拳願会 VS 灘一族   作:青井するめ

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第十話 日下部覚吾VS黒木玄斎(1)

 

 紛争が続く某国……

 政府軍による独裁と、それに反抗する少数民族のゲリラ。その戦いは数十年にわたって続き、国土は荒廃し、人民は戦いに膿疲れていた。それでもいまだ終わる気配の見えない戦い……

 

 夜。

 

 あばら家と、粗末なテント。それらが並ぶ惨めな集落。ここが反抗勢力の拠点のひとつとは、にわかには信じがたい。

 日下部覚吾は、テントの合間を、ゆっくりと歩いていく。

「カクゴ」

 背後から声。振り向くと、反政府軍の少尉が、こちらに駆けて来る。

「まずいぞ。いよいよ政府軍が動き始めた」

「……」

「近いうちにここも攻撃されるかもしれない。カクゴ、潮時だ。君はここを離れたほうがいい。異国人である君を、これ以上巻き込めない」

 日下部覚吾は、ゆっくりと首を振った。

「いまさら逃げるわけにはいかない」

「しかし……」

「乗りかかった船だ」

 目を伏せて言う覚吾に、少尉は不思議そうな顔で言う。

「カクゴ、君は一体なぜ、そこまで我々のためにつくしてくれるんだ。君にはなんの得もないじゃないか」

「……さあね」

 覚吾はなぜか、自嘲気味に唇を歪めた。

「武術家として、ここで引くわけにはいかない、というところかな」

 少尉は、まったく理解できない、という表情で、首を振った。そのとき。

「敵だあっ」

 どこかから声。

「敵が攻めてきたぞおっ」

「なにっ」

 顔をあげるふたりのすぐそばで、爆発が起きた。

 

 

「撃て、撃てえっ」

「ゲリラのやつらは皆殺しだあっ」

 政府軍兵がぞろぞろと現れ、無差別に手に持つアサルト・ライフルやライト・マシンガンを乱射する。

 

 バ バ バ

  バ バ バ

 

「ぐわあっ」

「た、たすけてくれえっ」

「いやあああっ」

 兵士たちも、民間人の女子供も、一切の区別なし。残虐無比……それは戦いではなく、一方的な殺戮に他ならなかった。

「ふん、薄汚いゲリラどもめ……」

 兵士のひとりが、呟くように言う。

「もうお前達は一巻の終わりさ、へエッへッへッ……」

 だが、そういい終えた直後。

 その兵士は、一撃で顎を砕かれ、昏倒した。

「なにっ」

「な、なんだあっ」

 それは嵐のようだった。

 黒い影が動き、兵士たちを容赦なく叩きのめしていく。人の動きではない、まるで猛獣だ……

「ば、化け物めっ」

 銃を向ける。だが黒い影の方が速い。一瞬で銃をもぎ取られる。そして兵士の腕は不自然な形に折り曲げられている。

 

 ぎ ゃ あ あ あ あ

 

 ほんの数十秒。それだけで終わった。小隊の兵士たちはみな無力化され、地面に倒れ伏している。

 日下部覚吾は、息も切らしていなかった。

 どこかでまだ銃声が聞こえる。自分が倒したのは、たかだかひとつの小隊である。政府軍がどれだけ送り込まれたかはわからないが、さすがに全部を相手にできるわけがない。逃げなければ……

「!」

 背筋が総毛立った。

 覚吾は顔を上げた。土煙と硝煙の向こうから、何者かがこちらに歩いてくる。

 若い男だった。兵隊ではない。軍服ではなく、黒い道着のようなものを着ている。こわい黒髪、角張った顎、砂のように平坦な両目……

 覚吾は悟った。この男は自分と同じ武術家だと。そして……強い。

 ふたりの間には一言もなかった。挨拶すらない。

 ただ拳の応酬が、挨拶の代わりだった。

 

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