拳願会 VS 灘一族   作:青井するめ

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第十七話 宮沢熹一VS十鬼蛇王馬(3)

 

 二虎流究極奥義、鬼鏖━━

 相手の攻撃を倍加させて打ち返す、無形のカウンター技。王馬の選択は、それだった。いや他に手はなかったという他はない。

 ふたりとも、受けたダメージは甚大だ。それでも王馬は、自身がわずかに不利と判断していた。

(これに相手が乗らなければ、俺の負けだ)

 そして、宮沢熹一は……

 ゆっくりと足を踏み出す。無造作に、何も恐れるものなどないかのように。

 正面から来る。

 鬼鏖のからくりに気づいていないのか。いや、気づいていようが来るだろう。この男なら。

 正面から、ためらいなく。

 熹一が腕を振る。遠い。本来なら絶対に当たらない間合いだ。

 だが……

「幻突!!」

 見えない打撃。

 氣とも違う、不可視のエネルギー、それが宮沢熹一の拳から放たれる。当てずに倒す、究極の打撃、それこそが幻突……

 それを迎え撃つ。

「おおおおおおおっ」

 操。水。火。金。

 攻撃を逸らし、操り、早め、強化して返す。二虎流の四元素全てを使った、無形にして究極のカウンター技━━

 それが、宮沢熹一の顔面に吸い込まれる。

 

「灘神影流、弾丸すべりっ!」

 

 信じられねえ。

 驚きよりも、感嘆が勝った。

 完璧な、絶対にかわせないはずのカウンター。それが。

 こんなふうに、打てるのか。

 こんなふうに、返せるのか。

 鬼鏖よりシンプルで、しかも洗練された、完璧な技。それを王馬は目にしていた。

 宮沢熹一は、眼前で両手を合わせる。合掌。その手が変化し、拳をふたつ合わせた形となる。両拳の打撃。それをまっすぐ、王馬の体の中心━━心臓に向けて突き出す。

「菩薩拳!!」

 

 カウンターのカウンターのカウンター……

 己が死して悔い無し。

 敵が死して已む無し。

 捨て身の拳は死地に陥れて然る後生く。

 これ菩薩の境地なり……

 それが王馬の体に突き刺さる。

 

 どこでずれたのか?

 ふたりは同時に思った。これで終わりのはずだった。勝負を決める完璧な一撃。これで終着となる……熹一も、王馬も、それをほぼ確信していた。

 だが、なぜ━━

 

 打ち込まれた両拳は、王馬の胸の表面を滑った。

 

 独楽のように王馬の体が回転する。菩薩拳の一撃は、そらされていた。驚愕に熹一の目は見開かれる。

(こ、これは)

 呉家伝、写し━━

 一目見ただけで、王馬は弾丸すべりの術理を理解していた。それをすぐさま模倣するに至ったのは、これまでの戦い、そして呉一族との数限りない鍛錬による……

 あくまで不完全、しかしこの場においては、それで十分だった。

 回転する王馬の体から、必中の肘が撃ち出される。

 

 呉家伝、回天絶牙━━!

 

 こんどこそ、勝負ありであった。宮沢熹一の体は、なぎ倒されるように吹き飛んだ。そして地に伏したまま、ぴくりとも動かない。

 それを見届ける余裕は、王馬にはなかった。

 王馬もまた、全ての力を使い果たし……その場に倒れ、そのまま、起き上がることはなかったのである。

 

 *

 

 スタンプ・ハウアーは手を叩いて笑った。

「こんなにうまくいくことある?」

 眼の前のモニターには、早くも兆しが現れていた。困惑と混乱。やがてそれは、燎原の火のように広がっていくだろう。これが、デス・サバイバー・バトルロイヤルの終着となる。

 スタンプは満足そうに呟いた。

「そろそろ、仕上げの時間だね」

 

 *

 

「なああんた」

 十鬼蛇王馬は言った。

「なんでためらった?」

「……」

 答えは返ってこない。

 王馬と熹一は、大の字に倒れたままである。王馬は、星も見えない黒々とした夜空を見上げたまま、呟くように問い続ける。

「攻撃を俺の心臓に打ち込む瞬間、わずかにためらったろ。ほんの一瞬だが……その隙がなければ、俺は技を返せなかった。そのままやられていただろう」

「……」

「なんでだ?」

 体に力を入れて、王馬は上体を起こす。生暖かい血が、顔を流れ伝った。全身が痛い。もはやどこをどれだけ痛めているか、さっぱり分からない。だが、どうにか動くことはできた。

「……ワシが、弱いだけや」

 独白のような声。

 宮沢喜一は、目をつぶったまま、ただ囁くように、言葉を続けた。

「あんたの胸の傷を見て、ほんの少しだけ……昔のことを思い出したんや。この技で、また誰かの心臓を止めることになったら、と……ほんの少しだけ、そう思った。そのためらいが、技を鈍らせた。戦いの最中に余計なことを考えるのは、ワシが弱いからや」

 喜一は目を開く。目だけで王馬を見て、言った。

「ワシはお前に負けたんやない。ワシの弱さに、負けたんや。それを覚えとき」

「……」

 王馬は笑った。喜一の言うことが全て理解できたわけではない。それでも、分かったことがあった。王馬は言った。

「強かったぜ、あんた」

 

 *

 

 戦いは終わった。だが、すべてが終わったわけではない。

 それを終わらせるべく、少なからぬ数の人間が、動き始める。

 

 

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