宇宙の果てで配信したら1コメ拾った 作:AEX-31
「仕掛けられた爆弾の位置はわかっている」
アークとエルは近くに仕掛けられた区画へ急いで向かっていた。本来なら騒ぎも何も起こさずにネレイアに到着したかったが、この際気にしている場合ではない。
(ステーションにいる人達が皆死んでしまう方が一大事だ)
ネザーの思惑通りになるのは癪だが、それでも見殺しにするのは絶対に違う。
2人は濃密な金属の通路を駆け抜け、表示板に赤く点滅する「危険」マーカーが示す区画にたどり着いた。そこでは多数の警備員が四散し、床には工具や破片が散乱している。中央に据えられたボンベ型の装置は先ほどと同型だが、いまや周囲の端末と同調して青と赤の光を交互に点滅させていた。タイマーの表示はない。代わりに不規則なパルスが走り、待ったなしの緊張を周囲に撒き散らしている。
「誰だ。そこへ下がれ、関係者以外は退避しろ!」
低い警備の声が響いた。甲高いヘルメット越しに見えたのは、鎧状の装甲を纏った数名の警備チームだ。顔は覆われていたが、目の奥に恐怖と迷いがあるのが読み取れる。
アークは息を整え、手を上げてゆっくりと前へ出た。フードを少し下げ、顔の一部だけを見せる。声は落ち着いていたが、その内側には緊張が走っている。
「僕はアーク。こちらはエル。爆弾の解除に来ました」
エルが一歩前に出て、淡々と告げる。光りを帯びた掌が短く震えたが、その表情は揺らがない。
警備隊のリーダーが睨みつけるように問うた。
「何者だ……? どの組織の指示で動いている……?」
「組織じゃない。自主的に、ここを守るために来ています。身分を明かしてもいいですが……説明には時間がかかります。ただその爆弾を解除するための技術は持っているので、任せてもらえれば確実に解除します」
アークは素早く状況を観測し、端末の外殻の紋様とパルスの周波数から推測される干渉特性を頭の中で組み立てる。
警備のひとりがわずかに躊躇した。だが画面の警報音が鋭く鳴ると意識を改める。ここで迷う時間はない。リーダーは唇を引き結び、やがて小さく頷いた。
「本当に出来るのなら……頼む。この爆弾に使われている技術が難解で、どうにもならなかったのだ」
「……ちょっと爆弾に触ります」
アークはゆっくりとボンベ状装置の外殻に手を置いた。表面は冷たく、微弱に脈打つような振幅を内包している。ディスプレイには断続的に光のパルスが返り、端末同士で同期を取り合っているのが観測できた。
「……やはり、クローノン由来のタグが組み込まれている」
アークは低く呟いた。
解析モードが起動し、内蔵のホログラフィック投影が装置を透視する。パルスのスペクトル、瞬時に差分化された時間コード、そして何よりも不可解なのは時間タグの存在だ。端末は位置や単純な周波数で連動しているのではない。時間そのものにハッシュを刻むように設計されていた。
(普通の通信は空間の中でデータを送受信する。でもクローノン通信は時間そのものを介してデータをやりとりする。つまり――)
アークはホログラムの中の構造を指差した。
「この爆弾は、他の爆弾と時間を共有してる。同じ瞬間に存在するように、相互にリンクしているんだ」
要するに、どれか一つを解除しようとすれば、他の爆弾もそれを「同じ時間に起こった出来事」として検知して反応してしまう。
五つが同時に、完璧なタイミングで処理されなければ、逆に“起爆”のトリガーになる。
アークは息を吐き、苦い顔で続けた。
「これじゃ、一つずつ解体しても意味がない。五つ全部を同時に解除しなきゃならないんだ。しかも時間誤差は、ほんの数ナノ秒以内」
「人間には不可能ね」
「随分の狂いなくやるなら――僕らしかいない」
アークはホログラムを閉じ、顎に手を当てて考え込む。
爆弾の構造はまるで生きているかのようだった。互いに脈を打ち、一定のテンポで情報をやり取りしている。
「同時なら爆弾を全て1箇所に集めたいがそんな時間はない、だから内側から通信して、同時に解除がベスト。でも1つ1つは独立してるから……」
「中でネットワークを構築して繋げ、そこで同時に解除だ」
とは言えアークは渋い顔をしていた。
ネットワーク構築するにも時間がかかるし、触れながらも難しい。するとエルがある提案を持ちかけた。
「……いい案がある」
アークが顔を上げる。
「何か考えが?」
エルは少し迷ったあと、静かに言葉を紡いだ。
「あなたを電子化するの。アーク」
その一言に、場の空気が止まった。
警備員たちも一斉に顔を上げる。
「僕を、電子化……?」
「ええ。あなたの意識をデータとして変換して、ネットワーク上に分身を作るの。そうすれば、五つの爆弾に同時にアクセスできるはず」
エルの目は真剣だった。
それは突飛な発想だが、理屈は通っていた。
爆弾を物理的に触る代わりに、アーク自身をデータ化して通信の中に送り込む。そうすれば、五つの装置の内部に“同じアーク”が同時に存在し、タイムラグなく解除信号を送れる。
「理論上は可能だが……リスクが高すぎる」
アークは額に手をやる。
「僕の意識を分割して同時に存在させるなんて、誤差が起きたら人格ごと崩壊する」
「それでもやるしかない。これはあなたしか出来ない。私の通信機能は貴方より下。でもサポートは出来るから」
エルの声は強かった。
ステーションを救うには、これしかない。彼女はそれを理解していた。
アークは沈黙し、目を閉じて考えた。
クローノン通信は、時間情報を送受信する特殊な技術だ。だが、それを扱うためには「観測する存在」が必要になる。つまり、人間のように意識を持つ存在だ。
装置は人間の感覚や思考を「時間の流れ」に変換することで動作を安定させる。
そのため、もしアークが自分の意識を通信の中に送り込めれば、爆弾の中枢と直接通信しても問題はない。
アークはゆっくりと目を開け、決意の色を宿した。
「わかった、やるよ」
「ありがとう。じゃあすぐに始めるから。警備員の方たちは念の為簡単な退避指示を出してください!」
エルは素早く周囲の警備へ落ち着いた声で指示を出す。彼女の指の先から淡い光が伸び、ボンベの表面の微細なノイズを逆相で打ち消す。局所的なEMノイズのカーテンが張られ、時間枠が一瞬だけ安定する。
「ふぅ……電脳世界へ侵入ってか」
アークは深呼吸し、手をボンベに置いた。内蔵の変換器が起動する。彼の思考は一瞬で内側へと収束し、記憶のスナップショットが連続して生成される。次いで、それらが逐次圧縮され、五つの時間タグ付与イメージへと展開されていく。
「いくよ、エル」
アークが囁く。
「あなたを信じる」
エルはアークの肩に触れる。
するとアークの身体の輪郭が薄れ、視界がデジタルの海に変わっていく。細かい粒子が宙に漂い、情報の流れが螺旋のように渦巻いていた。
――身体の感覚が……曖昧になりそうだ……実体がなくなっていくからか――
アークは不安を覚える。
消えてなくなるんじゃないかと思ったが、エルが声を伝えてきた。
「大丈夫、アーク。私が支えてる。怖がらないで」
その声を頼りに、アークは自分を五つに分けた。
分裂した意識は光の筋となり、五方向へと走っていく。
それぞれの先には、五つの光がある――言わずもがな爆弾だ。
「く――」
アークの意識は、デジタルの奔流に呑まれた。
色も音もないのに、無数の光が走り抜け、彼の“思考”そのものを流体に変える。上も下も存在しない空間。情報が波のように押し寄せ、数え切れない数列が視界の端から端まで流れ続けていた。
(……これが、電脳空間……か)
アークの感覚は肉体を離れ、純粋な思考の存在となって漂っていた。文字や記号、数値の光が渦を巻き、すべてが動いている。だがその流れの中に、微かに異なる波形が混じっているのを感じた。
(……見つけた……爆弾を制御している信号だ)
光の流れを逆らうように、アークは自らの意識をその方向へ向けた。データの流れを進むたびに、アークの視界に巨大な構造体が現れた。
それはまるで水晶の塔のように透き通り、内部には五つの光球が規則的に回転している――爆弾の中枢システムだ。
「エル、見つけた。これが爆弾の神経だ」
彼の声は、意識の波を通じてエルに届く。
するとエルの返答が柔らかく響いた。
『感知したわ……周波数を安定化させる。今、君のデータの位相を固定するから、暴走しないでね』
アークの身体――いや、今は意識の輪郭が微かに輝き始めた。エルのエネルギーが支えとなり、データの流れの中で自分を見失わずに済む。
そのおかげで、アークは冷静に中枢構造の観測を続けた。
(五つの光球が連動してる……やっぱりこれが爆弾同士を繋ぐリンクだ)
光球同士は細い線――時間の糸のような光で結ばれている。それぞれの周期が微妙にずれると、全体が赤く染まり、再び安定すると白に戻る。まさに時間の“同調”を示す可視化だった。
「五つを同時に止めないとダメだ。ひとつでもズレたら、他が起爆する」
『同時干渉するなら私がタイミングを合わせる。アーク、君は中枢に接続して』
アークは頷く代わりに、意識を分割した。
光の身体が五つに分かれ、それぞれが五方向へと流れていく。自分自身の思考が五重に響き、五つの視界が同時に開かれる。
(不思議な感覚だ、自分が複数いるなんて)
それぞれのアークが、五つの光球に到達する。
彼はそれぞれのコアに手を伸ばし、構造体に干渉を開始した。内部には複雑なコードの連鎖があり、それらが時間の波を利用してトリガー条件を守っていた。
『同期率、97%……まだズレてる!』
「大丈夫、見えてる……!」
アークの声が五重に重なる。
五つの彼が、同時にコードを走査する。数字の奔流が互いに干渉し、赤と青の光が交錯する。まるで五つの心臓を同時に掴んで、同じリズムで鼓動させるようなものだ。
『今! 全てのタイムタグが揃った! アーク、同時干渉を!』
「――了解!」
五つのアークが一斉に手を伸ばす。
次の瞬間、光球の表面に走っていた赤い紋様が消え、全てが白く輝いた。時間の流れが一瞬止まり、空間そのものが震える。
(……やった……干渉成功だ……)
アークの中で、何かが弾けたように感覚が広がる。
五つの自分が一斉に融合し、視界が一点に戻っていく。膨大な情報が逆流し、彼の内部で再構築されていく。
彼は思った――電子化を経て新たな力が手に入ったかもしれないと。
(さっきのはエルのサポートありきだったけど、もし自力で出来たら……配信で使えるかも)
やがて光が収束し、すべての波形が静止する。
五つの爆弾を繋ぐ糸が消え、構造体がひとつずつ崩壊していくのを見て、エルも安堵した。
『今実体化させる』
エルの声が響いた瞬間、アークの身体は再び現実の世界へと引き戻された。重力の感覚が戻り、視界に金属の天井が映る。息を吐くと、胸の奥から熱い衝動がこみ上げてきた。
「……終わったよ、エル」
エルは微笑みながら小さく頷いた。
彼女の手の中では、ボンベ型の爆弾が完全に沈黙していた。青い光は消え、ただの金属の塊と化している。
「これでステーションは……助かった、ね」
「ああ。全員無事で済めば、それでいい」
二人の言葉が交わされたその直後、背後から重い靴音が近づいた。振り向くと、装甲服に身を包んだ警備員が二人。顔はヘルメットに覆われていたが、その動きからは緊張と警戒が感じられた。
彼らの背後には、さらに数名の隊員が続き、封鎖された通路の奥を警戒するように配置についている。
「……爆弾は完全に解除出来たのか?」
先頭の警備員が低く、やや息を荒げながら言った。
アークは軽く手を上げ、頷く。
「ええ。間違いなく、これで全て停止しています」
警備員はしばらく無言で爆弾の残骸を確認した。
端末を取り出し、スキャンをかける。
数秒後、機械音声が機能停止していると告げた。
その瞬間、緊張の糸が切れたように隊員たちが安堵の息を漏らす。
「……助かった。君たちがいなければ、この区画ごと吹き飛んでいた」
リーダー格の警備員がヘルメットを外し、深々と頭を下げた。露わになった顔は青い皮膚をした異星人で、額には細い光紋が走っている。
「助けてくれて本当に感謝する。……だが、少しお聞きしたいことがある」
「お聞きしたいこと?」
アークがわずかに首を傾げる。警備員は一歩前に出て、声の調子を落とした。
「貴方達がここに来た詳細な経緯を伺いたい。どのようにして爆弾の存在を察知し、解除まで至ったのか……我々としても、今後の防衛に必要な情報です」
「……ええ、いいですよ」
アークは苦笑を浮かべ、小さく肩をすくめる。
エルは黙って彼の隣に立ち、視線を交わした。
「我々の上官も君たちに感謝している。だが同時に、今回の件には複雑な背景がある。どうか協力してほしい」
警備員はそう言い、通路の奥――ステーション中央管理区画の方向を示した。
「どうか……ご同行を」
◆
ネレイアの空は、思っていたよりもずっと穏やかだった。
雲は薄く、灰青色の光が大気を満たしている。だが、アークとエルの視界に広がった地表の光景は、想像していた“月の原野”とは程遠かった。
金属光沢を放つ建造物が丘陵地帯の間に連なり、幾筋もの光路が都市を縫うように走っている。空には輸送艇が行き交い、地表には発電設備や塔のような通信機器が立ち並んでいた。
そこに息づくのは、文明の息吹――アークは思わず息を呑んだ。
「……思ってたより、ずいぶんと開拓されてる……?」
「ね。もっと静かな、自然に囲まれた場所を想像してたけど……」
エルの言葉に、アークは小さく頷いた。
ネレイアは月の民の聖域と呼ばれる地だと聞いている。厳かな信仰と、静謐な暮らしを守っていると聞かされていたが、実際には工学と宗教が融合した奇妙な都市文明がそこにあった。
彼らを乗せた輸送艇が着陸すると、すぐに待機していた警備員が先導した。薄灰色の制服に身を包んだその一団は、口数少なく、アークたちを警戒するように前後を固めて歩く。やがて、石造りのような広場に辿り着くと、その中央で彼らは立ち止まった。
「到着しました」
警備のリーダーが短く言う。
その声を合図に、広場の端に並んでいたローブ姿の集団が静かに動き出した。
顔を覆うフードの下は見えないが、ただならぬ気配があった。その中央、一際小柄な人物が前に出る。警備員たちはすぐに片膝をつき、恭しく頭を下げた。
「お連れしました」
その声とともに、彼らは静かに退く。
ローブの集団だけが残り、広場には不穏な沈黙が流れた。
アークとエルは互いに目を合わせる。
次の瞬間、先頭にいた小柄な人物がゆっくりとフードを取った。
その顔を見た瞬間、アークの呼吸が止まる。
鉛色の肌に、滑らかで端正な顔立ち。瞳は淡い金色に輝き、額には月光を思わせる紋章が浮かんでいた。
彼女は間違いなく――オアヌスの海底都市から、クローノン通信を通じてアクセスしてきた族長の娘だった。
(……まさか、本人がここに……?)
エルもわずかに目を見開き、口元を引き結ぶ。
記録映像で見たその姿と、今目の前に立つ彼女の面差しは、完全に一致していた。
彼女はフードを肩まで下ろし、静かに頭を下げた。
声は透き通るように柔らかく、それでいて芯があった。
「……お二人をお待ちしていました」
アークは反射的に一歩下がる。
その警戒の気配を察したのか、彼女はすぐに続けた。
「安心してください。ここに来たのは――私の独断です。誰にも命じられたわけではありません」
「独断……?」
アークの目が細められる。
彼女は静かに頷き、わずかに視線を落とした。
「ええ。父……族長にも、まだ伝えていません。あなたたちが来ることを知っているのは私だけです」
言葉の調子に、偽りは感じられなかった。
それでもアークは緊張を解かない。
「あなたが、なぜ僕たちを?」
そう尋ねると、彼女は淡い微笑を浮かべた。
その微笑みには、何かを覚悟した者の静けさが宿っていた。
「理由は話します、さ……こちらへ」
風が広場を抜け、ローブの裾を揺らす。
月光のような冷たい光が、静かに降り注ぐ中でアークとエルは彼女に着いていく。
「私の名前ですが、エラミスと申します。以後……お見知りおきを」
女はエラミスと名乗ると月光の淡い光を受けて静かに歩き出した。その背を追うアークとエルは、警戒を解かぬまま視線を交わす。彼女の纏う雰囲気には切迫が滲んでいた。
「……月の民が今、非常に危うい状況にあるのです」
そう切り出したエラミスの声は穏やかだったが、どこか張り詰めていた。
「戦争の危機の事ですか?」
エルが問い返すと、エラミスは小さく頷く。
「大体合っています。ただ単なる戦争ではありません。戦争の果てに――私たち月の民そのものが、一掃される可能性があるのです」
アークとエルの表情が同時に険しくなる。
エラミスは歩を止め、遠くに見える都市の光を見つめながら続けた。
「月の民の自治はすでに形骸化しつつあります。ディナス=オルビア……あの巨大統合連邦が、全てをひとつにまとめ上げようとしているのです。表向きは平和の名の下に。けれどその実態は、我々の文化も思想も、存在すらも吸収して塗り替える統合です」
彼女の言葉には静かな怒りが混じっていた。
アークは唇を引き結び、思わず呟く。
「つまり、文化の抹消か」
「はい。私たちの言葉、記録、そして精神すら、全てが失われる。それを防がねばならないのです」
そう言うと、エラミスは後方に控えていたローブ姿の従者たちに目を向けた。
「周囲の見張りをお願いします」
「はっ」
数名の従者が頷き、即座に配置につく。残ったエラミスは、二人を手招きして石造りの小さな建物へと案内した。
内部はひんやりとした空気に満ちており、壁面は滑らかな鉱石でできていた。
中央には純白の直方体――モノリスが鎮座していた。表面に光が走り、内部から微弱な脈動が発せられている。
周囲には複雑なコードと装置が取り付けられ、制御端末やエネルギー伝導管が蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。
エルはモノリスを見た瞬間、瞳を輝かせた。
「……これ……クローノン通信を発してる……!」
彼女はすぐさま装置の側面に駆け寄り、データの流れを読み取る。アークもまた、直感的にそれを理解した。
「この波長……確かに間違いない。でも……何なんだこれは」
エラミスはアークの問いに答えた。
「あなたたちの言うクローノン通信と呼ばれる現象は、このモノリスから発せられています。ただそれがどんな意図があって存在するかは知りません」
彼女はモノリスの前に立ち、両手を静かに添えた。
「この遺物は、ネレイアという星が生まれるより前から存在していました。月の民が残した古代の文献には記載がありましたが……数は少ないです。誰が作り、何のために置かれたのかも不明ですが……どことなく生きているような気配すら感じます」
アークはその光の明滅を見つめながら、眉を寄せる。
「……貴女はいつからこれと関わるように」
「10年前です、私はこのモノリスに呼ばれたのです」
エラミスは当時のことを淡々と語る。
「ある日、私の端末に不明なメッセージが届きました。送信元の座標は、ネレイアのこの地点。敵対者の可能性を捨てきれなかった私は護衛を連れて向かいました。するとそこに、このモノリスがあったのです」
アークとエルは息を呑む。
エラミスは静かに続けた。
「……触れた瞬間、光が溢れました。私は時間の感覚を失い、意識の中で見たのです――太古の時代に起きた大嵐を」
「大嵐って、あの?」
「はい、アポストルが招いたとも語られる……あの伝説です」
エルが小さく反応する。
エラミスは頷いた。
「あらゆる惑星や銀河を飲み込み、宇宙が作り替えられていく。私たちなんかより遥かに発達した文明が次々に滅び、最後には光と闇が残り……終わった頃には闇だけが残る」
エラミスはモノリスに触れながら言った。
「モノリスはそれを記憶として見せて.こう告げたのです――私達は新たな使命を受けた。あなたは繋ぐ者となって――と」
「一体……貴女に何を頼んで――」
「エラミス、これってヘラルドの遺物ですよね」
するとモノリスを執拗に観察していたエルが、わざわざ話を中断してまで確信を持って言った。
「私の中にある……第六感? ともいうべき感覚が……これを同族が遺したものと告げてる。ヘラルドが作ったものだと」
「……ならエルの祖先が遺してくれたものが何故……」
まさかのヘラルドの遺物かもしれないという発見に、2人は高揚する。ただいまは落ち着くべきだ。アークは冷静さを取り戻すと、エラミスに問う。
「すみません、いきなり騒いでしまって」
「いえ、問題ないですよ」
「……所でこれがヘラルドのものなのは……知ってましたか?」
「はい……、恐らく2人なら見たら分かると思って、言わなかったのですが……」
エラミスは申し訳なさそうにしつつ、頼まれた内容を言った。
「私はこの
あの時は大変でした――とエラミスは語る。
オアヌスの海底都市にある端末でなければ、恐らく残せなかったとかそういう理由なのだろう。ただこのレリックは明確に意思があり、自分達を導いている。
しかも時を超えてまでだ。
アークとエルは目を見交わす。
(……つまり、あの時オアヌスで受信したデータ……あれを送ったのはネザーじゃない。エラミス――いや、このモノリスだったんだ)
すべての線が繋がる。
エルもまた、ほとんど同時に理解したように口を開く。
「彼女はネザーとは関係ない、だとしたら……」
「……潮主側が怪しいかも、ただ……いまは一旦忘れよう」
ネザーの不穏な動きは頭の隅に置き、アークはエラミスの方に顔を向けて言った。
「僕達は貴女がモノリスの力を借りて、クローノン通信で残した記録を見た。そこには遺跡を探しているような内容があった。多分……遺跡というのはモノリスについてだと思っています。何かの組織が調査したような内容だったのですが……、多分僕達と何とかして会いたかったのかなと考えています」
「……なるほど、そんな内容だったんですね……」
「そして……恐らくモノリスは……僕達2人の対話を望んでいる」
予想も入っているが、モノリスは何かを伝えようとしている。動けない自分に代わって、善意ある第三者を使って興味を惹く内容をちらつかせ、ここに導いたのだと。
「そこで頼みがあります」
そしてアークはエラミスに頼み込んだ。
「僕をこのモノリスにアクセスさせて欲しい」