拳願会 VS 灘一族   作:青井するめ

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第十四話 宮沢熹一VS十鬼蛇王馬(2)

 

 十鬼蛇王馬は、横倒しになったまま、ぴくりとも動かない。

 宮沢熹一はそれを見下ろし、鼻を鳴らした。

「へったくそな狸寝入りやのう。さっさと起きいや」

 返答はなかった。王馬は依然として倒れたままである。

 だが……

 指先がぴくりと動く。両目がぱちりと開かれる。そのまま王馬は、するすると立ち上がった。昼寝から目覚めたかのように、自然に。

「さすがに、引っかからねえか」

 王馬は笑って、顔の血を拭った。

「待っててもらってすまねえな。さて、続けようか……」

「それでこそ、や」

 にぃ、と熹一の口元も、笑みの形に歪む。

「さて、もっと楽しませてもらおうやないか」

 

(とは言うものの……)

 王馬は自分の受けたダメージを冷静に分析する。

 さきほどの一発で、強烈な脳震盪を起こした。いまだ完全に回復したとは言い難い。もう一度喰らえば、おそらく、起き上がれないだろう。

(さあ、どうする)

 離れれば、あの見えない打撃が飛んでくる。かといって接近戦では、「不壊」でも防げない一撃を打ち込まれる。

 手詰まりか?

 いいや。

 口元の笑みが深くなる。俺は恐れているんじゃない。ただただ……楽しいんだ。

「うおおっ」

 突っ込む。

 だが今度は正面からではない。間合いに飛び込む寸前に、横に動く。

 二虎流火天ノ型、火走━━

 風に揺らめく炎のように。不規則な歩法で、熹一の周囲を回る。相手に的を絞らせない。打たれないためには、まず打たせないことだ。

「しゃらくさいのぉ……」

 熹一が呟く。

 動きを止めなければ、打たれることはない。しかしそのままでは攻撃できない。攻撃のためには止まる必要がある……そのことを、熹一も王馬もわかっている。

 そこが、狙い所であると。

「おおっ」

「しゃあっ」

 同時に踏み込んだ。

 お互いのパンチが交錯する。当たらない。連打。防がれる。さばかれる。どちらも……

「なにっ」

 驚愕の声。

 均衡が崩れた。王馬の動きが加速する。

 ガードをすり抜け、直突きが熹一の顔面に刺さった。鼻から血がしぶく。

「あうっ」

 体勢を崩した熹一に、さらなる追撃。連撃が雨あられと飛んでくる。先程よりさらに速い。さばききれない。

(な、なんやこの速さは……)

 熹一は驚愕する。これまで受けたことのない打撃の速さだ。

 二虎流奥義、前借り━━

 心拍数を大幅に上昇させ、身体能力を極限まで引き上げる技。だがその代償に、心臓への負荷は致命的なものとなる。

 もって数秒……それを過ぎれば、身体は限界を迎える。待つのは勝利ではなく、自身の死だけだ。

(その間に、倒し切るっ)

「おおおおおっ」

 連撃。

 繰り出される攻撃の数々を、熹一はひたすら捌く。それでも。

「ぐうっ」

 一発。二発。打撃がヒットし始める。一気呵成。押し切れるか? だが。

「甘いわっ」

 いきなり、姿が消えた。

 眼の前にいるはずの宮沢熹一が。残像となって消え、王馬の拳はむなしく空を切る。

(なにっ……)

 そして。

 顔がつくほどの至近距離に、宮沢熹一の顔があった。攻撃をかわしただけでなく、懐に飛び込まれていたのだ。

 ズン━━

 拳が、王馬のみぞおちにめり込む。

 灘神影流、塊貫拳!

 勁を相手の体内に打ち込み、その経路を自在に操って、爆発させる技━━

「これで終いや」

 ふてぶてしく、熹一が告げる。

 だが。

「な、なにっ」

 何も起きない。王馬の体内で爆発するはずの勁は……消失していた。

 熹一の腕をつかみ、王馬が言う。

「ようやく、捕まえたぜ……」

 次の瞬間。

 熹一の身体が、いとも鮮やかに投げ飛ばされる。

 二虎流操流ノ型、柳!

「こなくそっ」

 咄嗟に受け身を取ろうとする。が、王馬がそれを許さない。

「うおおおおっ」

 体勢が崩れたままの熹一に、鉄心を叩き込む。その勢いのまま、全体重をかけ、地面に叩きつける!

 金剛水天ノ型、鉄砕廻!

「が、はあっ……」

 熹一の口から、血の混じった吐息が漏れる。そのまま白目を向き、ぴくりとも動かなくなる。

 勝負あり━━

 はたから見れば、そう判断されてもおかしくはない。王馬による会心の一撃は、それほどまでに強烈だった。

 だが……

 王馬もまた、力尽きたように、横倒しになった。

「……ぐ、うっ」

 立ち上がることができない。そのまま身を転がし、身を起こそうとするが、身体の自由がきかない。

(ちくしょう……!)

 右腕を見下ろす。手首が、完全に粉砕され、紫色に変色していた。

 

 塊貫拳を受けた瞬間、水天と躁流で剄のエネルギーを散らした。たとえ初見の技であっても、数多くの強敵と戦ってきた王馬である。その術理をおおまかにでも理解するのは難しくなかった。

 うまく相手の隙を誘い、「柳」で投げたまでは良かった。だが完全に体勢を崩したはずが、いつのまにか手首を絡み取られていたのだ。

 灘神影流、飛翔・猛禽返し━━

 一瞬だった。いつ折られたかも分からない。それほどの早業だった。

 さらに。

「ううっ」

 頭頂部から、血が滴り落ちる。眼に入ろうとするそれを、王馬は左手で拭いさった。

 宮沢熹一の蹴りだ。

 地面に叩きつけられる寸前だというのに、蹴りを王馬の後頭部にぶち込んできたのだ。強烈だった。先程の塊貫拳に続いてのダメージで、めまいが収まらない。

「ど、どないしたんや……」

 宮沢熹一の声。

 見れば、口から血を流した宮沢熹一が、ゆっくりと立ち上がろうとしているところだった。かなりのダメージを負っている。だが致命傷には至らなかった……

(タフな野郎だぜ)

「こ、こんなもんで、この熹一様を倒せると思ってもらったら、困るで」

「……」

 王馬もまた、応えるように立ち上がり、構える。どちらのダメージのほうが大きいか……

 折れた右手を、むりやり握り込む。動かないわけではない。だが鉄砕を使っても、威力は本来のものに遠く届かないだろう。

 ならば……

 す、と片足を引く。腰を落とし、深く構えた。

「ほお……」

 宮沢熹一が、笑った。

「面白そうなことするやないけ」

 王馬の口元にも笑みが浮かぶ。

「まだまだ、あんたを楽しませてやろうと思ってね……」

 

 二虎流究極奥義、鬼鏖━━

 相手の攻撃を倍加させて打ち返す、無形のカウンター技。王馬の選択は、それだった。いや他に手はなかったという他はない。

 どちらも受けたダメージは甚大だ。それでも王馬は、自身がわずかに不利と判断していた。

(これに相手が乗らなければ、俺の負けだ)

 そして、宮沢熹一は……

 ゆっくりと足を踏み出す。無造作に、何も恐れるものなどないかのように。

「さあ」

 呟くように言う。

「これで、終いや━━」

 

 

 勝負は、一瞬で付いた。

 

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