拳願会 VS 灘一族   作:青井するめ

19 / 19
最終話 竜を継ぐ男

 

 絶体絶命。戦闘服の男たちはゆっくりと迫ってくる。

(どうする……?)

 王馬は内心で舌打ちする。自身も、宮沢熹一も、とても戦える状況ではない。

 万事休すなのか━━

 

「……情けない姿だな、テメエ?」

 

 ゴキ、という骨の折れる音。

「……え?」

 男たちのひとりが、呆然と呟く。先頭を行く男の首が、唐突に折れ曲がった。不自然な角度に。

 同時に、風の鳴く音。

「ぎゃっ」

「ぐわああっ」

 一瞬だった。呼吸をひとつふたつする間に、戦闘服の男たちは容赦なく「解体」されていた。あまりにも鮮やかで、疑問に思う暇すらない。

「な、なんや?」

 呆然と、熹一は呟く。何が起きたのか?

 黒い人影が、闇の中を音もなく動く。一切の容赦なく。

 男たちが全員、命を奪われて地に伏すまで、ほんの10秒たらず。鮮やかな手際だった。

 そして。

「無様すぎて笑っちまうぜ」

「王馬!生きてるー?」

 人影が、王馬と熹一のそばに立つ。

 王馬は、思わず笑みを漏らして、言った。

「雷庵、カルラ。なんだよ、お前らも来てやがったのかよ」

 その場に現れたのは、呉雷庵とカルラ、さらにホリスや風水ら、呉一族の面々だった。

 王馬は言った。

「つまり、呉一族も絡んでいる話なのか」

「ケッ、残念ながらな」

 呉雷庵はそう吐き捨てた。

「ちょっと今、あの国とはモメててね」

 カルラは苦笑して話を継いだ。

「こっちも色々と動かないといけなかったんだよね。だから、今回の件は、渡りに船というか、ちょうどいいタイミングだったんだよね」

「へえ……」

 そう言う王馬の体から、力が抜けた。ゆっくりとその場に倒れ込む。

 カルラが言う。

「わ、王馬、死にそう?」

「死なねえよ、まだな……」

 王馬は苦笑した。

「なんにせよ、助かったぜ。またお前らに借りを作っちまったな……」

 それを横目で見る宮沢熹一の顔は、不満そうだった。

「なんや、マブいお姉ちゃんやのお。なんでワシのところには、こういうのが来えへんのや?」

 

 *

 

「デゴイチ、行けっ」

 その言葉とともに。

「なにっ」

「なんだあっ」

 まるで弾丸のように白い塊が飛んでくる。

「撃て、撃てえっ」

「ぐわああっ」

 まるでつむじ風だ。拳眼を持つ成島をもってしても、追いきれないほどの、すさまじい速さ……

(犬!?)

 いや違う。

 それは確かに、白い大型犬に見えた。だが犬らしいのは見た目だけだ。こんなに速く、それでいて正確に、動ける犬などいない……

 瞬く間に、戦闘服の男たちは無力化されていた。切り裂かれた手足を抱え、地に伏して呻いている。

「よくやった、デゴイチ」

 龍星はそう言って、白い犬━━に見えるものを、優しく撫でた。

「あの、龍星くん?」

 恐る恐る、成島は聞いた。

「えっと、それは……」

「ああ、こいつですか」

 笑顔で、龍星は言う。

「デゴイチです。犬型の戦闘サイボーグ。ずっと前から、周囲を見張らせていたんですよ」

「へえ……」

 なんと言っていいか分からず、ただ成島は呻くように言った。ここ数年、変なものを沢山見て世間を知った気になっていたが、まだまだ世の中には、理解不能なことが沢山あるようだ。

「さて、ここから逃げたほうがいいですね、成島さん」

 こともなげに、龍星は言った。

「こいつら以外にも、刺客はまだいるはずです。俺はデゴイチと一緒に逃げます。あなたは狙われてないと思うけど、念の為、できれば拳願会に保護してもらうといい」

「お、おう」

「じゃ、そういうことで」

 そのまま、犬を連れて去っていこうとする龍星に、

「なあ、龍星くん」

 成島は声をかけた。

「なんですか?」

 顔だけ振り向いて、龍星は言う。

 成島は笑みを浮かべ、

「今度会うときは、続きをやろうぜ。邪魔の入らない状況で、な」

「……ええ」

 龍星も笑みを返す。

「そうですね。いつか、続きをやることを、楽しみにしています……」

 そう言い残すと、龍星とデゴイチは音も立てず静かに、闇の中へと去っていった。

 

 *

 

「もしかして」

 ムテバは言った。

「これもあんたの想定通りってわけかい、ミスター鬼龍」

「……」

 問いかけられた鬼龍は、腕を組んで薄く笑った。

「予期はしていたがな」

「予期、だと?」

 静虎は困惑したように呟く。いや、なにが起きたのか、まだ分からないというのが正確だ。

 鬼龍は言葉を続けた。

「"あの男"は狡猾だ。どう転んでもいいよう、保険を打っている。デス・サバイバー・バトルロイヤルが成功するのはいい。だが同時にそれは、それを指揮するオリガルヒたちの伸長を意味する。自分の権力基盤を危うくするものは、誰であろうと許さない、そういう男だ……だから、うまくいかないとしても、それはそれで」

「将来の反乱分子の芽を潰せる。そういうことかい」

 ムテバは首を振って笑った。

「こうなることを想定して、システムを作ったのか。なんとまあ、用意のいいことだ」

「それで、ムテバ」

 鬼龍は言った。

「お前はどうする。まだ仕事を続けるか?」

「どうするもこうするもない」

 ムテバは肩をすくめた。

「受け取った分の仕事はした。ミスター静虎、あとは兄弟間の問題だ。俺は邪魔をしない。それでいいな?」

「……」

 ムテバは脇に退く。静虎は無言で、鬼龍に歩み寄った。

 鬼龍は言った。

「良かったな静虎よ。熹一も、龍星も、たいした怪我もなく切り抜けた。これで……」

 最後まで言わせず。

 静虎の拳が、鬼龍の顔面にめり込んでいた。

「鬼龍ッ」

 息を荒らげて怒声を上げた静虎は、しかし握りしめた拳を引き、

「今回だけだ。次に会ったときは……こうはいかない」

 それだけ吐き捨てるように言うと、そのまま足音も高く、部屋から出ていった。

「……」

 首を振りながら起き上がろうとしている鬼龍を見下ろして、思わずムテバはこう漏らしていた。

「なんともまあ、お優しいことで」

 

 *

 

 若槻武士はどうにか立ち上がった。

「う、う、う」

 駄目だ。意識を取り戻したはいいが、幻魔は消えていない。壁に寄りかかりながら、なんとか前へ進む。だが、どこへ行けばいい? 病院か? だがそこで、この得体のしれないものを治療してもらえるのか……

「━━!!」

 すぐ近くに、気配。

 誰だ!? そちらを向く。大柄な人影……暗くて風貌は伺えない。また敵なのか? だがこの状況で戦うことなど……

「いま、楽にしてやるよ」

 拳が飛んできた。

 顔面に突き刺さる。いや! これは!? 当たっていない、寸止めだ……だが、頭の中に住みついていたモヤが、一瞬で晴れた。幻の苦痛は、まさしく幻のようにたちまち消失していた。

「これで幻魔は晴れたよ」

 皮肉げに顔を歪め、男は言った。

 若槻は呆然と、眼の前の男を見た。黒髪を短く刈った、精悍な顔つきの男だ。

「何者だ……?」

「俺の名は悪魔王子」

 若槻の問いに、男はそう答えた。

「竜を継ぐ男だ」

 

 

 ━━完━━

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ようこそTS美少女闘技者の教室へ(作者:ぷぷぷ)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

前世は男、今世は極上の美貌を持つ美少女。チヤホヤされるイージーモードな人生を夢見ていたはずが、気づけば日本の経済界を裏から支配する代理戦争『拳願仕合』に身を投じていた――。▼高円寺コンツェルンの代表闘技者として『拳願絶命トーナメント』を戦い抜いた主人公は、次なる任務として、あの高円寺六助の護衛を命じられる。▼


総合評価:2698/評価:8.32/連載:8話/更新日時:2026年08月01日(土) 07:00 小説情報

新人先生はネタバレ生徒しか引けない(作者:KuRoNia)(原作:ブルーアーカイブ)

シャーレに着任したばかりの先生が、シッテムの箱で見つけた『募集』機能。▼それは、シャーレに入部届を出している生徒をランダムで呼び出す、いわゆるガチャのようなものだった。▼軽い気持ちで初回募集を行った先生の前に現れたのは、臨戦状態のホシノと黒いドレス姿のシロコ。▼だが先生は、まだアビドスにも行っていない完全な新人先生だった。▼「うへ……最序盤じゃん」▼「ん、ネ…


総合評価:12159/評価:8.89/連載:52話/更新日時:2026年08月03日(月) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>