馬場ジュン』未発見。生死不明。

『井出ハジメ』発見済み。

【雑記】

『小島』
 無人島を指す俗称。中島からヨットで行き来できる距離。

『中島』
 T島を指す俗称。人口は200人程度だった。小島の10倍以上の面積がある。T高校が位置する。大島とは陸繋砂州で繋がっているため、干潮時のみ徒歩で行き来できる。

『大島』
 O島を指す俗称。N県の全人口の半数が暮らしていた。N県最大の島。中島の約40倍の面積がある。
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