学マスP欲張りセット 作:ユニークカト
「なぁ……咲季……。中庭に出ようか、久しぶりに……キレちまったよ……!」
「もちろんいいわよ!中庭ね!何で勝負する?」
「ダンス……!40秒1move、フリースタイル!今回こそ、分からせてやらぁ!」
「ふふふ!プロデューサーの連敗記録に、新しい数字を増やしてあげるわ!」
初星学園、明くる日のプロデュース室。学校に休みはあるが、プロデューサーとアイドルに休みは無い。今日も天才・花海咲季とそのプロデューサーは、今後の練習や方向性の会議を平穏に行う予定であったのだ。
2人の共通点は1つ、死ぬほど負けず嫌い。元ダンス部のプロデューサーと、アイドルの咲季は、何か衝突がある度にダンスバトルで雌雄を付けていた。
戦績は、プロデューサーの142戦142敗。一見無意味なバトルは、2人の絆でもある。
「負けたァ!」
「これで143敗目ね!負ける気がしないわ!」
「そうでしょうね!うぐぐ……次こそは……!」
「……プロデューサー、あなた段々佑芽に似てきてないかしら」
「ん……?まぁ、実際よく話すから」
「あら浮気?許さないわよ!?」
「えっこわ……。お姉ちゃん対策会議は、昨日で第50回を数えたぞ」
「佑芽も何やってるの!?」
「そんな事はいいんだ。次のライブの曲、BBPでいい?」
「嫌よ!なんの為に勝負したと思ってるの!?初期曲一択!」
「残念だな〜!せっかく咲季のめちゃくちゃ優秀で、可愛いところをファンの皆に見てもらおうと思ってたのになぁ!!!」
「えへへぇ……。やっぱり、BBPでもいいかもぉ〜」
「だろ〜?最っ高に可愛い咲季を見せるには、これしかないって!」
「うぇへへぇ〜!」
麗らかな陽の差す中庭、激しいダンスバトルは咲季の勝利で幕を閉じた。2人して座り込み、汗をタオルで拭いている。
赤面して眉根を下げ、トロトロになる咲季を複雑な表情で見るプロデューサー。こいつ、ちょろ過ぎないかやっぱり……そう言わんばかりの視線は、モジモジする咲季には届かなかったようだ。
「よし、BBPで行く!今日は解散!」
「うん!分かったわ!……いや、待ちなさい!」
「ダメ?」
「曲の方はいいのよ、考えがあるんでしょ?」
「無い訳ないだろ……」
「ならいいわ!……この後暇かしら!?」
「忙しいっす」
「なんでよ!?」
「佑芽さんと、第51回お姉ちゃん対策会議があるんで」
「なら、私も行くわ!」
「対策会議に本人が来てどうするんだ……」
「別にいいでしょ!?私対策の対策をするわ!」
「そうかい……」
得意気な表情を浮かべる咲季と、反面頭に手をやるプロデューサー。プロデュース室を出て、廊下をダラダラと歩いていく。
「どこでやるの?」
「食堂、向こうの奢りで飯食ってるってさ」
「ふ〜ん」
しばらく歩いていると、食堂に辿り着いた。昼時を少し過ぎているからか、人はちらほらいる程度であった。その一角に、少女と女性がいた。そう、花海佑芽とそのプロデューサーである。
「あ、海瀬さん!……なんでお姉ちゃんも!?」
「お疲れ、佑芽さん。後、支名も」
「げ……佑芽、待ってたのって海瀬?」
「はい!海瀬さんは、打倒お姉ちゃんを掲げる仲間なんです!」
「あら、佑芽のプロデューサーもいたのね!お疲れ様!」
「お疲れ様です、咲季さん」
「佑芽の調子はどう!?」
「ポテンシャルは言うことないですね。後は、どう伸ばすか……」
「そうよね!」
「佑芽さん……今日も、負けましたァ!」
「えぇ!!ダメだったんですか!?」
「強過ぎるっす。ダンス、結構自信あったんだけどなぁ」
「ぐぬぬ……!」
会話が二対二に分かれる。対面に座った咲季と支名は佑芽のプロデュースについて話し始める。一方、同じように対面に座った海瀬は佑芽と咲季とのバトル反省会を始めていた。
「咲季のヤバい所は、安定感だと思うんです」
「あたしもそう思います!!お姉ちゃん、なんかズレてるってならないんですよね!」
「メトロノームかよってぐらい、リズムキープ上手いんだよな……」
「じゃあ、爆発力で勝負はどうですか!?」
「その辺は要練習かなぁ」
「あたしも手伝います!一緒に練習しましょう!」
「ありがとう佑芽さん……。でも、お手柔らかにね?もう医務室のお世話にはなりたくないかな……」
「気をつけます!!」
あはは……と乾いた笑みを浮かべる海瀬、佑芽はふんす!とやる気に満ちているのが誰の目から見ても、明らかであった。
「晩成型なのよね、佑芽は」
「えぇ、その通りです。担当して数ヶ月ですが、原因も見えてまして」
「そうなの?」
「感覚と動作の不均衡が主原因かと。出来すぎて、ズレるという感じで」
「なるほど……。どうする予定?」
支名はノートを広げる、覗き込んだ咲季の視界に、文字や図が詰め込まれた一面が入ってくる。思わず感心する咲季。
「ですから、発展よりも基礎注力が急務ですかね。ズレを修正しないと、恐らく変な癖のオンパレードになります」
「出来るからって増やすのは悪手ってことかしら?」
「はい。むしろ、基礎をどれだけ深くやれるかに掛かっていると分析しています」
「そうなのね」
「なので、動きの癖を洗い出そうとしているんですが……。何か、心当たりあります?」
「アイドル方面は難しいけど……。全体的に、動作も声も大きくなりがちね!元気一杯よ!」
「なるほど……ありがとうございます」
「いいのよ!何か思い出したら、また連絡するわ!」
「助かります」
そのまま佑芽のプロデュースについて話し合う2人。佑芽を本気で見ている2人であるが故に、話題が尽きることはない。
「そもそも、何で俺はプロデューサーになったのにダンスの練習やってんだ……?」
「お姉ちゃんに勝つためです!」
「そうだねぇ……。もうアイドル目指すか……」
「いいと思います!!一緒にやりましょう!!」
「歌とビジュはからっきしだからなぁ」
「なんとかなりますよ!!」
「ならないかな……」
一方こちらは、関係の無い話題にシフトしていた。大体いつもそうである、反省会が終われば適当な話題で過ごしていた。
「あ、次のダンス練習どうする?来週は?」
「来週はライブです!再来週なら出来ます!」
「じゃ、再来週だな。ウチも来週はライブだし」
「ほんとですか!?」
「え、マジで?」
支名が横から会話に入ってくる。綺麗目の顔には、嫌がありありと浮かんでいた。
「マジだよ。ブライトウィッシュでしょ?」
「あぁ〜被ってるぅ〜」
「あら!じゃあ勝負ね、佑芽!」
「お姉ちゃんには絶対負けないから!勝負!」
「ふふふ!楽しくなってきたわ!」
「有志ライブに何で試験首席が来るのよ!」
「主催が言うには、上を見せたいんだと。これだけやれる1年がいるんだぞって、刺激にしたいから出てくれって」
「断りなさいよ……」
「いい調整になるし、学園の為なら断る理由なくね?」
「正論!」
「初星学園に花海咲季あり!再び見せつける良い機会ね!」
「初のいい足掛かりになるだろう」
「プロデューサーさん!絶対勝ちましょう!」
「正直想定外だったけど……。佑芽、勝つわよ」
「はい!!」
「負けないわ!勝つわよ、プロデューサー!」
「当然、負けないさ」
佑芽と咲季、海瀬と支名、それぞれ睨み合う。物理的な熱気さえ沸いていると思える意志の強さであった。
「早速練習に行くわよ!プロデューサー!」
「レッスン室の予約空いてるかな……」
「プロデューサーさん!練習やりたいです!」
「二時からボイス取ってるわ!」
「流石プロデューサーさんです!」
「ちょっと!何で予約取ってないのよ!」
「んな無茶な……。とりあえず、空いてるか事務所に聞いてくる……」
そう言い残して、電話を耳に当てつつ食堂の外へと出ていく海瀬。ぷんすか!と地団駄を踏む咲季。
「もぉぉ!せっかくやる気になってるのに〜!」
「プロデューサーさん、お姉ちゃん達も一緒に練習しちゃダメですか……?」
「全然いいけど……」
「あら!本当に!?助かるわ!」
「やったぁ!お姉ちゃんと一緒!」
そうしていると、やがて海瀬が戻ってきた。表情は、良くもなく悪くもないような、表現するなら微妙である。
「四時からダンス取れたけど、大丈夫そう?」
「おかえり、プロデューサー!もちろん大丈夫よ!」
「海瀬さん!一緒に練習しましょう!」
「いいの?」
「いいわよ、その分吸収させて貰うわ」
「貸し一だな、また何かで返す」
「楽しみにしとく」
「プロデューサー、ダメよ?」
「プロデューサーさん!ダメです!」
穏やかな空気を出すプロデューサー2人組。咲季はそれに眉根を寄せ不機嫌に、佑芽は支名を抱き締めた。
お互いの関係性が滲み出ているようで、海瀬はあわあわと弁解し、支名は佑芽の頭を優しく撫でていた。
「咲季、違う」
「何が!?」
「同級生、同級生だから!」
「私だけを見るんじゃないの!?」
「咲季しか見てない!本当に!」
「え〜、私とは遊びなの〜?」
「支名ァ!やめろォ!」
「プロデューサーさんはあげません!」
「要らないです……」
「最っ低!ふん!」
「ごめんって……」
「佑芽、痛い痛い痛い……!」
「あっ、ごめんなさい!」
途端に混沌と化す空間。キレる咲季にどうにか宥めようとする海瀬、完全に浮気男の様相である。
一方佑芽は支名を強く抱き締め過ぎる。支名が机を叩いてギブアップを伝えるまで、彼女の薄い身体はミシミシと悲鳴を上げていた。
「可愛い!無敵!最強!天才!綺麗!」
「えへへぇ〜♪しょうがないわね〜!」
「咲季以外見えない!」
「そう〜?私ったら、罪な女ね〜!」
「お、お姉ちゃん……」
「佑芽、お姉ちゃんは大丈夫なの?」
「た、多分……」
「よし!練習行こう!」
「そうねぇ〜!」
「ま、行こうか……」
「はい!」
席を立ってボイトレルームへと歩いていく四人。この感じだが、初星学園でも有数の実力と才能を持った四人なのだ。……本当に。
───────ようこそ、学園アイドルマスターへ。