拳願会 VS 灘一族   作:青井するめ

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第十八話 デス・サバイバー・バトルロイヤルの終焉

 

「な……」

 成島光我は絶句していた。

「なんじゃこりゃあっ……」

 周囲から閃光で照らされている。

 いつのまにか、黒尽くめの男たちに囲まれていた。全員がタクティカルアーマーとベスト、メットにバラクラバという格好で、手にはサブ・マシンガンを持ち、銃身に取り付けられたフラッシュ・ライトでこちらを照らしている。

 意味不明な光景だった。こいつらはどこから来たのか? 何者なのか? 龍星との戦いに集中していたとはいえ、全く気が付かなかったとは……

「おやおや、お出ましですか」

 龍星が、苦笑交じりに言った。

「思ったより早かったですね? もう我々の狙いに気づいたんですか」

「ふざけるな」

 男たちのひとりが、押し殺した声で言った。

「調べはついてるんだ。お前達と鬼龍、そして米帝のあいつが組んでいることを……」

「お、おい龍星くん」

 小声で成島は聞く。

「どういう状況? これ? もしかしてまずくない?」

「R国のやつらですよ」

 平然と、龍星は言った。

「俺達を殺しに来たんでしょうね。今頃、デス・サバイバー・バトルロイヤルの掛け金は大変なことになっているだろうから……」

 

 *

 

「幻魔拳っ……!」

 静虎の拳が、ムテバの顔面に打ち込まれる。

 だが実際には当たっていない。寸止めだ。打ち込んだのは拳ではなく幻魔。相手の脳に作用し、苦痛と恐怖を与えるための……

 だが、ムテバは笑みを浮かべたままだ。

 素早く、ナイフで切り返す。頑丈で肉厚なシース・ナイフだ。静虎は後退した。スーツの端が切れ、血が滴り落ちる。

「無駄だぞ、静虎よ」

 嘲りを顔に浮かべ、鬼龍が言った。

「幻魔は視覚から打ち込むものだ。分かっているだろう。つまり、盲目の相手には通用しない……」

「……」

 険しい表情のまま、静虎はさらに後ずさる。

 着ているスーツのあちこちが、ムテバのナイフによって切り裂かれていた。どれもかすり傷だ。だが、出血は体力の消耗を伴う。少しずつだが不利な状況に追い込まれていることを自覚していた。しかしムテバの巧みなナイフさばきは、静虎の攻撃を寄せ付けない。苦し紛れの幻魔拳だが、やはり効果はなかった。

 どうする……

 逡巡が顔に出たか。それをムテバは見逃さなかった。

 ナイフによる連撃。

「くうっ」

 後ずさる。辛うじて捌いてはいるが、このまま追い詰められていけば、いずれは……

「本気を出しなよ、ミスター静虎」

 薄笑いを浮かべて、ムテバは言う。

「こんなもんじゃないって、分かってるんだぜ」

「ムテバよ、俺の弟は平和主義でな」

 鬼龍は鼻を鳴らし、

「必要でない戦いは避ける、そして戦うときも可能な限り相手を傷つけない……そう思ってるんだそうだ。馬鹿げているだろう。本気になるのは、追い詰められているときだけ……」

「……」

 鬼龍の戯言に耳を貸す余裕はない。深く息を吸った。丹田に力を溜める。

 そのとき。

「……なんだ?」

 鬼龍が眉をひそめる。同時に、モニターに赤が灯った。

 警告音がなる。はじめは心細げに、そして次第にやかましくなり……

 数秒後には、部屋を揺るがすほどの轟音となっていた。

「な、なんだ?」

 状況が掴めず、静虎は眼鏡をかけ直す。

 鬼龍は、口元を歪めて笑った。

「なるほど、そういうことか」

 

 *

 

「ど、どういうことです?」

 山下一夫は、理解できずに言う。

「全ての取引が停止されています。エラーが出て……システム全体がおかしくなっているような……」

 乃木の執務室。山下と乃木、そして豊田はタブレットを前に顔を突き合わせている。

 さきほどまでは何の以上も起きてはいなかった。3人は成島、若槻、黒木、十鬼蛇らの中継映像を見ながら、同時に刻一刻と変化する賭け率も観察していた。それがおかしくなったのは、若槻とリカルドの戦いが終わったあたりからだ。

 リカルドと若槻は、同時に戦闘不能と判定された。ほぼ間を置かずして、黒木と尊鷹にも同様の判定が出た。すると画面がフリーズした。エラーが出て、画面上の数字があきらかにおかしくなっている。

「なるほどね」

 豊田が言った。

「こういうことか。これは盲点だったな」

「え? な、なにがですか??」

 山下には全く分からない。しかし豊田と乃木は状況を理解しているらしく、顔を合わせて頷いている。

「しかしこれは」

 乃木は言った。

「偶然なのか? それともまさか、意図的にこれを起こしたとでも」

「さてね。理論上は可能かもしれないけど、実際にやるとなると……」

「あ、あの、説明を……していただけると……」

 おずおずとそう言う山下に、豊田が向き直り、おもむろに説明をし始めた。

「これはね、かずっち、どうやらこういうことなんだ……」

 

 *

 

「引き分け、ドローを狙うといい」

 スタンプ・ハウアーはそのとき、そう言ったのだった。

「そうすればたぶん、システムがダウンする」

「……どういうことや? スタンプ」

 熹一が問い返す。

 スタンプは薄く笑って、説明した。

「このシステム、いろいろ調べたけど、勝ちと判定したほうに全ての賭け金が行くようになっている。でも、ドロー、引き分けに対しての裁定がない」

「……だから、それがどうなるんや?」

「もし、ドローがあった場合」

 龍星が言葉を繋いだ。

「賭け金がどこへ行くか分からない。そのままエラーを起こして、システム全体が破綻する。そういうことが言いたいんですか?」

「まあ、そういうことだね」

 スタンプは頷いた。

「前も言ったけど、このデス・サバイバー・バトルロイヤルには世界中の金持ちが大金を賭けてる。R国やC国はもちろん、うちの国のお偉いさんまでね。もし、その大金が、いきなりどこかへ吹っ飛ぶ、なんてことになったら……」

「大問題ですね」

 龍星は鼻を鳴らした。

「と、言っても、こんなふざけた仕組みやシステムを作った人間が、頭を下げて謝罪するわけありませんけど」

「別にそうしてもらいたいわけじゃない」

 スタンプは肩をすくめた。

「こっちとしては、これの主催に一枚噛んでいる国のお偉方が、大恥をかいて、しばらく表に顔を出せなくなればいい、と思ってるだけだからね」

「口で言うだけのお前は気楽やのお」

 熹一が愚痴るように言った。

「実際に戦わされるのはワシらやぞ? しかもドロー狙い? そんなうまいこといくかいな。手加減して戦えって言うんか?」

「君たちならできるでしょ?」

 平然とそういうスタンプに、熹一と龍星は渋面で顔を見合わせた。

「熹一さん、やりましょう」

 険しい顔のままで、しかし、龍星は言った。

「どうせだったら、あいつらに一泡吹かせてやりたいじゃないですか」

「そりゃ、ワシもそう思うが」

 熹一はスタンプを睨みつけて、言った。

「スタンプ、この貸しは、いつか返してもらうで」

 

 *

 

「まあ、そういうわけなんや」

 宮沢熹一は倒れたまま、王馬に経緯を説明する。

「ドロー狙い、言うても、手を抜いたわけと違うで。そんな余裕なかったわ。余裕こいて戦えたのは最初のほうだけ、途中から死に物狂いで……」

「話は分かった」

 王馬は言った。

「それで、どうするんだ?」

「……」

 問われた熹一は、しばしの沈黙ののち、

「……どうしたもんかのう」

 呟くようにそう言った。

 いつのまにかふたりは、完全武装した男たちに囲まれていた。タクティカル・アーマーで武装し、サブ・マシンガンやアサルト・ライフルを構えた男たち。気配も、感情も、完全に殺している。

 王馬が言った。

「こいつらが、あんたが言った、デス・なんとか・かんとかの奴らか?」

「まあそうやろうな」

 熹一は答えた。

「用意周到な奴らや。最初からワシらを疑って監視しよったな……」

(……こいつはまずいぜ)

 王馬は内心で吐き捨てた。ふたりともダメージが大きすぎる。宮沢熹一は未だに起き上がることもできていない。抵抗どころではない、万事休すか。

 男たちが、ゆっくりと迫ってくる。

 

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