宇宙の果てで配信したら1コメ拾った 作:AEX-31
脈動する生きた機械――それがモノリスを見た抱いた感想だった。
表面に走る光の模様は、心臓の鼓動のように周期的で、それ自体が呼吸しているように見える。吸い込まれるような白光に手を伸ばした瞬間、アークの視界が一変した。
――世界が反転する。
音が消え、代わりに耳の奥を撫でるような高周波の振動音が響いた。身体が軽くなり、重力の感覚が霧のように溶ける。
(……電子化した……? いや、違う。意識だけがここに導かれてるんだ)
困惑と共に辺りを見渡すと、そこは現実とは全く異なる空間だった。
白亜の機械群が無限に連なり、天井も床も曖昧な光に溶けている。そこかしこに水色のエネルギーが流れ、光の粒が空中を漂っては消えていく。まるで情報そのものが形を持ったような幻想的な世界が広がっていた。
そのとき、どこからともなく声がした。
『……アーク』
はっきりと自分の名を呼んでいる――驚いたアークは反射的に振り返ると白い空間の奥に、淡く光る小さな球体が浮かんでいた。
その光は呼吸をするように膨らんだり縮んだりし、やがてゆっくりとこちらに近づいてきた。青白い光がアークの身体を包み、彼の周囲をくるくると回る。
『ようやく……来てくれた。我々の希望』
「希望……?」
アークは小さく眉をひそめて予想を伝えた。
「貴方は……ヘラルドの一体、ですか?」
光の玉は一瞬沈黙してから言った。
『そうだと言えるし、そうとも言えない。今の私は“彼”の残した意識データの残滓……つまり、プログラムの亡霊だ』
「意識データ……なるほど、人格情報のバックアップ……」
『正確には、クローノン通信そのものに自分の意識波形をこのモノリスに刻んだ。私はそのコピーであり、彼の思想を保全するための代行アルゴリズムだ』
アークは理解の表情を浮かべた。
つまりこの存在は、ヘラルドそのものではないが、その意志を継いで語る存在だった。
「なぜ僕をここに導いた?」
光の球がふわりと上下に揺れ、周囲の空間が反応するように光を強めた。
『あなたに構築を頼みたい。このモノリスのネットワークを――十の月に存在する二つの中継地点を使って、新たに繋ぎ直してほしいのです。クローノン通信の基盤をそこに再構築すれば干渉されないネットワークを作り、貴方がしたい事を可能にする』
つまり配信をちゃんと開始出来る――ということだろう。
「干渉されない……つまり、ディナス=オルビアやネザー側のハッキングを遮断できる、と」
『クローノン通信の最大の特徴は時間位相を利用した情報伝送。普通の通信は空間座標を基準にデータを送るが、クローノンは時の層を経由する』
アークは腕を組み、うなずく。
「通信のパケットを時間軸上に展開し、各中継地点で同位相干渉を行えば、外部からのトレースは不可能になる……ただし、相転位の安定化が必要だ」
『そのために、あなたの力が要る。あなたはすでに電子化の過程で、時間干渉耐性を持っている。つまり、あなた自身が通信媒体になれる』
アークの目が鋭く光る。
まるで見透かされていたようで、少し背筋が粟立った。
『二つの中継ノードをあなたが繋げば、通信の主導権は完全にこちらのものになる。そうなれば、このモノリスの内部にある他のデータ……過去の文明の記録、ヘラルドが残した設計式、さまざまな情報を提供出来る』
それは大いに助かる。
ヘラルドに関して言えばわからないことだらけだ。
エルもきっと喉から手が出るほど欲しがる情報だろう。
『だがオアヌスにいる者たちが、それを望んでいない。彼らは自らの支配構造を確立しようとしている。外部の者を使ってステーション内にいる貴方達を破壊しようとしたように、刺客を送ってくるでしょう』
「……ネザーは潮主?」
『恐らく違う』
アークは唇を引き結ぶ。
「やっぱり、そうなるか……」
じゃあネザーは一体何者なんだ――そんな疑問すら浮かんできた。ただ今は目先のことをこなすしかない。
『君は、彼らの干渉をかわしながらネットワークを構築する必要がある。各中継地点には、古いクローノン・アンカーが残っている。それを再起動し、同期位相を合わせていくことでネットワークが完成する』
光の球がアークの周りを一周し、柔らかな声で囁く。
『君にアンカーの座標を託す。我々が果たせなかった使命を代わりに果たして欲しい』
視界が白に染まり、音が遠のいていく。
アークは最後に聞こえたその声を胸に刻みつけながら、現実世界へと引き戻された。
「――どうだった?」
意識が浮上し、すぐにエルが声をかけた。
アークは目をパチクリとさせた後に言った。
「やるべきことがわかった、エラミスさんとも協力したい」
◆
場所は変わって、オアヌスの海洋都市。
深海の青に包まれた宮殿は、外から見れば静寂の象徴のように輝いていた。だがその内部では陰謀が進んでいた。
重厚な黒い石で築かれた広間の中央に、一体の異形が立っていた。
その名はソルキと言った。
彼はヴァルガスと呼ばれる水陸両棲の戦闘種族で、頭部は長い爬虫類のような形状をしており、銀灰色の鱗が硬質な光を放っている。裂けた口元からは獣のような牙がのぞき、喉の奥で低く鳴る呼吸音が金属音に似た響きを生んでいた。
六つの眼がそれぞれ独立して動き、まるで周囲の全てを同時に観察しているようだった。
彼らはステーションを襲った者たちだった。
「――お前から預かった技術で作った武装だ」
ソルキはその巨大な腕に装着された黒光りする装甲を見せつけるように言った。
「アークとエルとかいう二体の機械生命体――あれを潰せばいいんだな?」
対面する相手は姿を見せていなかった。
声だけが、闇の奥から響く。
『潰したら中身を引き摺り出せソルキ。ステーション内では外殻を破壊して内部の機構を手に入れる予定だったが、奴がまさかいきなり未知の機能を覚醒させるとは思わなかった』
「あの爆弾を解除するとは面白い。あれは単なる電子爆弾じゃなかった。誰にも解除出来ないと確信していたんだがな」
『直接手を下すしかない。ちなみに彼らは今ネレイアにいる。放っておけば我々の計画が露見する。どんな手段を使っても構わないが――我々に繋がる証拠は一切、残すな』
ソルキの口元が広がり、鋭い歯が光を反射した。
「やっても良いが報酬はどうなる? 我々の身の安全を確約するなら構わない。後にやってくる滅びを……我々も回避出来るようにしろ」
わずかに沈黙が流れ、やがて冷たい声が返る。
『安心しろ。約束は守る。お前たちの種族を統一から外すよう伝える――少なくとも任務を果たせばな』
その言葉を聞くと、ソルキは嗤った。
「フッ……上等だ。報酬は生存権、それで充分だ。アークとエル、そしてあの“族長の娘”もまとめて葬ってやる」
通信が途切れる。
青い光が消え、室内は再び闇に包まれた。
ソルキは背後に控えていた部下たち……複数のヴァルガスの戦士に目を向けた。
「準備を始めろ。目標はネレイアの地上区画だ」
「了解」
ヴァルガス族の兵士たちが応じると、室内に湿った金属音が響いた。彼らの背中には、潮主から提供された特殊兵装――量子干渉式ハイドロランチャーが装着されている。
これは通常兵器とは異なり、クローノン波干渉を発生させて対象の電子構造を崩壊させるという禁断の兵器だった。
つまり電子生命体に対しては致命的な攻撃手段である。
「出発は一時間後だ。目標の動きはクローノン通信を逆探知して追う」
ソルキは六つの目を閉じ、低く唸った。
「狩りの時間だ……」
一方その頃――。
通信の主、つまりソルキと会話していた人物は、深い影の中からゆっくりと姿を現した。
「……面倒な事になったな」
その人物は潮主だった。
心底困ったように声のトーンを落としながら、ゆっくりと部屋の奥へ進む。そこは宮殿のさらに深部、厳重な封鎖扉の向こうにある私室だった。
中は異様なほど静かで、海中の低音すら遮断されている。
「あと少しなんだ」
そう言って彼は頭を下げる。
部屋の中心には――黒いオベリスクが立っていた。
高さはおよそ三メートル。
表面は鏡のように滑らかで、しかしどこか有機的な質感を帯びている。
そして、そのオベリスクの周囲には――黒い体表をした人型の存在が、十数体、静止していた。
彼らの皮膚は光を吸い込むように黒く、瞳孔が存在しない。
呼吸音もなく、ただ立っている。まるで眠っている機械のようだった。
潮主はオベリスクの前に立ち、ゆっくりと右手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、黒い石の表面に波紋のような光が走った。
「……聞こえますか……」
しばしの沈黙の後、オベリスクの内部から、微かな声が返ってきた。
『――――――』
声は潮主以外に認識できないようになっていた。
「計画通り、ヴァルガス族の部隊を動かしました。彼らには“モノリスの守護者”を排除させます。これで障害は消えるでしょう」
『――――――』
「我々の望みは一つ。ヘラルドが残した技術の完全掌握。そのためには、あのモノリスを奪い、クローノン通信の全権を手に入れる必要があります」
潮主は片膝をつき、恭しく頭を垂れた。
「必ず手に入れてみせます。あの力を、我らのものに」
黒いオベリスクが低く唸るように鳴動し、周囲の影がわずかに震えた。背後に立つ黒い人型たちの目が、ゆっくりと淡く光を灯す。それはまるで、主の言葉に呼応するかのようだった。
潮主の口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
「必ずや、導師の御心のままに」
その瞬間、オベリスクの影が広がり、黒い人型たちが一斉に動き出した。まるで暗闇そのものが形を得たかのように、彼らは音もなく壁の中へ溶けていく。
潮主はその光景を満足げに見送り、独り言のように呟いた。
「最後の公理を果たすために……」
ぶつぶつと呟きながら潮主はゆっくりと去っていった。
◆
ネレイアの集落は、静かに息づいていた。
海と月光に包まれたその地には、自然と技術の奇妙な調和があった。木材と金属を組み合わせた住居、空を渡る光の帯、そして中央にそびえる透明な塔。外観だけを見れば原始的な集落のようでいて、内部には細密な機械文明の痕跡が散りばめられている。
アークは思わず感嘆の声を漏らした。
「……ずいぶんと洗練されてる。もっと自然の中で暮らしてるのかと思ってた」
隣でエルも頷く。
「私もそうおもったけど、これ……たぶん全部、再利用しているわね。どこからか回収したもの?」
「ええ」
案内していたエラミスが微笑んだ。
「私たちはディナス=オルビアが残した古いものを活かして生き延びてきたんです。技術を新たに生む力はないけれど、手先だけは器用なので」
集落の中央には小高い丘があり、その上に石造りの建物が立っていた。風にたなびく布の旗が月光を受けて揺れ、内部からはかすかな香が漂ってくる。
エラミスは立ち止まり、アークとエルを振り返った。
「ここが族長――シタデルの住処です」
建物の中は薄暗く、壁には古代文字を刻んだ板が並んでいた。中央には半透明の鉱石が並ぶ祭壇があり、その前に長いローブを纏った男が立っていた。
「……おお、其方らがエラミスの言っていた者たちか……」
族長であり、同時に月の民の精神的支柱でもあるシタデルはどこか嬉しそうに言った。
年齢は不明だが、恐らくとてつもなく長い時を生きてきたことが伺える。
「お初にお目にかかります。私はアーク、こちらはエル。オアヌスの外縁から来ました」
アークが頭を下げると、シタデルはゆっくりと目を開けた。
その瞳は淡い銀色で、まるで光を宿した水面のようだった。
「お前たちはモノリスに導かれた者だな」
「はい……娘さんのおかげですが」
「……あの命懸けの行動はうまくいったのだな、本当に良かった」
シタデルは短く息を吐き、杖の先で地面を軽く叩いた。鈍い音が響き、祭壇の鉱石が淡く光を放つ。
「話は分かった。しかし潮主は……随分と冷酷になったものだ」
アークとエルが顔を見合わせる。
「昔からご存知なんですか?」
「もちろんだ。かつては良き指導者だった」
シタデルはゆっくりと椅子に腰を下ろし、遠い目をした。
「潮主――ディナス=オルビアの支配者にして、かつて我ら十の月の民を統べる評議の代表でもあった。初めの頃、彼は穏やかで、公平な指導者だった。民を助け、星々の交易を復興させ、多くの命を救った」
そこまで語ると、シタデルの表情が沈む。
「だがある日を境に、彼は変わった。まるで“別の存在”が体を乗っ取ったようにな……。優しかった言葉は冷たく、冷静だった判断は狂気を帯び始めた。時に神のような慈悲を見せ、次の瞬間には虐殺を命じる。人格が何層にも分かれたような……不安定な者になっていったのだ」
エルが息を呑む。
「多重人格……?」
「そう呼べるかもしれん。だが我らには、もっと異質な感覚があった。潮主の体の内で複数の意識が同時に存在しているように感じられたのだ」
アークは腕を組み、深く考え込む。
「意識の多層化……クローノン通信と関係がある可能性があるのかも……?」
一貫性のない振る舞いや言動が果たして関係あるのかはわからないが、アークとエルは記録だけはした。
「我ら十の月の民は、その異変に気づき、オアヌスの良識ある民に警告した。だが彼らは“潮主様は変わらない”と言い、耳を貸さなかった。信仰にも似た忠誠心が、真実を曇らせていたのだ」
シタデルの声は、苦みを帯びていた。
「その結果、我らは彼を信じることをやめた。そして今、月の民はそれぞれ孤立し、互いの行き来も途絶えている。だが潮主の兵は徐々に領域を侵略しつつある。恐らく……何かを探していると我々は――」
「僕が探してるアンカー……を向こうも探してるんだ」
「アンカー?」
シタデルが疑問を投げかける。
「クローノン通信の中継拠点です。十の月に散在する古代装置で、それを繋ぐことで新たな通信網を構築できると……モノリスに記録されたプログラムは言ってました。恐らく潮主はそれをモノにしたい、だけど……多分見つけていたとしても何も出来なかったはず。アンカーを動かせるのは僕かエルぐらいだから……」
「私は多分使えたとしても上手く行かなかったかもしれないけどね」
エルは自嘲するように言った。
「エルには僕に出来ない戦いを担ってもらうから……」
「私が脳筋みたいに見えるのは癪だけどね」
とエルは不貞腐れたように言うが、彼女無しではこの先は進めないのも事実。どちらかが欠けたら達成出来ないのだ。
「父上……」
するとエラミスが一歩前に出る。
「私たちも協力しましょう。アークたちは敵ではありません。必ず……我々の道を照らしてくれる重要な人物です」
シタデルは娘を見つめ、ゆっくりと頷いた。
「分かっておる、エラミス。この者たちの言葉は偽りではない。だが――一つ問題がある」
「問題?」
アークが問い返す。
「大嵐の信奉者が支配する月だ、彼らは唯一……月の民の中でも特に攻撃的で、孤立した部族だ」
ああ、すっかり忘れかけていた――アークとエルは揃って唸った。アポストルに対してある種の信仰すらしているグループ、恐らくまともに話が通じない類だと2人は考えていた。
「彼らは自らを嵐の種族と呼び、他の月の民を裏切り者と罵る。交渉はほぼ不可能だ。彼らにとって外の者は“嵐の糧”でしかない」
「……つまり、交渉ではなく、戦闘の可能性もあるということですね」
「そうだ。場合によっては、血を流す覚悟を持たねばならぬ」
アークはしばし考え込み、静かに尋ねた。
「ちなみに……彼らがあたる月の名前を、教えてください」
シタデルは厳かな声で答えた。
「――キルール。十の月の中でも最も南の軌道にある、嵐の子らの巣窟だ」
その名を聞いた瞬間、アークの表情が硬直した。
「アンカーのひとつがそこにあるな……」
「巡り合わせが悪いわね」
エルは他人事のように言っていたが、アークと同じ感想を抱いていた。
「ならば避けては通れぬ道なのだろう。潮主も、我らも、皆その地を狙っている。ぶつかれば激しい戦いが予想される」
エラミスが一歩踏み出し、アークの肩に手を置く。
「父上の言う通り……あなたたちだけでは危険です。私も同行します。キルールまでは私たちでもサポート出来ます」
「……ありがとう、エラミス。君の力を借りるよ」
するとシタデルは立ち上がり、祭壇の上にあった小さな青い結晶を手に取って、それをアークとエルの前に差し出した。
「これは月の印だ。これを持つ者は、我らの仲間と認められる。キルールに向かう道中で月の民に接触することがある。これがあれば味方だと認識される」
アークはそれを受け取り、掌の中で結晶が淡く光を放つのを見た。その光はどこか、モノリスの白い輝きとよく似ていた。
「父上……私たちは――」
「うむ……わかった」
シタデルはそれを確認すると短く頷き、エラミスがアークたちに話す。
「すみません、少し席を外します。すぐ戻ります」
そう言い残し、彼女は護衛を二人連れて建物を出ていった。
◆
「えーと……こんな感じかな……」
エラミスが連絡している間、待っているアークは仮想の端末を展開した。光のパネルが幾重にも重なり、半透明のウィンドウが次々と浮かび上がる。
指先で空中をなぞると、符号化されたコード列がリズムを刻むように流れ始めた。
エルが興味深そうに覗き込む。
「ねえ、それ、何を作ってるの?」
アークは笑みを浮かべ、ウィンドウを少し拡大した。
「強化版の配信プラットフォームだよ。あのモノリスで得たクローノン通信を基盤にして、どんなに遠い距離であってもリアルタイムで配信できるようにするんだ」
「リアルタイム……つまり、生中継?」
「そう。今の通信網は干渉が多すぎて遅延やノイズが入る。でも強化すればノイズは一切無くせる。時差も電波障害も関係ない、理想は数千万光年離れてもラグのないという、異次元の配信だね」
エルの目がきらりと光った。
「実現したらすごいことになるね。中継地点を繋いだ後に、ぜひ試してみたい」
「もちろん。そのつもりだ」
アークは指を止め、ふっと息を吐いた。
「ただ……ちょっと不安もある」
「不安?」
「地球での配信文化は、ある種の奇跡だったんだ。誰でも自由に発信して、誰かと繋がれた。でも今の宇宙社会は、あまりにも閉じてる。異星間の文化交流はほとんどないし、各惑星ごとに規制や宗教的な制約がある。もし異文化の声を放送したら、拒絶されるかもしれない」
エルは静かに首を振った。
「……でも、だからこそ必要なんじゃない?」
アークが顔を上げる。
「必要?」
「うん。いまの宇宙って、みんな孤立してるでしょ。星同士、民族同士、信仰同士……。異なる存在を理解する手段がどんどん減ってる。だからこそ、誰かが橋を架けないと」
エルは微笑んだ。
「もしあなたの配信がその橋になれたら。どんな言葉の壁があっても、きっと皆、耳を傾ける。私はそう思う」
アークは少し目を見開き、照れたように笑った。
「……そうなれたら嬉しいなぁ」
「なれるなれる、だから絶対にリスナーをわかせる姿を見せて」
ふたりは顔を見合わせて、少し笑った。
笑いながらも、アークの指先は止まらない。
流れるコードの中で、プログラムが整っていく。
――ゴォン
外では淡い風が吹き抜け、遠くでネレイアの鐘の音が鳴った。高台に設けられた集落全体が、夕刻の青白い光に包まれていく。
エルは窓の外を見ながら、小さく呟いた。
「にしてもネザーは一体誰なんだろう」
「……僕を育てるためとか言ってたけど、アポストルの不利になると思うだけどなぁ」
アークがコードを閉じ、データを圧縮保存する。
そのとき、建物の扉が軽く開いた。
月光に照らされ、再び現れたエラミスの姿があった。
彼女の表情はいつになく真剣で、その背後には二人の従者が控えている。
「……お待たせしました。早速向かいたいところですが……ひとつ問題が」
「何がおきました?」
アークが何気なく問うと、エラミスは言葉を探すように一瞬だけ目を伏せ、それから小さく息を吐いた。
「……キルールへ向かうために輸送艇を出すには、南側のドッキングベイを通る必要があります。けれど――先ほどそこに、見慣れない集団が現れました」
アークとエルの表情が一瞬で引き締まる。
「見慣れない?」
「はい。装備は明らかに外来のもの。私たちの民にはない形状です。通信の干渉も検知されました」
エルは眉を寄せた。
「……早速、刺客が来た可能性があるってこと?」
アークは無言のまま立ち上がり、端末を起動してエラミスに向ける。
「ドッキングベイの監視データ、ある?」
「部分的に。通信妨害が強くて、映像は断続的にしか届きません」
端末のホログラムに、粗い映像が浮かぶ。
画面の中では、黒い外套をまとった影がいくつも動いている。背中には奇妙な装置のようなもの――まるで呼吸をしているかのように膨張と収縮を繰り返していた。
アークは苦い顔をして拳を握ってエルに聞く。
「敵かな……?」
「わからない、これだけだと」
「なら直接確かめるしかないか……」
アークはすぐにエラミスの方を振り向いた。
「一旦……今起きてる事を詳しく教えてください」