拳願会 VS 灘一族   作:青井するめ

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第十六話 宮沢尊鷹VS黒木玄斎(2)

 

 再び、尊鷹と黒木は間合いを伺う。

(二度と受けるつもりはない)

 その言葉は、尊鷹の疑念を裏付けていた。

 この男は、幽玄の技を知っている……

(ならば)

 尊鷹は前に出た。

 無造作とも言えるほどに。構えもせず、両腕をだらりと横に垂らしている。

 黒木は構えを解かない。岩のように不動のまま、尊鷹を待ち受ける。

 尊鷹の体がぶれた。

 ふたつに。そして四つに。

 一瞬のうちに、尊鷹は四人に分かれていた。滑るように動き、黒木を取り囲む。

 幽玄新影流、四人霞━━

 黒木の表情はぴくりとも動かない。ただ小さく呟くのみ。

「まやかしなり」

 四人の尊鷹は、同時に、黒木に打ち掛かる。

 拳、蹴り、いずれも一撃必殺……並の武道家であれば、受けることも叶わず命を刈り取られる、それが尊鷹の打撃である。それを、四方向から、同時に。

 黒木は動かない。視線は正面を向き、そしてどこにも向いていない。

 そして……

 尊鷹の打撃は……当たらない。

(な、なにっ)

 避けたのではない。当たらなかった。いるはずの場所に、黒木はいなかった。

 矢継ぎ早に繰り出される。打撃。黒木が受ける。絶対に避けれれないタイミングの、同時攻撃。しかし当たらない。尊鷹の攻撃が来るより早く、静かに、ゆっくりと、しかし確実にその必殺の打撃を外していく。

 まるで、攻撃がどこからくるか、分かっているかのように。

(これは……!)

 驚愕が尊鷹の全身を貫く。

(灘神影流、空眼の目付け……!)

 究極の集中、ゾーンを超えた先の先、そこに辿り着けるものだけが見る、俯瞰の世界……

(この男は、その領域にまで!)

「ぬんっ」

 黒木の振り打ち。

 無造作に放たれた裏拳によって、たちまち、四人のうち三人の尊鷹が打ち払われ、霞と消える。残りはひとつ。

 さすがの尊鷹も、その表情に驚愕を貼り付けたまま、動かない。いや、動けないのだ。なぜなら。

 身を切って黒木は振り向く。

 尊鷹はそこにいた。大空を舞う鷹のように両腕を広げ、中空から、銀色に輝く脚による、乾坤一擲の蹴り。

 四人ではなかった。五人霞━━尊鷹のそれを、しかし黒木は見抜いていた。

 魔槍!

 空を裂いて打ち込まれた貫き手は、銀色の蹴りを迎え撃ち……そして打ち砕いた!

 強化チタンとセラミック複合材によって作られた強化義足。しかし二度、同じ箇所に正確に打ち込まれた貫き手によって……その外殻はついに破られた。火花が散る。

「ぬうっ」

 尊鷹のうめき声。

 着地する。しかしその機能を停止した義足は、うまく体を支えることができない。がくがくと揺れる体を、倒さないでいるだけでも必死だ。

 宙を舞う鷹の翼はもがれた━━

 もはや幽玄によるかわしもない。黒木は前に出た。この戦いの中で初めての、全力、そして渾身の。

 魔槍。

 それが、尊鷹の体に打ち込まれた。

 

「……灘神影流、弾丸すべりっ!」

 

 完全に捕らえた、はずだった。

 しかし黒木の魔槍は、尊鷹の体の表面を滑った。まるで氷像のように。そして体勢を崩した黒木に、カウンターが打ち込まれる。

 掌底。

 塊蒐拳━━

 灘神影流奥義にして、尊鷹の最も得意とする必殺の技。相手の体内に鬼を打ち込み、気の流れを狂わせ、やがては絶命に追い込む。別名、鬼の五年殺し。打ち込まれたが最後、生き延びることはできない━━

 それ故に。

 食らうことは許されず。

 逆転必勝の一撃を、それでも。

 黒木は迎え撃った。

 

「……なんと」

 胸元に鬼を打ち込まれる寸前。

 黒木の太い指が掌底を掴み、その方向を捻じ曲げる。尊鷹の右手首は、無惨にも折り砕かれた。

 小手返し━━

 紙一重で、塊蒐拳は防がれていた。

 尊鷹は絶句し、やがて小さく呟いた。

「……見事」

 黒木が咆哮する。

 正中線。人体の急所。そこをことごとく撃ち抜く連撃━━

 

 正拳六連撃!!

 

 勝負あった。尊鷹は血を吐いた。ゆっくりと、うしろざまに倒れてゆく。

 残心の姿勢で、黒木はそれを見下ろす。

「……灘神影流、宮沢尊鷹」

 小さく、独白する。

「忘れるまい。その技。強さ。冴え」

 その言葉の語尾が、かすかに震える。

 黒木の額に、汗が流れた。

 顔色が白くなる。咳き込み、身を折った。膝をつく。そのまま……前のめりに倒れる。

 灘神影流、塊蒐拳。

 完全に防いだはずの鬼は、それでも、黒木の体内に入り込んでいた。内臓を食い荒らし、気の流れを乱し、じわじわと死に至らしめる……

 

 倒れたふたりの男を、白い月が冷たく見下ろしている。

 

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