行方不明者捜索【エレクトリアコード二次創作】 作:ジャック・アヴェンダドール
一瞬時が止まる錯覚がした。このエレクトリア2人は元々の開発の経緯から人間も攻撃出来る。普通のエレクトリアには不可能な事ではあったが、すっかりその事が頭から抜け落ちていた。
「あーそうね、それが1番手っ取り早かったわ……」
「最近そういう事態が無い訳では無かったのですがすっかり忘れてました……」
それぞれ呟いた後、僅かな笑い声が誰からともなく出始める。一応隠れている為抑えてはいるが、そうで無かったらもっと大声で笑っていただろう。ひとしきり笑った後、改めて武器を構える。
「よし、じゃあやるか!」
リュミレスカが気合いを込めるがそれを制すロザンリーティ。
「私にやらせろ。ミスった時のカバーは頼む」
「え?まぁいいけど」
いつも以上に積極的なロザンリーティに若干の驚きはあったが、そのまま任せる事にした。
相手がこちらから視線を外した隙にロザンリーティは走り出す。彼女の使っている特殊な磁気性の粉を使い、音を立てずに全速力で男に近づく。だが男は周りを見渡して彼女の存在に気付いてしまう。
「なんだお前⁉︎…グアァ!」
突然の痛みに膝を曲げてしまう男、何が起きたか理解するよりも前に彼女は懐に飛び込んでムーンサルトキックをお見舞いする。すると男は海老反りに吹き飛ばされ、地面に倒れる。男はそのまま起き上がる様子も無く、様子を見てみると目を見開いたまま動かなくなっており彼女はやりすぎたか、と思いながらも男の脚に刺さったナイフを抜きながら離れて見ていた2人にジェスチャーで来るように伝えた。
近寄った2人は男の姿を見てからロザンリーティの方へ視線を向ける。向けられた彼女はそっぽを向く。念の為に紐で手足を縛ってから生きているか確認をする。その時にゆっくりと瞼を閉じさせる。
「…………気絶してるだけですね。念の為にタオル頭に置いとくか……」
「やりすぎよ。うっかりやってたらどう説明するのよ」
「うるせぇ脆いコイツが悪いんだよ」
「人間顎抜かれたら下手すると脳震盪起こすんですよ」
「知ることか」
「ていうかシレッとチップ無しで格闘したわね」
「別に良いだろ他に見てる訳じゃねぇ」
「だからってッキャ⁉︎」
突然悲鳴を上げるリュミレスカの方を向くと先程家に入った痩せた男が彼女を鷲掴みをして、彼女にナイフを突き立てていた。
「離しな、さい!離せ!」
「おいお前ら!大人しくしねぇとコイツがどうなってもいいのか?」
男の一言で2人はその場から動けなくなっていた。男はそのまま鷲掴みにしたまま家に戻ろうとする。
「いいか?動くなよ?」
家の玄関口に着いた辺りでナイフをロザンリーティ達に向ける。するといきなり男は前のめりに倒れそうになる。その時に手の力が一瞬失われた隙にリュミレスカは男の手から脱出し、そのまま手に持っている大型のプラズマ砲を痩せた男の頭に撃ち込んだ。
「あぁー……いったぁ」
彼女は身体を軽く伸ばしながら痩せた男の様子を見るとゆっくりと起きあがろうとしていた。リュミレスカは近付いてその顔面に向けて至近距離で構え、たった一言。
「動くな」
と言うと男は項垂れて地面に伏す。ジャックが手足を縛って身動きを封じて無力化する。
「あと1人は居ます。警戒して突入しましょうか」
「ジャックはそこに居て、近衛のが来たらそのまま突入させておいて」
「分かりました。2人とも気をつけて」
リュミレスカとロザンリーティは頷くと家の入り口の柱に背中や肩をつけて中を窺う。もう一度頷くと中に入る。玄関から入り、洗面所やそれぞれの部屋を見ていってクリアリングを行いつつエレクトリアが囚われている所まで移動する。その間には残っている男とは遭遇しなかった。
先程ドローン越しに見た部屋の光景を改めてみると箱や袋がそれなりに積み上がっており、ミサキのエレクトリアをすぐに見つけ出すのは少々難しく感じた。周りを見渡すと先程外に出されたエレクトリアが立っており声をあげそうになったのを口を抑えて制する。
「ぷはっ⁉︎あ、あの……貴方達は?」
「救出部隊よ」
「2人だけだがな」
「少ししたらもっと来るから、それまで大人しくしていて……ね?」
「は、はい」
「どうする?残った奴を追うか?」
「私が追うよ、リーティはここで片っ端から開けておいて逃がせるように整えておいて」
「了解、そこの奴にも手伝わせるか?」
「そうね、ねぇ貴方。あの袋とか箱を開けるの手伝ってくれる?」
「わ、分かりました!」
「じゃあ行ってくるね」
「遅れはとるなよ?」
「分かってる」
リュミレスカが男を探しに行き、ロザンリーティと救出されたエレクトリアが他に攫われたエレクトリアを解放する為に動き出した。
リュミレスカは1人で、まだいる筈の誘拐犯の男の残りの1人を探す為に、突入時には入らなかったキッチン方面に向かっていた。
(正直、後の1人は近衛の部隊に任せれば良いとは思うけど、念の為に先に制圧したい所ね。リーティ達があの数の箱とかを全部開けるのは時間が掛かるし、その間に逃げられたり反撃の準備を取られたら不味いし)
そう考えながらキッチンの入り口に立ち聴覚センサーの感度を上げて聞き耳を立てる。すると中から荒い呼吸音が聞こえてきた。
(かなり緊張しているようね。何か大きな音を立てられれば……)
何か大きな音が立てられそうな物をビットを介して探すと窓ガラスがあるのを見つける。
(アレならば割れなくとも意識を向けさせる事は出来る筈。ビットをオートモードに切り替えて窓に当たるようにセット。よし、やるか)
聴覚センサーの感度を元に戻し、操作モードを切り替えて音が鳴るのを待つ。だが音が鳴る前に男がリュミレスカの事を見つけてしまう。その手には拳銃が握られており咄嗟に男に対して横に動く。その直後に銃声と着弾音が聞こえた。
(まさかとは思ったけど拳銃⁉︎まずい不味いマズイ‼︎アレを何発も耐えるのはキツい!キャノンで目眩ししながら隠れる場所を探さないと?いや来るまでに遮蔽に使える場所は無かった!どうする?……!いやいけるか?やるしか無い!)
リュミレスカはキャノンを男の顔面目掛けて撃ち、その隙に飛び上がりながら勢いを利用して壁に脚部のタイヤを押し付け、斜め上に全力で飛ばすと1秒程で男の顔と同じ高さになる。そのまま壁を蹴って一度プラズマ砲を撃ち込んでから床に落ちる。その間にも男は銃を撃ち続けるが少し後ずさる。床に着地した後も左右に不規則に動いたり、再度壁を利用しながら男に近づく。男は装弾数の少なくなった拳銃を当てようとし攻撃の頻度が下がる。その隙にリュミレスカはさらに接近して確実に仕留めようとする。
リュミレスカと男の距離がほぼなくなり、男の首元を狙う為に飛び上がりプラズマ砲を構え引き金を引こうとする。しかし男もそこを狙っていたようで照準が彼女の方を向いていた。その瞬間リュミレスカの視界がスローモーションがかかったかのようにゆっくりに感じられた。
(しまった………!)
早く引き金を引き切らなければならないがやけに重く感じる。力が自然と込められようとするがそれでも引き金を引く速度は変わらない。彼女にとって非常に長い時間に感じられた瞬間だがようやく引き金を引き切れる。それと同時に男の持つ銃の銃口から光が発せられた。その瞬間に非常に強い衝撃が彼女を襲い床に不時着する。衝撃の影響で朦朧とした意識の最中、顔面を掻き毟りながら倒れる男の姿と誰かがリュミレスカを持ち上げて視界が上がったのを見て、彼女はそのまま意識を落とした。
誰かの声がする。何かが何度も当たる感触がある。
「ねぇ⁉︎あれからどうなったの⁉︎」
「リュミレスカさんが撃たれた後に近衛の部隊が到着して突入したんです。その時に保護された……と言った形に」
「エレクトリア達は全員無事……では無いが、まぁ大体は救出出来た。それでお前は……」
言い淀むようなロザンリーティに不安に駆られて身体の方を見るが目立った外傷は無い。が、ある違いを見つけた。
「あれ、これ私の私服……?」
「あの装備はボロボロでスクラップ、クラッシャブルゾーンとチョパムアーマーで本体は無事って所だ。つかいつの間に仕込んだんだよそんな代物」
「まぁ保険よ保険。こうして役立ったし。というか服変わっていると言うことは……」
「すみません、木陰の方で着替えさせて頂きました」
「まぁ仕方ないからいいよ。それよりもそんなに酷かったの?」
「見てみます?こういう感じですけど……」
ジャックの鞄の中から出てきたのは粉々に砕けたプラズマ砲やアーマー、ドローンの残骸だった。
「うわぁ思ってるよりも酷い……」
酷い状態の装備を見て驚愕するリュミレスカ。それに対してロザンリーティは。
「言っただろ?スクラップだって。ってか普通は一発アウトだからまだマシだろ」
「まぁね。っよっと!」
身体を軽く動かして問題がないか確認をする。どうやら問題はないようだ。ふとある事を思い出す。
「そういえば柚朝さんはどうしたの?確か近衛の部隊の誘導してもらったよね?」
「ミサキの奴なら、ほら」
ロザンリーティが横に顔を向ける。リュミレスカも向いた方へ視線を移すと柚朝ミサキがエレクトリアを抱きしめていた。その目には涙と安堵の表情が浮かんでいた。
「無事だったようね」
「あぁ」
「一件落着……ですかね?」
「よし!じゃあ、帰ろっか。ここからはあっちの仕事だし」
リュミレスカ達は自分達の家に帰る為に立ち去ろうとしていたが、柚朝ミサキに呼び止められる。
「あの、本当に、本当にありがとう!」
「私からも、助けてくれてありがとうございました」
「いいって事よ」
「喧嘩も程々にしとけよ?」
少し照れながら「はい」と返事をするミサキとアルシェ。
「バトルコードぐらいは教えてやるから、なんかあったらまた呼べよな?」
「うん!」
ロザンリーティは軽く目を瞑り口元を僅かに緩める。リュミレスカが軽く肩に手を置くと2人は頷くと別れの挨拶をする。
「じゃ、またな」
「また何処かで!」
「ではまた、機会があったらよろしくお願いします」
彼女達に背を向けて歩き出す際にロザンリーティは腰辺りで軽く手を振り、リュミレスカは左手を高く上げて腕を振り、ジャックは軽く会釈してからその場を離れた。
あの事件から数日後、この日は依頼も無くロザンリーティとジャックとでVRサーバーの中にあるフルーツパーラーのようなカフェに来ていた。たまに飲みに行くぐらいには行きつけな店で、いつも通りに3人席で雑談している所であった。
「リュミレスカさん、検査の結果は?」
「問題は無かったみたい。まぁこっ酷く怒られたけど」
「そりゃそうですよ。まぁ何事も無かったようで何よりです。誘拐犯達は全員無事に警察に引き渡されたようですし」
「まぁね。そういえば柚朝さん達はどうなったの?あれからリーティ、ちょくちょく連絡してるみたいだけど?」
2人の視線がロザンリーティに向けられる。
「え?そうだったんですか?」
「別にいいだろ……まぁ、前よりも仲は良くなったらしい。そのお陰か連携が上手くなって勝てるようになってきたようでな。相変わらず喧嘩はするようだがな」
「まぁ喧嘩する程って言うしねぇ。というか色々聞いてるのね」
「ミサキの奴が割と頻繁に連絡が寄越すだけだっつーの」
目を僅かに細めて脚を組んで頬杖をつくロザンリーティ。
「そういえばリーティさんって柚朝さんの事名前で呼んでますよね?」
「そうだったか?」
「呼んでたよ。凄い珍しいじゃない?」
「私の事は名前で呼ばないのにですよ?ねぇ?」
「ねー」
リュミレスカとジャックが顔を合わせて寄せる素ぶりをする。
「あんだよ文句あっか?」
「文句という程でもありませんが、偶には名前で呼んでくださいよ」
「ほらほら、呼んであげなさいよ」
「だぁー!呼ばねぇし呼んでやらねぇよ!」
こうしてエレクトリア誘拐事件は幕を閉じ、それぞれの日常へと戻っていくのだった。